96 :パトラッシュ:2012/07/21(土) 11:50:28

earth様作の『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編

織斑千冬SIDE
「地球防衛軍宇宙艦隊航宙部隊所属、織斑一夏大尉です。ISについて学ぶため、当学園に留学してきました。皆さんより年長で、しかもISを使える唯一の男性ということでいろいろ迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 礼儀正しくクラスの一同に挨拶する一夏の姿を、私はほとんど呆然と眺めていた。第二回モンド・グロッソ決勝戦当日に誘拐され、あと一歩で救出というところで起きた爆発以降、行方不明になっていた弟。当時、遺体のかけらも見つからず生死不明とされたが、私自身も含めて皆あきらめていた。ドイツ軍IS部隊の教官、さらにIS学園の教師として働きながら、両親に捨てられ弟も失ったという苦悩を抱えて生きてきた。一夏を救えなかった悪夢にうなされ、絶望に苛まれた夜は数え切れない。やがて私は、普通の人間らしい恋愛や楽しみになど、何の関心を持てなくなってしまった。教え子だったラウラに「教官は周囲の一切に興味を失っているように思われます」と指摘されたほどに。
 その一夏が何と、別の世界に転移していたとは。次元回廊を通じてもうひとつの地球と接触したというニュースだけでも信じられなかったが、向こう側の世界から訪れた交流団名簿に「織斑一夏」の名前があると知らされたときは、思わず膝が崩れそうになった。しかも宇宙人と度重なる大戦争を戦ってきた世界で軍人となり、エースパイロットと称えられるほどの功績を挙げ、地球連邦の現大統領の養子となっていて将来は養父の後継者としても期待されているなど、にわかには信じられぬ話ばかり伝わってきたのだから。
 しかし、まもなくIS学園を訪れたのは、紛れもなく一夏だった。こちらと向こうでは時間の流れが違うらしく、本来なら十五歳の少年のはずが二十二歳の青年将校として私の前に現れた。戸惑う私に、成長していたが記憶そのまま笑顔で「千冬姉、久しぶり」と声をかけられると、「ブリュンヒルデ」と呼ばれる私を覆っていた頑丈な鎧はあっけなく崩れ去り、一夏の胸にすがりついて泣いてしまった。背中を抱いた一夏の手が温かかったのを覚えている。同席していた後輩の山田君が号泣するのは、いささかウザかったが。
 その後、一夏がよもやISを起動させてしまうとは……ようやく落ち着いた私が学園を案内中、事件は起こった。IS委員会のお偉方や日本政府代表、各国の外交官がいる席上であり、隠しようがなかった。当然、なぜ一夏だけが男性としてISを動かせるのか各国は知りたがったが、向こうの世界の現役軍人である一夏を調べられるはずがない。一方、あまたの宇宙戦争を戦ってきた向こう側も、兵器としてのISに強い関心を示した。そんなこんなで双方の政治的思惑が重なった交渉の末、一夏はIS学園に留学することになった――姉としては嬉しいが、どす黒い背景を思うと複雑なものがある。

 先日、私は一夏のために用意された学外の宿舎に招かれ、初めて一緒に酒を酌み交わしながら向こうでの生活や戦争体験をじっくり聞いた。太陽系外での戦いが当たり前の世界で、よく生きていられたなと思うしかなかったが、最後に一夏は口調を改めて告げた。
「千冬姉、俺はこの世界で生まれたけど、今は完全に地球連邦の軍人なんだ。数え切れないほど敵を殺し、味方を殺され、嘆き悲しむ遺族を見て、励ましてくれる上官や友人を得た世界を裏切ることはできない。どちらかを選べと言われたら、答えは決まっている」
 そこには甘さや迷いなど微塵もない、実戦で鍛えられた軍人の顔があった。あの幼かった弟は、私の理想とするような男に成長していたのだ。一夏、お前はお前の望むままに生きろ。今の私はただ、見守ることしかできないのだから……。

 ※earth様作のISとのクロスオーバーが面白かったのですが続編を書かれる様子がないので、自分で書いてみました。一夏の階級や千冬の心情は、完全な私の妄想です。お許しがあれば、さらに続きを書いてみたいと思います。

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最終更新:2012年07月23日 21:39