212 :第三帝国:2012/07/30(月) 21:54:12
【星界の紋章×銀鬱の変則的クロス 前史】

銀河帝国建国当初、帝国の歴史でも描写されているように必ずしも順調なものでなかった。
地方では秩序が崩壊しつつあった連邦時代の名残に軍閥が割拠し、経済は破たん寸前で、ルドルフの登場は人々に期待を抱かせたが頼りないものであった。

さらに第二次世界大戦以来その影響力を行使してきた、大日本帝国とその諸国ならびに枢軸連合は悪夢の13日間戦争を生き残り、
シリウス戦役では国家が既に地球から独立していたためほぼ無傷で残り、人類社会をローマ帝国のごとく統一を構想していたルドルフにとって眼の上のタンコブであった。
そして何よりも忌々しいのは両国が自分のような、ドイツ系アメリカ人の成り上がりではなく正真正銘の歴史と伝統を引き継いだ国家であったことだ。

彼らに脅しも詐欺も通用せず、むしろそれをした瞬間に自身の頭上にキノコ雲が立ち上ることは確実で、
何時か打倒できるその日まで、表向きは両国と歩調を合わせることにして共和派と一時的に妥協しつつ経済と秩序を立て直しすことを専念した。

そして、この狙いは見事に成功した。
当初は終身の地位に就いた成り上がりに強い警戒感を抱いていた日本、
枢軸はルドルフの緊張緩和政策を歓迎できないはずがなく、関係緩和促進の世論と共に緩和に動く。
一部で注意喚起を促していたが、予想された独裁政治を行わず連邦時代のごとく議会は運営されている事実に沈黙を余儀なくされる。

さらに、ルドルフが経済活動の喚起を促すために自由貿易条約の促進を提示した時点で、
両国の経済界はそれぞれの政府を動かし、実際に経済的利益を得るようになると世論は歓喜し、楽観的な考えを抱くようになった。

曰く、人類は再度黄金時代に突入したと

この考えはあながち間違っていなかった。
十数年にわたる久々の平和が人類に訪れ、悲観的意見を述べた賢者は人々から嘲笑を受けた。

さらに人々は嗤う、あのような後進地域の成り上がりが脅威に成りえないと。
時の流れと共に、賢者たちもやがて自らの考えを捨て、生ぬるい平和な世界に埋もれていった。

だがきっかけは唐突であった。
いや、より正確に描写すれば二度目の世界大戦以来の対立が再び燃焼したといえる。
領土問題、民族、国家の威信、などと様々な要素が絡まり日本と枢軸は何度目かの矛を交えた。

戦いは熾烈を極めた。
両国の賢者たちは平和を求め努力を重ねるが互いに実力が均衡していたのがまずかった。
大多数の人々はそんな人たちを指差し異口同音にこう言い放つ。

曰く、まだやれると

そしてまだやれると言いつつ戦いは延長され、次第に国力は消耗してゆく。
ハード、ソフト面で同程度ゆえに決定的な打撃を与えることができず、無意味な潰し会いが続く。
それでもなお、実力は均衡しさらに戦いは加速してゆく悪循環を繰り返す。

戦争が進展するたびに世論は過激化し、人々の思考は単純、感情的なものへと陥る。
賢者たちはそれを防ごうと図るが、彼らに止める手はなく時間ばかりが過ぎてゆく。

賢き者は常に少数派で、政治家は目先の成果を求め、軍人は目先の血を求め戦火は拡大する。
暴走した戦争機械という装置は止まらず、止めようとする者は罵られ批難される。

過去を知り未来を知る賢者たちはそれに憂鬱な感情を抱くと共にやがて訪れるあろう破局を予感した。
その予感は的中し、ローマ帝国を破壊したバーバリアンのごとく銀河帝国が引導を渡しに来た。

213 :第三帝国:2012/07/30(月) 21:54:44


曰く、統一された銀河を!


ひたすら沈黙を保っていた銀河帝国がついに動き出した。
開戦東女、ルドルフは半ば自滅を決定された両陣営に歓喜しつつも、
後年の短気で粗暴な彼とは違い、帝国の脆弱性を理解していたがゆえに今の今まで耐えてきた。

両陣営の参戦要求も拒絶し続け、乱入した時期は最優の選択で、
帝国は軍備についていえば数だけは多いことが取り柄だが、消耗し尽くした両陣営にとって最悪の一撃であった。
赤いスチームローラーのごとく侵攻するバーバリアンに戦術的勝利を収めても戦略的敗北を覆すことは叶わなかった。



「ついに来てしまったか・・・」

気品のいい初老の男性、嶋田忠道がため息交じりに呟いた。
そして、会議室には一人の軍人が居た。

「閣下、もはやあのフン族を止める手段はありません」

「そうか、ならば我らはローマ帝国か」

軍人の発言に普段ならば笑って済ませる自虐的な揶揄で、
華麗に言い返すことができたが嶋田忠道は瞳に涙を浮かべつつ答えた。

「そして、これより自分は最後の戦いに行きます。
 閣下とは――――いや、貴様とはこれで恐らく最後になるだろう」

「・・・・・・すまない、山本。俺が手綱を誤ったばかりに」

軍人、もとい連合艦隊長官を務める山本命周大将は、
かつて彼らの祖先が友として絆を結んだように、友として過ごした友人に最後の挨拶を述べる。
罪悪感に押しつぶされそうな嶋田とは対照的に山本は晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「気にするな、俺にできて貴様にできることするだけだからな」

「ああ、わかっている」

嶋田の役割、それは残された国民を連れて深宇宙へと逃れることだ。
彼としては自分の祖先と同じく、責任を取るつもりであったが彼には未だ国民を導く義務が残されていた。

かつて、銀河に短い平和が訪れていた時、
銀河帝国が膨張を開始する前に深宇宙へと逃れることを目的とした遷都計画。
通称『D計画』はマスメディアに露見され、鼻息の荒い野党は『平和な時代における世紀の愚行』と非難し計画は大幅に縮小されてしまった。

もしも、早期に逃亡できたならば『満州に侵攻してきたソ連』のような地獄が各地で引き起こされることもなかっただろう。
あるいはあの成り上がりを当初から抹殺していればローマ亡き暗黒の中世が再現されることもなく、人類はさらなる繁栄を享受できたかもしれない。

だが、今いくら後悔したところで何も変わらない。
救いがあるとすればほとんどが人工種族のアーヴであっても戦前から開拓移民名目で深宇宙に送り続けることができたのと、疎開計画の名目で『D計画』を僅かながら実現できたことだ。

逆に言えば残りの七割は見捨てることになったが。

「ある意味貴様がこれからしようとすることは、直ぐに死ぬ俺よりもつらい戦いになるだろう」

「そうだな、宇宙は広いからな」

山本の言葉に同意を示しつつ嶋田は考える。

人が住める惑星を見つけるまで現在の技術では世代間航行となる。
そして現在最も数が多く、長命種であり宇宙空間での活動に特化したアーヴの能力の価値は高まるのは間違いない。

いや、はっきり言おう。
恐らく、数百年後の日本人ならびにその友好国の人類は皆青い髪をしているだろう。

創造主が被創造種に取り込まれるという悲劇、だが外見こそ変わっても中身は変わらないことを願いたい。
さもなければ、自分のしたことが無駄になってしまうからだ。

「では、行ってくる。さらばだ」

「ああ、さよなら」

こうして彼らは永遠の別れを告げ、日本は滅んだ。
愚かな枢軸連合、日本は銀河帝国の始祖ルドルフによって征伐されたと歴史に記されたが、
数百年後に姿形を変えた彼らと出会うなどとは誰も考えていなかった。

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最終更新:2012年08月19日 18:14