71 :パトラッシュ:2012/07/25(水) 22:22:57
earth様作『
嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART2
篠ノ之箒SIDE
「ちょっといいか」と声をかけた私に、一夏は「やあ箒、久しぶり」と、二度と見られはしないとあきらめていた笑顔で応えた。思い切り気力を振り絞らなければ、そのまま一夏に抱きついて泣き崩れてしまうところだった。
一夏の「死」を私に告げたのは、政府の重要人物保護プログラムにより両親と共に各地を転々とする間、私の護衛兼世話役を務めていた女性SPだった。千冬さんが第二回モンド・グロッソ選手権の決勝戦を体調不良のため棄権したとのニュースに「あの人が病気なんてあり得ない」と言う私に、彼女は「これは秘密なのですが……」と、裏で起こっていた事件を話してくれた。決勝戦の直前に一夏が誘拐され、その救出間際に爆弾が破裂して行方不明になった一部始終を――私はそのまま気を失い、三日間目覚めなかった。初恋の相手だった一夏がもうこの世にいない、二度と会えないのだと認めるのを拒んだために。
それが今、七歳も年上の精悍な青年として私の前に戻ってきたのだ。このまますがりつけば、二度と離れられなくなってしまう。教室から校舎の屋上に場を移して時間を稼ぎ、どうにか心臓のわななきを落ち着かせた私に一夏が話しかけてきた。
「去年、中学の剣道全国大会で優勝したそうだな。おめでとう」
「な、なぜそんなことを知っている?」
「千冬姉に聞いた。箒らしいなと思ったよ」
頬が熱くなったが、あれは一夏を失った苦しみから逃れるためのうさ晴らしでしかなかったと、優勝後に自覚している。触れられたくなかったので、急いで他の話題を探した。
「そ、そういえば、お前はどうだ? 小学校時代は私より熱心に剣を振っていただろう」
「……いや、向こうに行ってからは全然。剣道があることすら忘れていたよ」
耳を疑う言葉に、私は思わずカッとなって一夏の制服の襟をつかんだ。
「お、お前は剣の道を捨てたのか!」
「そうじゃない。俺が行った世界では、スポーツとしての剣道なんて消えていたからな。ガミラス戦役で人類の九割以上が死んでしまって、文字通り滅亡寸前だった。戦後復興が始まってはいるけど、文化やスポーツは資料すら失われたものがほとんどの有様さ。オリンピックやプロ野球なんて、あと半世紀は再開できないとされているほどだし」
人類の九割が死ぬほどの大戦争と聞いて、思わず絶句してしまった。まして一夏は、そんな世界で軍人として戦ってきたという。本物の戦争を知る者からすれば、スポーツごときで柳眉を逆立てる私など馬鹿にしか思えないのだろう。
「す、すまなかった。お前が味わった苦労も考えずに……」
「確かに苦しかったけど、俺は向こう側へ行ったことを後悔していない。信頼できる仲間や上官がいて、信じてくれる部下や後輩がいる世界だからな」
一夏の笑顔がまぶしい。私の理想の男が目の前にいる。誰にも渡したくない。
「そ、そうか。しかし、こちらには私がいるではないか……」
「もちろん、箒のような幼馴染はこっちにしかいないからな。絶対に失いたくないよ」
お、幼馴染……い、一夏、お前にとって私は異性として意識する相手ではなく、単なる幼馴染なのか? この六年間、お前のことを想い続けた私はその程度の扱いなのか? 理不尽だとわかっているが、あ、あまりといえばあまりではないか。一夏の向こう脛を思い切り蹴とばして教室へ戻っていった私は悪くはないぞ。悪いなどと思ってやるものか!
最終更新:2012年08月06日 01:45