573 :Monolith兵:2012/08/11(土) 09:53:51
蹂躙系ネタSS「大魔王様降臨」

 1942年のある日のこと、来る対米戦に向けて最後の夢幻会会合が開かれていた。
 いよいよ日米開戦だと思うと、気持ちが重くなるのか皆一用に顔がこわばっている。しかし、日本が生き残るにはこれしかないのだと自分に言い聞かせながら会議は進んでいた。

「では、開戦日は8月16日ということで。」

 嶋田がそう言って皆が賛同を示そうとした時、突如辻が割って入った。

「できればあと10日、いえ1週間遅らせることはできませんか?」

「これは以前から話し合われていたことではないか。前回の会合でも異論はなかったはずだが?」

 辻の言葉に皆一用に不審そうな顔をした。伏見宮がみんなを代表してかと真意を問いただそうとする。それに、辻はニタリというような底冷えのする笑顔で答えを返した。

「いえね、私も対米戦を回避しようといろいろと努力をしてきたんです。それでどうやらいい結果が出そうなのですよ。その結果が出るのが大体5日後でして。その後の分析も含めて1週間は欲しいと思っているんです。」

 ここに来ての辻の言葉である。みんなは一様に驚いた顔をする。

「それはどのような結果なのかね?」

「それはまだ…。しかし、今のところ成功する見込みの方が大きいです。そして、成功すれば日本はアメリカに戦わずして勝つことができ、アメリカという市場を衝号計画で破壊する必要もなくなります。」

 辻の言葉に皆が色めき立った。一か八かの衝号計画かそれとも成功の気配のある辻の謀略か。どちらを取るべきかを話し合っていた。

「日米戦を回避できるのなら待つべきだ。」

「いや、ここは開戦するべきだ。でなければアメリカの方から宣戦布告してくるぞ。あのアメリカに先手を取られると痛い。」

「史実では日本をけしかけたが…、そういう可能性もあるな。」

「だが、可能性の高い方にかけるべきでは?」

 様々な意見が出てくるが、イマイチ統一しなかった。そして、どうするのか嶋田が決断するということになってしまった。

「…私は開戦を遅らせるべきだと思います。辻さんが仕掛けて失敗した謀略は今までありませんでしたから。」

 嶋田のこの言葉ですべてが決した。そして、日本は1週間開戦を遅らせ、政府は内外からの圧力に耐えることになった。これにより、多くの国民は強硬派と言われていた嶋田繁太郎が腰抜けだなどと罵り、失望していくことになった。しかし、いくら国民に罵られようとも軍部からの突き上げがあろうとも、議会からの圧力があろうとも、嶋田は耐えた。耐え切った。それはもう、体重がこれはやばいというところになるまで耐え切った。

574 :Monolith兵:2012/08/11(土) 09:54:39
 1週間後、そこに会合メンバーが再び集まった。皆一様に憔悴した顔をしている。無理もない。あらゆる方面のあらゆる人間から非難が浴びせかけられていたのである。だが、一人だけ満面の笑みを浮かべている男がいた。辻である。

「それで、策は成功したんだな?」

「一体何をやったんです?」

 会合のメンバーは一応はアメリカで起こった結果を知っていたが、一体どうすればそうなるのか全く理解できなかった。

「とりあえず、初めから説明します。」

 そう前置きして、辻は今回の作の顛末を説明し始めた。



 事の始まりは世界恐慌前のことである。
 日本は日露戦争と第1次世界大戦で多くの土地や技術、人材などを手に入れたがそれでも貧乏であった。そこで、当然のことながら世界恐慌を利用した荒稼ぎを計画したのだ。その指揮官は辻であった。

「ああ、これでも足りない。だがこれ以上毟り取ると世界経済が崩壊してしまう。」

 辻にとっての悩みはマネーゲームの方法についてではなかった。どこまでむしり取れるかであった。彼にとってはこの時代のマネーゲームは子供の遊びに等しかったのだ。

「アメリカもイギリスもドイツもフランスも、ほかのどこの国にもこれ以上毟り取る余地がない。ああ、どうすれば。どうすればお嬢様学校倍増計画を達成できるというのですか!」

 辻をはじめとするMMJは、世界恐慌を利用した荒稼ぎで得たお金を下に全国にお嬢様学校を立てる計画を立てていた。ある次元ではそれはあえなく潰されてしまった計画であったが、この次元ではそれが生き続けていたのである。

「ああ、もう時間がない。…ん?時間?そうだ!」

 そして辻は思いついた。一度に毟り取ろうとするから国が滅ぶのである。長期に渡ってギリギリのラインを見極めて生かさず殺さず、いや半殺しくらいは、等と独り言を漏らしながら辻は計画を練り直していった。


「それから13年ですか。いざという時に備えてダミーを通じてアメリカ内の資産をアメリカ国外に出さずにプールしておいたのですが、今回はそれを一気にアメリカ国外に持ち出しました。何割かはイギリスやドイツにこぼれ落ちるでしょうが、大部分は日本へとやってきますよ。」

 にこやかな笑みを浮かべながら語る辻にみんな引いていた。しかし、これで対米戦は回避されたのである。
 辻の策によって、アメリカ国債は紐なしバンジーを幾度となく繰り返し、ドルの価値はチリ紙以下となっていた。また、どこからやってきたのか、大量の非常に良く出来た”偽札”がアメリカに大量に流入したという情報を東条たち陸軍には入ってきていた。

(なんという恐ろしい。一発の銃弾を交わすことなくアメリカを崩壊させるなど…。)

 だが、話はそこで終わってはいなかった。

「ついでにアメリカにあった色々な債権も列強各国にばら撒きましたからね。アメリカはこれから列強相手に返済しないといけませんし、できなければ欧州列強相手に戦争ですね。日本にも色々と持ってきているので、欧州列強と歩調を合わせて返済を迫れば嫌とは言えないでしょうね。まあ、返済するも地獄、戦争するも地獄ですから遠からずアメリカは滅びるでしょうが。」

 いつの間にかアメリカの資本を奪い取っていたばかりか、世界各国に借金を返さなくてはならなくてはならなくなっていたのである。漫画に出てくるヤクザがやりそうな話であるが、現実で起きるとなると…。
 特に、軍部のメンバーは対米戦を前にして力を入れていたので肩透かしを食らった上に、真の敵は身内にいたと気付かされたのであった。

「さて、これでアメリカはもう驚異ではなくなりました。これからどうするべきか、話し合いましょう。」

 その日の会合は、終始辻がにこやかな笑みのままリードしていったという。



おわり

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最終更新:2012年10月18日 23:03