792 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/13(月) 17:36:18

 銀河帝国の支配の象徴デス・スター。数千門ものレーザー砲、
最大出力では大型艦船でさえ牽引可能なトラクタービーム、7000機の宇宙戦闘機を備えた宇宙要塞だ。
しかしそれが、銀河帝国内部に潜む"憑依者"の組織、"夢幻会"の本拠地である事を知る者はいない。


            Utsu Wars Episord Ⅱ
                  ~生存への策動~


 遠い昔、はるかかなたの銀河系で…

 銀河の辺境アウター・リムに浮かぶ巨大な人工天体。
そこに、誰もがどこかで見たような、しかし誰も見たことの無いような戦艦が接舷していた。


「完成しましたね……『ミスティック・ドリーム』。我々の旗艦」

 新造戦艦内部の特別会議室に、艦内の視察を終えた将官達が集まっていた。

「うむ、これがデス・スターに次ぐ組織の防衛力の基幹となる。
 だが油断はできんぞ。この艦の設計が、帝国軍の中に少なからぬ波乱を引き起こしているのだ。
 ザーリンめ、前世とは条件が違うのだから、暴走は程ほどにしろと言っておいたのに」

「おや?『いずれはこの艦を銀河初の"痛戦艦"にする』なんて言ってたのはどこの誰でしたっけ?」

「さあな?どこぞの腹黒ナメクジじゃないのか、そんな事を言うのは?」

 グランドモフ、ウィルハフ・ターキンはモッティ提督の突っ込みをするりとかわす。
この時タトゥイーンでどこぞの腹黒ナメクジがくしゃみをしたかどうかは分からないが、
ミスティック・ドリーム級が帝国軍の頭の固い人々を驚かせた事に間違いは無かった。

793 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/13(月) 17:36:49

 "夢幻会"主導で作られた銀河帝国軍の新造戦艦ミスティック・ドリーム級は非常に巨大である。
全長はインペリアルⅠ級スター・デストロイヤーの4倍もあり(それでもエグゼキューター級の3分の1未満だが)、
しかも、動力機関やハイパードライブの性能は間違いなく帝国軍最高だった。また『推力偏向システム』という、
デミトリアス・ザーリン発案の奇抜な技術を採用する事で、その大きさにも関わらず旋回性能はインペリアルⅠ級より高かった。

 さらに、旧来の帝国軍では軽視されていたダメージ・コントロール、接近戦も重視されており、
最も重要な事にはインペリアルⅠ級には2基しか搭載されていなかったシールド発生装置が、
何とミスティック・ドリームには予備も含めると8倍の16基が搭載されていたのである。

 針鼠のように搭載された4連装ライト・レーザー・キャノンは射程を抑えてまで速射能力を高めてあり、
また極限まで死角を無くした配置と高度な火器管制システムで、どんな高速な宇宙戦闘機も火線に捉える事ができた。
死に物狂いの特攻機も高出力シールドに『衝突』させる事で本体へのダメージを減らすようにしている。


 この性能や着眼点だけでも特異なものだったが、さらに特異なのはデザインだった。
以下に設計最初期の段階で作られたCGモデルをごく大雑把に再現した画像のURLを載せる。
(ttp://moe-moe.dip.jp/cgi-bin/b/src/moe1425.png)
(ttp://moe-moe.dip.jp/cgi-bin/b/src/moe1426.png)
これだけ見ても分かる通り、インペリアル級に見られる楔形を2つ直角に組み合わせたような船体、
艦橋やシールド発生器と一体化した大型リング、重装甲で守られた機関区、居住スペースを内包する中央の円筒状区画、
細かく複雑な機動を可能にするため大小複数搭載されたイオン・エンジン。

 どれもが常識外れで、しかし高性能。製造・運用コストも勿論高額だったが、
小回りが利き、高速で、しかも耐久力に優れるこの艦は、デス・スターを守る最良の盾であった。
だが、エグゼキューター級の設計者であるライラ・ウェセックスや保守派の軍人はこの艦をゲテモノ扱いし、
ターキン率いる所謂"デス・スター組"の他にこの艦の有用性を見抜いていたのは、
メカニックに関して深い造詣を持つ暗黒卿ダース・ヴェイダー以外にいなかった。
彼はその影響力を行使し完成間近だった2番艦『エクスカリバー』を自分の乗艦とさせたのだ。

794 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/13(月) 17:38:25
「2番艦がヴェイダーに持っていかれたのは惜しいが、ドサクサに紛れて3番艦と4番艦の建造にゴーサインを出せた。
 ところでデス・スター艦隊の指揮はモッティ提督が担当するとして、ここの艦長はどうする?これだけの艦だ、有能な艦長が欲しい」

「対策したにも関わらず、アクバー提督が奪取されたのは痛かったですね。恐るべきは補正と言った所ですか。
 まぁあの奇襲のお陰で、我々はデス・スター防御計画をごり押しできた訳ですが」

 ウィルハフ・ターキンの奴隷であったギアル・アクバー――原作でエンドアの第二デス・スター攻撃を指揮した――は、
彼が完成した初代デス・スターへ向かう際に反乱軍の奇襲攻撃によって奪取されてしまっていた。しかしモッティの言うとおり、
この奇襲攻撃が与えた戦訓がターキン、タッグ、モッティの主張したデス・スターの防御力向上を後押しになってくれたのだが。

 デス・スターのトレンチ直上には対小型機用の砲塔やシールド発生器を備えた直径174km、幅7kmの防衛リングが建造され、
3人が最大の弱点として主張した放熱ダクトにも、敵弾の侵入を察知したら危険が無くなるまで閉鎖される機構が備えられた。
ちなみに、防衛リングはその間に出る廃熱を蓄えておく場所としても機能している。

「ロース・ニーダはどうでしょう?彼の能力は申し分無いと思いますが」

 帝国軍士官リストを見ながら目ぼしい人材を探すターキンとモッティに、カシオ・タッグが提案する。

「ニーダ?ああ、エピソードⅤでファルコン号を取り逃がしてヴェイダーにシメられたあれか?」

「前々世の情報サイトを信じるなら、彼は優秀です。確かにファルコン号を取り逃がしはしましたが、
 あれは主役補正によるものと思って間違いないでしょう。それに、彼は我々の影響力を行使しやすい」

 この頃のロース・ニーダはまだヴェイダー直率の『死の小艦隊』所属ではなく、
忠誠心にあふれた働き者のいち艦長に過ぎなかった。能力は別として、そのような艦長はいくらでもいる。
そのため、多くの権力者にとってニーダ艦長はノーマークであり、手を出し易かったのだ。

「では、ミスティック・ドリーム艦長にはロース・ニーダを充てる事にするか。
 幸い彼に近いケンダル・オゼル提督には東条さんが憑依してくれたしな、彼経由で引き寄せよう」

「では、オゼル提督にそのように伝えておきます」

 ターキン、タッグ、モッティ。デス・スターを与るこの三人組の結束は何よりも固く、そして決断は素早かった。
その事は多くの帝国軍人に知られていたが、それが共通の"前世"における"経験"によるものだと知る者はいない。

795 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/13(月) 17:39:00

 銀河系に最初の"憑依者"が現れたのは、原作におけるヤヴィンの戦いの10年程前だと言われている。
最初の憑依者は何とあの悪名高い『ジャバ・ザ・ハット』であり、彼の豹変は取り巻きや他のハットを大いに驚かせた。
ジャバの次に現れた憑依者はグランドモフ、ウィルハフ・ターキン。2人は密かに連絡を取り合い、
散らばっていた憑依者を集め、そして"前世"でも馴染みの深かった組織"夢幻会"を作り上げた。

 しかし、この異質な組織が明るみに出れば弾圧は免れられない事は、
当の構成メンバー達が最も良く理解していた。そのために、彼らは組織独自の防衛力とできるものを欲した。

 デス・スターの掌握も、独自のスター・ドレッドノートの開発も、ヴィアーズやニーダといった有能な将校をターキン閥に取り込むのも、
対フォース技術の研究も、表向きは銀河帝国のためであり、しかし真の目的は組織の、そして組織の構成員の生存というあまりに原始的なものだったのだ。

 この銀河は、彼らにとって"前世"ほど易しい世界ではなかった。一部の幸運な憑依者を除けば、
特に厳格な規律に縛られた銀河帝国軍人へ憑依した者は、注意を引く事を避ける為に彼らの"趣味"を封印せざるをえなかった。
"前世"の"趣味"にかまけていては、自らの、そして同じ記憶を持つ同志の生存が危うくなるのだ。

 そして、彼らは生存のために、そして生存権を確保して"趣味"を復活させるために、
あたかもバビロン虜囚時のユダヤ人の如く結束を固めた。それは粛清の必要さえ無いほどの結束だった。


 生存への策動は、深く、静かに進んでいく……


                 ~to be continued~

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最終更新:2012年08月19日 19:07