880 :第三帝国:2012/08/15(水) 21:21:54
黄金獅子の憂鬱~1
――宇宙暦800(帝国暦491)年 10月 新銀河帝国
ヴァルハラ星系 惑星オーディン
フェザーンより帰還した帝国の双璧の片割れ、
オスカー・フォン・ロイエンタール元帥は新無憂宮の中を速足で歩いていた。
この宮殿ではかつてルドルフが『自分の足で歩けぬ者に人類の支配者たる資格無し』という信念の元、
エスカレーターやエレベーター、自動ドアのようなものは一切存在しないため、急ぎの時でもこうして歩く他ないのだ。
新銀河帝国と名を変えた今日ルドルフの意思の重みから解放されたため、利便性を考慮して宮殿に機械文明を持ち込もうと試みたが。
「なるほど、卿らの気持ちはもっともだ。だが金がない」
ゴールデンバウム王朝の正当な後継者であり、
革命戦争時にはその武勇を銀河に知らしめ、ついにはナポレオンのごとくクーデターで革命政権を転覆させ。
初代新銀河帝国皇帝として君臨した獅子帝ライハルトは義眼共々書類の山に埋もれつつ、要望者にそう言い放った。
(これも全てあの馬鹿どものせいで――――)
ロイエンタールはボンクラ貴族の子弟以上にタチが悪かった『同志政治委員長殿』を思い出し苛立った
話は長くなるが、前王朝の銀河帝国は巨大な帝国国家であり、
かつて枢軸連合、国家連合を最高のタイミングで横合いから殴りつけて銀河を統一せしめ。
共和主義派には血の対価を以て自らの選択を後悔させ、その体制は盤石なものかと思われたがその実内情は厳しいものであった。
自由惑星同盟と名乗る叛徒どもの存在を感知してから膨らみだした巨額の軍事費、
義務を全うせず際限なく特権をむさぼる貴族、中央の命令を効かない独立心の高い星系、等と問題が山のように積み重ねっていた。
特に自由惑星同盟との戦争による軍事費と人的損失はボディーブローのごとく銀河帝国を痛み続け。
注目すべきは、連合国家が姿形を変えて復活して
夢幻会の『金髪台頭フラグ破壊作戦』に基づき各種援助を同盟に供給しだし。
中でも国家連合の要塞をそのままイゼルローン回廊に持ち込んだことで、
帝国辺境の航路は荒らされ、警備のための艦隊を増やすことを強いられただけで留まらず。
要塞攻略を目指して幾度も艦隊を展開したが、さながらヴェルダンの戦いのごとく挽肉が量産されついには司令官暗殺、艦隊叛乱と前代未聞の事態まで発生した。
このような事態に中央官僚に一部の軍人は危機感を覚えないはずがなく。
宇宙暦750年、第一次アムリッツァ会戦で帝国軍がブルース・アッシュビー率いる同盟軍に蹂躙され、
多くの門閥貴族の子弟が戦死したことを切っ掛けに血統断絶を理由とし大規模な粛清と中央統制を図った。
結果としてこれは時の皇帝の支持とパワーバランスが崩れつつあることに恐怖したフェザーンの協力で成功し、
またこの時中央からの徴税を誤魔化すために人口を少なく報告していた事が明らかになり、帝国の人口は100億単位で増加した。
だが、それでもなお門閥貴族を完全に抹殺したわけでなく、ブラウンシュバイク、リッテンハイムなどは残り。
一時的に潤った国庫も長引く戦乱と新たに特権階級化した官僚、軍人によって国力は衰退する一方であった。
だからこそ、新たに危機感を覚えたブルジョワ知識階級に属する、進歩的官僚、軍人、貴族主導の上からの革命は必然であった。
彼らは理想主義者であり、愛国者であったのは間違いない。
しかし彼らは頭のデキは良かったが、空想社会主義的で目先の問題よりもイデオルギー論争に明け暮れ、
過程よりも結果のみを求め、党派争いを好むという実にフランス革命時の進歩主義的左翼集団であった。
特権階級化した官僚に門閥貴族、皇族の一部をギロチン台に送ってもなお党派争いは収まらず、ただ虚しく時間を浪費させ。
経済は混乱し裏で辻が暗躍していたこともあるが、市場の不安と赤字国債のダブルパンチを受けて際限のないインフレに突入。
手っとり早い問題解決手段として戦争しかなく、結果として、『革命の輸出』を題目にフェザーンに侵攻。
同時に史実ではヤンがイゼルローン要塞を陥落させた日に黄金獅子が陥落させると同時に同盟に侵攻、通称『銀河帝国大革命戦争』が幕を開けた。
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当然の事ながら最終的に同盟だけでなく国家連合の反撃によって逆に侵攻され。
革命政権は悪あがきをするがごとく帝国全土での焦土作戦を実施し、ここで民衆の支持を完全に喪失。
軍司令官として名を馳せたラインハルトが兵士たちの支持と自らの信念に基づきクーデターが行ったのは必然であった。
そして、全土で焦土作戦を行ったため新たに建国された新銀河帝国に金がないのは当然で。
領土も自由惑星同盟、国家連合との条約によりイゼルローン回廊周辺は『ハニア連邦』と独立され。
フェザーンは数々の陰謀が発覚したため現在3カ国の共同統治下にあり、その後の動向についてはまだ決まっていない。
しかし、他の大小様々な星系がかつて夢幻会が中国に施したように次々と独立され領土は縮小し、税収は大幅に減少した。
苦い過去を思い出しつつ、ロイエンタールが会議室の扉をあけると既に帝国を支える将官と文官が揃っていた。
「遅いじゃないか、ロイエンタール!」
「どうせまた、女と乳繰り合っていたのだろ?」
自分の登場に喜ぶ親友に冗談を飛ばす原始人。
「お待ちしておりました、ロイエンタール元帥」
「貴様は、相変わらず女にだらしないな!」
「ふん、もてぬ男の嫉妬か。俺にとっては褒め言葉だな」
新人社員気質のナイトハルト・ミュラー提督に黒猪の叫び声が響く。
ロイエンタールは黒猪がうざかったのでつい皮肉を口にする。
それを聞いて猪が更に騒ぎ出したが、完全に無視し彼にとって最高の主の元に歩く。
「遅くなって申し訳ございませぬ。陛下」
「よい、ロイエンタール。卿はつい先ほどフェザーンより帰還したのだからな」
玉座ではないが、会議室の中でも一番豪華な椅子に鎮座した若き獅子がロイエンタールの言葉に応じた。
なお、獅子ことラインハルトはタンクベットと執務室を往復することは今日はなかったのか顔色が良く。
ちなみに、皇帝の隣に座っている義眼は唯でさえ顔色が悪かったがタンクベットを往復する毎日かさらに顔色が悪かった。
「さっそくだが、ロイエンタール。我々に同盟の動向について今一度報告してもらいたい」
「はっ、では臣めが謹んで自由惑星同盟の動向について報告を申し上げます。」
会議が始まった。
最終更新:2012年08月19日 19:41