955 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/18(土) 19:35:45

 ――――混ぜるな危険
             ――――洗剤の注意書き


          Utsu Wars Episord 3.5
              ~最強のTIEファイター~


 宇宙空間を、奇異な姿をした戦闘機が飛んでいた。
何枚ものソーラー・パネルを備え、120°間隔でコンテナが3つ付いている。
戦闘機は奇妙な姿ながら驚くほどの俊敏さで動き、次々と鋭角的なターンを繰り返していた。


 戦闘機の背後には巨大な宇宙戦艦―――ミスティック・ドリーム級『エクスカリバー』が控える。
「どこにあるのか分からない」と評される同級のブリッジには、普段ならいる筈の無い者達がいた。
その1人、大提督デミトリアス・ザーリンが戦闘機のパイロットに尋ねる。

「如何ですかな、ヴェイダー卿!この"TIEドラグーン"は!」

 暫くして、通信機の向こうからコー、ホー、という音と共に返事が返ってくる。

「実に素晴らしい機体を作ってくれたな提督。
 うむ、実に素晴らしい………貴様を提督にしておくのが惜しいくらいだ」

 地獄の底から響いてくるような賞賛の声に、ザーリンの周囲にいた技術者達は安堵した。
肝の据わった大提督は平然としているが、暗黒卿のフォース・グリップは帝国軍内でも最も恐れられる物の1つであり、
またヴェイダーが関わる人間の些細な失敗に対してもしばしば"使用"される力でもあるのだ。

956 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/18(土) 19:36:15

 デミトリアス・ザーリン。銀河帝国の技術者で彼を知らない者はモグリと言われる。

 大提督という位にありながら、新型TIEファイター開発の監督という仕事を与えられた彼は、その仕事を実によくこなしていた。
TIEシリーズの製造元であるシーナー・フリート・システムズ社や、スター・デストロイヤーで有名なクワット・ドライブ・ヤード社など、
銀河の全ての軍需企業が彼が帝国軍人である事を惜しんだ程、彼は斬新な発想とそれを形にする能力を持ち合わせていたのだ。

 だが、ザーリンのその才覚は彼に"憑依"した"倉崎重蔵"という人格のものであるという事は、彼と同じ"憑依者"である者を除いては誰も知らない。


 ザーリンのアイデアは、これまでの銀河帝国軍における常識を破壊するものばかりだった。

 彼が新型TIEファイター開発の監督を任せられた際まず主張したのは、ハイ・ロー・ミックス構想というものだった。
スター・デストロイヤーしかり、TIEファイターしかり、単一兵器の大量発注というのは銀河帝国のスタンダードだった。
しかし彼は、一般部隊用の廉価な兵器と、一般部隊では対応しきれない強敵に対処する精鋭部隊用の高級兵器を分割し、
別々に開発、製造する方が従来の単品大量生産よりも良いとしたのである。

 ザーリンの主張は帝国軍将校の古典派グループによる強い反感を買ったものの、
彼の情熱的な弁舌、そして老獪な根回しによりこれは抑えられ、"ハイ"に当たるTIEファイターと、
"ロー"に当たるTIEファイターの2機種の開発が並行して行われる事になった。


 最終的に"ハイ"はTIEディフェンダー、"ロー"はTIEインターセプターとして結実するが、
この時点でもザーリンはまだ満足していなかった。彼は皇帝に対し自分の任務を延長する事を願い出て、
それが認められると『最強のTIEファイター』を作り上げるべくさらに熱心に監督作業に打ち込んだのだ。

 彼の監督方法は、実際にシーナー・フリート・システムズ社の技術陣に混じってアイデアを交換し、
場合によっては設計に直接関与するという、見る人によってはいささか積極的すぎる物だったが、
技術屋の気質を知り尽くしたザーリンはこれにより見事に開発チームの人心を掌握してしまっていた。

957 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/18(土) 19:36:47

 ところが、ここでザーリンにとっても予想外の事態が発生する。

 泣く子も裸足で逃げ出す暗黒卿、皇帝最強の側近として知られるダース・ヴェイダーが、
この『最強のTIEファイター』開発計画に興味を示し、自らもオブザーバーとして加わってきたのだ。
開発チームはこの事態に恐れをなしたが(ヴェイダーは失敗に厳しい事で有名である)、
元からの監督者であり1年以上の付き合いがあったザーリンの一喝により気合を入れなおし、
ヴェイダー卿まで加わった開発計画はさらに加速していく事になる。


 これは本人を除いてはザーリンしか知らなかった事ではあるが、ヴェイダー卿は元々技術者肌な所があった。
そうでなければ9歳の頃にジャンクパーツを寄せ集めてプロトコル・ドロイドを作るなどという真似は出来ないだろう。
そして、一度も乗った事の無い宇宙戦闘機で敵艦に止めを刺すなどという事も。

 ヴェイダーは強大なフォースを持ったシス卿であると共に、優れた技術者であり、エースパイロットでもあったと言える。

 だからこそ、そんな彼を満足させる戦闘機を作るというのは開発チームにとって容易な事ではなかった。
ヴェイダーとザーリン、設計には配線レベルまで容赦なく突っ込みを入れる2人が与える精神的負担は正に労災申請レベル。
しかしながら2人は同時に、殆ど開発チームの一員のようになっており、いつしか彼らの間には仲間意識さえ生まれ始めていたのだ。


 そして……彼らの『最高傑作』は完成した。

 それが、それこそが宇宙戦闘機史の伝説に残る機体『TIEドラグーン』だった。

958 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/18(土) 19:38:03

 ここに、設計初期段階に作られたCGモデルを片手間で大雑把に再現したものがある。
(ttp://moe-moe.dip.jp/cgi-bin/b/src/moe1428.png)
(ttp://moe-moe.dip.jp/cgi-bin/b/src/moe1429.png)
(ttp://moe-moe.dip.jp/cgi-bin/b/src/moe1430.png)
ザーリンの手がけた『作品』としてはヴェイダーの母艦でもあるミスティック・ドリーム級が記憶に新しいが、
TIEドラグーンはそれよりもさらに風変わりな、身も蓋も無い言い方をすればさらにマッドなデザインとなった。
しかし、多数の武装に対応したモジュール式のコンテナは高い攻撃力をもたらし、また増大したエネルギー容量によって、
旧来のTIEファイターには搭載されていなかったハイパードライブや偏向シールドまで装備している。

 TIEインターセプターで実用化されていたイオン流放射システムをさらに洗練させたものを搭載、
旋回の鋭さはTIEシリーズはおろか、他のどんな宇宙戦闘機にも劣らなかった。また、速度も向上しているのは言うまでも無い。

 圧倒的ハイレベルで満たされた走攻守だけでも特筆に値するが、この機の最も恐るべき所は、
ザーリン発案による新技術『ドラグーン・システム』にある。何とTIEドラグーンは武装コンテナを一時的に分離し、
無線で指示を出す事で、本体と別行動を取らせる事ができるのだ。これにはヴェイダーさえ一瞬首を傾げたという。
本体と切り離したコンテナ・デザイン(ttp://moe-moe.dip.jp/cgi-bin/b/src/moe1431.png)

 『ドラグーン・システム』を使えば、単機でも複数機がいるように見せかけたり、
敵に対して効果的な待ち伏せや波状攻撃、十字砲火がかけられる。その上コンテナを切り離した本体は非常に軽くなり、
そのおかげでただでさえ魔術的だった機動力がさらに高まるというのだ。

 勿論製造コストは高く付いた(TIEディフェンダーの20倍、TIEファイターの100倍以上!!)が、
その性能はコストを補って余りある、というかよくそのコストで作れたな、と賞賛するべきものだった。
TIEドラグーンは、正に完全無欠の戦闘機だった。

 ――――パイロットの能力を全く考慮していない事を除いては。

959 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/18(土) 19:38:58

 鋭いターンは生半可なパイロットでは気絶してしまう程の強いGがかかり、
また急速な加速・減速を可能にしたため操縦性は極めて敏感なものとなった。
どの位ピーキーかと言うと、テストパイロット達が1回試乗しただけで仕事を辞退し、
最後に残ったテストパイロットがダース・ヴェイダーしかいなかった位だ。

 さらに、武装は本体に搭載された2門のレーザー・キャノンの他に、
コンテナに最大3種類が積めるのだが、これを適切に使い分けるのは至難の技だった。
また、搭載していたのが魚雷やミサイルだった場合など撃つ度に機体の重心が変わり、
それに一々対応するのはさらに困難な作業であった。

 前者についてはパイロットのレベルに応じて機体の反応を変える機能を加える事によって、
後者については操縦補助コンピュータをさらに洗練させる事によってそれぞれ対応できたが、
最後に残った関門がこの機最大の特徴『ドラグーン・システム』だった。

 このシステムは最大3機のコンテナ、それぞれの状況について正確に把握し、
それぞれに的確な指示を出す事が運用のために不可欠だった。しかし親機を操縦しながら、
同時に3機の子機を操縦するなど一般パイロットにはどだい不可能。
脳を複数持っているエイリアン種族がいれば使えたかもしれないが銀河帝国では不可能。
コンテナ操縦のAI化も考えられたが、ザーリンが「無人機<<(超えられない壁)<<有人機」
などという主張を強硬に貫いた事で不可能となった。

 流石のヴェイダーもドラグーン・システムには「"最低でも"私レベルでなければ扱えない」
と呆れ果て、ただでさえ高い製造コストの上にさらに運用コストまで高い事が明らかになってくると、
この『最強のTIEファイター』は試作が5機(予備パーツ含むと10機分)作られたのみで、
それ以降TIEドラグーンが生産される事は無かった。

960 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/18(土) 19:39:31

 ――――しかし、TIEドラグーンの系譜は登場した瞬間に潰えたわけではなかった。


 何だかんだ言ってドラグーンを気に入っていたダース・ヴェイダーは、試作機のうち1機に、
パワー供給効率とハイパードライブ性能の向上、人間工学に基づいたいくつかの改善をさせると、
ダース・ヴェイダー専用機『TIEスーパー・ドラグーン』として受領。

 また、諦めの悪いデミトリアス・ザーリン大提督は「浪漫の分からん若造どもめ」などとごねながらも、
不評だったドラグーン・システムを廃し、速度や旋回性能を常識で理解できる程度まで低下させ、ハイパードライブを取り外した廉価版
(ハイパードライブの取り外しは機体の持ち逃げ対策として帝国上層部が命令したが、コンテナに追加可能)、TIEテンペストを設計。

 これも価格がTIEディフェンダーの5倍と非常に高価だったが、
こちらは一般的な"エース"パイロットにも十分に扱う事ができる機体だったため全部で500機が生産され、
皇帝の親衛隊、ターキンの指揮するデス・スター防衛隊など極限られた精鋭部隊に分散配備される事になった。


 TIEドラグーンの一件があってから、ダース・ヴェイダーはザーリン大提督に対して
「ザーリンは比較的信頼できるが、ザーリンの技術に関する知見はさらに信用に足る」と異例の評価をし、
ザーリンもヴェイダー卿の事を「浪漫の分かる"漢"」と親しみをもって話していた。


 そして2人以外の間では「この2人を一緒の仕事場に置くな」という暗黙の掟が出来たとか……


             ~to be continued~

961 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/08/18(土) 19:40:27

★★★おまけ:登場メカニック補足★★★

★TIEドラグーン

●コンテナに搭載できる主な装備
  • 単装ターボ・レーザー
  • 連装レーザー・キャノン
  • 3連装プロトン魚雷発射管
  • 3連装震盪ミサイル発射管
  • 4連装ブラスター
  • 6連装サーマル・デトネーター投射機

  • アストロメク・ドロイド
  • 偏向シールド発生器
  • 高性能センサー・アレイ
  • 予備ハイパー・ドライブ
  • 予備エネルギー・パック

  • 各種物資

●ヴェイダーの発言について
「"最低でも"私レベルでなければ扱えない」という発言は決して彼の驕りではなく、
3機のコンテナの動向を把握して適切な指示をするにはフォースを使わざるをえない事、
またコンテナを分離する事で異常なレベルまで高まった機動性を活かす事が出来るのは、
超級エースパイロットしかいない事を彼なりに表そうとしたものである。

★TIEテンペスト

●現場での評判
TIEテンペストはTIEドラグーンより随分とましとは言え、非常にパイロットを選ぶ機体だった。
この機の存在を知るTIEパイロットの間では、テンペストに乗る事が最強のパイロットの証となっていたのである。

また、この機はコンテナに搭載するモジュールを変えるだけで、
重戦闘機、対艦攻撃機、爆撃機、長距離偵察機とその用途をガラリと変える事ができるために、
テンペストが配備された幸運なスター・デストロイヤー艦長からは「もう全部テンペストでいいんじゃないかな」
などという声も上がったが、この声は一般パイロット(全部テンペストになったらとても操縦できない)や、
財政部(何かにつけコストが高すぎる)、整備班(何かにつけ整備が大変すぎる)の悲鳴でかき消された。

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最終更新:2012年08月19日 19:43