516 :パトラッシュ:2012/10/06(土) 10:15:10
篠ノ之箒SIDE(2)
おおおのれ一夏の奴、わわ私の目の前でセシリアやシャルロットと楽しそうに話しおって。たた叩き切ってやると愛用の刀に手が伸びたが――柄を握ったところで腕がとまった。一夏に斬りつけるまではともかく、その先が想像できない。目に浮かぶのは袋叩きにされ、ぶざまにのびた自分の姿だ。私ではあいつに勝てない。むむ無念だ……。
クラス代表に決まってから、一夏は二人とばかりISの訓練を続け、休み時間にもそれについて話し込んで私には目もくれない。特にセシリアは、あれほど一夏を敵視するような態度だったのに、あのベタベタぶりは何だ? いい加減イライラが募り、昨日もまた二人と訓練に出ようとしてきたのを、強引に剣道場へ連れてきた。「俺はもう剣道なんか忘れちまったぞ」という一夏に、無理やり竹刀を押しつけて「特訓だ!」と怒鳴りつけた。
「なら防具はいらないから、このままかかってこい。今のお前は俺に勝てないよ」
「何だと……」剣道を公然と侮辱するような発言に、頭に血が上った私は全力で襲いかかった。しかし、一夏は私の斬り込みを紙一重でかわすや、足を引っかけるのと同時に竹刀で後頭部をしたたかに打ち据える。私はそのままひっくり返り、思い切り壁にぶつかった。
「な、何なのだ一夏、今のは?」
「軍隊における白兵戦用格闘技術のうち、剣や棒などを使った撃剣術だよ」
「ひ、卑怯ではないか! 私はお前に剣道の稽古をつけてやると――」
「卑怯もへったくれもあるか! ガミラス、ガトランティス、デザリウムと、俺は何度となく白兵戦を戦って、異星人とはいえ多くの敵をこの手で殺してきた。一歩間違えれば、死んでいたのは俺だ。お前はスポーツマン精神にのっとって戦争をしろと言うのか?」
剣道場は凍りついた。何を言われたのかわからなかった。い、一夏が、人を殺しただと?
「お、お前が人を殺しているだと……」
「俺は軍人だぞ。戦場では生き残ったほうが正義だ。死者には卑怯なやり方で負けたと抗議はできない。わかったろう、俺はもうスポーツなんかできないんだ」
一夏が戦場で人を殺していたという話は、あっという間に全校に広まった。それまで一夏に近づこうとしていた多くの学生が、私を含め逆に遠巻きにして近寄ろうとしないなか、セシリアとシャルロットは平然と話しかけている。クラスのひとりが「織斑君は人殺しの経験があるって聞いたけど、平気なの?」と聞くと、二人は呆れたように応えた。
「国を守る軍人ならば当然ではありませんか。むしろ誇るべき勇者ですわ」
「一夏たちが戦わなかったら、向こうの世界は滅びていたと聞いているよ。君たちは他人を殺すくらいなら、自分たちが殺されたり奴隷になってもいいと本気で思っているの?」
いい言いたいことはわかる。だだだが一夏が私の武士としての誇りである剣道を否定しただけでなく、あああの微笑をセシリアたちに向けるのが許せんのだ! そそその笑顔は私が独占するはずなのに! よよよくも外国人にばかり無節操にふりまきおって! わわ私も専用機があれば……しししかし、あああの姉に頭を下げるなどできるか!
「そういえば二組に転入生があったって。何でも中国の代表候補生らしいよ」
「あら、わたくしの存在を今さら危ぶんでのことでしょうか」
「この時期に転入となると専用機持ちかな。ISの実力はあると見るべきだろう」
もももうガマンならん! 刀を抜こうとした刹那、ふと教室の入り口から声が聞こえた。
「――その情報、古いよ」
※平和ボケの武士である箒が、実戦経験豊富な軍人である一夏に痛い目に遭うお話です。
最終更新:2012年10月16日 23:36