297 :earth:2012/04/09(月) 21:43:31

 飛龍、蒼龍から飛び立った流星改や烈風改の精密爆撃によって人口密集地域にあった反津組織の拠点は灰燼と帰し
郊外の沿岸にあった拠点などは最後の奉公ということで借り出された扶桑型2隻とドイツ艦隊によって木っ端微塵に
された。
 逃げ出した人間も試験的に投入されたヘリ部隊によって叩かれ、市街地に逃げ込んだ人間は日独の特殊部隊によって
殲滅されることで、後に『坦蓮事変』と呼ばれる戦いは終結した。
 津州皇国軍情報部が総力を挙げて探し出した大規模な反津組織の大半は、この1週間に満たない戦いで完膚なきまで
に壊滅していた。 
 反津組織が壊滅しただけなら、津州皇国としても喜ぶところなのだが、彼らが壊滅した過程が大問題だった。何しろ
この戦いで津州皇国を含め蒼海世界の列強は、向こうの世界に全く歯が立たないことが明らかになったからだ。
 尊大なヴェラヤノーチ帝国皇帝・キリル三世さえ、自国では向こうの列強に勝てないと認めざるを得なかった。

「万が一、列強が本気になれば、津州皇国を一撃の下に叩き潰し、楠叙を瞬く間に支配してしまう」

 楠叙を押さえておきたいヴェラヤノーチ帝国は焦った。

「もしも我々が楠叙を支配しても、彼らが難癖をつけてくれば手を引くか、譲歩せざるを得なくなる」

 皇帝キリル三世の幼さが残る顔が苦渋によって歪む。
 日欧からすれば、今の勢力圏の維持だけでも一杯一杯なのに、余計な面倒ごとなど当面は御免被るというのが本音なのだが
そんな事情など露も知らず、今回の苛烈な報復を見せ付けられた彼らからすれば、当然の考えだった。

「津州皇国が生かされているのも、日本帝国が彼らの存続を許しているからだろう。少しでも気が変われば、あんな小国など
 瞬く間に制圧され、向こうの世界の橋頭堡になる」

 この言葉に帝国軍幹部は、旧津州皇国領に一大軍事拠点を築き、楠叙沿岸を圧迫する日独連合軍の姿を思い浮かべる。
 そしてその光景を否定する理由もなかった。
 しかし、その幻影に怯えたのは他ならぬ津州皇国自身だった。

「こ、これが向こうの世界の戦いだというのか」
「向こうの列強に対抗するなど、夢のまた夢だ」

 坦蓮での日独の報復を見た津州皇国軍の高官達は頭を抱えていた。

「あの空母2隻だけでも、津州水軍主力を壊滅させられる。いや護衛の艦艇との水上砲戦でも負けるぞ」
「陸戦でも、本気で攻め込まれれば瞬く間に負ける。空を押さえられ、海からもあの巨砲で叩かれれば戦いようが無い」
「彼らがその気になればあっというまにこの国は制圧されるぞ」

 どうやっても抗しようが無い圧倒的脅威。まるで神話の怪物のような存在に震え上がった。
 だが皇帝夷代は、この逆境に際して己を奮い立たせた。

「彼らが友好的である今こそ、むしろ積極的に彼らとの関係を強化するしかありません」
「しかし彼らが欲するようなものを提供できるでしょうか。我が国には目ぼしい資源は」
「この国の立地を生かすしかありません。幸い、楠叙の暴挙で彼らは楠叙への不信感を持っています。ならば……」

 何人かが壱代が何を言おうとしているのかを理解する。

「ま、まさか」
「そうです。この津州の地を提供するのです。この国の工業基盤は脆弱ですが、楠叙よりはよほど整備されています」
「し、しかし彼らの資本が流れ込めば我が国は」
「一時的には厳しい状況に立たされるでしょう。ですがこのままでは、この国は共同租界への通り道でしかなくなる。
 列強の工作で分断されれば、さらに苦難の道を辿ることになりましょう」
「……」

 こうして御聖断が下された。
 そんなシリアスなやり取りがされている一方、怯えられている日本帝国では猫耳美少女とか猫耳美少年の存在に、一部の方々が
舞い上がっていた。在津日本大使館の職員の座や、今回の坦蓮事変の反省から創設が予定される駐留軍の編成に関する会合での熱烈な
議論を聞きながら、嶋田は思った。

(……こんな連中が、この国の支配階級だなんて思わないだろうな~) 

 多分、こちらの軍事力にどう対応しようかと頭を抱えているであろう津州皇国高官を思い浮かべ、彼は乾いた笑みを浮かべた。

「それに、どうやら『あの』練習艦も原作主人公を乗せて来るようだし……全く原作ブレイクにも程があるだろう」

 こうして運命は交差する

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最終更新:2012年10月17日 21:30