473 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/19(金) 18:47:09

 "日本の黄金期"と呼ばれた1940年代後半から1950年代初頭……

 その原動力となった"神風内閣"こと嶋田内閣とそれを囲む面々は皆現世を後にし、
死後の世界で悠々自適の暮らしをしていた。死後間もなくは世界情勢がまだ不安定だった事もあり、
何かと現世の事を気に掛けていたのだが、彼らの後継者達は先達を見習って国を上手く運営しており、
あと100年は日本が揺らぐ事は無いだろうと安心し、各々その趣味に打ち込んでいた……


             提督たちの憂鬱 ネタSS
      ~蝶の羽ばたきがツングースカ大爆発になった件について~


「そういえば嶋田さん。"向こう"が今、西暦何年か知っていますか?」

 晩年に凝っていた園芸を来世でも続けていた"伝説の宰相"嶋田に、"大蔵省の魔王"辻が声を掛ける。

「さあ……1960年初め頃から、すっかり見なくなってしまったもので」

 実は嶋田内閣の面子で、最も早く現世を見に行かなくなったのは嶋田本人だった。
曰く、新聞やら書籍やらテレビやらで自分の名前に色々と枕詞が付くのが嫌だったという事だ。
辻は彼らしいと思いつつ、今年が現世においていつ頃に当るのかを教えた。

「西暦2010年、ちょうど私達が"逆行"したのと同じ頃か、少し後ですよ。
 折角ですからどうなっているかちょっと見に行きませんか?」

「ああ、もうそんなに……そうですね、少し見に行ってみましょうか」

 嶋田は辻の言葉を聞いて、彼の精神がもともと宿っていた平成の時代に懐かしさを覚えたので、
辻と一緒に"改変後の"日本を見に行く事にした。途中で近衛、東条など往年の"会合"メンバーも集まり、
当時の苦労話やら、今となっては心置きなくできる前世の話などをしながら日本の上空に向った。

474 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/19(金) 18:47:54

 彼らが見た日本は、彼ら自身も驚くほどの発展を遂げていた。
東京は史実マンハッタン島と見まごう高層ビルが軒を連ね、リニア線が東は仙台、西は広島まで開通しており、
また大阪、神戸の港は福建共和国や華南連邦、東南アジア諸国の船が活発に行き交っていた。
ドイツを筆頭とする欧州枢軸とは関係改善が進み、既に共同で宇宙ステーションを作ろうとか、
挙句の果てには将来的に軌道エレベーターを共同開発しようなどという話にまで発展している。

 世界情勢も著しく変わっていた。解体されたソ連は欧州側のロシア共和国と、
ロマノフ家を象徴に戴く極東側の極東ロシア帝国、その間にモザイク・ロシアと言われる軍閥が割拠していたが、
軍閥勢力の共和国、帝国への帰順が進んでおり、両国の国境画定はすでに両国が満足する形で終わっていた。

 イスラム教とキリスト教の衝突も、お互いが身内の過激派を押さえ融和政策を進めた事で深刻化せず、
欧州では対ユダヤ政策の転換により北米東海岸にユダヤ人の(本当の意味での)自治国家が誕生していた。

 長らく敵対関係にあった大英帝国と枢軸も数年前ようやく"雪解けの季節"を迎え、
枢軸国の間で結ばれた、地中海・大西洋条約――史実北大西洋条約的なもの――に基づき作られた軍事同盟、
MATO(地中海・大西洋条約機構)は解散。新たにイギリスを迎え欧州連合として生まれ変わろうとしている。

 史実と違い人口爆発は起きておらず、食料、資源、環境も史実に比べれば余裕がまだまだあり、
金融や国際商取引は国家の規制が強かったため国際的な恐慌は第二次世界恐慌以来発生していない。

「こんなに日本、いや世界の情勢が好転しているなんて、嬉しい想定外ですね。
 ところで日本の首相は誰なのでしょうか?この様子を見るに相当なやり手のようですが」

「案外、史実との逆転現象で某ルーピーかもしれませんよ?
 さて、日本の首相は新聞かテレビにでも出てる筈、ええと……」

 嶋田は感嘆しながらもふと疑問を抱く。冗談を返しながら辻がテレビ、新聞を調べていた。

「………………」

475 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/19(金) 18:48:33

「どうしたんでしょう?辻さんらしくも無い―――………………」

 その辻が突然、呆然とした顔で立ち尽くしたのを見た東条がいぶかしむ。
しかし、辻が顔を向けていたテレビに映っている人間の顔を見て、東条もまた絶句した。

「な…何を言っているのかわからねーと思うが(以下略」

 近衛は辛うじて言葉を発する事はできるらしかった。だがSAN値は明らかに減っているらしい。

 3人のただならぬ様子を見て、一体何事かと思った嶋田はテレビの画面を覗き込んだ。そこには……


《松本総理は今月14日、ドイツのジグマール・ガブリエル首相と今後の日欧関係について―――》

《松本総理、今回のドイツ首相との会談では―――》

《松本総理が韓国の格差問題について対策を―――》


「………………ゆ、夢だ―――これはきっと何か悪い夢に違いない」

 うわ言のようにつぶやく嶋田。それをよそに、テレビのテロップには、こう書いてあった。


『内閣総理大臣 松本 智津夫』

476 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/19(金) 18:49:14

 松本智津夫は、夢幻会による"改変"があった後の世界で、
どのような影響が起こったのかは知らないが政治家―――そして日本の首相となっていた。
しかも高潔な人間で、しかも政治家として極めて有能で、しかも国際的バランス感覚に優れ、
しかも信教の自由を掲げ自らは特定の宗教に属していなかった。

 この"松本内閣"をさらに詳しく調べた彼らは、さらにSAN値を激減させていく。

《又吉大臣が新型肺炎の撲滅に全力を挙げるよう指示―――》

「平成で言う厚労大臣が唯一神だと!?」

《外山外相は今年のアジア太平洋国際会議について『非常に建設的な会議だった』と―――》

「おい!スクラップ&スクラップはどうしたんだ!!」

《今月発表予定の新型戦車には、田中陸軍大臣も太鼓判を―――》

「ちょっと待て!そいつに戦車を評価させるのか!?」

《田代情報局長、漢人系テロリストは『たとえ便所に逃げ込んでも息の根を止めてやる』と―――》

「大臣じゃないがこっちにも神がいたぞ!てかそれなんてプーチンw」

《村田大臣が新型スーパーコンピュータ開発の予算倍増を要求。
 『科学分野において日本は常に世界一でなくてはならない』とその意義を強く主張―――》

「2位じゃダメなんでしょうか!?」

477 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/19(金) 18:49:49

「疲れた……」

「疲れましたね……」

 一通り大騒ぎしてから(死人なので誰の目にも触れないが)、
会合の面々はとりあえず情報をまとめる事にした。これはもはや生前からの癖である。

「まず総理大臣が麻原、じゃない松本智津夫で、前世で言う厚労大臣が又吉光雄?
 外務大臣は外山恒一、陸軍大臣は田中芳樹。情報局長が田代政……何の冗談だ、これは」

「おまけに文部科学大臣が"あの"蓮舫、井川意高は大蔵大臣です。一体どういう人選なんでしょう……」

 笑うしかない面子に、嶋田と辻は珍しくも揃って疲れた顔をする。
しかし東条、近衛らの表情は2人と違って明るかった。

「ですがこれは良い事とも言えますよ。どういう訳かはよく分かりませんが、
 我々が歴史を改変したために前世で散々叩かれたり、ネタ扱いされたりした人たちが、
 皆こうしてチート級の有能人材になって日本を引っ張っているのですから」

「最初見たときは霊体になっても幻覚を見るのか、なんて思いましたけど、
 まぁ何と言うか結果オーライですよ嶋田さん。松本内閣、皆頼もしい顔をしているじゃないですか」


 運命という恐るべき女神の気まぐれと言えばあまりに気まぐれすぎる悪戯に、嶋田は天を仰いだ。


「これで………いいのか?」


                 ~ f i n ~

478 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/19(金) 18:50:23

このネタSSは、

総理:松本智津夫(彰晃、彰晃、しょこしょこ彰晃)
厚労大臣:又吉光雄(詳しい理由は選挙公報等で熟知すべし)
外務大臣:外山恒一(スクラップ&スクラップ)
大蔵大臣:井川意高(マカオに入り浸り)
文科大臣:村田蓮舫(2位じゃダメなんでしょうか)
陸軍大臣:田中芳樹(川底の石で戦車に穴)
情報局長:田代政(ミニにタコができる)

ご覧のキャスティングでお送り致しました。
だいぶ穴がありますので、お好きに埋めてくださいw

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最終更新:2012年11月17日 10:54