870 :名無しさん:2012/10/28(日) 21:35:31
ふと思いついたネタを投下。
「脱亜への道」
201X年8月15日
この日、一部にとっての世界は変転する。
突如として日本列島が、北米大陸西海岸沖1000キロの洋上へと転移した所為である。
当初、日本の消失に気付いた某半島国家は、天罰と称して大いに浮かれ騒いだ。
対して国内の不満をそらす相手を失った大陸国家の指導者達は、揃って苦虫を噛み潰す。
そして消失した列島が、北米西海岸沖に出現したとの報を受け、一方は落胆の余り泣き喚き、残りの一方は、安堵に胸を撫で下ろした。
だが、それは完全な誤りだった。
この超常現象を機に、彼らの世界は大きく有り様を変える事になったのだから。
まず、時期が悪かった。
折しも終戦記念日当日。
常ならば、日本周辺の某三国で反日イベントが目白押しとなり、内政干渉紛いの参拝批判の大合唱が起こる日である。
実際、それらの国々では、てぐすね引いて非難の声明を挙げる準備をしていたのだが、さすがに、この超常現象を前にして間を外され、すべて盛大な空振りに終わっていた。
問題があったのは、日本国内である。
自国がいきなり転移しました等という超常現象を目の当たりにすれば、当然、そこに神秘的なものを結びつけたくもなる。
そして、丁度いい具合のネタが、日本人の目の前に転がっていたのだ。
靖国に眠る英霊達の怒りというネタが。
まずは、インターネットで火が点いた。
そしてそれらは、瞬く内に、現実世界へと広がっていく。
曰く――靖国の英霊達が、彼らを辱め続ける某三国に怒り、国そのものを引き離したのだと。
まことしやかに語られるそれに慌てたのは、某三国寄りと常日頃から噂されるマスコミ連。
必死に火消しを図り、英霊の怒りなどナンセンスと語調を荒げて、御用学者や御用タレント達に言わせるも、では、どうしてこの転移現象が起きたのかと突っ込まれれば、答えに窮するのみ。
誰にも答えようの無い問いに、答えられる叡智が彼らに有る筈もなく、言葉を濁し話題をずらす様は、嘲笑の対象にしかならなかった。
そうなってしまえば、噂の方を信じたくなる者も増えていく。
なにより、そう考えてしまえば楽だったからだ。
更に、物理的な距離が開いたのも拙かった。
物理的な距離の開きが、やがて心理的な距離の開きへと変わっていくのは、ある意味、必然であったからだ。
日帰りで行き来できた距離が、日帰りで行き来できなくなり。
隣国という認識は、数千キロの距離を隔てる事で、徐々に薄れていく。
そうなってしまえば、ある程度は、我慢して付き合わねばならないという無意識の配慮も、当然の如く消え始めていった。
そして距離が開くことにより、経済的な結び付きも緩んでいく。
そうなってしまえば、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに、財界側が大陸や半島に注ぐ視線も徐々に温度が下がっていった。
元々、賃金の高騰や反日活動の激化で、大陸や半島に見切りをつけ始めていた日本企業は、これ幸いとばかりに、東南アジアへと生産拠点をシフトし出し、一部逃げ遅れた企業が、強引に縛りつけられた程度の被害を受けつつも、大部分は足抜けに成功する。
かくして日本は、思いも掛けずに脱亜を成し遂げ、新たな道を歩み始めるのだった。
~Fin~
879 :870:2012/10/28(日) 22:17:07
「脱亜への道・裏」
西暦23XX年8月15日
「ふう……なんとか上手くいったな」
モニターに映る史実・日本列島を見ながら嶋田は呟いた。
思えばまた、随分と面倒事を抱え込んだものだと自嘲しながら、その結果を見据える。
粛清した同胞を生贄に、転生の秘密に迫った
夢幻会。
当初の目的であった未来からのリクルートこそ失敗したものの副産物として、任意の人物を転生させる術を得た彼らは、帝国に未来の為にそれを行使する事にした。
「とはいえ、流石に転生を繰り返すのも疲れたぞ」
いい加減休みたいと愚痴りつつ、七度目の転生を遂げ、日本帝国首相の座に再び昇った男は溜息をつく。
七生報国――七回生まれ変わり、国に尽くしたのだからもう良いだろうと思っていた彼だったが、その最後の転生で思わぬ貧乏くじを引いたのは、やはり苦労人の性だろうか?
ワープ航法の事件中に生じた空間の穴が、史実世界に通じたのは、もう三十年前の事。
当初は、並行世界の過去とはいえ、あまりにも零落した日本の姿に、国民が激怒し、史実世界への介入を叫んだものだ。
一足先に転生し、当時、首相の座についていた近衛は、筆舌にし難い苦労をしながら、なんとか国民をなだめ、なるべく穏便な方法で決着を付けるように世論を誘導し、それを今、嶋田が引き継ぎ完成させようとしていた。
『福沢計画』
脱亜論を唱えた福沢諭吉になぞらえたこの計画は、三十年の歳月を掛け、慎重に計画され、そして実行に移された。
史実世界の覇者である米国はもとより、当の史実日本にすら悟らせない形で。
日本列島の転移による物理的な脱亜化。
更に、ネットワークに介入することによる日本世論の誘導。
ついでに幾つかのスキャンダルを撒き散らし、親特亜勢力の掣肘等々。
「よくもまあ、上手くいったものだ」
そう言って、自分自身で感心しながら、傍らに立つ腐れ縁の知人を見上げる。
この男には珍しいどこか感傷的な色を湛えた双眸を見ながら、彼は尋ねたかった事を訊く。
「辻さん。
貴方の未練は果たせましたか?」
どっとはらい~
最終更新:2012年11月17日 11:28