935 :ひゅうが:2012/10/29(月) 23:13:18

提督たちの憂鬱ネタSS――「サクラサク?」


――西暦1949(昭和24)年4月 大英帝国 ドーバーキャッスル


「カタパルト上げ!」

油圧装置を動かす音とともに、思いのほかスムーズに20メートルほどの太いレールは持ちあがって行った。
まるで消防のはしご車のように片方の端を地面においたその物体――カタパルトには、小ぶりなジュラルミンの塊が据え付けられていた。

見守る人々の表情は大きく分けて二つに分けられる。
ひとつはその「機体」に何かすがるような瞳を向ける白人の男たち。彼らの瞳には諦めと希望が複雑に入り混じっている。
もうひとつはよくいって唖然としている。こちらは白人の男たちとは色が違いながらもデザインが似た軍服を着た東洋人たちだ。
東洋人たちはひきつった表情で口を半分開いていた。

「スクランブル発進のため秒読み第1段階省略、発射20秒前!」

「整備員は退避壕へ。警報!」

ウウウウウー、と英国の戦い(バトルオブブリテン)以来英国人のトラウマになりつつあるサイレンが鳴らされ、洗面器のような鉄兜をかぶった兵士やツナギ姿の整備士たちがカタパルトの発射台から駆け足で離れていく。
こうした光景は25メートルほどの間をあけてならぶ同様の発射台10基で同様に見られた。

格納庫を兼ねている中世の城砦「ドーバーキャッスル」のシャッターが閉じられ、その周囲のだだっ広い草原のところどころを構成しているコンクリート打ち放しの上にスプリンクラーから水がまかれはじめた。

カタパルトの上にあるのは小さな機体だ。
全長およそ10メートル。まるで魚雷のような円筒形の先端をドームのように絞り込んだ機体は、遠く極東で華々しくデビューした局地戦闘機「旭光」に似ていなくもない。
機体中央から左右に突き出ている主翼は後退角付きでそれなりに高速を考慮しているようである。
だが、この機体の印象を決定づけているのは機体最後尾から突き出ている水平尾翼だ。
その両端からはコックピットの風防(キャノピー)の高さを越えてなるものかと言わんばかりの小さな垂直尾翼がデンと据え付けられていた。
普通は垂直尾翼というものは機体の後尾から安定を考慮して数メートルは上部に突き出るものである。
だがこの機体はわずかな後退角をつけた垂直尾翼の上端をのこぎりで切り取ったかのように配置しており、そのことがある種の潔さと荒っぽさを両立させていた。
悪く言えば野暮ったく、よく言えば簡易な美がある。
なんとも形容に困る代物だった。

「なんで・・・アレがここにあるんだ?」

秒読みと「発射」準備の光景を見守っていた日本海軍の士官はそう呟いた。

「緊急発進手順に従い、発射用ブースターはカウント2で点火とする。誘導系確認!!」

936 :ひゅうが:2012/10/29(月) 23:14:33

英国人たちは日本人からの視線を意図的に無視しつつてきぱきと手順を進めていった。
何しろこの「お披露目」が失敗すれば、大英帝国の防空は「さらに」頼りない印象を同盟国に与えてしまう。
それだけは避けなければならない。

その思いは、ロンドン郊外スタンモアのベントリー修道院地下からこの光景を見守るヒュー・ダウディング元帥らも彼らもまったく同じだろう。

「発射10秒前。8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・」

「なぜ――アレが・・・『桜花』がここにあるんだ!!」

日本海軍の士官は絶叫した。
このとき英国人たちの心に刻まれた『オウカ』。それはまさに、史実と呼ばれる世界において絶望の中から生まれたある機体そのものだった。
いや、より正確にいうのならディープブルーなフリートの世界のそれ、だが。

937 :ひゅうが:2012/10/29(月) 23:15:07

第二次世界大戦後――大英帝国はその本土防空体制に深刻な危惧を抱いていた。
当然だろう。
かつてのバトルオブブリテンにおいてズタズタにされ、ようやく復旧した防空網は急速に高速化が進む欧州の空を守るにはあまりに不足であったのだ。
電子技術に定評のある英国軍らしくRDFの更新こそ進めていたが、迎撃機の問題は深刻であった。
日本海軍のそれをライセンス生産した「烈風」やようやく配備できたターボプロップ戦闘機「烈風改」では、枢軸国が総力を挙げて開発している音速爆撃機に対処することはできない。
さらには烈風改のエンジンを解析して――パクってともいう――開発しているメイドインブリテンのジェット戦闘機「コメット」(ミーティアは日本製97式戦車マーリンの別称としてあまりに有名になりすぎていたため名前は別)の開発は遠心式エンジンゆえに稼働時間や瞬発力において問題が解決できていなかった。
この危機に英国人たちは頭を抱えた。
英国海峡の20マイル向こうにはBC兵器を搭載したドイツ製爆撃機がひしめいているし、それを護衛するメイドイン・カエル喰いどもの戦闘機も物ともに豊富である。
何より先制攻撃という卑怯な戦争遂行において英国人は既に前科があった。同じ手段で復讐されぬとはとうてい思えなかった。
そして何より、はるか極東では日本人たちが超音速迎撃戦闘機を実用化し空の守りにしている。

誰かが言った。「ああ、高射砲のようにジェット機をすぐに空へ上げられれば…」

…血迷った英国人たちは、それを聞いたマッドサイエンティストとともに見事にそのオーダーに答えることにした。

機体は極力簡単な構造で。量産性を保ちつつ生産性を維持するために直線を主とし、応力外板というような贅沢な構造ではなくぶっとい桁の周囲を分厚いジュラルミンで覆う。
エンジンは、ジェットはジェットでも…生産が容易でパルスジェットほど速度に制限がない「ラムジェットエンジン」を採用した。
航続距離?
迎撃機には関係ない。この機体は安く大量に作り、拠点上空で30分も戦えれば十分だ。
そして武装は…大戦後に余剰となっていたボフォースの40ミリ機関砲をダウングレードして搭載するか、日本人の知恵にならって爆撃機を相手にするロケット弾(無誘導だがジャイロだけはつけた)を搭載しよう。
降着装置はいざとなればソリを使えばいい。…いや別にゴムはあるからゴムタイヤでもいいのだが気分は大事(?)だ。
え?ラムジェットは一定の速度がないと始動できない?
火薬ロケットで加速すればいい。カタパルトも使えば滑走路に左右されずに打ち上げられる。
装置は大型高射砲のものを転用できるだろう。


      • なんとも男らしい決断だった。
こうして誕生した機体は、その頑丈さゆえに期間限定の与圧が可能になるといううれしい副産物を伴いつつ完成した。
打ち上げが間に合わない事態やトラック輸送に備えて尾翼の長さは「ランカスター」(連山改のライセンス生産型)の爆弾倉におさまるほどに切り詰め、構造を簡易化しつくした「それ」は名前の命名さえされぬままこうしてお披露目の時を迎える。
不幸にもそれが、ある海軍士官(転生者)の叫んだ名前を定着させることになってしまう。

――報告を聞いた夢幻会員の、特に嶋田あたりのSAN値を激減させるロイヤルブリティッシュ・エアクラフト製迎撃戦闘機「オウカ」はこうして生まれたのであった。




――ロイヤルブリティッシュ・エアクラフト(王立航空工廠)高高度迎撃戦闘機「オウカ」

【性能諸元】

全長:10.62m
全幅:8.82m(後退角9度)
全高:1.50m
重量:5.52トン
最大速度:毎時1080km(リヒート・加速用ロケット使用時)
航続距離:550km
武装:ボフォース40ミリ機関砲1門(装弾数200発)
   ないし空対空ロケット弾16発
乗員:1名
その他:簡易電波探知機(地上レーダー連動)搭載
    地上配備型と爆撃機搭載の空中待機型は共通

938 :ひゅうが:2012/10/29(月) 23:15:53
【あとがき】――というわけでNew!氏のステキな思いつきをもとに考えてみましたw
続かないw

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最終更新:2012年11月17日 11:43