730 :パトラッシュ:2012/10/18(木) 20:17:28
鳳鈴音SIDE
「鈴……? お前、鈴か? 二組の転校生って、お前だったのか」
面影を残しながら記憶よりずっと背が高い一夏に、あたしは息をのんだ。異世界に転移していたと聞いたときは何の冗談かと思ったが、ようやく信じられる気分だ。
「そ、そうよ。中国代表候補生、鳳鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
思わずどもりそうなのをこらえる。第二回モンド・グロッソ大会で一夏が拉致されて行方不明になったと聞き、ショックで泣き暮らした記憶がよみがえった。気を張っていないと、同じようになってしまいそうだ。このあたしが、そんな真似をしてたまるか!
「お前もIS操縦者だったのか。にしても何格好つけてるんだ? まるで似合わないぞ」
「んな、なんてこと言うのよ。あたしはアンタが本当に戻ったのか確かめようと――」
と、そこへいきなり黒髪のポニーテールと金髪の縦ロール、同じく濃い金髪の一本結びが、三方から一夏をホールドしてきた。何よこいつら、一夏と三年ぶりに再会してるのに。
「い、一夏、こいつは誰だ? 知り合いか? えらく親しそうだが」
「この方とはどういう関係ですの、一夏さん?」
「ねえ、なぜ一夏って無節操に女の子を刺戟するの? 僕、びっくりしたな(にこっ)」
「……あー、積もる話は昼休みにでもしよう。俺も痛い目には遭いたくないから」
「ほう、よくわかっているな。まるでわかっとらん馬鹿もいるようだが」
地獄の悪魔のような声が背後から響く。ポニーテールと縦ロールと一本結びが真っ青になって硬直する間に、一夏の姿は消えていた。思わず振り返ろうとしたが――。
バシン! 脳天に強烈な打撃を喰らって、あたしは衝撃で膝をついた。ポニーテールたちもだ。殴る音は一回だったのに四人同時にやれる達人を、あたしはひとりしか知らない。くらくらしながら視線を上げると、予想通りの顔があった。
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ。そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません……またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」
気分は狼の前に現れたウサギだ。あたしも命は惜しい。ここは退散するしかなかった。
「だいたい一夏、なぜ自分だけ逃げたのよ。あたしを千冬さんの生け贄にして!」
「状況判断は素早く、危険回避は即座に。軍人として当然の行動だ。違うか?」
食堂でラーメンを食べながら詰問するあたしに、鯖の塩焼きをつつきながら平然と一夏は応じる。そういえばコイツ、向こうの世界じゃ歴戦の軍人だったとか。制服の上からも、厚い胸板と伸びた背筋がわかる。ヤバい、ますます惹かれそうな自分を意識してしまう。
そんなあたしたちを朝の三人――篠ノ之箒とセシリア・オルコット、シャルロット・デュノアが不満そうに睨むけど無視よ無視。コイツら、あたしより胸があるだけで敵認定なんだから。特に箒って、あたしが転校してくる直前まで一夏と同じクラスだったとか。一夏は「ファースト幼馴染とセカンド幼馴染だな」と説明するけど、あの胸には死を、よ!
「そういえばアンタ、クラス代表だって? あ、あのさぁ、ISの操縦見てあげようか」
「――いや、今は遠慮しておく。クラス対抗戦前に一緒に訓練なんかしたら、相手の実力がわかって本番が面白くないだろう。ここは戦場ではなく学校だからな」
確かにそうだけど、敵認定の三人が露骨にホッとした表情をするのが気に入らないわね。と、それどころじゃないわ。一番大切な用件を、まだしてなかったっけ。
「ところでさ、一夏。約束覚えてる?」
※「IS」を読み返していると、この作者はハイヒールに踏みつけられて悦ぶ趣味の持ち主ではと思えます。シャルは鈴より胸が(少しだけ)ある設定です。
最終更新:2012年11月18日 09:26