159 :第三帝国:2012/09/03(月) 21:22:37

【銀鬱×星界】本編  黄金獅子の憂鬱~2

「先にフェザーンに駐留する艦隊は同盟、国家連合、わが帝国でそれぞれ1個ずつ。
 そこから捻出された陸戦隊が地上を監視、さらにそれぞれの艦隊がローテーションを組み周辺地域の監視にあたっております」

ロイエンタールが配布した資料を片手に説明する。
かつてフェザーンはその地形的利益に地球教という宗教とフェザーンによる全銀河の経済支配を目指していたが、
約50年程前に姿形を変えて復活した銀河系内郭国家連合の経済力を前に、全銀河の支配を当面は断念し先に銀河帝国を掌握することに専念した。

具体的にはフェザーン・スクールと呼ばれる人材を育成し、徐々に影響力を広げると同時に。
帝国の未来を真剣に考えている理想主義者たちへ資金援助をして、最終的に一部でフェザーンの息が掛った革命派が銀河帝国を転覆させた。

しかし、半ば傀儡であると考えていた理想主義者たちはフェザーンの予想を上回る程能力が低く。
いや、『たまたま』銀河帝国以来の赤字国債が火を噴き、経済危機に陥っても内ゲバにうつつを抜かしており。

また、支援された側はあくまでフェザーンを利用しているとしか考えていなかったため。
フェザーンの肝入りで地球教の国教化は拒否し(代わりに各艦隊に軍を監視する政治委員長がおり、それが地球教の司祭である場合もあったが)
挙句、借金をチャラにすべくフェザーンへの武力行使を行い、フェザーンの地位は滅亡した。

そして流出した資料で、これまで女性絡みで非業の死を遂げたとされる英雄ブルース・アッシュビーの暗殺。
一度自由惑星同盟に亡命した経験がある亡命帝の暗殺、革命政権へのテコ入れ、地球教の支援団体としてのフェザーン・・・。

などと数々の悪行が発覚し現在は3カ国の治安維持と合同監視状態に置かれている。
しかし、今後どのようにするかはそれぞれ見解が分かれているため先の話は未だ決まっていない。

「フェザーンにおける同盟の動きに変化は見られません。
 しかし、現地で得た情報によりますと近々国家連合の軍がまるで撤退するかのように動いております」

「そういえば、治安維持と監視のためにイゼルローン周辺、
 ハニア連邦に展開している富永大将が率いる艦隊も撤退するような動きを見せていたな」

黄金獅子が思いだすように言った。
元々約50年前から同盟が有利に戦争が進んだせいで、イゼルローン周辺は同盟の影響が強く。
革命政権が帝国全土で焦土作戦を実施した時点で銀河帝国を完全に見捨てて、ハニア連邦と独立を宣言するに至った。

同盟としては自分達たちに友好的な念願の緩衝地帯ができたことを祝福したが、
新銀河帝国としては、黒猪を筆頭に帝国将官らは軍事的不利さらにはこれ以上領土縮小について強固に反対した。

しかし、ラインハルトにいわせれば「金がない・・・」であり。
義眼から言わせると「そしてその後ろにいる同盟、国家連合と戦い自称百戦錬磨の貴官は狗死を望むか?」と断言し、新銀河帝国はハニア連邦を新国家として承認した。

旧銀河帝国領は史実近世ドイツの『30年戦争の荒廃の果てに主権国家が乱立、無秩序状態』した状況で、
新銀河帝国は立ち位置的に軍国プロイセンに近く、将来の子孫は知らないが黄金獅子にフリッツ親父のような野望は懐いておらず。

さらに、フランス王国的立ち位置の自由惑星同盟に、
大英帝国的立ち位置の国家連合が統一を許さないことから、最低数世紀は分裂状態のままにされるだろう。

なお、ハニア連邦に厨ニ帝王こと富永が率いる艦隊が駐留している理由として、
革命政権が末期に焦土作戦を実行したせいで秩序が完全に崩壊、惑星ごと飢餓地獄という光景が帝国全土で繰り広げられたため。
未だ銀河帝国領内ではラインハルト以外の元帝国軍宇宙海賊が蔓延る危険地帯であり、監視と平和維持活動をする必要に迫られたからだ。

辻曰く「早く平和になって我々の鴨・・・ゴホンゴホン、失礼。お客様になっていただかねば困りますからね」とのこと。

160 :第三帝国:2012/09/03(月) 21:23:20

「ふむ、ロイエンタール。
 卿は国家連合の艦隊が撤退する動きについてどう思う?」

「軍縮か艦隊交代のどちらかではないかと考えております」

「常識的だな、だが今確信した。
 どうも状況はそうでないらしい、オーベルシュタイン!」

「御意」

皇帝の傍に控えていたパウル・フォン・オーベルシュタインが鉄仮面の表情を保ったまま立ちあがる。
ドライアイスの剣が登場したことで、ロイエンタールは嫌悪感を全く隠さずおり、志を等しくしている帝国軍将官の幾人かも顔を顰める。

「卿の考えは常識的である。
 しかし先日。自由惑星同盟は銀河系内郭国家連合への侵攻を決定したことから、恐らく敵中で孤立する前に兵を引き上げるつもりであろう」

軍務尚書の発言内容に周囲は静まりやがて口が開かれた。

「馬鹿か?」

「随分と果敢だな」

「梅毒が頭に回ったのか?」

黒猪、種なし、原始人の順で容赦ない感想が述べられる。
内郭100万隻単位による攻勢を目の当たりにし、勝てない。
と黄金獅子を筆頭に心をへし折られたのに対し、自由惑星同盟の蛮勇に逆の意味で高い評価を下した。
(なお、蛇足ながら夢幻会がここまでの大兵力を展開した理由として、早期解決もあるが『金髪の心をへし折る』ことも含まれておりそれは見事に成功した)

「自由惑星同盟の兵力は未だ動員を解除しておらず計20個艦隊、
 その大半は各地に分散しているが、同盟領内での艦隊の移動が頻繁に起こっている。
 彼らの民主政治政治哲学に基づけば一刻も早く民衆のために動員を解除すべきだが、その傾向が見られず明らかに彼らは新たな先端を開くことを意図していると言わざるを得ない」

「たしか・・・同盟の経済は軍需産業が強い上に今の政権は彼らの支援を受けていたような」

「ようは前王朝と同じだ。既得利権を失いたくがない故に、目先の金を選び未来に負債を押し付けるのと」

宰相のマリーンドルフ伯が思いだすように呟くと、ラインハルトが口を弧状の形に描き皮肉げに言う。

「結局のところ、皇帝専制あるいは民主政治でもあくまで統治上の手段にすぎず、結果さえ出せればいい。
 だが、それを利用しているのは唯の人ゆえにいつかは怠慢と傲慢が蔓延し硬直して、誰かがまた新しい秩序を打ち立てる」

昔、そんな奴らを赦さない一心で玉座に手を出そうとした。
だが、祖父と父親の真実。そして、銀河系内郭国家連合の彼らが見せたものは、
自分の小ささと自分が懐いていたもの嫌っているはずの大貴族と同じであったことを思い知ったが。

とは、口に出さず。
余のようにな、と締めくくった。

「しかし、陛下。彼らが戦端を開くとしたら色々解せぬ点がございます。
 国家連合の元に進撃するにはあのイゼルローン回廊以上に難攻不落のサジタリウス回廊を突破する必要がございます。
 陛下が昔イゼルローン要塞で行ったような奇策は通じるととても思えませんし、通常戦闘でも同盟が負ける要素しか見当たりません」

161 :第三帝国:2012/09/03(月) 21:24:44

ラインハルトから近い位置に座っていたメックリンガーが黄金獅子に問いかける。

「確かにな、卿の言わんとすることはもっともだ。
 行動の自由が利かない回廊と要塞の組み合わせによる威力は、
 イゼルローン回廊が我らの血によって舗装されている事実から奴らが一番分っているはずだ」

ここの歴史では【同盟が】夢幻会の支援を元にイゼルローン回廊に要塞を築いたために、
回廊はヤンのごとく半ば詐術で要塞を奪ったラインハルト以外は常に骸の山を築いていった。
そのせいか帝国軍人にとってイゼルローン要塞の名はトラウマを刺激される代物で、現に幾人かの将官が顔を引きつらせている。

「そうか、同盟の奴らめ。抜け道でも見つけたのだな!!」

会議室がやや暗い雰囲気になった所で、
空気が読めない猪、もといビッテンフェルトが閃いた!
とばかりに手を叩き、大声で叫んだ。

「馬鹿か、新たな回廊などそうやすやすと見つかってたまるものか
 どうやら貴様に足りないのは、自重という言葉だけでなく脳も足りなかったようだな」

隅で黙って聞いていたアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトが嘲笑するように言い放つ。
色々と濃い面子の中で数少ない常識人ことミュラーと存在だけでなく髪も薄くなりつつあるワーレンが制止するよりも早く、怒声が轟いた。

もしここにやはり常識人である赤毛がいれば食い詰めの皮肉を言わせることもなく、黒猪を制止することもできただろうが。
生憎彼はタンクベットと執務室を往復する日々でついに倒れ、思い人であるアンネローゼの看護の元で療養中であった。
その光景に祖父と父親はニヤニヤと見守り、お姉ちゃん大好き!な金髪は微妙に赤毛に敵意を抱いたがそれはまた別の話である。

そして、今さらながら現在この会議に参加している面々は。

皇帝:ラインハルト
国務尚書:マリーンドルフ伯
軍務尚書:ミッターマイヤー上級大将(注:赤毛の代わりに臨時)
統帥本部総長:オーベルシュタイン上級大将
宇宙艦隊司令長官:メックリンガー上級大将(注:種なしの移動を受けて臨時)

提督:ロイエンタール上級大将(フェザーン方面での外交担当中)
提督:ファーレンハイト大将
提督:ビッテンフェルト大将
提督:ミュラー大将
提督:ワーレン大将(存在と髪が薄くなりつつある)
装甲擲弾兵総監:オフレッサー上級大将(最近暇でしょうがない)

であり、他の人物たちは軍務に勤めているために参加していない。

「いい加減にせんか!!!このヒヨっ子ども!!!!」

罵りあいから発展し黒猪と食い詰めで掴みあい寸前に、原始人の口から先の怒声よりも遥かに大きな罵声が轟く。

「そんなに喧嘩をしたのならばこの儂が相手になってやろう」

162 :第三帝国:2012/09/03(月) 21:25:19

ギロリ、と彼らかすれば子供に等しい若者2人をオフレッサーは睨みつける。
貧しい貴族の叩き上げで、どちらかと言えば泥くさい装甲擲弾兵一筋で、
何かと貴族の階級が物を言ったゴールデンバウム王朝時代の時点で大将まで成り上がり。

革命政権時代では成り上がりゆえに熱心な皇帝派で、
それゆえうとまれ、幾度も死地へと送られたが、彼にとって顔なじみであり、皇帝血縁疑惑で死地に送られた金髪の小僧と手を組み。
(※アンネローゼとオフレッサーの奥方で交流がり、その繋がりでまだ新米将校だった金髪の小僧と友好的な関係があった)

艦隊内部に巣くっていた政治委員長殿とその取り巻きの排除、さらには帝国軍同士の戦いとなったクーデターでは。
『旗艦に乗り込んで纏めてミンチミート作戦』を行い短期間でクーデターを成功させる要因を作り、国璽と前皇帝を奪還するオーディン地上戦を指揮するなど多大な功績を上げた彼の。

半ば個人の力量のみで戦局に影響を与えた生きる伝説じみた人物の一喝に、黒猪と食い詰めは委縮し揃って謝罪を口にした。

「だが、ビッテンフェルトの言わんとすることはあながち間違いでないかもしれん」

オフレッサーの一言に場がざわつく。

「・・・つまり彼らが築いた要塞群はマジノ線へと堕落するわけか」

「アルデンヌの森を突破し、奇襲したように電撃戦でカタをつけるつもりか。
 しかも、方や総動員、もう片方は動員を解除している状態となると本当にうまくいくかもしれない」

「で、ですが。回廊とはつまり両端から確認できるもの。
 そう易々と国家連合側から察知されないなどと御都合主義がまかり通るとは思えません」

ロイエンタール、ミッターマイヤー、メックリンガーの順で議論が続く。
戦争において兵器の質、能力云々の要素もあるが基本数の問題であり、動員数によって左右される。
なぜなら勝者の損害0という要素は珍しく、お互い必ず一定の割合で損害を受けるため最終的に動員数が多い方が勝つ。

だが、国家連合は100個艦隊も動員したが今はなくたった14個艦隊でしかも散開している。
これは要塞群による防御という要因があるからこそ、ここまでの軍縮を実施したのだろうが、もしそれを同盟が素通りするとしよう。

それはサジタリウス回廊での防御を前提としたドクトリンがひっくり返される悪夢だ。
間違いなく、動員と移動が間に合わず最初の段階で負けることは確実だ。
そして、国家連合を片付けた後国威がこれ以上ない程上がった後に奴らはきっと―――。

「卿ら諸君。全てはまだ仮説にすぎない」

黄金獅子が立ちあがり、周囲を見渡す。

「国家連合とは遠くの良き友人ととしてやっていけると余は考えるが。
 増長している隣人である同盟が、これ以上増長しないように手を打つ必要が認められる」

一息間を置く。

「同盟の奴らの侵攻兵力を減らすために、警戒される程度にイゼルローン、
 フェザーンの両回廊に治安維持名目で派遣している艦隊を増やすそうと考える。動員も考えたいが他に意見はないか?」


――――異議なし


かくして銀河の歴史がまた1ページ開かれた。




その後

「では、陛下。動員に関する書類です」

「待て、ミッターマイヤー。たかが動員だけでこれほどの書類を必要とするのか?」

「先ほどオーベルシュタインが過労で倒れましたのでその分の書類が・・・」

「なん・・・だと・・・」

「それと民生部門の書類が別にあります」

「・・・・・・・・そうか」

書類仕事は終わらず、憂鬱な日々が始まる~銀河書類伝説(完)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年11月18日 10:48