223 :そる:2012/11/25(日) 06:33:05
(江藤新平……場合によっては斬らねばならぬと思っていたが……)
江藤宅の一室。隣の部屋では西郷隆盛と江藤新平が話している。
(やはり、目障りだ。怪しげな集団との付き合いも噂されている。殺さねばならない)
今、こうして物騒な事を考えているのは桐野秋利。西郷のボディーガードであり、陸軍少将でもある。
隣の部屋から聞こえる内容は、江藤が西郷に征韓論を廟議にかけることには賛成できない、との内容である。
この会話だけで、桐野にとっては江藤は殺すに値した。
西郷の意をくまず、征韓論を押しとどめようとする行為自体、許せるものではなかったのだ。
思わず帯刀している剣の柄に手がかかる。
チャリッ、という音が聞こえたのはその時である。
(くっ)
その音だけで、桐野はゆっくりと柄から手を放した。
桐野の前には、カミソリのような雰囲気を持つ一人の男がいた。
刀の柄を鳴らし、音を出したのはこの男である。
元新撰組副長、土方歳三。
バラガキの歳と呼ばれた、鬼の副長である。
彼がここにいる理由は一つ、江藤新平の警護である。
史実と違い、新撰組は生き残っている。近藤勇も、土方歳三も。
病に倒れた沖田総司は救えなかったが。
彼らは今、江藤が大久保のために作っている警察組織に所属している。
(土方……なんなら貴様ごと!)
桐野は殺気を目の前の男に放ちながら、そう考えていた。
が、不意に土方から静かな殺気が飛んできた。
(おとなしくしていろ。殺されたいか?)
言外にそう言っている殺気である。
桐野もこの時代で最強と呼ばれる剣客だが、目の前の男はかつて京の町を震え上がらせた剣豪。
この場で斬り合いをして、勝てるかどうか、桐野にも測り兼ねた。
(ちっ、おいが斬られれば、この男、うどさぁをも斬りかねん……それに……)
桐野は外を伺う。ここからは見えないが、今日、この江藤宅には土方以外の元新撰組がいる。
仮に土方と江藤を斬ることに成功しても、他の者に西郷が斬られかねない。
桐野は必死に激情を抑え続けた。
(うどさぁを危険にはさらせん……殺すにしても他の機会にするべきか)
実際のところ、土方は江藤から「西郷には手を出さないように」と言われていたので、桐野の考えは杞憂だったのだが。
ただ、土方は恩ある人から頼まれてここに来ている。そのお方からは「江藤は殺させてはならん」と聞いている。
(西郷とその取り巻き、征韓論者と反征韓論者の争いはここまでひどいのか)
土方は目の前の桐野を見ながら、今後は江藤参議の周辺を警備する人員がいるな、と思いを巡らせていた。
そのころ、隣の部屋の江藤新平は。
(なんか隣からすっごい険悪な空気感じるんですけど……)
西郷から感じるプレッシャーと隣室から漏れる殺気で胃に穴が空きそうになっていた。
続く……と思う。
最終更新:2012年12月20日 22:56