669 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/11/25(日) 16:34:40

 ――――郷に入りては郷に従え
            ――――古い諺


         Utsu Wars Episord Ⅴ 前編
                 ~異形の翼~


 アウター・リム・テリトリーのどこかの宙域、反乱同盟軍旗艦『ホーム・ワン』。

 そのハンガーに着地したラムダ級T-4aシャトル――――
銀河帝国軍で使われている軽宇宙船――――から、大型コンテナが厳重な護衛を伴って運び出されてきた。
その隣ではホーム・ワンに接舷したガロフリー中型輸送船の中に、
機械油で茶色くなった作業用のツナギを着た人々が工具を山と携えて慌しく乗り込んでいる。

 反乱軍実働部隊の司令官ジャン・ドドンナ将軍は、その様子を確認すると、
2人の士官――1人は黒人、もう1人はモン・カラマリ――を従えて艦内の作戦会議室へ急いだ。


「データの解析は進んでいるのか?」

 ドドンナは黒人士官に尋ねる。

「輸送中に幾つかのデータへのアクセスに成功しました。
 ブロック毎にパスワードが異なっているため全てのロック解除には時間がかかりそうですが、
 現時点では少なくとも4機種分の青写真を高解像度で復元できています。」

「それだけできれば十分だ。ワレックス技師は何と?」

「『見れば分かる』と仰っていました」

「そうか……楽しみだな」

 一行は作戦会議室前に付くと、声紋認証を経て室内に入った。

670 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/11/25(日) 16:35:13

 会議室には既に、同盟軍に所属する技術者、さらに宇宙戦闘機のパイロットの多くが集まっていた。

「では、これより帝国軍極秘研究基地から得られたデータ、その解析結果について、
 ワレックス・ブリセックス技師から報告がある。疑問、質問があれば遠慮なく手を挙げて発言するように」

 壇上に上がったドドンナ将軍が手短に挨拶を済ませると、
その反対側に待機していたワレックス・ブリセックス、かつてヴィクトリー級スター・デストロイヤーの主任設計技師を務め、
今は反乱同盟軍に参画し、往年の技術屋としての能力をいかんなく発揮している男がスクリーン上に1枚の青写真を投影した。


 会議室のメンバーは皆、映し出された青写真を目の前にして思わずどよめく。

「な……なんだ、これは?」

「本当に帝国軍の兵器なのか?」

「ナブー人に設計させたんじゃないのか、これ」

 ワレックスの発表に集まった人々は皆、宇宙船や宇宙戦闘機、エアスピーダーなど、
乗り物に関しては一家言ある者ばかりだったが、青写真に描かれていたのは、
彼らが今まで見たこともないような、異形としか表現のしようがない乗り物であった。

 やっぱりな、という表情を浮かべ、ワレックスは続ける。

「これは図面の左下にある通り、設計者――おそらく帝国の――によりSu-37というコードが割り振られている。
 これまでの帝国軍の命名規則からは大きくかけ離れたコードだが、おそらくは識別のため仮に付けられたものだろう。
 全長22.18メートル、全幅14.7メートル、全高6.43メートル。さっき誰かが名前を言っていたが、
 ナブーのN-1スターファイターと比べると全長は約2倍、我々のX-ウィングと比べても……でかい」

「これは対艦攻撃用の、重戦闘機でしょうか?」

 若い技師の1人が手を挙げて質問した。
待ってましたとばかり、ブリセックス技師は少し悪戯っぽい顔をしながら答えた。

「……にわかには信じ難い事だが、帝国側ではこれをエアスピーダーの一種として開発していたらしい」

671 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/11/25(日) 16:36:01

「えっ………何だって!?」

「こんなデカブツがスピーダー!?勿体無い!」

「どう考えてもありえん!」

 会議室がにわかに騒然となる。歴戦の勇士であるドドンナ将軍さえ目が点になっていた。

「あー、皆静かに。しかし、この空力的に洗練された翼、さらに機体後部の補助翼の構造、
 最も重要な事には……搭載しているエンジンから、この機体は大気圏内、それもタイプⅠ(人間が生活可能)の大気中という、
 限定された環境において運用する事を前提とした、局地戦用のエアスピーダーであるとしか考えられない」

 ワレックスはコンソールを操作し、問題のエンジンの図面を表示した。

「Su-37のエンジン――我々は仮に『ジェットエンジン』と呼んでいるが――は、
 外部から取り込んだ空気に熱エネルギーを与えることで噴流(ジェット)を生み、
 その反作用を推進力にしているのではないかと考えられる。装置そのものはかなり大型で重く、
 取り込める空気はタイプⅠにほぼ限定されており、さらに頻繁な燃料供給が必要なようだ」

「何だそりゃ、良いとこ無しのダメエンジンじゃないか……なんでリパルサーリフトを使わないんだ?」

 生粋の戦闘機乗りが肩をすくめて言う。
リパルサーリフトを使わないエアスピーダーなど、不便以外の何者でもない。
それがこの銀河の一般常識である。

「だがそう馬鹿にもしていられんぞ?そういう不便な点が山ほどある代わりに、
 ジェットエンジンのパワーというのはかなりのものだ。コイツは、あくまで計算上だが、
 適切な大気の中では、同じ環境下にいるX-ウィングの2倍以上の速力を発揮できる。
 T-16スカイホッパーや、T-47のような他のエアスピーダーさえ軽々と追い抜けるだろう。」

 ワレックスの言葉に、散々ジェットエンジンの悪口を叩いていたパイロットや技術者は皆黙り込んだ。

「さらに言えば、オルデラン、ダク(モン・カラマリの母星)、タトゥイーン、ナブー
 レイサ(帝国の食料供給基地)、キャッシーク(ウーキーの母星)、そしてコルサント……
 タイプⅠの大気をもつ惑星というのは意外に多く、その大部分が戦略上重要な場所だ。」

672 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/11/25(日) 16:36:35

「つまり、帝国がこれを完成させる前に我々が奪取できたというのは、僥倖という訳だな」

 ドドンナが言うと、ワレックスは無言でそれに頷く。

「で――――俺達はこれに乗れるのか?
 ……それともデータ・バンクとモックアップを分捕っただけじゃ製造は不可能か?」

 同盟軍の戦闘機パイロット達が身を乗り出して訊ね、
そして間髪入れず、その脇にいた技術者が子供のように瞳を輝かせながら言った。


「――――不可能という言葉は、技術屋的じゃあないな」


               ~to be continued…~

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最終更新:2013年01月04日 20:14