723 :名無し三流:2012/11/27(火) 16:50:54


 ――――所変われば品変わる
            ――――古い諺


         Utsu Wars Episord Ⅴ 後編
               ~異形の処刑者~


「データ・バンクとモックアップを分捕っただけじゃ製造は不可能か?」


 反乱同盟軍が銀河帝国軍の秘密研究所から奪ったデータは、一時は彼らを絶望に陥れかけた。

 しかし、同盟軍の中でも最も経験を積んでいるベテラン・パイロットの一人、
ガーヴェン・ドレイスの発言により、獲得したデータの分析が目的であった会議はいつのまにか、
「帝国軍が作ろうとしている戦闘機を、我々で作れるだろうか」という議論になってしまった。


「不可能という言葉は、技術屋的じゃあないな」


 誰かが自信ありげに言ったこの言葉により、論議はさらに熱を帯びる。


「そんなこと言ったってあれは大気圏内用だろう?
 軍の活動範囲を考えるなら宇宙戦闘機である事は絶対の条件だ」

「それなら宇宙戦闘機にしてしまえばいいじゃないか。
 何も帝国が作った設計図をそのままコピペする必要は無いぞ」

「馬鹿言うな、こいつは空力的に見て大気圏内用に最適化されてる。
 それを宇宙用に再設計するのはかなり骨の折れる仕事だぞ」

「形は変えなくてもエンジンをイオンエンジンに載せ替えたり、中身を変えるだけでも大丈夫じゃないか?
 幸い、X-ウィングどころかY-ウィングと比べても機内容積には大分余裕がありそうだが」

724 :名無し三流:2012/11/27(火) 16:51:44

 若者達の熱い論争を聞きながら、反乱同盟軍の老指揮官ジャン・ドドンナ将軍は満足げな顔をしていた。


 この活気こそが同盟軍にあって帝国軍に無いもの、そして帝国軍に勝利するための鍵なのだ。
上官の命令に唯々諾々と従う事を旨とする(実際、これは帝国アカデミーで最初に叩き込まれる掟の1つである)帝国軍は、
こういった下士官たちの柔軟な発想をどうしても押し殺してしまいがちな面がある。
そのため、帝国軍は多分に形式的な、システマチックだがそれ故に予想し易い戦い方しかできないとドドンナは思っていた。
事実、ドドンナがこれまで戦ってきた帝国軍というのは、いつもどこかにそのような気質を忍ばせていた。


(しかし、ターキンは違う)


 バレンズ星系での戦闘について報告を受けていたドドンナは、
ウィルハフ・ターキン指揮下の帝国軍には、どこかに自分達(反乱同盟軍)と似たような所があると感じていた。
柔軟な発想力、物量に頼らない戦術・戦略の思想、兵士と兵器の質に対する半ば病気じみた執念。

 今回の秘密研究所襲撃でも、初動の防空システム制圧とデータ・バンク強奪までは上手く行ったが、
精強な護衛部隊の激しい抵抗によって1人の捕虜も――特に技術者を――得る事ができなかったのだ。
帝国軍情報部から亡命してきたロザミア・バダムと名乗る女性士官(正体は皇帝のスパイ、マラ・ジェイドなのだが)から、
基地の軌道写真(衛星軌道上から撮影した写真)などの詳細なデータを受け取っていたにも関わらず、である。

 さらに、入手できた兵器データを一瞥して、ドドンナは殆ど野性的な勘により、
現在のターキンは、他のどの帝国の人間とも一線を画しているという結論を出すに至ったのだ。


「ブリセックスさん、どう思いますか?」

 若輩のメカニック達が、尊敬の眼差しをもって彼らの偉大なる先輩ワレックス・ブリセックスに尋ねる。

 彼らの議論を静かな微笑みと共に聞いていたワレックスは、少しの間逡巡した。


 帝国軍は兵器を作るにあたって、銀河一上質な素材、エンジン、その他精密部品などを簡単に、
しかも大量に調達する事が出来る。しかし同盟軍は違う。彼らが使っているものはその殆どが貰い物、
中古品、ジャンク品で、その中には違法改造が施された危険物さえ混じっている。

 潤沢な物資がある事を前提に設計された贅沢な機体を、
無い無い尽くしの我々が改変、複製した所で、果たしてどれだけ戦力になるだろうか?

725 :名無し三流:2012/11/27(火) 16:52:20

 迷う彼の背中を押したのは、ドドンナ将軍だった。


「どこぞの贅沢な軍隊とは違って、数を作るのではない。
 ただでさえTIEシリーズの新型が我が物顔をしている中、
 こちらのX-ウィングの旗色は悪くなってきているんだ」

 将軍は続けた。

「やるのとやらないのとじゃ、私はとりあえずやってみる方がずっとマシだと思うが?」


 おお、いいぞ、その通りだ。会議室の中は若者達の声に満ちる。


 丁度その時、会議室の扉が開いた。

「将軍!ワレックス技師!やりました、無頼のハッカーが大手柄です!
 データ・バンクの中でも一番データ量が大きいブロックへアクセス出来ました!
 中身は戦闘機の設計図やら3DCGやらで一杯ですよ!!」


 歓喜の表情を浮べて叫ぶ士官を見たワレックス・ブリセックスが、一層笑みを浮かべる。


「では、私にもメニューを見せてくれたまえ」


 その顔は、さながら超一流の食材を前にした超一流のシェフのようだった。

726 :名無し三流:2012/11/27(火) 16:53:02

 反乱同盟軍が、ターキンの秘密基地から得たデータをモノにしようとしていたその頃……


 インナー・リムにある、銀河皇帝パルパティーンの私的な兵器工場で、異形の破壊兵器が目覚めようとしていた。


 3本の脚、3つの胴体、3つの頭、6本の腕……

 6つの瞳には真紅の光が宿り、そして6本の腕が握り締める3本の棒からはより赤い光が迸っている。


「ご覧下さい陛下。これが『スーパー・エグゼキューショナー』です」


 怪物としか形容のしようがないその兵器の目の前に8機のAT-ATが現れ、
重レーザー砲や速射ブラスターによる容赦の無い砲撃を加える。
その下では大型ミサイルを搭載した多数のAT-AATがそれを怪物目掛けて撃ち込んでいた。

 しかしそのどの攻撃も、怪物は手にした3本の紅い光刃によって弾き返し、
あるいは無力化し、機甲軍団に向けてゆっくりと、しかし確実に前進していく。

「相手側がAI操作である事を考慮しても、これらの兵器郡は完全に圧倒する事ができます」

 黒いローブを着た皇帝の横に座り、複雑怪奇なコンソールを操る男の言葉通り、
怪物はAT-ATの横隊の正面に到達すると、周囲を固めるAT-AATを蟻のように蹴散らしながら、
一本目の光刃で目の前のAT-ATを真っ二つに切り裂き、二本目で右側のAT-ATの"首"を切り落とし、
三本目で左側のAT-ATの4本の脚を薙ぎ払った。


 装甲部隊が黒煙をあげながら炎上する中、煙の中から再びその姿を現した怪物を見て、
銀河皇帝パルパティーンはニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、コンソールを操作する男を褒め称えた。

「素晴らしい、素晴らしいぞデミトリアス・ザーリン……」

 そして、この男が持つ超兵器へのただならぬ情熱、これを上手く刺激してやれば、
デス・スターを過去のものとし、ターキン一派を駆逐するための策謀がよりはかどるだろうと考えていた。


 男が、皇帝の"恐怖を具現化する兵器"を求める心を上手にくすぐり、
ターキン一派の最も警戒するところである第二デス・スター建造計画の始動を遅らせようとしている事を知らずに……


               ~to be continued…~

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最終更新:2013年01月04日 20:18