418 :休日:2012/12/11(火) 15:52:12
SS投下
提督たちの憂鬱とギアスクロス
嶋田さん独身で嶋田さんロマンス。
平和その物。
性格改変注意。
419 :楽隠居?と円卓の少女:2012/12/11(火) 15:53:32
嶋田は人生を終えるとまた嶋田繁太郎となっていた。
同じく友人の山本や辻を筆頭に、かつての世界で日本を率いてきた者達も共に。
彼自身は知らなかったが
夢幻会の仲間達によると、此処はギアス世界ということらしかった。
北米にあるブリタニアという国名から間違いないとのことで、そのブリタニアは将来日本を占領し植民地にするというから大変だ。
彼らはその時に備えて最先端の科学技術の研究開発、ギアス日本以上の国力を持つための政策など多岐にわたり手を加えていった。
結果、勝てはしないが負けはしないくらい、例えブリタニアであっても迂闊に手は出せないというくらいの国力と戦争遂行能力を持つに至る。
しかし、この世界やブリタニアについて調べていく上で、戦争になる可能性がかなり低いということもわかったので原作を知る者達からすればホッとする反面拍子抜けになったのも確かだ。
何せブリタニアの基本方針が多国間協調路線なのだから。
更には将来侵略戦争を起こすはずのシャルル・ジ・ブリタニアが家族思いの気の良い人物であることも判明。
兄のV.V.共々嘘のない世界など欠片ほども望んでいないらしい。
「綺麗なシャルル・・・ですか」
苦笑いする夢幻会の面々は、この調査結果にブリタニアとの友好を深めていく方針をとり、世界が戦火に包まれるなど全く無いまま平穏に時は過ぎていった。
*
前世での激動の時代に比べてぬるま湯のような人生を送っていた嶋田は後進の指導を終え、漸くのことで政界を引退。日々平穏に過ごしていた。
そんなある日のこと。彼は行き付けの飲み屋で一人の酔っぱらいの話を聞いていた。
「なぜだっ! ぬわァぜなのだァァぁぁっ!!」
「ああもう、他のお客さんの迷惑になりますからもう少し静かにしてくださいっ、」
一息に大ジョッキを煽り、ビールを一気飲みした身体のごつい初老の男は大声で叫ぶ。これでもう三回目だ。
周囲の客が一斉に振り向くが「またあの人か」と、何事もなかったようにそれぞれの談笑に戻っていく。
世界的に有名な彼の男もこの店の常連達にとってはさほど気にならなくなっていた。
この男、それくらいこの店を訪れているのだ。それに一応申し訳程度に変装もしていた。
静かにしろと注意する嶋田も有名人ではあったが政界を引退して暫く経っているし、男の強烈な存在の前には霞んでしまっている。
「こ、これが、これが叫ばずに居られる物かっっ! あやつは遙々日本にまで会いに来た儂に向かって鬱陶しいと言いおったのだぞっっ!!」
「それはまあ・・・堪えるとは思いますけどね・・・」
「あやつは、ルルーシュはそんな子ではなかった・・・昔は“大好きなお父さん”という作文を書くような、父思いの優しい子だったのだ・・・それがっ、それがなぜこうなったのだァァぁぁ・・・・・・」
日本ではまず見ない豪奢な白髪を幾つものロール状に巻いた髪型の男の名はシャルル・ジ・ブリタニア。
何を隠そう、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝その人である。
とても家族思いな彼は数居る子ども達の中でも、日本に留学中の第11皇子ルルーシュと、その妹ナナリー皇女を殊の外溺愛している。
それは子煩悩を通り越して鬱陶しいほどに。
ルルーシュが日本行きを決めたのもそれが原因と言っていい。とにかくウザイ父親から距離を置きたかったのだ。
当然心配してお忍びで様子を見に来たりするのだが、そのたびに邪険にされてはショックを受けて、
友人である嶋田と、日本に赴任中の一人の人物を連れてやけ酒を飲むというお決まりのパターンになっていた。
420 :楽隠居?と円卓の少女:2012/12/11(火) 15:54:35
(ああ、もうこんな時間か・・・それじゃそろそろ来るな・・・)
息子に冷たくされて悲しむシャルルを慰めていた嶋田がそう思って時計を見ていると、それを待っていたかのように簡素な作りの店の扉がガラッと開いた。
噂をすればというか、毎度のことなので大体この時間と分かってしまう辺り、この個性の強い皇帝陛下との付き合いも長いのだなと思う。
「シャルル、迎えにきたよ」
そう言って店に入ってきたのは、足首まで届くほどの長さの薄い金髪と、表が黒で内側が紫のマントを着用した10歳前後に見える少年。
「こんばんはV.V.さん」
「こんばんはシゲタロウ。いつも弟に付き合ってくれて悪いね」
「いやまあ、友達ですからね」
この子どもにしか見えないV.V.はシャルルの双子の兄であり、これでも御年63になる歴とした大人だ。
幼い頃に不老不死となっているため肉体が年を取らないらしく、いつまでも経っても見た目が変わらないという不思議な人である。
そんな彼は現在ルルーシュの後見人として日本に住んでいたりする。
甥っ子から日本留学の相談と後見を頼まれた際、彼も共に移り住んだのだ。
「まったく、いい加減子離れしないと、その内家族の縁切られちゃうよ?」
「オール・ハイルぅぅぅぅゥ、ルルーシュぅぅぅぅぅぅゥ・・・・・・」
既に半分寝ているような状態のシャルルには兄の言葉が聞こえていない。
「ルルーシュ君、そんなに嫌がってるんですか?」
「本人は大切にされてるからこそ構ってくるんだって分かってるみたいだけど、17,8にもなってやることなすこと口出しされたら嫌にもなると思うよ
いつだったかな? 三者面談のとき『叔父上、明日の三者面談なのですが、叔父上が来て頂けませんか』って僕に頼んできたからね。
僕も叔父であの子の後見人だし、可愛い甥っ子の頼みでもあるから行ってきたけど、本来シャルルかマリアンヌが行くべき物なのに」
「それは・・・シャルルさんがそのこと聞いたら・・・」
「ショックで引き籠もっちゃったりするかも」
「は、はは・・・」
(ブリタニアの皇帝が親子喧嘩で引き籠もりになんてなったら、マスコミにとって格好の餌だろうな)
「それじゃ僕はシャルル連れてこのまま領事館に向かうよ。家に連れて帰ってもいいけどルルーシュが嫌がりそうだからね」
「わかりました。それじゃ私は彼女を連れて帰ります」
「うん。その娘にも宜しく言って置いて。それじゃ君も気を付けて帰りなよ」
「ええ、V.V.さんもお気を付けて」
421 :楽隠居?と円卓の少女:2012/12/11(火) 15:55:25
*
「さてと、こちらも帰りますか」
シャルルとV.V.を見送った嶋田は席を立つと自分の隣に座っていた人物を見る。
年の頃なら二十歳前、表の生地が黄緑色、裏側が紫色のマントを着た、腰の下まである真っ直ぐな長い金髪の少女。
日本に赴任中のブリタニア駐在武官で、現在宿舎として嶋田の家に同居中である、ブリタニア皇帝シャルル専属の騎士ナイトオブラウンズの末席、ナイトオブトゥエルブ。
そのブリタニア最強の騎士の称号を持つ彼女の名はモニカ・クルシェフスキー
「君も大変だなモニカさん」
碌に酒も飲めない彼女だが、皇帝に付き合えと言われれば飲むしかない。
それもまた皇帝に忠誠を誓う騎士の務めである。
「よっこらせっと」
すっかり酔いが回って泥酔状態で眠っているモニカを背負う嶋田。
身体の前に流して赤いリボンで束ねた彼女の長い髪の房が嶋田の肩を跨いで流れ落ちる。
頬や首筋をさらさらと擽る髪から香る甘い芳香は酔っていても分かるほどいい匂いがした。
「ん・・・」
「ん? 起こしてしまったかな?」
嶋田の首筋から肩に顔を埋める格好のモニカは歩く振動で目を覚ましてしまったようだ。
「ん、んう・・・? ・・・・・・嶋田・・・さん・・・?」
「寝てていいよ。かなり酔いが回ってるんだから無理に起きなくてもいい」
「あの・・・陛下は?」
「お兄さんが連れて帰ったよ、君にも宜しくってさ」
「そう、ですか・・・。その、いつも・・・すみません」
「大した事じゃないさ。お酒飲めない君に飲ましてるんだからこれくらいはさせて貰わないとね」
422 :楽隠居?と円卓の少女:2012/12/11(火) 15:56:24
「・・・・・・嶋田さんは・・・優しい方ですね・・・」
「どうしたんだね急に」
「いえ・・・なんでも・・・ありません・・・・・・」
モニカが日本に赴任した際、シャルルの友人として紹介された嶋田繁太郎。
現在ブリタニアの最友好国である大日本帝国を率いていた人物。
今はもう引退して隠居生活を送る彼はとても優しかった。
モニカの周りには厳しい人しか居ない。
帝国最強の騎士ナイトオブラウンズ。ナイトオブトゥエルブとして誰もが強さを求めてくる。
名家であり有力貴族であるクルシェフスキー家の一人娘として、将来は当主となることを求められる立場に在る彼女には家族ですら厳しい。
それは彼女が最強の騎士の一人であり貴族である以上仕方のない事なのだろう。
そんな彼女にとって彼は初めて出会った甘えさせてくれる人。
彼は貴族や騎士としてではなく、一人の少女として見て接してくれる。
それが彼女には嬉しかった。
甘えの許されない彼女が唯一甘えられて、年相応の顔を見せられる人なのだ。
背負われている彼女はぎゅっと彼にしがみつき、その首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
(嶋田さんの匂い・・・)
還暦を迎える男性の匂い。
嫌がる人の方が多いだろうその匂いがモニカは大好きだった。
423 :楽隠居?と円卓の少女:2012/12/11(火) 15:58:23
*
「おやじ臭でもしてるかな?」
「・・・いいえ、いい匂い・・・です」
「そ、そうか・・・君の髪も、その、いい匂いがするね・・・」
嶋田の肩口から彼の身体に沿って流れ落ちている、赤いリボンの巻き付けられたモニカの長い金色の髪の房が右に左に揺れていた。
匂いを付けようとするかのように嶋田の服の上を撫でて揺れる束ねられた金糸。
そこから漂う香りに鼻腔を擽られながら彼は年甲斐もなく高鳴ってしまう鼓動を抑える。
最初は丁寧ながらも硬い物腰だったモニカ。
貴族としての、騎士としての自分を全面に出し、事務的な遣り取りとしか思えない雰囲気で接してきていた。
しかし、それは日を追うごとに少しずつ変化していき、最近になって漸く年相応の顔や反応を示すようになった。
同居人としてその方が接しやすいし、なにより嬉しい。
目に見える形で親しくなり、仲良く慣れたのだから。
だが同時にこれは少々行き過ぎでは? と思うことも多々見られるようになったのだ。
今のような状況の時に身体を匂ってきたり、休日などに二人で歩いていると腕を絡めて、更には身体を押しつけてきたり。
それに基本的には穏やかで物腰丁寧な彼女は最近不機嫌になることが多くなったように感じられた。
(怒らせるようなことはしていないのになぁ・・・)
その都度そんなことを考える彼だったが、そこにはある共通点があった。
それは彼が女性と会っているときである。
付き合いの上での関係であり、特別な関係を持つ相手はいない物の、相手の年齢素性に関係なくとにかく機嫌が悪くなるのだ。
飲み会などで夢幻会の仲間達に相談したことはあったが
『死ねっ! 氏ねじゃなくて死ねぇっ!!』
と罵倒されたり、
『モブに近いからってファンがいないと思わないように。せいぜい夜道には気を付けることですね・・・』
などとよく分からないことを言われたりとまるで意味をなさなかった。
「寒くないかい?」
「マントを着ているので大丈夫です・・・。それに・・・」
「ん?」
「それに嶋田さんのお身体・・・とても、温かいですから・・・」
「ははっ、ちょっと照れるな。でも、モニカさんの身体も温かいよ」
「・・・・・・恥ずかしい、ですね」
「だろう?」
軽口を言い合いながら家路を急ぐ。
師走の風は冷たいが、二人の心はほっこりと温かい物に満たされていた。
最終更新:2013年01月06日 21:11