550 :休日:2012/12/14(金) 21:05:51
自分なりに思うところがあって帝都の休日 加筆改稿版書いてみた。前のとは違う世界線と考えて欲しい

モニカSS同様平和その物
ブリタニアはお友達
嶋田さんロマンス及び独身設定
性格改変注意
Yさん独身設定
Yさんロマンス
提督たちの憂鬱とコードギアスクロス

投下

551 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:07:00

「はぁ、」

休日の公園にて溜息を付く男。
彼の名は嶋田繁太郎。
現在は一線を退いているが世界に冠たる2大超大国の一国、大日本帝国の宰相を務めていた男だ。
但しそれは表の役職を降りただけで、裏の役職たる夢幻会の重鎮としては未だ絶大な影響力を保持していた。
尤もその仕事といったら以前と変わらぬ山のような書類を処理するという物であり、彼自身は(早くやめて静かな老後を送りたい)などと考えていたのだが。

「貴重な休みをこんなところで費やすのは勿体ないとは思うが、仕事のしすぎでやりたいことを考える暇もないからな・・・」

我ながら充実した人生なのか。
損ばかりの人生なのか。
よく分からないまま忙しい毎日を過ごす彼はたまには纏まった休みが欲しいと願い、周りに目を遣る。
家族連れ、恋人、友人同士、皆が皆楽しそうに過ごしている。

(本来、休日というのはこういうものなんだよなぁ・・・)

羨ましそうに眺める彼に気付く者は一人もいない。
今の彼はせいぜい公園で休んでいる近所のおじさんといった感じで、到底元帝国宰相には見えなかった。
そもそも彼は夢幻会の役職を除けば現在唯の一般人でしかないのだから、気付かれないというのが普通なのかもしれない。

(ん・・・?)

そんな影が薄くなった彼の目に何やら不穏な空気を醸し出す一団が止まった。

『なあいいだろ? 俺たちと遊ぼうよ』
『や、やめてください、離してっ、』

十代後半と見える鮮やかな桃色の長い髪の少女が、二人組の見るからに不良といった感じの柄の悪そうな男達に絡まれている。

(ナンパ・・・か)

どこにでもある日常の光景だが、桃色の髪の少女は明らかに嫌がっていた。
にも拘わらず男達は強引に誘って、腕を掴んだまま放さない。

(しかし無理矢理というのは、な)

見てしまった以上黙っている訳にもいかんだろうと歩み寄った彼は、「君たち、ちょっといいかね」とナンパ男達に声を掛けるのだった。

552 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:07:47




「痛たたたっ」
「大丈夫ですかおじ様・・・?」
「はは、大したことはないよ。君こそ大丈夫か?」
「はい、お陰様で助かりました」

桃色の髪の少女を助けに入った嶋田は海軍時代に身体を鍛えていたお陰でナンパ男達を撃退できたが、久しぶりの無茶な動きに少し腰を痛めてしまった。

(昔ならどうということも無かったが・・・やはり歳には勝てんな)

「本当に大丈夫ですか・・・?」
「ああ、本当に大丈夫だよ」

心配そうな少女を安心させようと身体を大きく動かす嶋田。
助けに入って置いて心配されていたら世話はない。
そして身体を動かしながら少女を見る。
肌の色は白人特有の白。
膝裏まで届く艶やかな長い髪は桃色。
白のワンピースにオレンジのスカート。

(ブリタニアの人かな?)

白人といえば真っ先に思い浮かぶのはブリタニア人。
EUも白人国家だが、一般的日本人の意識としては白人=ブリタニア人のイメージが強い。
大日本帝国と神聖ブリタニア帝国は共に超大国同士なのに最友好国、同盟国同士であるという奇妙な関係なのだ。
これには嶋田たち前世代の指導者の影響が強かった。

『コードギアス』

作品の概要しか知らない嶋田や山本五十六などこれが初めての転生となる者達を除く、二度目の転生となる夢幻会の面々はこの世界をよく熟知している。
その熟知している面々の話では、今を生きるこの世界はギアス世界のパラレルワールドであるらしく、国の政策や考え方がまるで違うというのだ。
彼らが知るブリタニアとこの世界のブリタニアは人物、帝政、貴族制、他の追随を許さない圧倒的国力、アメリカ大陸丸ごとが国という巨大国家であることこそ同じだが、
かたや世界を混乱の坩堝に陥れる侵略国家。
かたや国際社会と協調路線を取り、より良い人類社会を築いていこうとする平和主義国家という絶対的な違いが存在していた。
ならば夢幻会のとる方針も一つ。彼の国との友好関係を築きながらも自国を発展させていくというものだった。
そんな努力の甲斐もあり今やブリタニアに匹敵する国力と、一部では更に先を行く最先端技術を保持するに至ったのである。
それでいて尤も仲の良い国同士というのだから、この世界にもやはり存在している一部の侵略性の高い独裁国家やテロ組織には堪ったものではない。
下手に周辺国地域への侵略行動に出て、万が一日本人やブリタニア人、その友好国人に被害が出れば日ブ同盟軍に袋叩きにされるのだから。
更にEUや中華連邦など日ブに次ぐ大国とも友好関係にあるので、世界は概ね平和であった。

553 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:08:38



「あの、おじ様?」
「ん? ああ、すまないね。ちょっと考え事をしていたので」

このブリタニア人と思わしき少女を見て、馴染みのある付き合いの長い友人を思い出していたのだ。
先日日本に訪れた際、一番可愛がっている息子に冷たくされたとくだを巻いていた友人を。

(まあ、こんな美少女を見てあの強烈なシャルルさんを思い出すなんて失礼極まりないことだけどな・・・)

「まぁ、いくら帝都の治安がいいと言ってもああいう輩は居る物だから気を付けて歩きなさい」
「あ、はい。わかりました」

少女に注意した嶋田は先ほどまで座っていたベンチに座るとまたぼんやりと空を見上げ始めた。

「・・・・・・」

穏やかな風が吹く。

「・・・・・・」

その風に煽られて靡く桃色。

「・・・・・・」

それは未だ嶋田の視界に入ったまま。

「・・・・・・」

風が吹き抜ける度に空を泳いでいる。

554 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:09:08

「・・・・・・なにか用かな?」

ぼんやりしたままその桃色の長い髪の持ち主に問いかける嶋田。

「え、あ、あのっ、」

彼が助けた桃髪の少女は何故か嶋田の側から離れずに彼をジッと見ていたのだ。

「おじ様はこれからどうなさるのかと、思いましたので・・・」
「別に何もしないよ・・・また明日から始まる仕事漬けの日々を前に、黄昏れてるんだよ・・・」

嶋田は言ってて悲しくなる。
七十二時間働けますか? が待っているのだから。

「お、おじ様はお忙しい方なのですね」
「忙しい、か。それを認識できる内はまだ可愛い物だよ。そのうち時間の感覚が麻痺して来るんだ。いつ家に帰ったか、飯はいつ食べたのか、今は朝? それとも夕方? 
 そして仕事が終わると怖い魔王がやってきて言うんだ『貴方の闘いはこれからですよ』とね」
「それは・・・・・・大変なのですね」

でも、と少女は続ける。

「わたくしも、おじ様のように頼りにされてみたいです・・・。誰かのお役に立ってみたいです・・・」

お飾りの存在。
居ても居なくてもいい存在。
誰の役にも、何の役にも立てない存在。
自分はそんな人間ですという彼女。

「わたくしは家族や国の人、困っている人の役に立てるお仕事をしたいと思い、姉に相談したのですが『お前には早い』と言われてしまいまして・・・今回も無理を言って姉に付いてきたのですが、
 重要なお話の場では一切発言させてくれないのです・・・」

そう言って悔しげに唇を噛む少女を見て嶋田は一度溜息を付いて立ち上がる。

「君は、これから予定はあるのかな?」
「えっ? いいえ、予定はありません。その、わたくしこの国に訪れたのは初めてでして、どのような国なのか見たいと思い抜け出して来ましたから」
「なら丁度いい。おじさんの暇つぶしに付き合ってはくれないか?」

555 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:09:47



嶋田は少女を連れて帝都内の観光スポットや名所を巡った。
お台場、東京タワー、皇居、雷門、秋葉原、思い付く限り、時間の許す限り歩き続け出会った公園の近くに戻ってきた頃にはもうすっかり日が暮れていた。

「お疲れ様。連れ回して済まなかったね」
「いえ、とても楽しい・・・有意義な一日でした」
「それはよかった。私も楽しい一日を過ごせたよ」

空には満月が輝き、優しい光で二人を照らしている。

「さて、ここでお別れだが・・・一ついいかな」
「なんですか?」
「君は役に立たないと言ったがそんなことはない。今日、私は君と過ごせて楽しかった。君が居たからいつもと違う休日を過ごせたんだ」
「おじ様・・・」
「少なくとも今日、君は私の役に立ってくれた。つまりだ、気付いていないだけで君は沢山の人に必要とされているだろう、ということだよ」
「わたくしが、おじ様の役に立った・・・。わたくしは・・・必要とされている」
「そうだ。君が居て初めて回る何かもあるだろう。でもね、君はまだ若い。若いから経験値も低い。だからお姉さんも『まだ早い』と言ってるんだよ」

嶋田は彼女の頭に手を置き、数回優しく髪を撫でながら続ける。

「きっとお姉さんも周りの人たちも君のことが大事で大好きだからこそ、たくさん勉強して一人前になってから本格的なお仕事を頼みたいと考えてるんだと思うよ」
「そう、でしょうか・・・?」
「ああ、おじさんは君よりずっと経験してきてるからわかる」

言い終えた嶋田は彼女の桃色の髪の感触を楽しむように撫でていた手をそっと離した。

「あ・・・」
「ん?」
「い、いえ・・・」

自分の髪を撫でていた嶋田の手が離されたことに少女は一瞬表情を曇らせた。
彼の温かい手の温もりをもう少し感じていたかったのだ。
年相応に皺のあるその手はとても温かく、まるで柔らかな日の光のような感じさえした。
その日差しのような温もりが消えてしまったことが酷くもの悲しく感じてしまうのである。
そうとは気付かない嶋田は「時間も遅いし送ろうか?」と訊ねる。

「大丈夫です。おじ様にいっぱい元気を貰いましたから」
「はははっ、君みたいな美少女にそう言われると嬉しいよ」
「そ、そんな、美少女だなんて、」

頬を赤らめて照れる少女にもう一度可愛いよと言った彼は「それじゃおじさんも行くから君も気を付けて」と別れを告げて背を向けた。
彼女の笑顔を見てもう大丈夫だと確信したから。
しかし。

「ま、待ってください、」

そんな嶋田を呼び止めた少女は彼の元に歩み寄る。
自分を助けてくれた彼と、自分を元気付けてくれた彼と、まだお別れをしたくはないのだ。
かといってこれ以上引き留めるのも彼に迷惑が掛かると考えた彼女は。

「んっ、」

振り向いた嶋田の唇を自らの唇で塞いだ。
いきなりのことに目を見開く嶋田。
(な、なんで・・・こ、この湿った感触、は・・・く、くちびる・・・?)
重なり合う唇。温かくしめった彼女の唇の感触は柔らかく、いい匂いと甘い味がする。

556 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:10:22

そしてゆっくりと唇を離した彼女は言った。

「き、今日の・・・お礼です」
「き、君・・・」
「お嫌・・・でしたか?」

自分から口付けを交わした彼女はそう言って不安げな表情で俯き、上目遣いで彼を見る。

「そ、そんなことない、嬉しいよ、」

彼女にそんな顔をされた嶋田は必死に弁解する。
彼女のような美少女にキスをされて嬉しくない訳がない。
思っても見なかったことをされて思考が付いていかなかっただけなのだ。

「よかった・・・そ、それでは、もう一度だけ・・・いいでしょうか?」
「あ、ああ・・・いいよ・・・」

彼女はもう一度キスを求める。
嶋田は(お礼としては貰いすぎだと思うけど)と考えたが、求められた以上拒否するのは悪い気がした。
せっかく元気を取り戻してくれたのに、拒否して彼女の柔らかい微笑みを曇らせたくはない。
そうして彼女の唇と嶋田の唇がもう一度重なった。

「んっ」

今度は同意の上でのことだからか、お互いの腰と背に腕を回して、少しだけ顔を傾けての口付け。
お礼として求められた物をいい加減にしてはプレゼントを突き返すような物。
嶋田にそんなことは出来るはずもなかった。だからこそしっかりと身体を抱き締めて、感謝しながら彼女からの贈り物を受け取るのだ。
そうして大切にするが故、意図せずして深い口付けになってしまった。

「んっ・・・あむっ、んっ、」

だがお互い納得ずくの口付けである。
ここまでしてしまって今更止める訳にも行かず、二人は唇を重ねたまま甘いキスを続けた。
触れ合う舌と舌。混ざり合う唾液。ゼロ距離での息遣いがお互いの顔に掛かる。
甘酸っぱい味が口の中に広がり、背筋にぞくっとした物が走り抜けた。


互いの唾液を少し飲んでしまった二人は一分ほど重ね合っていた唇をゆっくり離した。

「・・・」

彼女の頬はもう目に見えてわかるくらい真っ赤に染まっている。
それは彼も同じだ。
しようと思ってこんなに深く口付けた訳ではないのだから。

「・・・・・・そ、それでは、わたくし行きます・・・」
「あ、ああ・・・その、気を付けて・・・」

さっきとは逆に少女の方から別れを告げて背を向けると小走りで行ってしまった。
桃色の長い髪を靡かせて走り去る彼女の後ろ姿を見ながら嶋田は一言呟いた。

「最近の子は、お礼でキスを交わすのか・・・」

世も変わった物だと呆けたように呟いた彼は知らない。
それが少女にとって初めての口付けであることを。
大切な初めての接吻を、彼に捧げてくれたことを。
何より年長者として行った善意が、彼女の心に小さな灯火を宿してしまったということを・・・。
そしてその火を消す方法は存在しないというのを・・・この時の彼が気付くことはなかった。

558 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:11:42




翌日。
夢幻会傘下のとあるビルの一室。
執務室でもあるその部屋の机の上には堆く書類が積まれ、その部屋の主である夢幻会の重鎮、嶋田繁太郎が必死に書類を捌いていた。

「お、終わらない、やってもやってもキリがない、」

昨日の休日、見知らぬブリタニア人の少女と過ごした楽しく穏やかで、ちょっぴり甘かった時間は何処へ行ってしまったのか?
幻のように消え去った休日を振り返りながら、彼は書類と格闘する現実に悪戦苦闘していた。
そんな彼の元にやってきた前世からの仲間であり友人で、同じく夢幻会の最高意思決定機関『会合』のメンバー辻は、差し入れとして持ってきたパンとお茶を彼に差し出す。

「嶋田さん、そろそろ休憩にしましょうか?」
「そ、そうしてくれると助かるよ。このままじゃ目と手がおかしくなる」
「ご苦労様です」

差し出されたお茶を飲みながら今日の予定を確認した嶋田は、書類に埋もれていた朝刊を引っ張り出した。

「ふ~ん、カラレス大使に変わる新しい大使はコーネリア皇女か」

その一面には不祥事続きで先頃更迭されたカラレス大使に変わって、新しく赴任してきた大使であるブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアが映っていた。

「嶋田さんはご存じなかったのですか?」
「そもそも引退してからこの五年、書類に追われて世間に目を向ける余裕が無かった物ですからね・・・」

「書類は友達さ」状態の嶋田はそれを持ってくる辻に不満を漏らす物の、彼は何処吹く風という感じで涼しげにお茶を飲んでいた。

「もう引退して五年ですか・・・早い物ですねぇ」
「早いです、早いですが・・・想像してた隠居生活との違いに落胆しています」
「今もバタバタしていますからね」
「誰のせいですか誰の・・・・・・ああ、せめてその日のニュースを見ながらのんびり出来る日が欲しい」

そんな世間の誰もが謳歌している日常を羨ましいと思いつつ、見ていた新聞を捲った瞬間――。

559 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:12:23

「ぶうううううう―――ッッッッ!!!」

と、口に含んだお茶を盛大に吹き出してしまった。
そのまま新聞を落としてゴホゴホ咽せる嶋田に辻は「何をしてるんですか汚いですねぇ」と背中をさする。

「す、すみません辻さん、その新聞に映ってる人はっ!?」
「え、どれです?」

辻がお茶まみれになった新聞を拾い上げるとそこには膝裏まで届く鮮やかな桃色の長い髪をポニーテールに纏め、白のタイトスカートを着用したブリタニア人の少女が映っていた。
髪は下ろしていたし服装も普通のワンピースだったが、確かに昨日の休日を一緒に過ごしてキスまで交わしたあの少女と同一人物だ。

「ああこの方ですか? この方はブリタニア帝国第三皇女のユーフェミア・リ・ブリタニアさんですよ。コーネリアさんの妹さんですね。
 公務を行うために日本に来たのはこれが初めてじゃないでしょうか? それまでは向こうのアッシュフォード学園高等部に通っていたはずです」

ギアスを知ってる人間なら知ってて当たり前の人物だという話しに(俺は知らねーよっ!)と心の中で突っ込む嶋田。
彼が知っているのはコードギアスというタイトル名と、SF戦争物アニメであったということだけで、登場人物のことなど全く知らないのだ。

「で、ユーフェミア皇女がどうかしましたか?」
「い、いいえ、なんでもないですよ・・・と、ところでこのユーフェミア皇女とはどういった人物なんです?」
「一言で言うなら虫も殺せない心優しい少女・・・といったところですね」
「な、なるほど、見た目そのままですか・・・」

昨日一日を過ごした印象は、とにかく心優しい少女という物。
辻の説明に外見通りであるし中身もそうだったなと思い出した嶋田は辻の話しに再度耳を傾けた。

「ただ、こうと決めた事には一切引かない強さも持っています。差別が大嫌いで世界中の人がみんな仲良く暮らせたらと本気で思ってるはずですよ」
「聖女みたいな子ですねぇ」
「でも結構独占欲強いと思いますよ? 原作の世界線ではある男の子に『私を好きになりなさいっ!』なんて言ってるくらいですから」
「ほう、それは彼女と付き合うことになったり、結婚することになる男性は大変だ」
「まるで他人事ですね」
「事実、他人事でしょう」
(昨日彼女にキスされたことは黙っておこう。それに政界引退した以上会ったりすることもないだろうしな・・・)

同じブリタニアの皇族と言ってもシャルルやV.V.は同年代であり、現役時代からの数十年に渡る友人である。
それに対してユーフェミアは今年17になったばかりの年若い少女であり、会ったのも昨日が初めて。
いくら友人の娘とは言ってもほぼ接点など無い。現役も退いているし二度と会わないだろうからと考えるのが普通だ。
そう思う彼であったが昨日彼女と出会った時点で既に縁は出来ていた。
そして辻の前で取った不自然な反応。
彼がこれを見逃すはずがなかったのだ。

560 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:13:00



皇族の大使就任ということで開かれた就任祝いの会場にて、出席者全員に対し順番に挨拶していくコーネリアとユーフェミア。

「ど、どうも初めまして嶋田繁太郎です、」

嶋田が何故ここに出席しているかというと、表向き政府関係者として出席する予定だった辻が急病で倒れ、代わりに出てくださいと頼まれたから。
(絶対仮病だろっ!!)と思った嶋田だったが出ないわけには行かず、こうして出席と相成ったのである。
会ったりすることはないだろうという考えは僅か数日で木っ端微塵に粉砕されていた。

「初めまして、コーネリア・リ・ブリタニアです。貴方のことは父から色々と伺っております」
「そ、そうですか、シャルルさんはなんと?」
「シゲタロウは良い奴だ! 儂の心友だ! と」
「は、はは、心の友ね・・・」

(どこのタケシ君だよ!)
苦笑いする嶋田にコーネリアの隣に居た少女が声を掛けてきた。

「あ、あの・・・」

こういった場所ではパーティードレスが普通なのに今の彼女は新聞で見たのと同じ姿だった。
長い髪はポニーテールに纏めて白のタイトスカートを着用した公務スタイル。
それは仕事への意気込みを感じさせる物で、彼女の真剣さを伺うことができる。

「ああ失礼。これは私の妹でユーフェミアです。この度私の補佐官として日本に常駐することになりました」
「ユ、ユーフェミア・リ・ブリタニアです」
「し、嶋田繁太郎です、」

普通に挨拶を交わす二人。
だがその挨拶が実にぎこちなく不自然になっている。
それはそうだろう、つい数日前に熱い抱擁を交わしながら口付けをした相手なのだから。
意識しない方がおかしい。
幸いなことに変だなと思いつつ次の出席者に挨拶に向かったコーネリアは気付かなかった。
二人が互いに「初めまして」と言っていないことに。
嶋田は焦り気味で、ユーフェミアに至っては頬を赤らめていることに。

「そ、それではわたくしは他の方にも挨拶に向かわないといけないので・・・」

ユーフェミアは名残惜しそうに嶋田の元を離れていく。
彼の元に留まっていたいという様子が在り在りと伺えた。
側に居て色々とお話がしたい。貴方のことが知りたい。
そんな様子が見て取れた。

「はぁぁ~っ、焦った・・・」

テーブルにあったグラスのワインを一気飲みするも、からからになった喉が癒されない。
彼の中ではまだキスの一件が引っ掛かっているのだ。

「まずいな・・・これってひょっとして辻さんの差し金か? キスしたこと知られてるのか? でもどうやって・・・」

それを知るのは辻本人だけであり誰にも分かることではない。
大体辻の思惑を推理するのは非情に難しく、意図を知るのはほぼ不可能であった。

561 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:13:37




「ビックリしました、おじ様が父が良く口にする心友のシゲタロウさんだったなんて」

挨拶回りを終えたユーフェミアは他には目もくれず一目散に嶋田の側に来ていた。
その様子は彼以外一切興味がないと言わんばかりだ。
地元の名士やブリタニアの貴族、日本政界の重鎮達はコーネリア皇女は勿論のこと、見目麗しいもう一人の皇女ユーフェミアにもお近づきになろうと試みていたが、彼女の側に立つ嶋田の姿を見てすごすごと引き返していく。
表の顔を知る者は『元総理が話し相手になっていては割り込み辛い』と考え、嶋田繁太郎という人物の真の姿『夢幻会の長老』という顔を知っている者は恐ろしくて声を掛けられない。
お陰で彼は、いやこの場合彼女か? とにかく嶋田はユーフェミアが独占出来ていた。
その分、更に話し相手をする人数が増えてしまったコーネリアはかなり大変そうだったが。

「それはこちらの台詞ですよ。まさか君がシャルルさんのお嬢さんだったとは・・・。シャルルさんには悪いですが全然似てませんよ。
 何をどうすればシャルルさんから君のような美人が生まれるのか・・・」

ごつい身体でロール頭で、厳つい顔をしたあのシャルルからユーフェミアのような美人が生まれるのは七不思議だと半ば本気で考えている嶋田に。
一方の彼女は美人だと言われて顔を赤らめる。
普通に言われても嬉しいというのに、彼から言われると胸がきゅっとなるのだ。
締め付けられるような苦しいような、それでいてとても温かい。
この不思議な感じは悪い物ではない。そう思った彼女は自分がしたことを思い出して頭を下げた。

「この間はすみませんでした」
「ひょっとしてあの、き、キスの?」
「は、はい」
「い、いやいいんですよ、」

彼女はキスのことを思い出してまた赤くなる。
湿った唇の感触と絡み合わせた舌の感触、それに甘酸っぱい唾の味を思い出したのだ。
そのことを持ち出されると嶋田まで恥ずかしくなる。
何せユーフェミアのような美少女にキスをされたのだから。
特別な何かでは無いとはいえ男冥利に尽きるという物。
尤も彼女の心が分かるでもない以上嶋田の勝手な決めつけなのだが、常識で考えて17,8の娘が60を越えた男に懸想する訳がない。
そんなことを断言する嶋田は完全にユーフェミアの気持ちを無視している。
彼がどう思おうがそれは所詮彼の考えであって、彼女の気持ちではないのだから。

「あれは君のお礼だったのでしょう? 私はそのお礼をありがたく頂いた・・・それでいいじゃないですか」
「おじ様・・・」
「名前で呼んでもらってもいいですよ。君のお父上も叔父さんも名前で呼んでますから」
「あの、じゃあ、シゲタロウ・・・」

(いきなり呼び捨て!?)
と思うも下の名で呼ぶ人間にさん付けしてくる人はいないので別に良いかと思い直す。
まあ彼を下の名前で呼ぶ人間は今世では今のところシャルルとV.V.ぐらいしかいないが。
彼女が栄えある三人目。女性としては初めてであった。

「わたくしのこともユフィと・・・それに敬語をやめてください・・・」

更に彼女は敬語を使われるのも嫌だという。
ただ嶋田としては余程親しい前世からの友人達にさえ丁寧語で話す相手の方が多く、タメ口というのは違和感を感じてしまうのだ。
出会ったときは普通の話し方だったと指摘されると受け入れざるを得ないが。

「わかった・・・じゃあユフィ。これでいいかな?」
「はい・・・シゲタロウ」

こうして名前で呼び合うようになった二人は祝賀会が終わりを迎えるまで寄り添ったまま話を続けていた。
嶋田が何の気無しにユーフェミアの髪を撫でたり。
ユーフェミアが嶋田の口元に付いたケーキの食べかすを拭ったり。
『お前らどこのバカップルだ!』とでも罵られそうな行為を終始続けていたのだ。
たちが悪いのは何処かで意識し始めたユーフェミアに対し、嶋田は彼女の髪を撫でその感触を楽しみながらも殆ど意識していないという部分。
そんな彼がちょっぴり意識したのは終了の挨拶の時、帰り際に二人きりになった瞬間、ユーフェミアからされた口付けのときだけ。
それでさえ深く口付けたお陰であって、触れ合わせるだけの物であったなら全く意識していなかっただろうと推察された。

562 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:14:37



『ど、どうしてこんなキスを・・・』
『この間シゲタロウと口付けを交わしたとき・・・気持ち良かったんです・・・』
『なるほどそれでキスを・・・。う、うん、気持ちいいのはいいことだが・・・』
『で、でもっ! こんなことするのはシゲタロウにだけですよっ!!』
『そ、そう、まあ、あれだね・・・キスってのは軽はずみにする物じゃないしね・・・』

魔王「ふふふっ、様子がおかしかったのでちょっと探ってみましたが嶋田さん中々やるじゃないですか」
Y「まさかこんなことになっているとはな」
魔王「ですが、あれですね。もう鈍いなんてレベルを通り越して最早馬鹿の領域ですよ」
Y「いや、嶋田はもともとあんな感じの男だろう」

帝都内の某所。
その一室にて男達が会合を開いていた。
そのテーマは。

【嶋田君の様子がおかしいよ? こっそり調べちゃお!】

という物だった。
尤もスピーカーから流れる甘い言葉の数々、止めに唇の粘膜が触れ合う音を聞いた瞬間怨嗟の声に包まれてしまったが。
涼しげに、かつ楽しそうにしているのは某お金を司る魔王ぐらいのものだ。
後は若干名「応援しよう」と言っている者も居た。
某海軍大臣を務めていた男はその若干名の一人。
親友の幸せを願う彼は「こいつらを止めんといかんな」と呟き魔王から「流石はYさんです」と賞賛されていた。
どうやら魔王も応援する様子だ。

そして・・・

こいつら「こ、こ、殺す・・・殺してやるぞ嶋田ぁぁぁぁあぁぁあっっっ!!」
こいつら「死ねっ! リア充死ねっっ!!」
こいつら「交通事故っていつ起こるか分からないよね?ね?」
こいつら「長らく核実験してないな・・・南太平洋のどこかで人一人ぐらい灰になっても気付かれないだろう」


Y「やはり止めないとダメだな。嫉妬で核実験なんぞされたら大変だ」
魔王「やれやれ困った人達です」

そんな彼らを余所にスピーカーから聞こえる甘酸っぱい会話は続く。

『おっと、肝心なことを言うのを忘れていた。大使補佐官就任おめでとう』
『ありがとう・・・』
『でも凄いな君は。今年で17なんだろう? その歳でこんな公職に就くとは』
『まだお飾りです。でもいつかお飾りなんて言わせないように、お姉様や皆さんに認めて貰えるように頑張りますっ!』
『その意気だ。手伝えることがあったら力になるよ』
『ええ、そのときはお願いしますね』

そして更にもう一度キスを強請るユーフェミアに嶋田が「いいよ」と了承して聞こえた息遣いと水音に
とうとう『こいつら』の内の一人がスピーカーをたたき壊してしまった。

こいつら「聞いたなおまいら?」
こいつら「聞いた・・」
こいつら「聞いたとも・・・」

こいつら指揮官「これよりオーバーSSS級リア充犯っ! 嶋田繁太郎に天誅を下すっ!! 各員第一級戦闘配置に付けェェェェェェ!!!」
こいつら隊員「ラジャーっっっ!!!」

魔王「心の狭い人達ですねぇ。何故仲間の幸せを喜んであげないのですか」
Y「こいつらに言っても無駄だ。取りあえず止めるぞ?」
魔王「はあ、仕方ない。お手伝いしますよ」


気勢を上げるこいつら達は、一応のところ魔王とYに鎮圧された。

で、一方の嶋田はというと、そんなことがあったとは露知らず次の休日を御一緒したいと申し出たユフィと二人で会う約束を交わし、
携帯番号とメルアドの交換をして、別れ際にもう一度キスを交わしていたりするのだった。

563 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:16:39

おまけ

「シゲタロウ、今日はどこへ連れて行ってくれるのですか?」
「そうだなぁ。ユフィはどこに行きたい?」
「わたくしは・・・」

通りを歩く一組の男女の後を追う影があった。
一つではなく幾つものその影は、数分の後には地面に昏倒していた。
それを行ったのはコードネームYという人物。

「ふう、相も変わらず邪魔しようとするとは・・・別に現実が充実していてもいいと思うのだが・・・」

そう呟いたYは彼らを駆逐し終えたところで新たな人影を発見した。

「またか・・・」

うんざりしながらその人物に近付いていく。
だが・・・

「ん? どうやら違うようだな・・・」

その人物は男女の邪魔をしようとしている他の面々とはどうやら関係のない人物だったようだ。
それもそのはず、邪魔をしようとしているのは全員男で、件の人物は女なのだから。
その人物は腰まである長い金髪をしており、先を歩く男女の女の方とほぼ同年代の少女だ。
身のこなしから見ると軍属と思われる。

「関係ないとは思うが・・・邪魔させるわけにもいかんからな」

彼はその少女に声を掛ける。

「あの二人の邪魔はさせんぞ?」
「きゃっ・・・!」

後ろから羽交い締めにされた少女はそのまま人気のないところに連れて行かれた。

564 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:17:24



「な、なにをする気なのっ!?」

こういう状況は大体が誘拐と相場が決まってはいる物の、彼女は気丈に振る舞う。

「何もせんよ。ただどうして人の後を付けるような真似をしていたのか聞こうと思ってな」

こんな男に負けてなるものかと思う彼女だったが、それが全くの見当違いで逆に追い詰められる事になるのであった。
そう、彼の目的は彼女自身が行っていた行為についての事だったのだ。

「つ、付けてなんかっ」

指摘されたことに後ろめたいことがあるのか少女はYから目をそらす。
そんな彼女に対し追及の手を緩めないY。

「いや、付けていた。しっかり見ていたからな」
「っ・・・!」

全部見られていたのは彼女に取って大誤算。
どういう言い訳も全く意味をなさないのだから。
Yは元よりこうなることが分かっていた。そりゃあ一部始終を見ていればイカサマ博打のような物だ。
結局、観念した少女は事情を話し始めた。
自分はブリタニア大使官の警備をしているブリタニア軍の軍人で、街を歩いていたらあの二人を偶然見掛けたこと。
二人がどういう関係か興味があって面白そうだから付けていたことなど。
要するにYの取り越し苦労でしかなかったことが判明したのである。

「失礼だけど、貴方こそ何? ユーフェミア様の知り合い?」
「いや、男の方の友人だ」
「ああ、言われてみればあの人と歳近そう・・・」

少女は納得がいったという具合に頷く。

「でも貴方こそどうして後を付けていたの?」
「いや、実はな・・・」

565 :帝都の休日1話 改稿版:2012/12/14(金) 21:20:07

大まかに事情を話すY。
話を聞いた彼女は「そうなんだ・・・」と不思議そうな顔をしていた。

「これを聞いて君はどうするんだ」
「別にいいんじゃないかな? そういうのって他人がどうこう言うことじゃないし・・・」
「ふう、それを聞いて安心したよ。てっきり邪魔されるかと思ったからなぁ」

お互い誤解が解け、事情が分かったことで一転和やかな感じになる。

「でも、それだと邪魔する人達追い払うのおじさん一人じゃ大変なんじゃないの?」
「まあ大変といえば大変だな」
「う~ん・・・」

Yの口から大変だと聞いた少女は一瞬難しい顔をして考え込むと今度は顔を上げて自分の手を打つ。
何か自己解決したようだ。

「私も手伝ってあげましょうか?」
「な、なに、君がかね?」
「ええ、だってそういうの女として許せないし、ちょっと面白そうだしね」
「だが、それでは君の休みが台無しじゃないか」
「ううん、特にやること無いから大丈夫! それにおじさん歳考えないと、一人でやってたら倒れちゃうわよ」
「年寄り扱いするな! 儂はまだ60過ぎだ!」
「そんなこというのがもう年取ってる証拠よ。で、どう?」
「う、うむ・・・そうだな・・・・・・」

確かに一人ではしんどい。
追い払っても追い払っても「リア充は犯罪なんだ!」と訳の分からない屁理屈を言って諦めないのが彼らだ。
コードネーム魔王もいつも空いてる訳じゃない。
他は「興味ない」といった感じだ。

(はあ、ここは猫の手も借りたい、か)

「それじゃあ、君の休みが合うときに頼む」
「了解♪ 毎日暇だったから丁度良かったわ」
「軍人や騎士が暇なのは結構なことだと思うが」
「うん、それはいいんだけど。私まだ日本に赴任して日が浅いから休みって言ってもやることなくて」
「そうか。まああまり暇だと碌な事せんからな」
「碌な事って?」
「若い奴は主に博打と女だ」
「おじさんも?」
「儂は博打だけだよ。これでも強いんだぞ?」
「へぇ~」

生真面目そうな顔の割に結構遊んでるんだという少女。
そして――。

「あ、まだお互い名乗ってなかったわね。私はリーライナ、リーライナ・ヴェルガモン。おじさんは?」
「リーライナか、いい名前だな。儂は、や――」

当然ながら連絡を取り合うためYとリーライナは携帯とメールを交換。
この日よりYの携帯には時折リーライナから電話が掛かってくるようになった。
日本に来て日が浅いという彼女に日本の良さを知って貰おうとYとリーライナの二人で出かけることも・・・。

そしてYは気付く。
嶋田を邪魔しようとしていたメンバーが減っていることに。
時々変なことを言われるようになったことに。
そう、つい先日まで友人の嶋田にしか言われていなかったあの言葉を、彼もまた言われ始めたのだ。




“リア充死ね”

566 :休日:2012/12/14(金) 21:22:20
終わり

まだまだ精進が足らない
日々努力するぞ

Wiki転載OK

567 :休日:2012/12/14(金) 21:28:22
書き忘れ・・・

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最終更新:2013年01月06日 21:16