738 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:21:38
前書き注意
ギアスクロス
Y氏こと山本さんロマンス
山本さん独身設定・・・・・・だった
本編より少しだけ未来
オリジナルKMF
甲事件の描写間違ってたらごめん投下
739 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:22:14
環太平洋合同軍事演習リムパック。
この年に一度の大規模な総合軍事演習は日本とブリタニアを筆頭とした太平洋諸国と、オブザーバーとして参加している中華連邦によって行われていた。
今年も数多くの艦艇や浮遊航空艦。航空機、KMFなどが演習地域の空と海を埋め尽くしている。
その総旗艦を務める戦艦大和のCICでは蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
「まだ通信は繋がらないのか!?」
「ダメですっ! 応答有りませんッ!!」
その原因は三十分ほど前に突如として上空に現れた紫色の雲に、展開していた2機のブリタニア軍機が突入し通信が途絶えてしまったからだ。
しかもその内の1機にはこの演習の為だけに現役復帰していた日ブ連合艦隊総司令である山本五十六の妻であり、
ナイトオブテンの親衛隊を得て後に独立部隊となったヴァルキリエ隊の隊長リーライナ・ヴェルガモン・山本が乗っていた。
これが知れ渡るとブリッジにいた全員が提督席に座る男を振り返った。
しかし彼らの予想とは違い男は冷静その物な姿勢を崩すことなく演習を一時中断して捜索に当たるよう指示を出しているではないか。
目の前で妻が行方不明になっているというのに冷静なその様子に、「流石は山本長官だ」という声が上がり皆が捜索に移っていく。
彼らは気付かない……何があろうと冷静さを失ってはならないのだという持論を持つ彼の拳が異様なまでに強く握りしめられ、血が滲んでいたことに。
表には出さなくとも愛する妻を心配する男の姿がそこに確かな形として存在していた。
740 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:22:52
*
「どうなっているの、この雲は…?」
不気味な紫色の雲に突入してしまったリーライナが雲を抜けると、そこは何処かの島嶼の上空だった。
計器類は狂い座標こそ分からないものの、太平洋の何処かなのは間違いないと思われる。
『リーライナ先輩っ』
戸惑う彼女の耳に聞き慣れた声が入ってくる。
「マリーカ、貴女も巻き込まれたの?」
『そうみたいです…』
リーライナの搭乗機である第8世代相当のKMFヴィンセント・カスタムと同じ機体が彼女の側に飛んでくる。
彼女の部隊であるヴァルキリエ隊のメンバーで、部下のマリーカ・ソレイシィだ。
『ここ、一体何処なんでしょうか?』
「わからないわ。太平洋の何処かではあると思うけど」
海上を埋め尽くす艦隊の姿はなく見渡す限り何もない水面が広がっていた。直ぐ近くにあるのは幾つかの島だけだ。
そして後ろを振り返るとそこにはまだあの紫色の不気味な雲が煙のようにモクモクと蠢きながら異彩を放っている。
「あの雲がここに繋がっていたのは間違いないみたいね」
では逆に此方からあの雲に突入すれば元の演習海域に戻れるはず。
「もう一度あの雲に突入するわよ」
『ええっ! またあの気持ち悪い雲に入るんですかっ!?』
「気持ち悪くてもアレに入らないと元の海域に戻れない以上仕方ないでしょう?」
嫌がるマリーカに入らないと帰れなくなるかもと言い聞かせるリーライナ。
どう考えたところであの雲が原因なのは疑いようのない事実。
そうである以上あの雲に入れば向こう側に通じている訳だから嫌でも入るしかないのだ。
『うう、わかりましたよ』
リーライナはイヤイヤながら頷くマリーカに先行する形で雲に入ろうとした。
この雲の向こうに居るであろう友軍と合流するために。そして愛する夫の元に戻るため。
その時だ。今まで狂いっぱなしだったレーダーが反応したのは。
『あ、何…?』
どうやらマリーカ機にも反応があったらしい。
「近くを飛行している航空機があるみたいね」
741 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:23:29
レーダーには10前後の光点が映っていた。
航空機が飛んでいること自体はそんなに珍しいことでもなんでもない。
今の世の中何処にでも飛んでいるし、海の上でも陸の上でもレーダーに反応があるのは普通だ。
だが知らない海域である以上何処かの国を領空侵犯している可能性がある。
これが同盟国日本なら何も問題は無い。識別反応で直ぐ分かるし、リーライナ自身も日本国籍を持っているから調べて貰えばいいだけだ。
太平洋はほぼ日本とブリタニア二国の領海なのだがそうじゃない地域もある。
「此方から呼びかけるわ」
『了解』
通信回線をオープンにしたリーライナは、此方に向かって飛行している10機前後の航空機編隊に呼びかけた。
「こちら神聖ブリタニア帝国軍ヴァルキリエ隊所属のリーライナ・V・ヤマモト。貴隊よりの応答願います」
しかし繋がらない。
『先輩、応答有りませんよ』
「わかってる。もう一度呼びかけてみるわ」
確実に聞こえているはずだというのに応答のない相手に、再度同じように呼びかけてみた。
それでもやはり応答無し。
「おかしいわね。10機近くもいて全機無線が壊れてるなんて有り得ないし……」
リーライナは不審に思いながらも編隊に向けて外部カメラをズームアップしてみる。
すると。
「え? あれ日の丸じゃない」
その編隊飛行する航空機には見慣れた赤い丸が描かれているではないか。
つまり応答のない相手は日本機ということだ。でも何かがおかしい。
「あ、あれって……もしかしたら零戦…?」
『嘘っ!? あれ昔の写真で見ましたよっ!?』
そう、飛んでくる編隊は80年近く前の日本の戦闘機だったのだ。
現在では空戦の主流はKMFである。日本は同時に超音速のステルス戦闘機なども運用しているものの、最早博物館にしかないような零戦を現役で運用しているはずがない。
そんなものが太平洋上空を堂々と編隊飛行しているのだから驚くなという方が無理な話だ。
暫し絶句していたリーライナとマリーカが乗っているヴィンセント・カスタムのレーダーに新たな光点が出現した。
その光点は明らかに日本機目掛けて一直線に近付いている。
「何かわからないけど行くわよマリーカっ!」
『あ、待ってくださいよ!』
742 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:24:04
*
「くそっ、振り切れないっ!」
大日本帝国海軍大将、山本五十六はショートランド島方面への視察と激励に向かうため、一式陸上攻撃機に乗り込みニューブリテン島ラバウル飛行場を飛び立っていた。
そしてブーゲンビル島上空に差し掛かったところで待ち伏せしていたアメリカ軍のP-38戦闘機16機による襲撃を受けたのだ。
「暗号を解読されていた……ということか」
こちらは一式陸攻2機に零式艦上戦闘機6機。
対する
アメリカ側はP-38戦闘機16機。
数の上で倍、その上奇襲攻撃というのもあって明らかに此方が不利。
それも山本搭乗の一式陸攻を守りながらの戦闘という厳しい闘いであった。
にも拘わらず山本は椅子に座ったまま目を瞑り微動だにしない。
己の死期を悟りながらも威風堂々たるその姿は、他の搭乗員達を大いに勇気付けていた。
(何があっても長官だけは守る!)
闘志に火を付け、己を奮い立たせながら彼らは必死に闘う。
だが、そんな彼らの間隙を縫うようにして一機のP-38が突っ込んできた。
「そいつを行かせるなぁぁっ!」
取り付いてくる敵機を何度も何度も追い払い続けていた零戦隊第二小隊の柳谷飛行兵長はその機に気付くも間に合わない。
他の機も対処することが出来ない。何せ16機全機が長官機だけを狙っているのだ。
それ故、いま目の前にいる敵機も抑えなければならず、同時にその一機を撃墜するなど不可能だった。
迫る魔の手。それを振り払える者は、盾になれる者は居なかった……。
いや、居ないはずだった……だが自然の悪戯は、その魔の手を振り払う女神をこの世界に呼び寄せていたのだ。
ヒュンッ!
そんな風切り音でも聞こえてきそうな速度で通り過ぎる何か。
次の瞬間柳谷兵長が見たものは、真っ二つに切り裂かれて爆発四散するP-38と、それを成したであろう5,6メートルはあろうかという白銀に輝く巨大な人型。
更にその鉄の人型は目にもとまらぬ凄まじい速さと、桁外れの機動性を持って瞬く間に敵機を撃墜して行くではないか。
その様はまるで止まった標的を撃ち抜いていくかのようだ。
「な、なんだっ、アレは…っ?」
生憎と柳谷の呟きに答えを持つ者などこの場には居ない。
誰もが見たことも聞いたこともない人型の戦闘機の登場に、そしてそれが自分たちを苦しめ山本長官を狙う敵機を赤子の手を捻るように切り裂いていく姿に戦場であることも忘れて呆然としていた……。
743 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:24:44
*
マリーカに先行する形でいち早く戦場に到着したリーライナはそのままの勢いで日本機とは違う星のマークが付いた機体を撃墜した。
「ま、間に合ったっ、」
後少しでも遅れていれば零戦隊に守られていた航空機は撃墜されていただろう。
そのぐらい際どいところであった。
何とか守ることが出来た日本機に目を向ける。
「よかった、無事みたいね」
無事を確認した彼女は撃墜した機と同じ星のマークの機体に目を向ける。
「悪いけど日本の航空機を狙った以上、容赦なく落とさせてもらうわっ!」
リーライナにとって日本は第二の祖国。その祖国に刃を向ける存在は例え如何なる存在であろうとも許さない。
それでなくとも日ブ相互安全保障条約というのが存在しているのだ。
日本とブリタニアのどちらか一方を攻撃しようとする敵対勢力があれば、双方無条件でこれに対処するという相互防衛条約。
つまり日本の敵はブリタニアの敵。ブリタニアの敵は日本の敵なのである。
そこからはもう一方的だった。
P-38はあまりにも隔絶した戦闘力を持つ第8世代KMFヴィンセント・カスタムによって物の数分の間に全機撃墜されてしまった。
そこには理不尽なまでの力の定義が働いていたがそれが戦場という物だ。
こうして山本五十六暗殺という悲劇を起こすはずだった海軍甲事件。
それは平行世界からの迷い人によって阻止され、歴史の中に刻まれることなく終わるのだった。
744 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:25:14
*
敵機撃墜と共に追いついてきたマリーカと合流したリーライナは再度の接触を試みていた。
無論先ほどのことを考えれば無線が繋がるとは思えず、場合によってはこのまま引き返して雲の向こうに向かうべきかと考えていたとき、漸く無線が繋がった。
しかし、繋がった無線の声に彼女は困惑することになってしまう。
『こちら大日本帝国海軍大将山本五十六。貴君の救援に感謝する。礼を言いたい、是非貴君の所属を教えられたし』
そう、繋がった無線から聞こえてきたのは彼女が愛する夫『山本五十六』の声だったのだ。。
だが何かが違う。もし夫ならばこのような言い方をしたりしない。
このヴィンセント・カスタムが何処の所属なのかは一目瞭然なのだから。
「御無事で何よりです大将閣下。私は神聖ブリタニア帝国軍所属、ヴァルキリエ隊隊長リーライナ・ヴェルガモン……です。日ブ相互安全保障条約に基づき貴編隊への支援戦闘を行わせて頂きました」
『神聖ブリタニア帝国? それは一体……何所の国なのだ?』
そして無線より聞こえた山本の言葉に彼女は確信した。
あの機体に乗っている山本五十六は自身の夫とは別人であることを。
『山本さん! こんなときに冗談は…!』
「いいのマリーカ。貴女は黙ってて」
『でも先輩……』
「いいから」
しかしそうとは思わないマリーカは山本の妻に対する場違いな冗談に一言苦言を言いそうになったが、当のリーライナに抑えられては黙るしかなかった。
「失礼しました。ご質問にお答えさせて頂きます。ブリタニアは……とても、とても遠い国です……」
『遠い国……』
「はい、ここからはそう簡単に行けないくらい……ずっと、ずっと遠くにある国です……」
リーライナは敢えて遠い国という表現を使った。
日本とブリタニアは遠い国ではなく本来ならば隣国であるというのに。
『そうか……遠い国か』
「はい……」
それを山本は察した。
常識で考えられる遠い国などではない。文字通り行けない場所にある遠い国なのだと。
それは無線越しに聞こえるリーライナの声を聞けば分かる。
第一、行ける国に彼女が乗っているようなこの世の物とは思えない隔絶した戦闘力を持つ人型戦闘機など存在していない。
アメリカはもちろん、あの先進科学技術の塊であるドイツでさえこのような兵器は作れないだろう。
荒唐無稽なSF小説にでも出てきそうな話だが、そう考えれば納得も行く。
この世には科学で解明できない事象など幾らでもある。偶々自分がそれに遭遇しただけなのだ。
彼以外の搭乗員達も皆一様にその話に聞き入っていた。謀略か? ただの与太話か? 誰もがそう思うはずだというのに誰も彼女の話を疑わない。
何故ならそこに厳然とした証拠ともいえるKMFヴィンセント・カスタムが存在しているのだ。
それに敵ならば自分たちを助けたりしないし、こうして穏やかな会話をするはずがない。
だからこそ誰も口を挟まず、ただ山本とリーライナの話しに耳を傾けていた。
『豊かな国なのだろうな。きっと俺には想像できないくらい豊かで強い国なのだろうな』
「はい豊かです……大日本帝国と並ぶ超大国です」
『ふ、ふふふ、ははははっ、それはいい! 超大国大日本か是非とも行ってみたいものだなっ!』
実におかしな会話だ。
超大国大日本。それと拮抗する神聖ブリタニア帝国。
『日本とブリタニアは同盟国なのかな?』
「ええ、同盟国です。切ろうと思っても切れないほどに、深く深く結びついた得難き友人であります」
『そうか』
この世に存在しないはずの二つの巨大国家は確かに存在しているのだろう。
ここではない遠い世界に。そんな国同士が手と手を取り合い、切ることが出来ないほどの深い関係にある其処は、とても平和で楽しい世界なのだろう。
リーライナの話を聞きながら山本はそう思った。
『ならば俺は皇国を君の国や『日本』に負けないくらい豊かな国にするため、なんとしてもこの戦争を戦い抜かなければならんな』
「……」
『だから君も帰りなさい。君の愛する人や友人が待つ世界に……』
「ええ、そうですね……」
彼の言葉を受け入れるリーライナ。
彼の言う通り、自分の帰る場所は向こう側なのだ。
「山本閣下」
『ん?』
「……ご武運を」
『……ありがとう』
745 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:25:46
*
遠ざかっていく日本軍機を見送りながら、リーライナはコックピットの中で敬礼をしていた。
これは本来有るはずのない出会い。有ってはならない出会いなのだろう。
だがそれでも祈らずには居られない。平行世界の山本五十六の無事と勝利を。
せめて生きていて欲しい。生き抜いてくれるだけでいい。貴方の帰りを待つ人もきっとそれを望んでいるはずだから。
『先輩……いいんですか?』
「ええ、私たちは本来交わってはいけない存在よ。偶発的に世界の境界が繋がっただけなんだから……。だから、これでいいの」
『でもあの人は山本さんですよ! 先輩の大切な山本さんなんですよ! 私たちが加勢すればッ!!』
「違うわマリーカ。あの人は私の愛するあの人じゃない。同姓同名で同じ存在かも知れないけど、違うの……。
それに加勢してどうするの? 武器も弾薬もエネルギーも無尽蔵にある訳じゃない。幾ら強力な兵器を持っていようとたった2機で戦争の行方を左右するなんて不可能な事よ」
『……』
確かに自分たちが乗るKMFはこの世界に於いて他を圧倒する強力な物。
だがそれもエネルギーが尽きるまでの話だ。その後はただの金属の塊になってしまうだけ。
(それにどれだけそっくりでも)
リーライナは自身の下腹部を優しく撫でる。
「この子の父親は私の愛するあの人だけなの」
山本とリーライナ、二人が何度も愛し合った結果宿った新しい命。
自分が生むこの子の父はあの人だけなのだと。
『先輩』
「さ、帰るわよマリーカ。早く帰って演習の続きに参加しないと」
『あ、ちょっと待ってくださいよ先輩…!』
遠くに消えていく日本軍機に背を向けてヴィンセント・カスタムは発進する。
彼女の大好きな夫が待つ、自分たちの世界へ向けて……。
746 :帝都の休日 外伝:2012/12/18(火) 19:26:28
*
焦りを隠せない山本はそれでも冷静に連絡が繋がるのを待っている。
どう考えても上空に現れた不気味な積乱雲が関係しているのは間違いないのだが、あの中に捜索隊を送り込むわけにはいかないのだ。
どのような構造になっているのか見当も付かないが、誰かを送り込むには危険極まりない。
艦隊司令としても人としてもそんなことは出来なかった。
(リーライナ…! 無事で、無事でいてくれ…!)
心の中で叫びながら妻の身を案じ続ける山本の手の平には爪が食い込み、血がしたたり落ちていた。
もし自分がKMFでも操縦できるなら副官に後を任せて雲に突っ込んでいるところだ。
まだかまだかと神に祈るように通信を待ち続ける山本。
そしてその強い祈りに、慈悲深い神は答えてくれるのだ。
『…キ…エタ…リーラ……」
「な、なんだ通信がっ!!」
今までどれだけ呼びかけても応答無しだったスピーカーから声が聞こえたのだ。
雑音混じりで何を言っているのか聞き取れない物の、その声は確かに彼女の声だった。
「リーライナッ!!」
ただひたすら耐え続けていた山本は、その反動からか周囲の目も気にせず大声で妻の名を叫んでいた。
そんな彼の声に今度こそハッキリとした声が返ってくる。
『リーライナ・V・ヤマモトとマリーカ・ソレイシィ只今帰還しましたッッ!!』
彼女の声と共にブリッジの大画面には紫の雲から出てきた2機のヴィンセント・カスタムが映し出されていた。
彼女達の搭乗機が出た瞬間、まるでそれを待っていたかのように雲が消えていく。
それを見たブリッジのクルーからは大きな歓声が上がり、山本は逆に立ち上がっていた状態から疲れたように提督席に身を沈めた。
「まったく……心配ばかり掛けさせおって……」
「長官、奥様から通信が」
「おいおい、今は訓練中だぞ。奥様とか呼ぶんじゃない……まあいい、繋いでくれ」
「はッ、」
次の瞬間ブリッジのメインモニターに映し出される黒と紫の露出の多いパイロットスーツに身を包んだ、年の頃は二十歳くらいで腰まである長い金髪の女性が映し出された。
控えめに見ても整った容姿を持つこのブリタニア人の女性こそ、山本の妻でありヴァルキリエ隊隊長の、リーライナ・ヴェルガモン・山本である。
『艦隊将兵の皆様に多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』
「全くだ。で、一体どうなっていたのか説明して貰えるのか?」
『いえ、一言で申し上げるには難しいことですので、後ほど報告に上がります』
「わかった……では予定通り演習を再開する。元の配置に戻るように」
『了解です』
事務的な遣り取りを終えた山本は通信回線を海上艦艇、浮遊航空艦艇など全艦隊に繋ぎ演習再開の指示を出す。
「ん? まだなにかあるのか?」
その最中、メインモニターには未だリーライナの姿が映し出されていたのだ。
山本はまだ何か報告でもあるのだろうかと彼女に聞いてみた。
『いえ、ひとこと言っておきたいことがありまして』
「なんだ?」
彼女は意を決したように話し出す。
『私、とても不安だった……不安で寂しくて、切なくて……だから……』
一度目を瞑った彼女は大きく息を吸い込むと。
ありったけの大声で叫んだ。
『だからイソロクッ! 今夜は寝かさないつもりでッ、全力で私を愛してねッッ!!』
それだけ言って満足した彼女は通信を切ってしまった。
直後、全艦隊の男達からは怒号が、女達からは黄色い声が上がり、呆然と立ち尽くす山本の顔は熟れたトマトのように真っ赤になっていたんだとさ。
そしてその後。
旗艦大和の某一室からは切ない声と、熱く激しい息遣いが、夜遅くまで聞こえていたのは言うまでもなかった……。
最終更新:2013年01月06日 21:35