802 :ゼン:2012/12/20(木) 18:53:12
西暦19○○年 日本の某中学校

「おら!お前ら席付け、席。今日あのバカ・・・じゃなかったヅラはサボって学校に居ないんで、替わりにセンセが授業しまーす。はい、拍手ー」

教壇の前に立つ男は面倒くさそうに言い放った。
ペチペチパチとまばらな拍手の後、辺りには困惑した空気が流れる。



ネタSS 3年ズィー組 ○八先生



「先生、○先生はお休みですか?」
教室内の空気に見かねた生徒が質問すると、男はさも深刻な事を話す素振りで首を振りながら答えた。

「聞いた噂によると、『もっともっと熟女を!』とか言う怪しげなカルト集団の会合があるとか・・・先週の金曜から連絡も取れず・・・最悪の場合・・・」
(ったく。んなアホみたいな秘密結社ある訳ねぇだろ、何処のゼーレだよ。ヅラのヤツ、吐くならもっとマシな嘘を吐け。あの人妻好きが・・・)

騒然とする生徒達、お互いに顔を見合せている。
そんな中、一転して明るい表情で男は言葉を続けた。

「まぁあのヅラはいずれ射殺体で見つかるから心配すんな。死んだとしても世界がほんの少し平和になるだけだ。もっともヤツの事。腹が空けば『てへ、撃たれちゃったぁ(ぺろ)』などとほざいて戻って来るだろ」
無茶を言う男である。

「取り合えず課題のプリントを預かってんで、お前らの青く切ない思いの丈をじゃんじゃかぶつけちゃって。
最後に集めるからな、終わったら『自習』でいいぞー」
(・・・ヅラのヤツ、漫画を教材替わりにしてんのかよどうせなら○ャンプを使え○ャンプを!・・・あっそーだ)

『自習』の二文字に場が和み、生徒達も男の説明を冗談だと受け取る。
プリントを配りながら俄かに活気付くが、男の次の台詞で全てが台無しになった。



「はーい、ちゅーもーく!この中で○ャンプを持ってる人、正直に手を上げてー、センセ今朝急いでて立ち読みしそこなったから没収ーしまーす」



その場に落ちた沈黙は、休み明け月曜日1時限目として有り得ない光景だった。









シンと静まり返った教室内、カチコチと時計の秒針が進む音だけが響いている。

早々に課題を終らせ騒ぎ始めた生徒達が『先生の読書を邪魔した』と言う罪状で『鼻フックの刑』に処されたからだ。

      • が為に教室内は今、静謐と化していた。








「あ、クリリン死んじゃった・・・ったく、シンバルやらタンバリンだ?何処の楽器屋だってーの」

「これで15才・・・だと?詐欺だろ?・・・どんだけブラコンなんだよコイツ。だいたい弟も弟だよ、アニメの都合で原作を変えるって?・・・アリなのかよ!・・・俺の心に湧き上がった『そうじゃない感』を何処にぶつけりゃいいんだよ!!」

「おいおい、潜入すんのになんで女装?・・・それはマズイだろ、体格からして無理だろ?人として駄目だろー。俺なら死んでもゴメンだね!つか、1mmも忍んでねーし。徐々だけにってか?」

「ボールは友達?・・・友達は蹴り飛ばすモノって、どっかのお偉いさんも言ってたしな」

「・・・両さんは相変らず、平常運転っと」

と、一通り読みたい所は見終わった男は○ャンプをパタンと閉じ、おもむろに教壇の上に目を遣ると配り余ったプリントに気が付く。


「先生、先生ならこの画を見てどう思いますか?参考までに教えて下さい」
「「「お願いしまーす」」」

目敏い生徒に見つかり、その生徒が場の雰囲気をどうにかする為に言う。他の生徒達もそれに便乗し『お願い』をして来る始末である。

男はやれやれと思いながらプリントを手に持つ。本当はじっくりと○ャンプを読み返してみたかったが、一応自分の立場を思い出し、渋々と目を通しつつ言い放った。

「関係無いけど、大西。取り合えず、廊下に立ってなさい!」

803 :ゼン:2012/12/20(木) 18:56:05
1コマ目
真ん中で『撫子・・・さん』がプルプルしていた。何処ぞの厨二病患者よろしく、腰の刀を握る右手を左手で
抑えている、『クンフー道着姿の娘』と『白貂の帽子と外套を着た少女』も必死に宥めていた。
左右からそれぞれ、『狐目のチャイナドレスの女性』と『キャリアウーマン風の一目で分かる程に誇張された
白人女性』が空き缶やゴミ屑を投げつけている。その奥では野次馬達が囃し立てている描写だった。


「あー、これはアレだろ?中国で底抜け脱線ゲームみてーに、線路がおじゃんになった時の・・・なんだよ?
      • バッ!違げーよ!・・・センセが答えを言うワケにゃいかないだろ?・・・信じろって。センセの目を見れば分かるだろ?・・・ったく、人を信じる心を無くしたら碌な大人にならないぞー」

「「「・・・」」」

「んで、中国のなんとかってバカがいちゃもん付けてきたり、アメリカの名前がデス○ートに書かれたりで、ドンパチになるんだったか?」

「「「・・・(デス○ート?)」」」

「つーか、何で右のだけアメコミ風?・・・何で『撫子・・・さん』になってんの?」
「先生。つ、次をお願いします」
話が脱線し始めたのを生徒があわてて修正する。


2コマ目
奥で倒れている『狐目チャイナ女』を刀でつんつんする『撫子ちゃん』。その近くには『クンフー娘』が描かれている。
手前では柵で四方を囲まれ、手足を縛られた『白人女性』がワン泣きしていた。


「こりゃ有名な戦時中の兵糧攻めだろ。こないだテレビでやってたな『フィリピン封鎖、突破できません!』って、敵が叫んでたろ?・・・挙句にゃ敵が勝手に降伏してきたんだよ、確か」

「「「・・・(・・・テレビ?・・・勝手に?)」」」

「・・・なんか、この構図。どっかで見たことね?・・・アラ○ちゃん?アラ○ちゃんだろ、これ!・・・絶対、アラ○ちゃんのパクリだよ!」

「「「・・・(いい加減、○ャンプから離れて!)」」」

「・・・だがセンセに言わせるとまだ甘いな。・・・手前の女を縛るならもっとこう胸を強調するような、例えば亀甲し「せ、先生!」・・・なんだよ」

「・・・3つ目をお願いします!」
教育上よろしくない発言を遮り、3コマ目の説明を促す耳年増な女生徒がいた。

804 :ゼン:2012/12/20(木) 18:56:39


3コマ目
大きな天秤が描かれ、真ん中の台座には『そびえと』記してあった。
左の皿には首都モスクワや特徴的な建物と戦車、戦闘機が載っている。
対する右の皿にはビルや車、食品や服が載っていた。そして『撫子ちゃん』と『黒貂の帽子と外套を着た金髪女性』がセッセと品物を運んでいる描写だった。
天秤は左に傾いているがフラフラと危なげで、天秤棒にも罅割れが入っているのが将来の不安を暗示している。


「・・・なんだ?戦後はまだ授業でやってないのか?これはな、『持つ者』と『持たざる者』の戦いなんだよ。
己の存在を賭けた闘争なのさ!いいか、お前らの残念な頭にも分かるように例えるなら・・・1組に美男美女を集めるようなもんだ」

「「「・・・?」」」

「他のクラスが暑っ苦しいデブやブスばっかになってみろ!お前ら、皆『1組に行きてー!』って思うだろ?・・・センセだって一緒さ!思いは一つのはずだ!」

「「「・・・(駄目だこの先生・・・早くなんとかしないと・・・)」」」
生徒達の心は一つになった。

「まぁ、そいつをもっと端的に描かれているのが4つ目だ」


4コマ目
真ん中で『アオザイやサロンを着た少女たち』を後ろ手に庇いながらシッシッと何かを追い払う『撫子ちゃん』。その先には『ドレスを着た女性』が数人、トボトボと離れて行く描写だった。
彼女たちはリヤカーを引いている、積荷は札束や金塊が描かれていた。


「つまり、金!・・・金なんだよ」

「「「・・・(先生ェ・・・ぶっちゃけ過ぎ・・・)」」」
夢も希望も無い男の台詞。
それを聞いて絶句する生徒達、何人かの生徒は何故か涙ぐんでいる。

「いいか・・・この世の中、金があれば大抵の事ができる。金さえあれば選べる選択肢が増えるんだ。
いちご牛乳に餡子を入れたり、チョコレートを入れたり、ココナッツミルクで割ってみたり。
      • 無限に可能性が広がる、センセの一押しはキャラメルミルクだ」

男の言ったことを想像して、生徒は吐気や胸焼けの仕草をする。



「そして、この漫画はな『力と金をどう使うか?』と。お前らに問い掛けているんだよ。・・・どっかのバカみたく、力や金任せで自儘に振舞うか?・・・力だけを頼りにして、他を投げ捨てるか?」

「「「・・・(先生ェ)」」」
常ならぬ男の雰囲気に、教室内の生徒達が押し黙った。



「・・・違げーだろ。みんなも分かってるはずさ、それが「キーンコーン、カーンコーン・・・」・・・」

「起立!、礼!「「「ありがとうございましたー」」」着席!」

絶妙なタイミングで鳴るチャイム、そして何事も無かったかの如く号令を発する当直の生徒。
男のお説教モードは有名だった為である。



何処の中学校でもある、哀愁漂う授業風景だった。

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最終更新:2013年01月07日 21:30