263 :休日:2013/01/06(日) 22:53:13
終わり
続いて枢木ゲンブのお話
枢木ゲンブの日常
帝都の休日と同一線
登場人物、政党はフィクションです
264 :枢木総理の悩み:2013/01/06(日) 22:57:37
帝国議会
大日本帝国の全ての政を司る議会は荒れに荒れていた。
荒れる原因となったのはつい先頃中華連邦より袂を分けて独立した大清連邦という新国家についてのこと。
国家と呼んではいる物の、日本もブリタニアもEUもまだ正式に承認してはおらず、唯一承認していたのは隣国の高麗共和国のみという到底国家とは呼べない状況下にあった。
国際的な見方で言えば“国”ではなく、大清連邦という“勢力”扱いなのだ。
ただ、ややこしいのは強引に袂を分けられ、中華連邦の北東部全域という広大な領土を掠め取られた当の中華連邦が国家承認するという情報が入っていたことだ。
これはどう考えても中華による清=宦官派の切り捨てなのだが、以前から一定数存在していた国内の親中勢力(親宦官派)を勢い付かせていた。
「中華連邦は大清連邦を国家として承認すると言っています。これについてどうお考えですか総理?」
質問したのは剣尚人(けんなおと)
野党第一党、日本公民党の代表を務めている男だ。
「枢木総理大臣」
議会の委員長が総理の発言を促す。
「その件につきましては現在閣僚会議にて審議中です。追って方針を発表します」
枢木の言葉を聞いてさっと手を挙げる剣尚人。
「剣尚人君」
「閣僚だけで審議中ですか? 新国家の承認という大事を内輪だけでお決めになると?」
「そうは言っておりません。方針を決めた後は議会にて審議をさせて頂きます」
「何故今ではダメなのですか? 肝心要の中華が国として認めると言っているのですから、我が国も承認するべきではないのでしょうか?」
確かに中華は認めている。
これ以上ないくらいの承認とも言えるだろう。
これはやがて東南アジアも認めるだろうし、オセアニア、いずれは環太平洋諸国全てが認めることになるかも知れない。
ブリタニアだけは日本と共同歩調を取ってくれるかも知れないが、やはり中華が認めたというのは大きいのだ。
265 :枢木総理の悩み:2013/01/06(日) 22:58:08
だが、枢木個人としては認めがたいのも事実。
何せ大清連邦は独立時の自国領土に日本領である樺太まで入れているのだから。
『樺太は清国の領土』
そういって憚らない連中をどうして認めなければならないのか?
無論、戦争となれば日本が勝つだろう。だが向こうから侵略してきた訳でもないのに軍は動かせない。
そんなことをすれば唯の侵略国家だ。
まあ言っていることは高麗の方が上なのだが・・・。
何せ日本の皇家とブリタニアの皇族は古くをたどれば彼らの民族から始まっていると言い出したのだから。
それ以前に人類発祥の地だとも言っているので、全人類のルーツは彼らの民族となってしまうという滅茶苦茶な理論だ。
(売国奴め・・・貴様らが清と何らかの関係があるのはわかってるんだ)
いずれにせよ日本公民党が清や高麗と繋がっているという明確な証拠がない。
清の独立騒ぎのとき、日本国内のいくつかの企業で宦官派との繋がりが発覚して摘発されていたが、政界については全くと言って良いほど尻尾を掴めなかったのだ。
それほど巧妙かつしたたかな連中なのだろう。
同時に前世代以前の政治家達が軒並み引退してしまったのも大きい。
そして何よりも長年続く平和によって国民の中にもそれはどうなんだと思われる考えを持つ者も出てきている。
(平和ボケというやつだろうな・・・平和が一番なのだが、どうしても気が緩み人心が腐ってしまう。嘆かわしいがこればかりは地道な対策をしていくしかないか)
「清国の独立承認。そして友好条約締結と経済、技術支援をしていくことが、アジア太平洋地域のリーダーたる我が国の勤めではないのですか?」
「では此方からお聞きしたい。清国の主張する領土に樺太が入っていること、これについて剣議員はどうお考えか?」
「無論、樺太は日本の領土です。ですがそのことだけを理由にして清国との友好を結ばないというのは国家国益、世界平和に反します。それとも非侵略の国是を破って清国と戦争でも始めるおつもりか?
日本は帝国の名を冠してはいても断じて帝国主義国家ではありませんし軍事優先でもありません。そして何より非侵略を国是としております。よもやお忘れではありますまいな?」
大日本帝国と聞けばおどろおどろしく聞こえるが実態は歴とした民主主義の国である。
議員は選挙によって国民に選ばれ、選ばれた議員が帝国議会を動かすのだ。
その辺りは同盟国であるブリタニアとは違う。
といっても絶対君主制ではあるも平和主義を貫いている彼の国も方向性は日本と同じような物だが。
寧ろ絶対君主制であるブリタニアの方が素早く行動できる分いいのかも知れない。
「勿論です。我が国は建国以来非侵略を国是とし今日に至っております。ですからこれより先も侵略戦争は起こしません。但し降りかかる火の粉は払います」
「当然ですな。座して死を待つつもりは毛頭ございません。ですがそれと清国の承認は別問題です」
(あーいえばこーいう。口から先に生まれてきたような男だ)
結局、審議は平行線を辿り次回に持ち越しとなってしまった。
266 :枢木総理の悩み:2013/01/06(日) 22:58:59
*
審議を終え、これからまた閣僚達と会議がある枢木は重い足取りで歩いていた。
そのとき、彼の携帯が大きく震える。
ポケットに手を入れて取りだした形態の画面には枢木スザク。
彼の息子の名前が映し出されていた。
「もしもし私だ。まだ仕事中だぞ」
『ごめん父さんちょっと話があってさ。会議で遅くなるって聞いてたから電話したんだ』
「・・・・・・早く済ませろ」
『うん。あのさ、今日友達のお泊まり会に誘われたんだけど、行ってもいいかな?』
何でも明日が休みだからと学校の友達に誘われたらしく、ゲンブに許可を貰おうと電話したという。
息子スザクはもう高校生だ。親である自分が一々指図しなくとも物事の分別は付く。
そういう意味でも好きにしろと伝えた彼だが、続く言葉に多少の動揺を覚えた。
「誰の家に泊まるんだ?」
『生徒会長の・・・ミレイさんの家なんだけど、ナナリーも一緒に』
「なにっ!?」
ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
スザクと仲の良い年下の、ブリタニア皇女でもある穏やかな空気を纏う少女。
スザクが友達として付き合っているルルーシュ皇子の妹。
『いいかな?』
「あ、ああ、アッシュフォード家のお嬢さんのご家族は了承しているんだな?」
『うん。それは大丈夫』
「なら、いい」
『ありがとう。父さんもお仕事頑張ってください』
「ああ」
電話を切ったゲンブは大きな溜息を付く。
外交問題になるといった考えはない。友人として長年付き合っている彼らだ。問題など起ころう筈がない。
問題があるとすればゲンブ自身の心。
「ナナリー殿下・・・か」
あの穏やかな少女は精神的疲労が溜まる彼にとって一服の清涼剤でもあった。
彼女の何気ない気遣いの声がいつも心に染み渡るのだ。
妻に先立たれてよりこの方、彼の心を癒す存在は実質いないも同然だった。
息子のスザクは心を癒すというより、その成長を見守りたいという存在。
将来が楽しみな存在であって、心を癒す存在ではない。
やはり心を癒してくれるのは亡き妻なのだ。だが、妻がいない以上溜まり続ける精神的疲労は自然回復に任せるしかない。
そんな中、日本に引っ越してきたというブリタニアのルルーシュ皇子と友達になったスザクが家に連れてきたのがナナリー皇女だった。
初めて会ったその時、見ているだけで心が癒されていくのがわかった彼は、一目見た瞬間彼女に惹かれてしまった。
それ以来、息子と共に家に遊びに来た彼女を無意識のうちに目で追うようになった。
自分の視線に気付くと微笑みかけてくれる彼女に見惚れることもあった。
あるときスザクが「僕はナナリーの騎士になる」と言い出したとき、動揺して思わず
「お前のような未熟者がナナリー皇女殿下の騎士になるだと!? 世迷い言もいい加減にしろ!!」と怒鳴りつけてしまったこともある。
今にして思えばあの自分を癒してくれる穏やかな少女を奪おうとする息子に嫉妬していたのだろう。
はっきりと言ってしまえば恋慕の情を抱いていると言っても過言ではない。
だがそれ以来必死になって己を鍛え、ナナリー皇女の騎士を目指し始めたスザクを影ながら応援するようになったのもまた事実。
それでも時々考える。
もしスザクがナナリー皇女に惹かれて居なければ・・・自分が彼女の騎士に。
親子以上に年齢の離れた少女相手にそんな思いを抱いてしまうのだ。
だが、親である以上息子を応援しなければならない。
それもまた自分の勤め。スザクを押し退けて我を通すなど最低なことだ。
だから息子を応援する。
ゲンブは自分に出来るのはそれだけだと心を落ち着かせた。
267 :枢木総理の悩み:2013/01/06(日) 23:02:53
*
(ふ、思うようにはいかんな。仕事もプライベートも。つくづく嶋田さんが羨ましい)
彼にとっては先達である嶋田繁太郎はナナリー皇女の腹違いの姉に当たる、ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女殿下と昵懇の間柄だ。
自分とナナリー皇女と同じく親子以上に歳が離れているというのに実にお似合いの二人が既に恋仲なのは知っている。
少し前、旧年の挨拶の際に官邸の応接室で涙した嶋田を抱き締め慰めていたユーフェミア皇女。
あの時の彼女の姿がナナリー皇女と重なって見えたのは気のせいではないのだろう。
それだけの慈愛と包容力を持っているのだから。
あれから直ぐに嶋田とユーフェミア皇女が結婚を前提としたお付き合いを始めたというのを当人達から聞いている。
『誰が見ても恋人や婚約者の範疇を越えて夫婦の域に達している状態』
そんな話を聞いてしまうと自分ももしかしたら。
そう考えてしまうところが未練がましく腹立たしいのだ。
(私はスザクを応援する・・・それだけだ・・・)
決意を新たにしたゲンブは閣議に向かう。
それでも尚、心に引っ掛かった何かは取れそうもなかった・・・。
(今晩、辻さんが空いていたら一杯付き合って頂けないか聞いてみるか・・・)
最終更新:2013年01月16日 22:52