753 :749:2013/01/11(金) 00:22:32
提督たちの憂鬱ネタSS――「英国擲弾兵よ再び」

―新大陸(旧北米大陸)英国領外延部―

新大陸(旧北米大陸)の分割によって大陸領を得た列強各国がまず最初に行ったのは、獲得した領地の安定化と旧合衆国の遺産確保のための軍派遣、
そして各地に点在する自警団―と自称する武装勢力―の掃討であった。

英国領でもこの日、領土内に居座るこの地域最大の武装勢力の一大掃討作戦が行われていた。

「紅茶野郎がもうすぐこっちにやってくるらしいぜ。」

「へっ、何もできないまま海まで追い落としてやるぜ!」

配下から英国軍の攻撃の知らせを受け、根城である町の中で自警団員たちは臨戦態勢を整え気勢を上げていた。
彼らは合衆国崩壊時に持ち出した銃火器や弾薬、さらにM2中戦車や装甲を付けた武装トラックなどを有する
この地域では最大の武装勢力であった。またこの地域に進出したのが大戦時全く活躍がない英国軍であることも
彼らの気を大きくさせている要因でもあった。


同時刻 英国軍掃討部隊

「本当によろしかったのですか!?」

「何を慌てているのだね。まぁ紅茶でも飲んで落ち着きたまえ。」

「紅茶は頂きます。ですがわざわざこんなことをする必要はないと思われますが?」

「奴らは我々英国軍を完全になめきっている。我々はかつて彼らの主が誰であったかを改めて教える必要があるのだよ。」

「その考えには同意しますが…」


英国軍掃討部隊を指揮する指揮官は、不満顔の副官をなだめながら紅茶を一口飲むと、ぽつりと呟いた。


「そして何よりも…本国に“在りし日の大英帝国”の姿を見せなければ…」


 かつては7つの海を支配し、世界最大の海洋帝国を築き上げた大英帝国。しかし第一次世界大戦で威光という名のメッキは剥がれ始め、
此度の第二次世界大戦で完全に崩れ去った。戦時中は防戦一方で満足な戦果を挙げることが出来ず、日本を裏切ってまで頼ったアメリカ合衆国は津波で消滅、
自国も甚大な被害を受けた。そして今では大日本帝国の支えなくては国防を維持できないほど落ちぶれた国家の現状である。それも裏切りの代償である冷え切った
対英感情で思うように進まないとまさに「泣きっ面に蜂」の状況に多くの国民が失望し、日々英仏海峡対岸から迫る本土決戦の恐怖に怯えていた。
その中でこのような考えを持つ人達が生まれるのは必然であったのかもしれない…

「かつての強い英国をもう一度」「在りし日の大英帝国をもう一度」

 この考えは、戦争終結後から次第に軍民関わらず広まりをみせた。軍人層を見れば、フランス戦やバトル・オブ・ブリテンで
精強なドイツ軍と相対し死闘を演じた者、日本軍との交流で自国との兵器格差をまざまざと見せつけられた者など、外国と自国の現実の差を知る者ほど
その考えに染まり易かった。この懐古主義的愛国心にかられた軍人や技術者が英国面を発揮させ、成功・失敗も含めた、多種多様な
「防衛兵器」や「秘密兵器」、「決戦兵器」を生み出したともいえる。

この指揮官もその考えに染まった軍人の一人である。新大陸領に派遣されることになった彼は、かつての栄光ある大英帝国を自らに与えられた部隊で再現しようとしていた。
彼は新大陸に渡る際、とある友人にこう告げていた「かの地で英国擲弾兵を蘇らせる」と…


「報告します。間もなく作戦開始時刻です。」

指揮官は報告を聞くや、カップに残った紅茶を飲み干して指示を出した。

「よろしい。では進撃開始! 戦車部隊は一列横隊で前進、いかなる砲撃を受けても前進を止めるな!」

その指示を合図に通常型と榴弾砲搭載型のマチルダ歩兵戦車が最前列と側面を固めながら進撃を開始した。その後ろを火炎放射器搭載型マチルダや
バレンタイン歩兵戦車、歩兵を乗せたトラックやブレンガンキャリアーが戦車に守られるようにゆっくりと進みだした。

英国軍の車列はまるで歩兵戦車で構成された戦列歩兵のような陣形であった。この時代錯誤な陣形に加え、さらに普通と違う点があった。それは全車両とも
砲塔やスカートアーマーなど車体の一部がく塗られていることであった。
そして彼らを鼓舞するように指揮車に増設されたスピーカーからは『英国擲弾兵』のメロディーが高らかに響いていた…

 赤い塗装を纏い『英国擲弾兵』を響かせながら、どんな攻撃の前にも前進を続ける英国軍の戦列。対して様々な武器を用いて応戦する民兵の姿は
かつての独立戦争、そして栄光ある英国擲弾兵の姿を僅かながらこの時代に蘇らせていた。

[終わり]

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最終更新:2013年01月11日 19:17