760 :taka:2013/01/11(金) 11:54:08
ワルシャワ騒乱編その2 既に旧式化したブツも使いようとはこの事
761 :taka:2013/01/11(金) 11:55:11
怒号、怒声、銃声。
ワルシャワのメインストリートは追い詰められたポーランド人達の坩堝と化していた。
既に枝分かれして消え去った歴史に有るような、ポーランド国内軍の如き組織的なものはない。
空腹と絶望感とドイツ人という簒奪者に対する憎悪、暴動に参加している者達はそれに支配されていた。
「しかし、こいつをワルシャワで撃つとは思わなかったぜ」
「だな、西はドーバーの沿岸、東はウクライナまで行ったけど」
「飛行機でもない、雪崩みたいにやってくるソ連兵でもない、ワルシャワの暴徒とはねぇ」
ブツクサ言いながら2 cm Flak 38を三人がかりで押しているドイツ兵達。
彼らはワルシャワ近くの軍用空港の守備隊員だったが、鎮圧の為に狩り出されて来たのだ。
旧式化して倉庫にしまわれていた防空用の2 cm Flak 38を引っ張り出して、である。
「こら、喋ってないでさっさと押せ、早いトコ暴徒を排除して孤立している警備部隊やドイツ市民を救助せねばならん!」
無駄に張り切っている新品少尉のかなきり声に、ドイツ兵達はげんなりとした。
戦争後に尉官になったこの青年とは違い、彼らはそれなりに戦場というものを見てきた。
自分達が押している2 cm Flak 38、そして両手にぶら下げて運搬している20mm機関砲弾。
これらが今から何をもたらすか、理解している者と、全く理解してない者との違いである。
やがて2 cm Flak 38は、幾重にも張られているバリケードへと到達した。
即席で作られたバリケードに張り付いているのは警備兵が大半であり、中には警察官すら居る有様だ。
どうやらまともに戦え、尚かつバリケードへと直進してくる暴徒の群れをどうにか出来るのは自分達だけのようだ。
友軍の無線によれば本国やケーニヒスベルグから続々と鎮圧部隊が出動しているらしい。
だが、暴動はポーランド全土に飛び火しているらしく、対応には時間がかかっているようだ。
だから鎮圧部隊が来るまで、どうにかして連中を押し止めなくてはならない。
「よぉし、警告は無視された! 仰角は水平でいいぞ」
スピーカーでの暴徒への解散命令は無視された。
警察官十数人がこれ見よがしに拳銃を掲げ、発砲を繰り返したが歩みは止まらない。
いや、ここで素直に解散しても明日はないという追い詰められ具合が、彼らを前進させ続けている。
血走った無数の殺気に満ちた眼。そして彼らが手にしている武器。
隠し持っていたか、警官から奪ったのか、時折銃声と共にバリケードへ弾が着弾する。
そして、その中の一発が2 cm Flak 38の防盾に当たり甲高い音を立てた。
傍に立っていた新米少尉は、その瞬間に持っていた筈の冷静を瞬時に失った。
「う、撃てぇぇぇぇぇ!!!!」
上官が命令を発した。ならば、部下は撃たねばならない。
射手は苦みに満ちた顔をしながらも、躊躇わず発射した。
砲身を左に旋回させた後、少しずつ右へずらすようにスライドさせながら。
こうしてなぎ払うようにして撃った方が、集団で押し寄せて来る連中には有効だとソ連相手に学んだからだ。
等しく銃撃を浴びせる事で敵の戦意を喪わせる。突出を挫く。
それがただの暴徒相手であるならば、充分に過ぎた。
バッ、バッ、バッ、バッ、バッ!!!
金属音と共に薬莢が吐き出され、劈くような発射音が響く。
射手は舌打ちする。ああ、砕ける様はソ連兵もワルシャワのポーランド人も同じだなと。
金属で作られた飛行機や軽装甲車に大穴を開ける20mm砲弾が、900 m/sで飛んでくるのだ。
人間など粘度人形のように千切れ、吹き飛んでしまう。
20発を撃ち尽くし、次の弾倉を込めている間にバリケードの向こう側を窺う。
何割かは逃げ出し始めているが、残りは走り始めてきた。……更に残りは、路面に潰れた西瓜のように蹲っている。
取り憑かれたように、警官が拳銃を撃ちまくる。
警備兵達がKar98k小銃やMP18を盛んに暴徒達へ撃ち込む。
走っている人間が奇妙な踊りを踊り、地面に倒れて赤い液体を広げていく。
「装填よし、撃ち方始め!」
次の弾倉が込められたのを確認し、射手は宣言するように叫んで再び機関砲を轟かせた。
新品少尉が俯きになり、ゲェゲェと嘔吐しているの視界の隅で捉えながら。
やおい
最終更新:2013年01月11日 19:20