725 :ひゅうが:2013/01/10(木) 22:57:03

提督たちの憂鬱ネタSS――「On the Beach1945~聖ジョージの剣、或いはクラウドメイカー~」


――西暦1945年1月2日 英国上空1万2000m


「俺は何故こんなところにいるんだろう…」

「え?そりゃ仕事だからじゃないんですか?」

「誰の所為だと思っているんだ誰の!!」

ドワイト・ライオネル・タワーズ「准将」は周囲の轟音に負けじとばかりに思い切り叫んだ。
彼が乗る、航空機にしては大きな方なコクピット、その指揮官席。
その左隣に特設された座席では、白衣の男が酸素マスク上からも分かるほどのニヤケた笑みを浮かべていた。
畜生。いつか○してやる。

何十回か何百回か繰り返した思考を、英国人らしい意地や義務感で押し殺しつつ、タワーズは地上で待つ妻のモイラの顔を思い浮かべることで辛うじて平静を保つことができた。

「それで、今日はいったいどんなトンデモ兵器を披露するつもりなんです?シュート技官?」

「おや?言っていませんでしたか?」

おかしいなぁと頭を書く白衣の男、英国特殊兵器開発局長 ネビル・シュート中将待遇技官はどうやら素で伝えるのを忘れていたらしかった。
今朝、豪州スタイルの朝食をとっているところにいきなり黒服の迎えをよこされたタワーズはげんなりとなった。
彼の直属の上司であるシュートは、タワーズを彼の助手か何かと考えているらしくこうして唐突に呼び出し、また詳細な説明をしないのが癖のようになっているのだった。
そのため、呼び出されたいろいろなところでタワーズはいつも大変な目に会っている。

――百歩譲って爆発はいい。
いや、爆発にあう頻度が異常な気もするが軍人である以上は耐えられないこともない…
だが、彼が付き合わされるのは控えめに言っても「トンでもない」ものばかり。

艦底部にずらりとロケットエンジンをならべた「飛行戦艦」でコーンウォール半島を飛び越えたかと思えば、ドーバーの白い崖に設けられた秘密基地から「火を吐くボビン」パンジャンドラムの一斉発射を目撃する。
その後も、海軍の人間であるにもかかわらずどこから引っ張り出したのかわからない多砲塔重戦車に乗せられたり、地対空火炎放射機の火の粉が髪の毛に引火して転げまわったりとどこのコントだと言わんばかりの心臓に悪い出来事が続いた。

「あ…思い出したら胃が痛く…」

極東の某組織に属する某独裁者(笑)ならば思い切り同情することは確実な境遇をタワーズは怨まざるを得ない。

ともあれ、クリスマス(新年)休暇ただ中だった筈なタワーズがこの「上司」に連れられて巨大な爆撃機の機上にいるのはそういうわけだった。

「しかし…この怪物は何なんです?」

タワーズは、強化ガラス張りのコクピットの左右を見ながらそう問うた。
説明したくてうずうずしていたらしいネビル・シュートは「よくぞ聞いてくれました!」とばかりにこの全幅70メートルを越える巨大な機体の説明を開始した。
英国中部のバーミンガム基地から飛び立ったこの機体は、はっきりいって怪物そのものだった。
アヴロ・テューダー。
これは簡単にいえば日本製の「連山」をもとにした「ランカスター」爆撃機を横に2機連結したような機体だった。
発動機は旧合衆国がら手に入れた(略奪した)プラットアン・ドホイットニーR4360、現在の呼称ネピア「バルチャー」4500馬力エンジンを8発(!)搭載。
双胴構造の胴体間を主翼と後部尾翼、そして両翼と胴体間を十字形に繋ぐリブ(梁)で繋ぎ、前縁部に操縦用のコクピットを設けている。

そして、リブ(梁)の下には巨大な魚雷形の筒が懸架されていた。
(これらのスペースを作るためか、双胴の間にある内翼からは4発のうち2発のエンジンが左右翼に1発ずつ移動され主翼が延長されている。)
明らかにその中に巨大なナニカが積み込まれているらしく、離陸には内翼に備え付けられたRATO(ロケット)で加速してまで強引に機体を持ち上げるという乱暴な方法がとられている。

726 :ひゅうが:2013/01/10(木) 22:57:58

「ランカスターの後継機だからテューダー。我が国らしいいい加減な命名だと思わないか?」

「いささか不敬ですが同意します。そのうちクロムウェルなんて名前をつけかねませんね。」

イギリス・ファシスト党が台頭する中で薔薇戦争や清教徒革命をネタにするあたり英国人らしくタワーズも投げやりに応じた。

「で?このデカブツだけではないでしょう?」

「もちろん。私ならもっと全面的にいじっている。ラムジェット加速器だけで済ませるなんてことはしないさ。」

明らかに改造できなかったのが不満である表情なシュートにタワーズは苦笑し、操縦している機長が苦虫をかみつぶしたような表情であることに気がついた。
どうやら、彼らが見ている間にさんざんいじりまわしたらしい。

『あの程度でイヤになるなんてまだまだ…、いや、俺は何を順応している!?』

ぞわぞわっとさぶいぼが出たような気分になったタワーズは、つとめて笑みを浮かべるようにした。
実は無表情を意味しているあたり、まるで日本人のようである。


「我々は、『あれ』を撃沈する!!」

ババーン!と効果音が出るような奇妙なポーズでシュートはコクピットの一角を指さした。
そこには…


「戦艦『ネルソン』!?」

ひきつった表情でタワーズは航空写真に映し出されたフネの正体を言い当てた。

「って…あれ、飛ばすのはやめになったんじゃないですか!?」

「挑戦心を忘れたバカどものおかげでな。一度くらい飛ばせてもいいのに…」

おいおい。

「だから壊してやるのだ。憎いから。」

「憎いから!?」

「間違えた。実は――」

シュートが言うには、これは大英帝国海軍の不甲斐なさを補うための作戦であるという。

「わが祖国は私の提案した120万トン戦艦や氷山空母の建造は『まだ』できない。金がないからな。」

そんなもの提案してたのか。とタワーズは半眼でシュートを見た。
しかも建造をまだあきらめていないらしい。

「しかしあのジャガイモ喰いどもやカエル喰いどもは欧州統合海軍と称してロイヤルネイビー以上の戦力を整備しようとしているらしい。」

正面から対抗するには数が足りない。
ならば、彼らの弟子である日本海軍が太平洋で実現した戦果にならうべきである。と、シュートは考えたらしい。
「ランカスター」用に開発されていた5トン爆弾「トールボーイ」。
ドイツのジークフリード要塞線攻撃のために開発された地中貫通爆弾を英国海軍は対艦攻撃に使用することを考えていた。
と、ここまではいい。
そこに「あらゆる兵器行政に介入できる権利を持つ」シュートが介入した。
彼は考えた。

「どうせなら、単機能にしか使えないトールボーイやその発展型のグランドスラムではなく、もっと多様な任務を果たせるスーパーウェポンを作るべきだ!!」

そこで持ちあがったのが、ドイツ領奥深くの戦略目標に対し「大打撃」を与え得る巨大な爆弾の開発。
陸海軍の検討会の前に現れたシュートは奇妙なポーズをキメつつ仕様を披露。
大いなる困惑と期待を受けて暴走を開始した・・・らしい。


「ふっふっふ。弾頭重量20トン、航続距離120キロ。終末速度は音速を越えるこのT20『セント・ジョージ』を阻止できるのは日本人くらいなものだ!!」

「いま、航続距離とか言いませんでした?」

「うむ。こいつはロケットエンジンで巡航できるのだ!」

「本機が吊り下げている魚雷みたいなものは誘導ロケット弾だったわけですか…にしてもよく作れましたね。誘導装置が小型化できなくて困っていたのでは?」

確か地対空ミサイルの開発がそれが理由で難航していたはずだ。

「ああ。だが逆に考えた。『別に誘導弾本体を大きくしても問題ないのだろう?』と!」

こいつ、大丈夫か?
というか何トン積んでるんだろこの機体。

727 :ひゅうが:2013/01/10(木) 22:58:45

「こいつなら、あの『ちょび髭のおうち』の○○穴に突っ込んで奥歯ガタガタ言わせられる!見える、見えるぞ私には見える――」

「あー、准将殿。そろそろ発射空域ですが。」

明らかに人間工学的におかしいポーズで独演会をはじめたシュートをちらりと見つつ、行儀よくやり取りを無視していた機長がタワーズに言った。

「あー。」

タワーズは理解した。
自分は、この変態のお守のために呼ばれてきたのだと。
最近、日本のヒラガとやらに加えて元北米人のテラーという人物とも文通をはじめ、ますますエキセントリックになったこのシュートは、常人には扱いかねると上は考えたのだろう。

「じゃ、発射しちゃって。」

「了解!発射シーケンス開始します!!」

まぁ、弾頭をあの原子爆弾に変えれば簡易な戦略攻撃手段になるだろうし、そのうち危険な赤煙硝酸だのを使わずとも済むようになるだろう。
その意味ではこの男の発明は大英帝国にとって有益だ。
毒ガス攻撃や枢軸の核攻撃に対する報復手段として、空中待機する戦略ミサイルというのもまぁ悪くはないだろうさ。

ようやっと軍隊らしい緊張感の中発射シーケンスが進行するのを確認しつつ、タワーズは現実逃避ぎみにそんなことを考えていた。


「オレはマトモな研究者をやめるぞー!!タワーズううう!!」

ああ聞こえない。聞こえない。
あとこんなのに今後もずっと付き合わなければならないなんてことも知らない。
轟音をあげて空中を突進しはじめた巨大な巡航誘導弾の噴射炎をバックに叫び始めたシュートを、今度はタワーズも無視した。


――なお、発射実験は成功裏に終了し、あわれ「ネルソン」は一撃で轟沈したことを付け加えておく。

728 :ひゅうが:2013/01/10(木) 23:04:54
【あとがき】――ネビル・シュートとあわれなタワーズさんネタでした。
以前「パンジャンドラムに愛をこめて」と「救国兵器1号、その名は…」と続いたネタの続きです。
詳細なスペックについてはまた後ほど。
元ネタはハインケルHe111Z「ツヴィーリング」とT‐20「クラウドメイカー」です。

743 :ひゅうが:2013/01/10(木) 23:47:57
あと、ネタ>>725-728「On the Beach1945~聖ジョージの剣、或いはクラウドメイカー~」で書いた「テューダー」爆撃機のスペック案を投下いたします。
やっつけ仕事ですのでいろいろいい加減ですが、かなりの怪物です。


【追記】――アヴロ・ロイヤルブリティッシュ「テューダー」

全長:36.8m
全幅:72.1m
全高:7.2m
最大速度:毎時612km(通常時) 毎時756km(ラムジェット使用時)
発動機:ネピア「バルチャー」(R4360)空冷4列28気筒4500馬力×8基
航続距離:4290km(最大爆装時) 10800km(空虚・偵察時)
武装:20ミリ機関砲10門 12.7ミリ機関砲8門(のちに対空誘導弾6発)
爆装:最大56.8トン

【解説】――英国空軍が作り出した超大型戦略「攻撃」機。
実戦には間に合わなかったアヴロ「ランカスター」を1.5倍に拡大し2機横に連結したような形をしている。
高翼配置に変更された主翼の中央翼下に兵装ポッドかT20「セント・ジョージ」超大型誘導ロケット爆弾を搭載し、ドイツ領内の戦略目標や北海洋上の枢軸艦隊のはるか上空より攻撃を行うことをその設計目的としていた。
これは、ドイツ本国の防空システムの能力の高まりに対し、英国空軍が1000機単位での戦略爆撃を行える体力を有していないがための選択である。
そのため、爆撃機としての高性能さはあえて求められず大重量を持ち上げられる空中プラットフォームとしての性能が重視された。

本機とあわせて開発された重量52トン、最大弾頭重量20トンという狂気じみたT20「セント・ジョージ」は枢軸国が建造予定のあらゆる大型艦艇に対し重大な打撃を与えるか、厚さ10メートル以上の重防御鉄筋コンクリートを貫くことを目的に設計されており、ロケットアシストにより部分的な巡航誘導を可能としている。
誘導方式は赤外線誘導に加えTV画像を機上で確認しつつ操縦するという方式で、3軸ジャイロによって機体の安定化が図られている。
もちろんこれ以外でも、敵戦闘機群の邀撃圏外からの長距離巡航弾攻撃も可能となっている。
設計当初から核弾頭や化学兵器の搭載が考慮されているために、将来的には英国報復攻撃の柱となることが期待されている。

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最終更新:2013年01月11日 19:31