520 :帝都の休日 第5話:2013/01/15(火) 22:46:01
提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
Y氏=いっくんロマンス
Y氏独身設定
甘い話
平和
521 :帝都の休日 第5話:2013/01/15(火) 22:47:08
帝都の休日 第5話
白い羽
雪降る帝都は渋谷のハチ公像前。
そこに厚手のコートを着た長い金髪の女性が立っていた。
彼女の名はリーライナ・ヴェルガモン。
在日ブリタニア大使館で警備の任に着いているブリタニア軍の騎士だ。
可憐な容姿をした見掛けからは想像できないが、本国に於いてはナイトオブテン ルキアーノ・ブラッドリーの親衛隊に所属している程優秀なKMF乗りでもある。
休日であるこの日、リーライナは此処で待ち合わせをしている歳の離れた恋人を待っていた。
「いっくん、今日は遅いな・・・」
“いっくん”とは彼女が付けた恋人の愛称だ。因みに自分の事は“リーラ”と呼ばせている。
付き合い始めた頃に「貴方の事は“いっくん”て呼ぶから、私の事は“リーラ”って呼んでね」と持ち掛けてこうなった訳だが、当初いっくんの方は嫌がっていた。
『60にもなって“いっくん”は無い!』というのが彼の主張だったのだが、結局は彼女が押し切るような形で愛称で呼び合うのを認めさせたのだ。
彼との出会いは自身が警護しているブリタニア大使館の大使補佐、神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミアが、ある男性とデートをしているのを街で見掛けて後を付けていた時だった。
その時に男性の友人だという彼に(二人の邪魔をしているのでは?)と勘違いされて、羽交い締めにされたところから付き合いが始まったのだ。
初めの内は“二人の仲を邪魔しようとする人達の行動の阻止!”という共通の目的の下、連絡を取り合って休みの日に会っていた。
特に何かあるわけではなく二人で行動しながら、いっくんの友人である男性とユーフェミア皇女を影からサポートしていたのだ。
それが会う回数を重ねるごとに次第に彼自身を意識するようになっていった。
自分に対する何気ない気遣い。
生真面目な顔に時折見せる子供のような笑顔。
日本を守るという話をするときの強い意志と凛々しさ。
リーライナはそんな彼の姿に惹かれていった。
そしてあるとき、急な雨のなか雨宿りに入ったホテルで関係を持ってしまった。
そういう場所である為二人して雰囲気に流されてしまったのかも知れないが、「嫌なら言ってほしい」という彼に彼女は首を横に振ったのだ。
「別に良い・・・貴方になら抱かれても」と。
抱かれている間、ずっと自分の名を呼び続けてくれたいっくん。
初めてである自分を、静かに、ゆっくりと、労るように抱いてくれた彼の優しさ。
そうして最後の瞬間まで求め、溶け合い続けた。
あの日を境に自分たちの関係は決定的に変わった。
共通の目的を持つ同士から友人へとなっていた関係が。
友人から恋人へと昇華したのだ。
522 :帝都の休日 第5話:2013/01/15(火) 22:47:39
「すみません」
彼との事を振り返っていたリーライナは自分に掛けられた声にはっとなって振り返る。
彼女は待ち人であるいっくんの姿を思い浮かべたのだが――生憎と立っていたのは見覚えのない男が一人。
(はぁ、)
思わず心の中で付いた小さな溜息。
表に出していたら流石に失礼だったが、出ていたとしても仕方がない。
まだかまだかと待っている恋人かと思えば、全く関係ない赤の他人だったのだから。
「何か用ですか?」
多少棘のある言い方になったのはこの際大目に見て貰いたい。
「募金をお願いしたいのですが」
そんな彼女に男がずいっと差し出してきたのは白い箱。
真っ白に見えた箱の真ん中にはクリオネという生物に似た何かが描かれていた。
(募金団体のシンボルかしら?)
見ようによっては天使にも、そして悪魔にも見える箱に描かれた生物は何処かで見たような気がした。
しかし幾ら思い出そうとしても出てこない。
「お願いできませんか?」
考え込んでいたまま返事をしない自分にダメなのかと思ったようで、男は箱を手元に戻そうとする。
「あ、ごめんなさい」
我に返った彼女はバッグから財布を取り出して千円札を出すと、箱の上部に開いた投入口に入れた。
普通募金と聞いて入れるのは大抵十円や百円などの小銭だが、ブリタニアの貴族階級では寄付というのが半ば義務となっている為、自然に札を入れたのである。
富める者である貴族は貧しき者を助ける義務がある。
父や母などは良くそう言っていたし、自分もまたその通りだと思う。
尤も、努力もしない怠け者だけは例外なのだが。
「ありがとうございます」
七三分けの髪型にビジネススーツを着た、如何にもサラリーマン風の男は彼女の寄付に深々としたお辞儀をして、懐から一枚の羽を取り出した。
「どうぞ貰ってください」
「は、はぁ・・・」
その羽は募金箱の色と同じくすみの無い真っ白な羽。
箱に描かれているクリオネのようなシンボルを見たせいか、まるで天使の羽を連想させた。
そして、その羽を彼女にくれた男は。
「良ければまた募金お願いします。美しき世界平和の為に」
という言葉を残して踵を返すと人混みの中に消えていった。
523 :帝都の休日 第5話:2013/01/15(火) 22:48:30
*
「遅くなってすまん」
募金箱の男に貰った羽を見ていたリーライナに声を掛けてきたのは、今度こそ待ち人である彼だった。
「いっくん♪」
短く刈り込んだ坊主頭。
生真面目そうな印象を与える顔つき。
六十前後に見える中年の男。
リーライナの恋人いっくんだ。
「大分待たせてしまったかな」
「ううん、そんなに待ってないわ。でもいっくんはいつも私より早く来てるから何かあったんじゃないかって心配だったの」
「心配掛けてすまんなリーラ」
何でもこの雪が原因で渋滞に巻き込まれたらしく、途中で乗っていたタクシーを降りて走ってきたらしい。
(もう、年なんだから無茶しないでよ)
いくら身体を鍛えていて体力もそこらの若者よりあるといっても彼は御年六十なのだ。
その為、こうやって無茶をするときいつも心配でならない。
無論自分の事を想って無茶をしてくれるのは正直に言えば嬉しいのだが。
「ん・・・? リーラ、その羽はどうした?」
「え?」
いっくんは彼女が持っている羽を見て怪訝な声で呟く。
どうしてそんな声を出すのか気になったが、取りあえずこの羽を貰った経緯を話した。
「白い羽にクリオネに似た生物・・・ピースユニオンか」
ピースユニオン。
平和の連合という名の通り慈善事業や環境保護、平和主義を推進する思想団体。
思想団体と呼ばれる理由は勧誘されて入り、脱退した人が口を揃えて言うからだ。
『宗教みたいだった』と。
更に脱退しようとしたら『天使に呪われて不幸になる』『自分が大丈夫でも家族や親戚に不幸が』などと脅迫とも受け取れるような事を何人にも囲まれて言われるらしい。
そこで怯めば丸め込まれて脱退できなくなるのだという。
そしてこの団体は世界中で活動中というかなり広範囲に展開しているのも特徴だ。
日本・ブリタニアを始め、中華やEUなどでも活動している。
それぞれの国で“美しき世界平和の為に”を合い言葉に勧誘や募金、慈善事業にせいを出しているのだ。
「あ! 思い出したわ。新年に帰国したときブリタニアは二国間平和主義で良いのかなんて叫んでた人達ね」
「日本でもうるさいぞ。美しき世界平和の為に日本は大国としての役目を果たせとかな」
「ブリタニアと日本の役目って?」
「わからんよ。まさか紛争地域に武力介入して解決しろだとか言い出したりはせんと思うが」
「それ平和とは真逆じゃない・・・」
日本とブリタニアは国際協調主義を取ってはいる物の二国間平和主義的性質が強い。
同盟を結んでいる相手がお互いしかいないのがその最たる部分だ。
そこに割り込もうとする何処ぞの小国などからは見向きもされない腹いせに“最強の自己平和主義者”などと揶揄されてもいた。
はっきり言って大きなお世話だ。自分たちの力を利用しようと近付いてきて邪険にされればあること無いことデマを流す。そんな連中は最初から願い下げだ。
それに互いが組んでいれば他に同盟相手など要らない。
尤も何処ぞの国とピースユニオンは関係ないらしいのだが。
「私、寄付しちゃったけど拙かったかな?」
「慈善事業は本当にやっておるようだから大丈夫だ。それにリーラは善意で寄付したのだから気に病むな」
「いっくん・・・」
そして、もうこの話は止めよう。
せっかくの楽しいデートが台無しになる。
という彼にリーライナも気持ちを切り替えた。
「そうね。じゃあいっくん、行こっか」
「ああ。まずは昼飯でも食べるか? 走ったから腹が減ってな」
リーライナはいっくんの腕に自分の腕を絡めて、引っ付いたまま歩き始めた。
彼は周りの目を気にして離れてくれというが、この方が暖かいからと拒否する。
それに恋人同士なのだから腕を組んで歩くのは当たり前。文句は言わせない。
こうしてリーライナはいっくんと二人仲良く腕を組みながら、渋谷のハチ公前を後にした。
最終更新:2013年01月16日 22:46