538 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:29:57
提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
性格改変注意
綺麗な枢木ゲンブ
帝都の休日と同一線
時系列は第5話の少し先
政党、人物は架空の物
539 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:30:29
枢木総理の悩み 第2話
第××回帝国議会 衆議院本会議
大日本帝国首相 枢木ゲンブはいい加減うんざりしていた。
「枢木総理、清国の国家承認と友好条約締結の件、進展がないようですが一体どうなっているのですか?」
これだ。毎日毎日こればかりに終始して他に決めなければならない事がちっとも前に進まないのだ。
野党、日本公民党はそれが分かっていてやっているから余計立ちが悪い。
予算委員会で協力を求めようとしても“清の承認”を引き替えに出してくるので空転状態が続いている。
(貴様らは何処の国の人間だッ!!)
本気でそう叫ぼうとしたのが一度や二度ではすまない程しつこい。
(貴様らのような売国奴に言われずとももう承認する方向で話は付いている)
数日前に中華連邦に特使として派遣した外務省の人間が先日帰国した。
その際に事細かな状況報告を受けていたのだ。
『中華は清の独立と承認で纏まりました』
紛争当事国である中華連邦が正式に方針を打ち出したというのが決定打となり、既に幾つかの国が承認に動いた。
隣の高麗が認めていたのとは訳が違う。国際的な流れが出来てしまったのだから。
当然これは今朝の閣議でも取り上げられ、最終的には大日本帝国として大清連邦の独立認め、国家として承認するという方向で調整は付いた。
但しそれには避けて通れない問題があり、これの解決無くしては彼の国を国家として認める事など不可能だ。
それを野党に説明するため枢木は手を挙げた。
「枢木総理大臣」
議長の指名で立ち上がった彼は壇上に立つ。
「進展はありました。我が国としては大清連邦を独立国家として承認する方向で調整中です」
“おお~~っっ!!”
枢木の言葉に野党席からは歓声が上がり、拍手する者まで現れた。
皆が皆、よかったよかったと喜びの声を上げている。
だが、その中の三人だけは口元に笑みを浮かべただけで、それ以上の反応は示さなかった。
明らかに他の有象無象とは色んな意味で一線を画するその三人。
日本公民党代表 剣尚人。
同党代表代行 大沢二郎。
同党幹事長 鳩川雪夫。
(この連中の澄まし顔を見ていると気分が悪くなる・・・)
枢木は彼らが嫌いだった。
全身真っ黒でありながらも憲政の中枢に駆け上がってきた剣。
大きな影響力を持ちながらも常に一歩引いた場所で暗闘する豪腕大沢。
そして何を考えているのか理解不能な男、鳩川。
三人共にタイプの違う政治家ではあるが、誰一人油断が出来ない相手なのだから。
540 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:31:13
そんな事を考えていると今度は剣が挙手した。
「剣尚人くん」
「総理、大変喜ばしいお話ではあるのですが一つ気がかりな点が」
「なんでしょう?」
「調整中とはどういう事ですか? 正式に決定したのではないのでしょうか?」
(まあ、そう来るだろうな)
「はい、正式にはまだです」
「理由は?」
「ご存じのように清が我が国の領土である樺太の領有を主張している。この一点が正式な決定を下せない理由です」
「それでは結局話が進まないのでは?」
「いえ、その点に付いてはご心配に及びません。近々この問題の関係各国、中華、清、高麗、日本、ブリタニア、EU、の六カ国による国際会議が開かれる手筈になっております」
中華は清の分離独立の当事者。
高麗はいち早く清を承認した現在唯一の友好国。
日本は樺太の領有問題――日本は領土問題を認めてはいないが、この六カ国協議に於いて清の領有権主張を取り下げさせるつもりである。
ブリタニアは同盟国日本の領土が侵されようとしている為、二国間相互防衛同盟の元会議に参加+場合によってはブリタニア側から不正に流れたKMF技術に付いての詰問。
EUは清との国境の線引き。
一国家の承認に世界四強が一同に会するという前代未聞の事態である。
尤も、中華に挑戦しようと機会を伺う清に取っては、大国の動きを見られるまたとないチャンスだ。
日本とブリタニアの二大超大国が動いているのも大きい。
そして何より、この六カ国協議開催を一番喜んだのが高麗共和国だったりする。
何故なら高麗以外の国は清に良い感情を持っていない為、中立的立場は難しいとなり、消去法的に高麗が議長国になったからだ。
つまり高麗は日・ブの超大国。それに続く中華・EUという大国の意見を纏めるという建国以来の絶頂期に躍り出た訳である。
『超大国高麗!』
『高麗万歳!』
これを知った高麗国民は遂に高麗も列強の仲間入りだと大騒ぎしていた。
大統領の李・承朝などは六カ国協議用にスーツを新調した程だ。
541 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:31:49
それぞれの目的の下、東アジア六カ国協議の開催が既に決定していた。
その会議を持って正式に大清連邦の国家承認となる予定だが、場合によっては物別れとなり清側の出方次第では戦争もありうる状態なのだ。
「なるほど、全く進んでいなかった訳ではないのですね」
「ええ、連日の議会空転のようにはなっておりませんのであしからず」
「・・・・・・質問は以上です」
暗に野党側のせいで空転していると示唆したのは、せめてもの意趣返しという物だ。
そして多国間協議で決定する事になる以上、同じ問題で議会を空転させる事は許さないとの意味もあった。
これで質疑応答は終わりだと自分の席に戻ろうとする枢木。
だがそのとき、沈黙していた男が手を挙げた。
「鳩川雪夫くん」
議長が呼んだその名を聞いて枢木の顔に嫌悪の色が浮かぶ。
この男は生理的に受け付けないのだ。
絶対にお断りだが、これと友達になるくらいなら剣と親友になる方を選ぶ。
「ええ~、私からは一言だけですのでお時間は取らせません」
「・・・・・・どうぞ」
「枢木総理・・・」
“日本は日本人だけのものではない!!”
堂々と、はっきりと、誇らしげに叫ぶ鳩川。
その顔には『俺が正しい』『俺はやり遂げた』そんな感情が見て取れる。
(日本人のものでなければ誰の物だというのだ!!)
こういう理解不能な事を平然と言いながらも公民党の大幹部という事実が枢木は信じられなかった。
これを支持している人間が一定数存在している。
それを考えるだけで頭が痛い。
「これを覚えて置いてください。そして日本海、オホーツク海などの近海を友愛の海にしましょう!!」
「・・・・・・」
「以上です」
反論する気力を奪う、相手に出来ないという気にさせるという所は凄いのかも知れないが・・・。
542 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:32:33
*
本会議が終わり議場を出た枢木は国会の廊下を歩いていた。
これから官邸でやらなければならない事が山ほど残っている為、今日も帰りが遅くなってしまう。
(ふぅ、嶋田さんではないが・・・私も纏まった休みが欲しいものだ)
そんな事を考えながら歩みを進める。
足取りは重く、ただ歩くだけでも体力を削られているような気がした。
それもこれも剣や鳩川のせいだといらいらする彼に、秘書から更なるストレスの元が投下されてしまった。
「総理・・・あの、公民党の鳩川議員がユーフェミア殿下と対談したいとか言っているそうですが・・・」
「なんだとっっ!?」
神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア。
慈愛の皇女と呼ばれる程心優しい愛の溢れる人物である。
その彼女にあの鳩川が何の用事だというのだ?
「はあ、なんでも慈愛の皇女と呼ばれるほどのユーフェミア殿下なら“友愛”を理解出来る“友達”になれる筈だと・・・」
友愛とは鳩川家に伝わる代々の考え方で、例えどのような相手であろうとも胸襟を開き心と心で語り合えば友情が生まれる。
人類皆友達。自分の物は自分だけの物ではない、みんなの物。赤の他人でも一度話をすればもう親友。
つまり、“友達”と思った時点で既に友達なのだ。
鳩川が常々言っている『ボクの友達』は、人類全てが当てはまるという、素晴らしい物である。
そんな彼が最近よく言うようになったのが『ボクとユーフェミア殿下は、きっと親友になれるよ』という妄言。
慈愛の皇女だから“友愛の皇女”にもなれるという理解不能な事を言っているのだ。
「絶対に阻止しろっ!! あの訳の分からんイカ○タ男とユーフェミア殿下を合わせるなっっ!!」
(嶋田さんと婚約したばかりで幸せ一杯なユーフェミア殿下をあんなアホに邪魔させる訳にはいかんっっ!)
ユーフェミア皇女は嶋田繁太郎元総理と婚約したばかり。
遠からず結婚する二人が恋人として過ごせるのは僅かな時間だ。
それをあのようなキ印男に邪魔をされたら申し訳が立たない。
それに、人を疑う事を知らないユーフェミア皇女に何を吹き込むか分かった物ではないので、二人だけの対談など以ての外だ。
「ブリタニア大使館に、コーネリア殿下に至急連絡を入れてくれ。日本公民党の鳩川雪夫がユーフェミア殿下と対談したいと連絡してきたら断って欲しい
最低でもコーネリア殿下御自身が同席の上での対談にして欲しいと」
態々連絡しなくともあの方ならば大丈夫だろうが、それでも迷惑を掛けてしまう事は間違いない。
543 :枢木総理の悩み 第2話:2013/01/16(水) 21:33:09
国会の建物から出た彼は公用車に乗り込んだところで先ほどから痛み続けている腹を押さえてさすった。
「胃が痛い・・・」
悩みの種ばかり出てくるせいか、ここしばらくの間ずっと胃に痛みを覚えるのだ。
そんなとき、彼はいつも薬を持ち出す。
薬といっても病院や薬局で手に入れるような物ではない。
彼の薬とは――
ポケットに入った一枚の写真。
肌身離さず大切に持っているその写真こそが彼に取っての何よりの薬。
実年齢よりも幼い印象を与える容姿。
ふわふわした栗色の長髪。
写真を通してさえ感じられる穏やかな空気。
写真に写る少女のそれら全てが悩み疲れた心を癒してくれるのだ。
その穏やかな空気と人を癒す力は慈愛の皇女ユーフェミアに勝るとも劣らない。
(いや、ユーフェミア殿下が嶋田さんと結ばれたいま、まだ誰のものでもない彼女はともすればユーフェミア殿下をも越える存在・・・)
近い将来慈愛の皇女の二つ名を越える名前が生まれるかも知れないと枢木は本気で思っていた。
その時、自分はどういう立場に立っているだろうか?
違う出会い方をしていれば自分の妻に、そして母になってくれたかも知れないこの少女。
恋慕の情は未だ消えていないが、これは墓場まで持って行かなければならない物。
何故なら彼女の騎士は自分ではないから。
それでも今この時、彼女が写真の向こうから微笑みかけているのは他ならぬ自分に対して。
近い内に彼女の騎士となるだろう息子ではなく、自分に対して微笑みかけているのだ。
「やはり貴女は・・・・」
まるで自分が抱き締められているような錯覚を覚えた枢木は写真にそっと口づけた。
“私の・・・母となる人だった・・・”
*
余談だが六カ国協議の議長国――高麗共和国が、ブリタニア側の全権特使にコーネリア皇女若しくはユーフェミア皇女を指名するハプニングがあった事を記載しておく。
最終更新:2013年01月16日 22:48