39 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:46:46
929氏の設定そのままなお話

隠居のIF未来?

40 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:47:27


皇歴20XX年

大清連邦の樺太侵攻に端を発した極東に於ける戦争は佳境を迎えていた。
開戦当初、奇襲攻撃によって樺太上陸を果たした清国軍は、独自に開発した新型KMF(第五世代の後期型相当)を主力に突き進んだ。
時を同じくして清国の同盟国であった高麗共和国も

『五大国(高麗を入れて)の一角であるE.U.に独力で勝った清と、列強の一角である我が国が共に攻め込めば、さしもの超大国日本も打ち負かせるッ!!』

と、気勢を上げて大日本帝国へと宣戦布告。
国土防衛の僅かな部隊を残し、海空軍の総力を持って日本の領空領海に進入。

E.U.との戦争に勝利し、シベリアのサクラダイト鉱山を手にしていた清の目的は、日本を攻略することで手に入る各種先進技術。
常に世界の先を行く彼の国の技術を己が物とすれば世界帝国の道が開ける。
そんな宦官たちの愚かな妄想が日本侵攻の原因だったのだが、意外なことにただ一人反対した者がいた。
なんと大宦官の一人である高亥だ。
彼はその他の宦官と違い己の贅沢の為には努力を惜しまない人物であった。
努力無く贅を求める者はただ得られる利益を享受するだけであるのだが、贅を尽くすためには労力も必要と考える者はその過程で多くを学ぶ。
例え国民を己の道具としてしか見ていなくとも。
それ故、高亥は物事を冷静に見つめる目を持っていたのである。

『今の清では日本には絶対に勝てない』

宦官たちの最高会議の際そう主張し続けた彼は国家反逆罪で逮捕投獄され、翌日清は日本侵略に動いたのだ。


だが樺太へと侵攻した清国陸軍の新型KMFを伴った部隊が、待ち構えていた日本軍の主力KMFウィンダム、
配備の始まっていた第八世代KMFを伴う大部隊に壊滅させられ逆に海へと追い落とされたのを皮切りに、空でも海でも同じ光景が再現され瞬く間に戦線は崩壊。
日本海上空に於いては日本空軍の第五・第六世代ステルス戦闘機の猛攻に、第四世代機が主力だった高麗空軍が鎧袖一触されてしまった。

こうして清・高麗連合の日本侵攻軍は僅か三日で壊滅的打撃を受け撤退。

無論、侵略された日本側がこれで済ませる筈がなく、戦時体制が整うと同時に総力を挙げて大陸へと侵攻。
圧倒的技術格差、物量の差で高麗半島と清国大陸の二正面作戦を展開、各地を制圧していった。

この作戦には日本の同盟国である神聖ブリタニア帝国も兵力を提供していた。
当初日本側は『清や高麗如きに貴国の手を借りるのは忍びない』と申し出を断っていたのだが、
時の第99代ブリタニア皇帝オデュッセウスに『友邦、家族である日本を攻撃されて黙っているわけにはいかない』とまで言われ、ブリタニア軍の派兵を受け入れたのである。

そんな日ブ同盟軍の高麗攻略軍司令官ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーは、長年の日本駐在とブリタニアとの信頼の証にと供与されていた第九世代KMFフリーダムを駆り自ら前線に出て高麗軍を蹴散らしていた。
ウィンダム相手に後退を強いられていた高麗軍は、まるで次元の違う第九世代機フリーダムに為す術無く討ち取られていく。
白銀に輝くエナジーウィングから射出される刃状粒子。
他を寄せ付けない二丁のスーパーヴァリス。
高出力ハドロン砲×2
これらの一斉射撃により忽ちの内に数十騎が撃墜され戦線に大きな穴が開き、そこへモニカ麾下の日本・ブリタニア軍が突入、瞬く間に高麗軍は壊走していった。

しかし、そんな猛攻の中ただ一騎だけ善戦していたジェンシーが居たのだ。
そのジェンシーはモニカの親衛隊である数機のウィンダムとヴィンセントを撃墜するという、おそらくはこの戦争で最大の戦果を上げていた。
普通誰が想像できる? 第五世代――改良によって性能は増しているかも知れないが、ジェンシーで第七世代機であるウィンダムやヴィンセントを複数機撃墜するなど。
ジェンシー搭乗者の技量、そして何よりその闘志によってここまでの実力を発揮していたのだ。
それ故、モニカ自身も『油断のならない相手』として己が全力を持って戦い、その果てに彼の機を討ち取った。

41 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:49:06





『高麗軍残存勢力に告げます。最早雌雄は決しました。これ以上の戦いは無意味です』

戦場に木霊する降伏勧告。
ラウンズの戦場に敗北は無い。
その言葉通り、誰が見ても勝敗は決していた。

「し、少佐が・・・少佐がやられた・・・」

誰かが呟いたのを機に基地守備隊は武器を捨て、各部隊ごとに降伏していく。
まるで精神的支柱を失ったかのように。

(少佐とは・・・私が討ったあの機のパイロット?)

自身と激闘を繰り広げたジェンシー。
世代格差のある親衛隊の数機を撃墜した猛者。
今目の前でその骸を晒しているこの機に乗っていた人物が、基地守備隊を支えていた中心者だったのだろう。
それを悟ったモニカは操縦席のハッチを開いて外に出る。

『ク、クルシェフスキー卿ッ、危険ですッッ!』

彼女の行動に自身の副官を勤めている枢木スザクが慌てた様子で止めに入った。
当たり前だ。戦闘が停止したとは言っても敵の真っ直中で司令官がその身を晒している。いつ何処から弾が飛んでくるか分からない場所に。

「大丈夫です枢木さん。彼らには私を撃つ気はありません」

だがモニカはスザクの制止を無視して自身が倒したジェンシーの前に立つ。
撃墜の衝撃で開いた操縦席のハッチ。
彼女はそのハッチを大きく開いて中に居るパイロットと対面した。

姿を現したパイロットの顔は血の気が引いて青白くなっている。腹部からの出血も激しく持って数分といった処。

「随分と、美しい、人だな・・・」

そんな致命傷を受けているにも拘わらず、モニカの姿を見た彼は軽口を叩いていた。
(強い人・・・)
モニカが抱いたのはそんな印象。

「神聖ブリタニア帝国ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーです」
「あな、た、が・・・ふ、光栄なことだ・・・ブリタニアの戦女神に看取られて・・・逝けるとは、」

彼は強かった。戦った彼女が思うに少佐は自身に匹敵する実力を持っている。
だがいくらウィンダムを討ち取ったとはいえ、モニカが騎乗するのは第九世代KMFフリーダム。技量でどうにか出来る次元を超えていた。
それに同世代機ならば自身が敗れていてもおかしくはない相手。手加減など出来る筈もない。
だからこそ全力で戦い討ち取った。
それと同時に、正々堂々とした彼の戦いに騎士の姿を見た以上、手加減するのは侮辱以外の何物でもないと思ったのだ。
例えそれが彼の命を奪う結果となっても・・・。

「何か、言い残すことがあれば、お聞きします」

あれば聞こう。討ったからこそ聞いておきたい。
この戦で出会った初めての騎士である彼の言葉を。

「何も、ない、」
「・・・」
「何もないが・・・この国を、亡国の途へと、向かわせた奴らが、ゆるせん・・・!」

42 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:49:43


少佐は高麗軍では珍しい良識ある人物だった。
部下の面倒見は良く、しっかりと仕事をこなす。
自分に厳しく人には優しい真面目一徹の男だった。
その人柄とエースとしての腕に数多くの部下から慕われる一方、同じだけの嫉妬や恨みを買っていた。
だからこそ彼の所属する部隊には撤退命令が出なかったのだ。
敗色濃厚なこの状況で『最後の一兵まで陣地を死守せよ』などという命令を下した男達は、既に逃げているにも拘わらず・・・。
だがどのように理不尽な命令であっても軍人である以上従わなければならない。
それが少佐の考え。

(一人でも多くの敵を道連れにしてやろう)

彼は死ぬ覚悟が出来ていた。
だが自分への妬み、嫉妬のとばっちりを受けるような形になってしまった部下達まで付き合わせるわけにはいかない。
だからこそ自分が出撃した後は降伏しろと言ったのだ。
しかし、部下達は降伏処か基地に残っていた碌に稼働しないジェンシーに乗って、彼と共に出撃した。

『少佐を一人で逝かせはしない!』
『最後までお供させてください!!』

そう言って最後まで残った基地守備隊は祖国の為というのは勿論、彼と共に戦う為に出撃したのだ。

だが一方で彼らにそうさせた奴ら、この高麗を勝てもしない戦争に引きずり込んだ軍の上層部や政治家、大統領は、敗色濃厚となるや国を捨てて真っ先に逃げ出した。
国民にも責任がなかったとは言えない。民族性故か他国を馬鹿にし嘘をつき侮辱する。そんな行為を長年に渡ってしてきたのだから。
少佐のように己を律し、他者を敬い、より良い国を作っていこうとする人間は少数派だったのだ。
彼はそんな高麗を時間を掛けてでも変えていこうと努力した。
そのお陰で彼の周りから徐々にではあるが考え方を変えさせる事が出来た。
それが今居る基地守備隊、その家族友人達。
この輪をもっと広げていこう。広げていけばこの国もいつの日か他国より信用の得られる国になる。その為には何れ政界に打って出て、教育改革などもしていかなければ。
無論、危険思想の持ち主として在らぬ疑いを掛けられたり、投獄されそうになったことも一度や二度ではない。
それでも国を思う彼の心が折れることはなかった。

そんな矢先だ。政官軍の上層部が揃って日本と戦争を始めたのは。
結果など、始める前から分かっていた。
世界第二位の超大国と戦争して勝てると考える方がどうかしている。
普通に考えれば分かるはずなのに、日本と戦争して本気で勝てると考えている馬鹿があまりにも多すぎた。

所詮高麗は『列強』ではなく『小国』に過ぎないというのに・・・。

43 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:50:16


しかも日本に手を出すということは同時にブリタニアにも手を出すということを意味する。
二大超大国と戦争をする。いくら清の国力が大幅に増したとはいえ勝てるわけがない。
日本一国だけでも中華とEUを足してやっと対抗可能になるというのに、これにブリタニアまで付いてくるのだから。
その結果祖国は亡国の途についた。
しかもそれを行った者達は自分たちだけ安全な場所に逃げたのだ。

「奴らがッ! この戦争を始めた奴らが生きている・・・! それが、悔しい・・・!!」

慟哭の涙を流す少佐。
それは彼の無念を表しているかのように赤い血の涙。

「少佐・・・!」
「少佐ッッ!!」

少佐の言葉を聞いていた基地守備隊の部下達が集まってくる。

「馬鹿な、奴らだ・・・さっさと、降伏しろと、言っただろう・・・」

降伏しなかったが故に守備隊のメンバーにも相当数の犠牲者が出ていた。

「自分にはできません!」
「自分にも、自分にも無理ですッッ! 少佐一人を死地に立たせて降伏などッッ!!」

だが、彼らは心から慕う少佐を一人残して降伏するなど端から考えていない。
彼が散るその瞬間まで共にあろうとしたのだ。



彼らの様子を見ていたモニカは思う。
少佐は紛う事なき騎士であると。
これほどまでに慕われているのだ。きっと素晴らしい人格者に違いない。

「私は・・・私は、幸せ者だ・・・最強の、敵と戦い・・・お前達のような・・・仲間に、看取られて逝ける・・・戦士として、男として・・・これ以上の、最後は無い・・・」
「少佐ッ! 自分は、自分はッッ!」
「泣くな・・・最後くらい、笑顔で送ってくれよ・・・」

もう時間が残されていない彼は、苦楽を共にしてきた部下達に笑ってくれと言った。笑って見送ってくれと。
大切な部下達の、家族とも言える部下達の泣き顔がこの世の見納めとはあまりに寂しいじゃないか。
彼のその言葉に、泣きながら笑顔になる部下達。
自分たちの兄貴を送るんだ。笑顔で送ろう。そこかしこから聞こえる声。

「楽しい・・・人生だった・・・・・」

少佐は部下達の笑顔を見ながら自分も笑う。
誰かが言った。人生最後に笑って死ねた奴が勝ちだ。
彼は敗者ではない。勝者なのだ。

「ありが・・・とう・・・・」

その勇敢に戦い散った人生の勝利者は、信頼する部下達の笑顔に囲まれながら、静かに息を引き取った・・・。

44 :名も無き兵士の話:2013/02/01(金) 22:50:58





「・・・」

モニカは穏やかな表情で事切れた少佐を見つめていた。

「貴方ほどの騎士、日本にもブリタニアにもそうは居ません」

機体の性能に大きな開きがあったというのに逃げるどころか立ち向かい散っていった。
それでいて彼は彼の命を奪った自分に恨み言の一つも言わない。
彼の無念は、慚愧の念は、飽くまでも国を思っての物。
愚かにも日本と戦争を始め、この国に亡国の道を歩ませた者達への物。
その心は実に真っ直ぐで愛国心に溢れていた。
彼が指導者ならばこの国はきっと良い方へと変わっていた。そう確信させるほどの素晴らしい人格者。
だからこそ、今こんなに多くの人達が彼の死に涙している。

「貴方は、貴方は誠の騎士でした」

彼は誠の騎士だった。
違う形で出会っていれば良き友となれたかも知れない。

「私は、貴方と戦えたことを――」

切磋琢磨して互いを高め合うライバルに・・・。


“誇りに思います”


モニカは、背筋を伸ばして敬礼する。
敵味方など関係ない。誠の騎士である彼を送り出す為。
モニカの様子を見ていたスザクもKMFから降りて、笑顔のまま逝った少佐に敬礼。
彼らに続いて日本とブリタニアの兵達が、基地守備隊の部下達が、彼を囲み敬礼した。


旅立つ騎士への・・・畏敬を込めて・・・。

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最終更新:2013年02月24日 21:15