259 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:14:15
「ふむ・・・熱いな。」
日本に留学中のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、ナナリー・ヴィ・ブリタニアの護衛隊を指揮するジェレミア・ゴットバルトはこの日、日本の演習場に来ていた。
実は本国から『新しいKMFを作ってみたのだが、乗ってみてほしい』という話が舞い込んできたのだ。
当初は護衛があるので断ろうと思ったのだが、『戦闘機やKMFを操れる貴公にやってほしい』と持ち上げられ、ついつい承諾してしまった。
(まぁ、護衛にはヴィレッタやキューエル。アールストレイム卿がいるから大丈夫か。)
まぁ、久しぶりに暴れてみたいという思いもあったのは、心に秘めた思いだ。
そんな自分に苦笑しつつパイロットスーツに着替え、演習場のベンチに座って迎えの人を待っていると・・・
知り合いの日本人である倉崎の開発主任が、構内用カートでこちらにやってくるのが見えた。
「ジェレミア卿、こちらでしたか。」
「む、あなたでしたか。」
「ええ私です。機体は大型格納庫にあります。こちらへ。」
この主任、いろいろやらかすので有名であり、テストパイロットが主任の名前を出すだけで逃げるという逸話もあるのだ。
そんなことは知らないジェレミアは朗らかに挨拶をすると、案内をする主任の運転するカートに乗り込み移動し始めた。
「大型格納庫と言いましたが、それほど大きいのですか?」
「ええ、かなりの大物です。」
「試作機だった【ガウェイン】クラスですかな?」
「特別に見せてもらったのですが、そうですね・・・それよりもはるかに大きいですよ。」
「それは・・・」
ジェレミアが絶句するのは無理もない。
何せKMFで今現在、最大サイズの機体である【ガウェイン】よりも大きいというは想像できない。
しいて言えば戦闘機などだが・・・
「戦闘機ですか。確かに近いですが、重量から言ってご試乗なられる機体の方が重いですな。」
という情報に少し不安になる。
それからは終始無言で移動し、目的の格納庫に到着するまで何も話さなかった。
格納庫はだいぶ離れた位置にあり、それなりに機密が守られる場所だった。ブリタニアに考慮しての措置だろう。
「この中です。」
主任が大扉前でカートを止め、すぐに降りて小さな扉を開いてくぐる。主任に遅れまいと扉をくぐると、ジェレミアの前に異形の機体が出現した。
「おお・・・」
目を見開いて整備員が取りついている機体を見つめていると、隣に立っている主任が、にやりと口を歪めて声をかけた。
「どうです。大きいでしょう?」
「確かに・・・」
そこにいたのは・・・大型スピアを機体の各所に取り付け、物干し竿のような大砲が機体下部についている異形の機体、【サザーランド・ジーク】が鎮座していた。
「この機体はなんなのですか?」
「それは私が言うより、彼女に聞いた方がいいでしょう。」
主任はそういうと一人の人物を呼んだ。駆け寄ってきたその人物はジェレミアもよく知る人物。
「お久しぶりですね。ジェレミア卿。」
「クルーミー女史が来ていたのか。」
260 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:14:47
本国の方で知り合い、浅からぬ付き合いのある人物の登場にちょっとホッとする。
主任はそのまま「別の用事があるので。失礼します」と言うと、そそくさと退散してしまった。この機体の説明は受けていても他国の機体、気を利かせて出て行ったようだ。
そそくさと出ていく主任を見送り、二人は改めて異形の機体を見た。
「それで女史、この機体は何ですかな?」
「このKMFはKGF・・・、ナイト・ギガ・フォートレスという分類の機体です。」
「KGF?」
「ええ。敵陣に単身突入し、大火力でもって陣地ごと敵を粉砕する。そういうコンセプトの機体ですね。名前は【サザーランド・ジーク】と言います。
全高25.02m。全備重量70.24t。推進機関はこの巨体ですので最新のフロートシステムと、電力駆動プラズマ推力機関を併用採用。
武装は大型スラッシュハーケン×5。ロングレンジリニアキャノンを1門。6連装ミサイルポッドが中央部に、あと電磁ユニットがありますね。
特殊装備ブレイズルミナスが展開できます」
丁寧に説明をしてくれたセシル・クルーミー女史に感謝しつつも、ちょっと疑問があったので聞いてみる。
「なんでしょうか?」
「この機体。ロイドが作ったものではないな。」
「やっぱりわかりますか?」
どうも彼女の上司が作ったようには見えないのだ。良くも悪くも彼の性格を知っている。セシルはただ、苦笑で答えた。
「ええ、そうなんです。これ、別の部署が暴走して拵えたものなんですよ。」
「・・・本国の技術者も“感染”したのか?」
この“感染”とは、日本の変態性がうつったのかという問いだったのだが、彼女は困った表情で首を振った。
「・・・いえ、元からだそうです。」
「・・・大丈夫なのか?」
「・・・」
沈黙が痛い・・・
「・・・実はこの機体。元々こんな形ではなかったのです。」
「なに?」
「とりあえずこれを・・・」
彼女は腋に挟んで持っていた書類を、ジェレミアに済まなそうに渡してきたので、恐る恐る手に取り読み始めた。あ、写真の機体が実物と違う。元は丸いのかと思いつつ次のページを読む。
製造過程
○とりあえず強襲が前提なので、最高の防御力を持たせる事になった。エネルギー計算をしたところ、通常動力機関では動かないことが判明。
〇動力機関を新たに設計し作成、起動。2分後に爆発した。動力機関はとりあえず機体設計に並行して製作することにした。
〇当初は手足があったが、設計者の一人が「いちいち手に持って撃っていたら面倒だ、無くしてしまえ。ついでに足も」の言葉で頭もなくなった。
〇装甲担当から報告があった。「悪い、装甲厚くしたら射撃武装がのせられそうに無い」。弾薬が誘爆する危険があると思っていたのでOKサインを出す。
〇スリット状の隙間ならできるということで、作っておいた『飛び出せスピア君』を5本装備。
〇動力担当から報告「悪い、大きくなり過ぎた。どこか削って場所確保して」。脱出装置を削ることにした。
〇「色はどうする?」「ん~(食べていた蜜柑を見て)これでいいじゃん」「おk」
○完成。名称決定【ジーク・フリート】
あんまりな内容にがっくりする。
いやいや、仮にも試作兵器だろうが!脱出装置くらい取り付けてくれ!!
一気に暗く沈みそうになる心を叱咤して、次の書類を見る。
261 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:15:23
◎日目
起動1回目
〇まずは地上にて起動。テストパイロットから「熱い、出してくれ!!」との悲鳴があった。冷却機関の見直しを2時間でして解決する。
起動2回目
〇相変わらず熱いようだが、冷房をMAXにしているようなので無問題。『飛び出せスピア君』を動かしてもらう。が、全部一緒に動いて意味がない、改良する。
起動3回目
〇別個に動かせるようにレバーを増やしたら、パイロットが混乱してしまった。解決策を出すまで一時的に起動試験は中止する。
▼■日目
起動4回目
〇問題解決策が出来たので早速テスト。「くぁwせdrftgyふじこlp;!!」パイロットが意味不明なことを叫んで気絶入院。中止決定。
〇あと、文句のあった冷却関係は修理が完了した。
◆□日目
起動5回目
〇どうやら大量の情報が流れてきたのが原因だと判明したので改良。逃げようとしたパイロット捕獲、搭乗させる。
〇無事に起動した。その際「おはYO鵜ござい真下↑!?」という言葉が出てきた。皆でお早うと言ってあげた。
〇さっそく飛行させると「おお!!celloよぉー!!」と奇声を上げて上昇。上空で奇怪な軌道を取りながら縦横無尽に動く、いいデータが取れた。
△●日目
起動6回目
〇殿下に怒られた。安全面を大幅に見直し、精神的影響を無くした。ちなみに起動5回目のパイロットは4回目のパイロットと一緒に、病院に今でも入院中。いいパイロットだったのに・・・また来てくれないだろうか?
〇パイロットの顔が蒼いのが気になるが実験スタート。順調にテスト項目を消化する。
〇いきなりパイロットが脱出した。機体は落下、地面に激突したが装甲のお蔭で大丈夫だった。
〇原因は電磁ユニットのようだ。自分が壊れてどうする。
■△日目
起動7回目
〇電磁ユニットの改良が済んだ。さっそくテストにはいる。
〇今回は無人で操作してみる。今までのデータのお蔭で私たちでも動かせる。なかなか楽しい。超信地旋回は早すぎて酔ったが・・・
〇新たに追加したブレイズルミナスを起動した。なぜか墜落した。ついでに爆発した。
〇ブレイズルミナスが強力過ぎて電波を遮断してしまったらしい。更に動力機関が暴走して爆発。まだ原因がありそうだ。
〇殿下が「ぶるぁぁぁぁぁ!!」と叫んで突っ込んでこられた。めっちゃ怒られた。予算がカットされた。
◇◎日目
〇お金が無くて嘆いていると、日本から御誘いがあったので共同開発することになった。ついでに新設計にすることにした。
変わらないあんまりな内容に、新型機に乗るというワクワク感はすっかりなくなって、もう帰りたいという意志だけが最後に残っていた。
「あ~・・・女史。かe「乗って下さいね」了解だ」
振り返ってみた彼女の笑顔は、心の底から怖かったので即答で了承した。後で知ったことだが、ジェレミアすら乗らなかったら彼女がテストすることになっていたらしい。
262 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:15:54
(ふむ・・・中は意外とまともなのだな。)
【サザーランド・ジーク】はすでに外に出ていていつでも起動できる状態であり、ジェレミアも機上の人となっていた。内心不安いっぱいだが・・・
〔ジェレミア卿、どうですか?〕
セシルはすでに格納庫横に立っている管制塔にいて、こちらを見ている。【ウィンダム】に装備されているという全天式モニターほどではないが、いろんな角度が見れるというのは新鮮だ。
「ん?・・・大丈夫だ。計器類の配置は把握した。」
〔そうですか・・・それで“例”の装置ですけども。〕
「もう付けてある。確か“思考感知制御装置”だったか?」
そういって頭部につけたヘッドギアを触る。ギアからはコードがたくさん伸びており、少し気になったので頭を大きく動かしてみるが、邪魔にはならないようになっているようだ。今回のテストの最終的な目的となる装置で、テストパイロットがおそれていた装置でもある。
〔ええそうです。気分はいかがでしょうか?〕
「問題無い。しかし妙な感覚だなこれは・・・」
〔私もそれだけ試してみたのですが、やっぱり変ですよね〕
「目に見えていないの見えている・・・そんな感じかな?」
〔そうですね・・・〕
この装置をつけたら後部カメラなどの映された風景が“なんとなく”わかるようになった。これだけを見てみると、我が国の技術も捨てたものではないと感じる。マッドは勘弁してほしいが・・・
不安を吹き飛ばすように、気合を入れなおす。
「よし・・・起動する!」
〔了解。【サザーランド・ジーク】起動してください〕
勢い込んで起動キーを差し込むと、動力機関が動いていくのが微振動と音から判断できた。
「起動確認・・・これより低空及び徐行飛行に入る」
近くに張ったメモを見ながら手順をしっかり確認しつつ動かしていく、その様子を管制塔のセシルは感心してみていた。
(さすがね。機体になれるのが異常なほど早い、ってロイドさんが言っていたとおり・・・飲み込みが早いわ)
実はジェレミアが直接選ばれた理由はこれだ。共同制作する際に、要求に盛り込まれた脱出装置兼制御装置であるサザーランドだが、コクピット自体は新型に換えられていて初めてでは操れないのだ。だがジェレミアは“どんな機体でも乗りこなせる”という特技があり、この特技のおかげでかなり優秀なパイロットに入っている。
地面から10mほど浮いた機体は滑るように移動していく。次に上昇、上空で旋回等をこなし降下してきた。
地面すれすれまで降下すると今度は急上昇し急旋回、そして急降下、セシルは後ろの管制官が息を飲むのがわかったが、そんなことは知らない操縦席のジェレミアは力強く動くこの機体に興奮していた。
(すばらしい!さっきまではどんな恐ろしい機体かと思っていたが、なんと手に馴染むのだ!まるで自分の愛機のようではないか!?)
まるで玩具をもらって興奮する子供の様に、ジェレミアは夢中になって動かし続けた。
時間とメニューがだいぶ無くなってきた時、問題のテストとなった。
〔さてと・・・残るはこのテストだけです。〕
「うむ。」
〔ジェレミア卿・・・〕
「なんだ?」
曰く付きであるこの装置に、知り合いが試すと言うことに躊躇いを覚えていた(半ば脅すようにしたのもある)。
だから試験中止を進言しようとした。
〔今ならやめることが「セシル女史」はい?〕
「私は日本に来て技術の高さに目を見張り、それに敬意を払ってきた。」
〔・・・〕
「我が国は“力”と評されているが断じてそれだけではないと、この機体に搭乗し・・・思うようになった。」
〔それは・・・〕
「日本の友に見せてやろうではないか、“ブリタニアも負けていない”とな!」
〔はい!〕
「では最終テストに入る。ドローンを射出してくれ。」
〔了解。ドローンを16機、射出します。〕
263 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:16:27
最終テストが始まった。後部プロペラで飛ぶドローンは飛行速度は遅いが、ロケットブースターを内蔵しているので緊急加速が出来る。
しかも今回のテストはすべて敵対行動をとる様に設定されているうえに、ランダム軌道になっていた。
ジェレミアはすぐさま上昇中のドローンに突進していく。
その機動にドローンの何機かは避ける様に散開するが、3機だけ向かってきた。
「落ちろ!」
すぐさまリニアキャノンで2機打ち抜き、残る1機は右側のスラッシュハーケンを射出して貫く。
「まだまだぁ!!」
貫いていたスラッシュハーケンはそのまま戻らず、機体を振り回した勢いで近くを飛んでいたドローンを破壊する。同時に思考感知制御装置が、後ろから回り込むドローン数機をカメラにとらえた。
「む!後ろをback!!」
〔え?〕
興奮しているためかちょっと頭のネジが飛んでいるみたいだが、後部に設置されていたスラッシュハーケン2機でもって一気に3機破壊し、先程と同じように振り回す。だが、あたらない。舌打ちする間も無く装置が敵を捕らえる。
「おおおおお!!」
ロケットブースターで加速して突進してきたドローンを、腕のように動く大型スラッシュハーケンでたたきつぶし。一気に後退。
残りすべてのドローンを視界に入れ、ケリをつける為に思考感知制御装置を用いて照準し、破壊することにした。
「爆散!!」
左右大型スラッシュハーケンが3機破壊、リニアキャノンが火を噴いて2機貫く、それは残り5機を取り囲むように破壊してあり、同時に放っていたミサイルがすべて直撃し、大空に花が咲いた。
「ご苦労様でした。」
「君はこれから帰るか・・・忙しいな。」
「データを持って帰るだけですよ。実機は後から持って帰る予定です。」
全ての予定をこなし終えたジェレミアは、すでに制服に着替えて門の前に立っていた。その横にセシルが立っている。
「今日は有意義な一日であった。」
「それは何よりです。」
セシルも問題なく終わったことで気持ちが良いのだろう、いい笑顔だ。
そんな顔を見てジェレミアもいい笑顔になる。
「しかしもったいないな。」
「何がですか?」
「【サザーランド・ジーク】だ。あれほどのモノなのに、試作機で1機のみとは・・・」
「それは仕方ありません。ハドロン砲を装備する事も考えられたそうですが、おおざっぱな使い方しかできませんし・・・」
「金がかかるか・・・」
なにか言いにくそうに俯く彼女に気が付き、後に続くように言う。
「すでに重火力支援機として【ガレス】の正式採用が近いですから。それに、いくら量産機で大量に出回っている【サザーランド】を中核に使っているとはいえ、新機構ばかりで、いくら帝国でも量産なんて無理です。限定生産にするにしても「戦闘爆撃機の方が、コストが安い」・・・そうです。」
どの国も平和なら必然と軍の予算が削られる。
軍人にとっては世知辛い話だ。
「まぁいいさ。君も無理しないようにな」
「はい・・・ロイドさんに振り回され続けていますけど・・・」
二人はそのまま笑いあい、迎えの車が来るまで世間話で時間を潰し、ジェレミアは帰宅の途に就いた。
生まれる新技術、新しい機械、新しい考え、それらがすべてうまく世の中に出ていくわけではない。
拾い上げられるものもあれば、捨てられるものもある。
【サザーランド・ジーク】と、KGFという新しい機種機体は受け入れられないのかもしれない・・・しかし、“無駄”ではないだろう。
それらから得られた経験は、次に生かされる貴重な実証なのだから。
264 :憂鬱ギアス世界のKGFの運用 隠居騎士編 改訂版:2013/03/09(土) 16:16:58
機体解説
試作KGF【サザーランド・ジーク】
KMFとは違う体系の機体。コンセプトは“敵陣に単身突入し、大火力でもって陣地ごと敵を粉砕する。”である。兄弟機に速度重視の【サザーランド・イカロス】があるが、そちらとは違いこちらは装甲重視となっている。 史実と違い、輻射障壁発生装置がブレイズルミナスに変わっている(ラクシャータが開発に携わっていない為)。また、思考感知制御装置なる装備が登場しているが、神経電位接続を誰もしておらず、だれでも扱えるように改良されている。その為コクピットは新型に置き換わっている。元ネタはSAOのナーヴギアで、カメラに映った映像をイメージにして操縦者に伝え、武装を操る事も出来るようになっている。
開発順
【ジーク・フリート(電磁ユニット無)】→【ジーク・フリート(電磁ユニット有)】→【ジーク・フリート(電磁ユニット強化)】→【サザーランド・ジーク】
機体データ
全高:25.02m 全備重量:70.24t 推進機関:フロートシステムand電力駆動プラズマ推力機関
各種武装:大型スラッシュハーケン×5 ロングレンジリニアキャノン×1 6連装ミサイルポッド
防御兵器:電磁ユニット装甲 特殊装備ブレイズルミナス
最終更新:2013年03月10日 13:15