763 :Monolith兵:2013/02/24(日) 06:00:24
蹂躙系SS「大魔王降臨後2」

 日本とイギリスを中心とした対アメリカ包囲網が形成されようとしていた1943年、イギリスは更なる一手を打って出た。
 日本に対して大西洋への艦隊戦力の展開の要請もそのひとつであった。
 それとは別に、イギリスはアメリカに対して債務を支払う場合の為替レートを現在の水準で固定し、その支払いはポンドを持って行うということを認めさせた。
 以前ならば難しいことであっただろうが、アメリカ経済がかつてないほど混乱している今だからこそ行えた事であった。
 更に、取立ての一環としてアメリカの持つ陸海空の兵器を接収することも認めさせた。これにはさすがにアメリカも声を荒げた。しかし、イギリスは強気であった。いったんは引き下がったものの、その数日後日本が神の火を持つ事を世界に知らしめたことにより趨勢は決まった。町一つを更地に変えることのできる爆弾を乗せることができる爆撃機を、日本はカナダというアメリカ経済の中心の目と鼻の先に配備しているのだ。兵器の引渡しをこれ以上渋ったら、宣戦布告された挙句東海岸の都市は軒並みは依拠にされてしまうであろう事は想像に難しくなかった。アメリカはイギリスに屈したのだ。もっとも、多くの戦艦と空母をイギリスに引き渡しても利息程度にしかならなかったが。

 そこまでのイギリスの腹黒張りを見た無限会の面々は、「イギリスが味方でよかった。」と心底胸をなでおろしていた。
 そして、今後の方針を決める会合の席で彼らは現状確認を終わった所であった。

「イギリスの腹黒紳士は安定ですね…。」

 嶋田は胃の辺りを摩りながら辻に視線を向ける。何といっても、あの腹黒紳士とこれまで渡り合ってここまでもってきたのは視線の先にいる魔王なのである。おかげで、今では嶋田は辻の操り人形と世間では思われていた。

「ええ本当に。どうしてあれだけがめつい人間ばかりなんでしょうね、イギリス人ってやつは。」

「「「お前が言うな!」」」

 辻の言葉に辻以外の会合の出席者の心はひとつになった。だが、それでも辻は動じた風でもなく、議題を進めようと促してきた。

「カナダに展開している富嶽への核兵器の搭載は完了しました。開戦と同時にアメリカに地獄を作ることはできます。…したくはないですがね。」

「それはアメリカしだいだな。だが、奴等もさすがに西海岸や五大湖周辺が廃墟になるのはいやだろう。」

 永田陸軍大臣の報告に伏見宮がその可能性を否定する。アメリカは日本とイギリスの合法的な略奪によりかつての力を失いつつあった。また、正面戦力の多くをイギリスに借金のかたに取られ身動きできない状態であった。アメリカの没落は明らかだったのだ。

764 :Monolith兵:2013/02/24(日) 06:00:58
「後はやつらが復活しないようにするだけというわけですか。」

 嶋田はそう言いつつ、手元にある書類を見ていた。それには彼では想像もできないようなことが書かれていた。

「アメリカ製兵器の独ソ両国への供与ですか…。」

「それだけではなく資金の提供もありますね。」

 イギリスはアメリカから分捕った兵器で、余剰となったものやこれから生産する(させる)ものを独ソ両国に供与することを考えていたのである。その目的は余りにも分かり安すぎるものであった。ドイツとソビエトで死ぬまで殴り合ってね、ということである。更に資金提供もすることで相乗効果を狙ったのだ。
 仮に、両国がその狙いに気づいたとしても、この提案を断ることはほぼできないであろうと会合は判断していた。本気の殴り合いを止めるには誰かの仲裁が必要なのだ。その”誰か”が殴り合いを煽るのだ。
 なお具体的な供与方法は、イギリスはイタリア経由でドイツに、日本は中華民国を経由してソビエトとへと流す予定であった。イギリスのほうはともかく、ソビエトのほうは可能性が高かった。ソビエトからはスパイなどを通して支援を引き出そうと躍起になっていたし、中華民国はアメリカの撤退によって阿鼻叫喚の地獄になっていた。そんなところに仲介とはいえ仕事を与えようというのだから、むしろ感謝されるべきであろうと、辻は考えていた。

「中国ではあまりの状況に人身売買が多発しているだけでなく、ソビエトが兵士確保のために人狩りもしている状況ですからね。」

 中国はもはやこの世の地獄といっても差し支えない状況であった。ソビエトへのアメリカ製兵器の供与で問題があるとすれば、中国人に盗まれたりしないかだろうというものであった。しかし、ソビエトはのどからほしいであろう兵器を確実に手に入れるためにはあらゆる障害を排除するであろう事は想像に難しくなかった。そう、物理的に。

「まあ、問題ないだろう。問題が出たらソビエトとアメリカそれと中国に全部罪を引っかぶってもらおう。」

 伏見宮の言葉に全員頷いた。この話はこれで決定した。だが、もうひとつ議題が残っていた。

「アメリカの分割と植民地、もしくは衛星国化か…。」

 近衛の言葉に皆が書類を見ながらうーんと考え込んでいた。アメリカの強大さを知る会合のメンバーとしては、考えもしないことであった。
 しかし、現在この憂鬱世界ではアメリカは絶賛没落中であり、いかに資源と工場があろうとも労働者に払うべき金がなかった。ドルはちり紙にも等しく、円とポンドはそのドルを天文学的な金額を積まなくては手に入れることはできなかった。かといってドルの増刷を政府が望んでもFRBは保有していた外貨により国内の支配力は更に強化されていた。つまり、ドルの増刷はありえなかった。
 そんな状況に、各州政府は政府発行紙幣をするべきかどうかまで考えていたというのだから深刻さがわかるであろう。分裂の芽はすでにあるのだ。後はそれをどう育てるかだ。

「私は乗るべきだと思いますよ。乗らないと半世紀一世紀先の国民にその責任をとらせることになってしまいます。それに、日本の経済圏を独自に持つことができるのですから損はないはずです。」

 辻の言葉に会合のメンバーの心は揺れ動いた。イギリスはアメリカとの開戦間近になったときに日本を裏切った。しかし、第2次世界恐慌と同時に日本に再びすりより、それ以降は日本の利益になるような行動しかしていない。今回の提案も日本にとっては魅力的だった。リスクも大きいが、日米開戦などとは比べ物にならない。そして、彼らは太平洋と北米の資源に屈した。

「イギリスとともにアメリカの分裂と植み…おっと、同盟国化を促しましょう。」

 嶋田の言葉に異議を唱えるものは居なかった。
 そして、独ソ戦争の更なる激化と、アメリカの分割は決定した。未来の歴史化が彼らのことをどう評するのかは、今は誰にも分からない。


Good End...?

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最終更新:2013年02月24日 20:49