622 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:49:32
モニカ・クルシェフスキーの帰郷 & ジェンシーに乗ろう!!
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休日・隠居騎士世界
内容は384-387と前スレの“厄介なプライド”
に関わる話で、モニカが「慣れていなかった」という発言をした後の出来事です。
ラウンズが出来ますが、アーニャとジノは出てきません。



 太平洋上空を飛行する旅客機、日本製【大鷲:765型】がエンジンを唸らせて大気の海を突き進んでいた。

「はぁ・・・」

 【大鷲:765型】の中でも豪華で、政府専用機としても知られる【タイプ:72‐IT】に溜息をついた張本人、モニカ・クルシェフスキーは居た。
 なぜ彼女がこの旅客機に搭乗しているかというと、きちんとした理由がある。
 まず先日に皇帝陛下から直々に呼び出しがあった。これ自体は半ば予想していたことであり、何ら驚くことではない。
 駐在文官の代わりとしてやってきたジノ・ヴァインベルグに引き継ぎをし、さて行こうかという時に日本の政府高官から「私たちも行くので同行しませんか?」というので便乗することになったのだ。
 が、これも溜息の原因ではない。

(嶋田さんに会えなくなるかもしれない・・・)

 その思いが原因だった。
 そもそも事の発端は、【ジェンシー】に乗った後の取材だ。
 下宿先である嶋田宅に帰宅して「モニカさんの事が載っていますよ」と渡された雑誌、週刊減退に載せられたその記事は、彼女にすさまじい衝撃を与えていた。
 当初は泣きついて諌めてもらい、別会社の記者に『今回は自分も週刊誌に付いて勉強不足だった』と答えてその日は終わった。
 が、事態が深刻になると理解したのは、翌日の仕事をしている最中だった。
 なんといってもブリタニアは帝政国家、歴史も物を言うが名声等も重要視される。
 そんな中、『ナイト・オブ・ラウンズの一人が、高麗の兵士より下だと認めた』という部分が(一スレ目865-869参照)問題となった。
 あの時の自分は確かに『高麗軍の兵士はラウンズ以上の勇者です』とも、『高麗軍の兵士は私ですら乗りこなせないKMFを乗りこなしていますから』とも言ったが、けして『高麗の兵士はラウンズより強い』だとか、『高麗製KMFは強い』などと言ったつもりはない。
 しかしあの記事を読んだ人間はどう思うだろうか?何も知らないような民間人ならまだいい。しかし、日本の“同盟国”である祖国ブリタニアはどうだろうか?
 その事実に行きついたモニカは、翌日から食欲不振・寝不足・ニアミスが多発し、とてもまともな精神ではいられなかった。
 そして一週間前、本国からの呼び出しがあったのだ。
 嶋田は心配そうに此方を気遣ってくれたが、自国の問題に彼を巻き込みたくなかったため、何も説明せずに出てきたのだ。

(嶋田さん。心配している・・・よね・・・)

 そんな状態で窓から見える空の情景を、うわの空で見つめていた。
 暫くすると、一人の男性が近寄ってくる。
 普段の彼女なら気が付くのだが、まだ外をボ~っと見しいて、接近する人物に全然気が付かない。

「もし・・・」
「・・・(ポ~)」

 男性が声をかけたが、視線すら動かない。

「あー・・・クルシェフスキー卿?」
「・・・(ポッポ~)」

 今度は少し強めに呼びかけてみたが、反応なし。
 仕方ないと思い、今度は肩を揺する事にした。

「クルシェフスキー卿!」
「(ビク!)うわひゃぃ!」

 さすがに揺すられ、怒鳴る様に呼びかけられた事でようやく気が付いたものの、目を白黒させて淡々しながら男性を見た。

623 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:51:13

「大丈夫ですかな?」
「だ、大丈夫です。辻さん」

 男性、辻正信は「ふむ」というと反対側の席に座った。

「何やら上の空でしたが?」
「そ、そうですか?」

 モニカは努めて冷静に、それでいてほほ笑みを浮かべて答えたが、微妙にヒックついていた。

「まぁいいでしょう。プライベートな話はまた今度ということで・・・」
「よ、よろしくお願いします・・・」

 なぜか、お辞儀してお願いしてしまう。そして目の前の人物が、なぜこの機に乗っているのか疑問に思った。

「あの・・・」
「私がなぜ、この機に乗っているかですかな?」
「え、ええ。そうです」

 辻正信は多忙な人物だ。日本という国の金庫番であると同時に、夢幻界の重鎮の一人であり、政界でも無視できない影響力を持つ。
 前総理である嶋田繁太郎ですら頭が上がらない、と言われるほどだ。
 そんな彼も後継者を育てていて、仕事はもっぱら彼に任せていると聞いていたのだが・・・

「清の対応について、ブリタニアで検討会議をするためです。」
「それなら彼でも対応できるのでは?」
「そうかもしれませんがね。色々とキナ臭くなってきたのですよ」

 まぁ、その他諸々もありますがね。と言って話を切り上げると、傍を通りそうになったスチュワーデスにお茶を注文した。

「辛気臭い話はこれくらいにして、どうです?」
「どう・・・とは?」
「そろそろ昼食時です。一緒に食事でもいかがかなと思いましてな」

 なるほど、備え付けの時計を見ればすでにお昼だ。自分がどれだけ心有らずだったかわかり、少し頬を染めた。
 辻はニヤリと笑う。

「それとも・・・こんな怪しいおやじよりも、彼の方が良かったですかな?」
「ふぇぇぇぇぇ!そ、そんなことありません!!」


 彼、と言われて思い浮かべるのはやっぱりあの人で、顔をさらに赤くした。

「はははは・・・そんな大声では、他の人物が来てしまいますよ」
「も、もう・・・」

 そんなやり取りをしていると、スチュワーデスが紅茶とメニューを持ってきた。
 二人はそれを受け取って何があるかを見る。

(政府専用機というだけはありますね・・・ん?)

 文字しかないメニュー表を上から見ていくと、下に気になる文字の羅列が入った。
 それは好物となった。

(ラ、ラーメン!しかも醤油味!!)

 食い入るように見るモニカ嬢。

(ど、どうしよう。辻さんは私の趣味(各社カップラーメンを食べる事)を知っているけど・・・)

 嶋田宅にいるときはあまり人目を気にせず食べられたが、ここは旅客機。他の人達がいる前でラウンズが「ラーメン下さい」なんて言えない。
 泣く泣く諦めて、その上の“ヒラメのムニエル 北輝次郎のホワイトアスパラガス・ソースを添えて”を注文した。
 そして辻は、

624 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:51:49

「“極上醤油ラーメン イベリコ豚のチャーシュのせ”を」
「!!??」
「わかりました」

 驚愕に内心震わせながら辻を凝視する。何か言いたい、でも言えない・・・プライドと本能(ラーメン食べたい)が鬩ぎ合いただ硬直するのみ。
 メニュー表を下げられた後も辻を凝視しつづけ、見られている辻本人は、そんな視線どこ吹く風とばかりに外の風景を楽しむ。

「うう・・・」
「くく・・・」

 微妙に笑みを浮かべる彼が恨めしい。
 睨みつけるモニカに辻は(ふむ、前も彼女のような子が居たら・・・萌え~)とか考えていた。
 しばらくすると注文したメニューが運ばれてきて、その際「しばらくこの近くに人を寄せ付けないように」とスチュワーデスに言う。

「はい。心得ました」

 彼女はそういうと、すぐ近くの内線を取りどこかに連絡をし、その場から離れた。
 居なくなるのを確認すると、辻はちょっと落ち込む彼女の前の食事と自分のラーメンを取り換えた。

「え・・・」
「天下のラウンズが「ラーメン下さい」なんて言えませんからね」

 先程のお詫びです。というとヒラメのムニエルを食べ始めた。
 モニカは茫然としていたが、すぐに御礼を言うとラーメンを食べ始める。

(ラーメン美味しい。そういえば、あれから食べてなかったなぁ)

 心の中で感謝しつつその味を楽しみ、久しぶりのラーメンを堪能した。
 その後到着するまでモニカの表情は、まだ陰りは有ったがだいぶ良くなっていた。


―――――


 ブリタニア・サンディエゴに到着後、すぐさま国内線に乗り換え移動。
 ブリタニア帝都ペンドラゴン近くの空港に到着し、一行はホテルに宿泊。朝早く起きて二手に分かれた。
 モニカは宮殿内の謁見の間へ、辻正信達の外交メンバーは政庁に向かった。

「ふぅ・・・久しぶりに来ると大きいわ」

 宮殿内を歩くモニカはこんなにも此処は広かっただろうかと思った。
 日本にいた時、彼女が良く行く国会議事堂は夢幻会の手でだいぶ機能的に作ってあり、そこまで広くなかったのだ。
 だがブリタニアは見得というものと、国民に憧れを持ってもらうために豪華絢爛に作ってある。

「あ、Tレックス・・・」

 そんな宮殿内を歩いていくと、通路の真ん中に巨大な骨格標本が、デーンと置いてあった。
 最近始められた化石採掘の影響だろう。
 シャルル皇帝陛下は意外と子供みたいな所があり、こういうモノはだい好物だ。以前は日本製の蒸気機関車があったように思う。
 又買ったのかな?そう思いつつ回廊を歩いていく。
 両側には様々な恐竜の骨格が並べられ、回廊を歩く者に対して威嚇しているようにも思える。
 それらを視線だけで見つつ、モニカは目的地の場所まで行く。

「・・・っ」

 そして目の前に巨大な扉が見えた。
 皇帝陛下、そして皇族・貴族が今回多数集まっているであろう、謁見の間に到着したのだ。
 一度大扉の前で立ち止まり、深呼吸をする。

625 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:52:57
(嶋田さん・・・私に勇気と奇跡をください!)

 心の中で決意と祈りをささげ、モニカは大扉に向かった。
 大扉は彼女が再び歩き出したのに合わせて開き始めた。
 赤い絨毯が敷かれた道をモニカは歩く。
 皇帝陛下が座る座前まで来ると、その場で跪いた。

「ナイト・オブ・ラウンズ・トゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー。ただ今帰還しいたました」

 ここまで来るさい、かなり奥の貴族たちが彼女を見てヒソヒソ話していた。
 おそらく、記事に書かれた自分の不用意な発言に、侮蔑と嘲りが起こっているだろうと判断する。
 その程度は先刻承知している。もはやあの失敗は無かったことなどできない。
 覚悟はもうできている。実家の両親に迷惑を掛ける、思い人に会えなくなるかもしれない。
 そう思うと覚悟揺らぎそうになるが、必死にこらえる。

「モニカよ。よく帰ってきた。面を上げよ・・・ィッッ」

 ん?何か変だった。疑問に思ったが、陛下の命により顔を上げる。

「・・・へ?」

 思わず間抜けな声が出たが、小さかったので誰の耳にも届かなかったのは幸いだった。
 今までちゃんと見ていなかったシャルル・ジ・ブリタニア皇帝陛下の姿はおかしかった。
 いや、全体像は変わらない。変わっているのは皇帝の首だった。

(なんで首にギブスをはめているの?)

 何があったのだろうか?一週間前見た時には何ともなかった。
 皇帝陛下の後ろに控える、ラウンズメンバーもなんだか痛々しかった。
 ビスマルク・ヴァルトシュタインは顔中に包帯を巻いている。
 ノネット・エニアグラムは足を負傷しているのか、時折顔をしかめる。
 ドロテア・エルンストは腕を吊るし、ルキアーノ・ブラッドリーはいない。
 予想外の姿に目を白黒させる。
 襲撃があった!?
 ・・・それはない。あったらラウンズである自分にも連絡が来る。
 事故にあった!?
 ・・・それもない。あったら報道機関がうるさくなる。

(何があったのかしら??)

 モニカが疑問で胸いっぱいにしていると、シャルルは痛そうにしつつも滔々と喋り始めた。
 まずは労いから始まり、日本での活動を誉め、最近の国外(特に清)についてどう思うか?の質疑応答する。
 ここまでは予想どおりなのだが、後半は横に逸れたり戻ったりとおかしい。
 しかも、なかなか例の問題にいかない事ので、モニカは更に疑問を浮かべる。
 それにどうも周りでヒソヒソ話している言葉が「クルシェフスキー卿はよく乗る気に・・・」とか、「あれは仕方ないだろう」とか、「皇帝の首は・・・」「何時もの事でしょ」などと自分に関する事もちらほら聞こえるが、どうも侮蔑や嘲りは聞こえてこない・・・
 むしろラウンズメンバーも同情、勇者を見る目なのだ。いったいなんなんだろうか?
 何が何だか分からなくなり、別の意味で心配になり始めた時・・・

626 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:54:06

「モニカよ・・・そなたは日本において、一つ失敗しておったな」
「っ!・・・はい・・・」

 とうとう本題が来た。回りのざわめきも小さくなる。
 皇帝の声が、この広い謁見の間に良く響き渡る。
 モニカは覚悟を決めて、次の言葉を待った。

「そなたの発言により、ラウンズの力は世界中に誤った認識を与えた。そうじゃな?ィッゥ…」
「は、そのとおりでございます。」
「その事について、そなたはどうするのだ?」
「この身に変えても世界にラウンズの強さを示し、誤った認識を正してごらんにいれます」
「そうか・・・」

 その答えを聞いたシャルルは目をつむり、考えるように顔を少し上に(痛そうに)向けてしばし沈黙する。
 その間モニカは真剣なまなざしで(内心:痛いならやめればいいのに・・・と思ったことは秘密だ)シャルル・ジ・ブリタニアを見つめる。
 皇帝はゆっくりと目を開いき、モニカの方に顔を向けた。

「それについては・・・あ~・・・もうよい・・・」

 なんだか歯切れの悪い言い方に、一度は心からいなくなりかけた疑問が再び持ち上がる。

「友邦国である日本から、謝罪と御詫びが来ておるし。、自分達でも把握するために、あの紛い物についての調査も、こちらでも再調査を行った。それに、そなたはいままで余の“盾”としてあまり外に出しておらなかったからな。日本の重鎮と、深い交流を持ったそなたを外すことはできぬ。失敗は誰にでもある。」

 あまりにも御咎めが軽いことに驚き、周りからも驚きの声が上がる。しかし「だが、」と言葉を発した事で、緩みかけた心を締め付ける。

「そなたは若いがラウンズである。余の騎士の一人であり、この国の騎士達の見本でもある。このような失態をした罰は与えねばならぬ」一度咳をし「明日、一度故郷に戻り謹慎せよ。そうじゃな・・・ひと月程度でよかろう。謹慎が解け次第、日本に戻り駐在武官として日本との友好のために尽力するのだ。よいな?ァッッ」
「はっ!寛大なご処置に感謝いたします!このモニカ・クルシェフスキー、日本との友好の懸け橋となるため誠心誠意鋭意努力してまいります!!」

 ひと月の謹慎という軽い罰則に、動揺しつつも表情には出さず。深く頭を下げて感謝の意を捧げた。それに頷いた(痛そうに顔をしかめた)皇帝はゆっくりと息を吸った。

「では、下がるがよい」


―――――


 謁見の間から退出すると、歩きながらしかし急いで、ナイト・オブ・ラウンズが住まう建物に向かった。
 そこは皇帝が住む場所に近く、ラウンズ全員分の部屋がある場所だ。
 モニカはその場所にいるであろう人物を目的に急ぎ、そしてその人物は日本に行く前と同様に仕事をしていた。

「ファランクス特務総監、ただ今戻りました」
「ああ、おかえり」

 そっけない態度だが、こちらを見るために挙げた顔はニヤリと笑う野性味があふれる笑顔だった。

「ベアトリスでいいというのに、クルシェフスキー卿はまじめだな」

627 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:54:39
 手を止めて仕事を中断し、お茶を入れるために立ち上がる。
 モニカが代わりにお茶を入れようとしたが、「疲れているだろうから休んでいるといい」と言われ、恐縮しつつそのまま席に座った。
 しばらくすると、紅茶を入れてきたベアトリスがモニカの前に座った。
 ベアトリス・ファランクスは元ナイト・オブ・ラウンズ・ツーだった事もあり、初めてラウンズとしてきた時にだいぶ御世話になった。
 彼女は皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが鍛えた三人のうちの一人で、事故で負傷しなければ今でも軍部等において、ブイブイ言わせていただろう人物だ。
 そんな頭が上がらない先輩と一緒にお茶を飲みながら、二人は久しぶりの会話を楽しんだ。
 ユッタリとした時間が流れていく中、モニカは謁見の間での疑問をなかなか言い出せなかったが、思い切って聞いてみることにした。

「あの「陛下の事か」え・・・えっと、そうです」
「何か言いたげだったからな。帰ってきて早々聞きたがるのはそのぐらいだろう」

 ベアトリスはそういうと紅茶を飲み干し、カップにもう一度紅茶を注いだ。

「謁見の間で見たのだろう?」
「そうです。陛下はどうされたのですか?それのほかの方々の負傷はいったい・・・」
「あ~・・・それはなぁ。クルシェフスキー卿が呼び出された翌々日の事だ」


―――――


      • 5日前

 神聖ブリタニア帝国演習場にて、本国に待機しているラウンズが一堂に集まり。その場に置いてある機体を見物していた。
 その機体は【ジェンシー】と呼ばれる機体で、ブリタニアが所有している【サザーランド】に酷似した機体だった。

「これが【サザーランド】のデッドコピー品のコピー品ねェ」

 金髪の男性、ナイト・オブ・テンのルキアーノ・ブラッドリーは侮蔑がこもった目で、その機体を見上げていた。

「そうだ。小癪にも我が国の技術が盗まれ、作られた機体だ」

 不機嫌さを隠さず言うのは、ナイト・オブ・フォーのドロテア・エルンスト。

「横流ししたのが、我が国の貴族というのも気に入らん」
「その貴族も御取り潰しになった。もう文句は言わなくてもいいだろう」

 未だに怒っている彼女に対し、苦笑しているのはナイト・オブ・ナインのノネット・エニアグラムだ。
 その横に黙って立つ偉丈夫、ナイト・オブ・ワンのビスマルク・ヴァルトシュタインがいた。
 口元は笑っていても視線はまるで狩人のように鋭いルキアーノは、顔を向けず視線だけでビスマルクを見た。

「んで。陛下はどのようなご命令を?」
「うむ。モニカの一件は知っていよう」

 その一言でその場にいた全員が察する。

(ようするに、汚名をそそげという事か)

 確かにラウンズの評判が落ちては帝国の、ひいてはその人物を選んだ皇帝の能力を危ぶむことになる。幸いモニカは国民受けがいいラウンズだったので、国民は「高麗製だからでは?」と(週刊減退の)情報を鵜呑みにはしていない。
 だが、反帝国主義にとっては良い叩き材料であることも間違いない。
 納得する三人をみながら、ビスマルクは秘めた思いを顔に出さずにいた。

(朝の修練で素振りしていたら鞘が抜けて、たまたま歩いていた陛下に当たって入院、仕事漬けになった逆恨みなどとは言えんよなぁ)

628 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:55:13
 思いっきり、道連れを望んでいた。
 実は、日本からの高麗製KMFに関する報告書はビスマルクが持っているのだが、まだ全員に見せていなかった。
 なので、病室に呼ばれた際に「ラウンズの汚名は全員でそそぐものです!」と力説し、ジノ以外を巻き込んだのだ。

(今更言えん・・・)

 罪悪感が襲うが、普段からの鉄扉面の御蔭で誰にも悟られていない。
 目の前で調整を行っていた作業員が離れ、代わりにとある人物が近づいてきた。

「どうもラウンズの皆さん。機体は準備万端です。どなたからお乗りになられますか?」

 その人物はKGFを作る際に、テストパイロットを二人も病院送り(未だ入院中)にした装置を作った張本人だった。
 ビスマルクの不安が大きくなる。

「大丈夫なのか?」
「ええ“大丈夫”です」

 大丈夫という所をやたら強調して言う元KGF開発主任は、ヒヒヒヒと笑った。
 ノネットやドロテアも二・三質問をしていたが、まどろっこしくなったのかルキアーノが前に出た。

「ここで愚痴愚痴言っても仕方がないだろうが、俺が乗るぞ。いいな」
「む・・・」
「そうだな。まぁ、ヤル気がある奴からの方がいいだろう」

 一瞬ビスマルクが引き留めようとしたが、ノネットが同意してしまったので言葉はそのまま喉の奥に消えた。
 ルキアーノは主任から起動キーを受け取ると、そのままウィンチを使って乗り込んだ。

(あれ?普通に起動するの?)

 案外簡単に乗り込んだ彼の様子を見て、少し安心する。
 乗り込んだ当のルキアーノは、計器類がまんま【サザーランド】と一緒なのに気付き、オリジナリティが無い・改善する気が無いなどと言いながら外部スピーカーを起動する。

『起動するぞ。離れていな』

 とりあえず警告をして起動キーを差し込もうとした。
 そして外から見ていた一同はサイドに移動し、これから起動するだろう【ジェンシー】を見つめていると、いきなり目の前が爆発した。

「「「はぁ?」」」

 目の前で倒れる下半身、頭上を吹っ飛んで行った腕、頭はなぜか垂直に飛んでそのまま地面に落下した。
 【ジェンシー】を見ていた視線が、目の前からゆっくりとコクピットが有った方に動き、そのまま先に移動する。
 視線の先、遥か数十メートル先でルキアーノが乗っていたコクピットは有った。横倒しで・・・

「え、衛生兵ぃ!!」
「いや、救護班だ!急げ!!」

 事態をようやく飲み込んだノネットとドロテアが、慌てて後ろに控えていた衛生兵と救護班に怒鳴った。
 同じように呆けていた彼らだが、怒鳴られると一気に動き始めてコクピットに取りつき、ハッチの強制開放を行い始めた。
 しばらくして、ズタボロになったルキアーノが助け出され、そのまま病院に直行する事になり、その間映像解析をしていた主任が蒼褪める三人の前に立った。

「どうやら、起動と同時に脱出機構が働いたようですな」
「「「えぇ・・・」」」
「しかも途中でパラシュートが一つだけ中途半端に開いてブレーキに。その反動で、縦回転で五回回った後、バランスを崩して横向きになり、三回転がったところで停止したようです」

 丁寧に説明してくれるのはいいのだが、主任の顔はすっごい笑顔だった。うぜぇ・・・

「いやぁ。面白い機体ですな」
「「「どこがだ!」」」

 叫んだあと、ノネットとドロテアはビスマルクに詰め寄る。

「ヴァルトシュタイン卿!貴方はこれの事を知っていたのでは!!」
「我々を巻き込んだのですか!!」
「う・・・」

 睨まれたビスマルクは、あまりの怒気に一歩引いた。
 その態度を肯定と受け取った二人は、更に怒気を上げる。
 溜息をつき、呆れたように首を振ったノネットは、じろりと睨みつける。

629 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:55:49
「妙にソワソワしていると思っていたら、これが原因とは・・・見損ないました」
「し、仕方あるまい・・・「ナイト・オブ・ワンともあろう貴公が、いいわけですか」うぐぅ・・・」

 ドロテアもノネットに続いて罵る。

「付き合いきれません。帰ります」
「エニアグラム卿待ってくれ。頼む・・・」
「私も帰ります」
「エルンスト卿まで・・・一人はさみしいではないか」
「「もう、ルキアーノが仲間入りしたでしょう」」

 落ち込むビスマルクを尻目に、言うだけ言って帰ろうとする二人だが、その前に主任が立ちふさがった。

「いや、もうちょっといて下さい」
「なんだ、いくらあなたでも私達を引き留める事などできませんよ」

 眉間にしわを寄せているノネットの言葉に、ドロテアも頷く。しかし主任の笑顔は崩れない。
 主任はその笑顔のまま、懐から一枚の紙を取り出した。

「エニアグラム卿、エルンスト卿、これをご覧ください」

 二人は訝しむが、とりあえず取り出された紙を見るとだんだん顔が蒼褪めていくのがわかった。
 ドロテアは間違いがないか奪うように手にとってもう一度読み始め、ノネットは冷や汗をダラダラ流しながら主任に詰め寄った。

「え、あの・・・こ、これは!」
「そうです。“皇帝陛下”の直筆の命令書です」

 何度も読み返していたドロテアは主任の断言に、この世の終わりのような表情を浮かべてへたり込んだ。

「・・・間違いない。陛下のサインまである」
「どうしてあなたが!!」
「どうしてって・・・それはですね」

 主任は楽しそうに言った。その顔はまさしく・・・

「面白そうだからですよ。皇帝陛下も楽しみにしていますよ。ラウンズの活躍を♪」

 悪魔のような、微笑みだった。


―――――


三人の前に【ジェンシー】が三機並んでいる。当初「一機しかないようだが直すのか?」とビスマルクが聞いてみたのだが、「大丈夫です。皆さんの分はちゃんとにあります」そう言って主任は軽く手をたたくと、近くのガレージから【ジェンシー】が三人分運ばれてきた。
 三人が更に絶望したのは言うまでもない。
 とりあえず視線をお互いに向けあい、無言の会話が開始された。

ビ(さて、だれがどれに乗る?)
ノ(その前に、巻き込んだ張本人なのですから御自分が選んでは?)
ド(そうだな)
ビ(うぐぐ・・・そう言われると反論できん。が!)
ド(が?)
ビ(エニアグラム卿はマリアンヌ様の直弟子だろう。ここで怖気づいたというのが伝わったらどうなるか)
ノ(!!!)
ド(うわぁ・・・)
ノ(そ、それを持ち出しますか!!)
ビ(私はどうせ笑われるだけだ。それならいつも通り・・・)
ノ(ぐぬぬぬぬ・・・)
ド(大人げないですよ・・・)

 そんな会話を視線でしていたら、三人の前に主任が手を出してきた。手には棒が三本握られている。

「さぁ。お選びください」
「「「え?」」」
「いやな事は、サッサと終わらせた方がよろしいですよ?」ニコニコ
*1

 渋々と三人は一緒に、籤の棒に手を伸ばし一気に引き抜いた。そして他の二人に見せないように後ろを向いてみる。

「当たりだ!」「「は、外れ・・・」」

 よっしゃぁ!とガッツポーズをとったのはノネットで、他二名はOTL状態となった。

「そんなばかな」
「これは・・・悪夢だ」

 落ち込む二人を楽しそうにノネットは見下ろした。

「ふふふ。どうやら運は私に味方したようですね」

 勝利宣言をして、その場から離れようとした彼女の肩を主任がいきなり掴んだ。

「じゃ。行きましょうか」
「え?当たりじゃないのか??」
「ええ、当たったから乗るのですよ」
「!!??」

 天国から地獄に突き落とされたノネットは脱力してしまい、そんな彼女を主任はいい笑顔で引きずっていき、【ジェンシー】の横に持って行った。

630 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:56:43
「どうぞ」
「・・・コレ?(【ジェンシー】を指差す)」

 片言になって聞いてみる。

「ええ、そうです」
「・・・ノルノ?(自分を指差す)」

 もう一度聞いてみる。

「乗って下さい」ウェヒヒヒ
「・・・ハイ(諦めた)」

 もう逃げられなかった。
 一度深く息を吸って吐き出し、目の前の異物を見る。
 そして心の中で決意を固めようとする。

(マリアンヌ様・・・はだめだ。コーネリア、ベアトリス、私に勇気を!!)

 思い切ってウィンチを握りしめ、スイッチを押した。
 瞬間、目の前の光景が変わり、体に重力が感じられない。
 なんとなく下を見る。
 下を見ると皆が此方を見上げている。
 ようやく状況がわかった。ウィンチのスイッチを押したら猛スピードで巻き上げられて、そのまま跳ね飛んでしまったのだと・・・

(ああ、今自分は飛んでいるのか・・・って!)

 このままでは地面に激突してしまう。ならばどうするか・・・
 高さ、おおよそ十メートル。体勢、逆さま。着地予想場所は・・・

(【ジェンシー】のコクピット真上か、ちょうどいい!)

 それなら高さは大体5メートル半ぐらいだ。落下の勢いもそうでないだろうし、衝撃さえ殺しさえすれば!!
 体を捻って体制を整え、そのまま体を何時でも着地できるようにしている間にコクピットは近づいてきた。

(勝負!)

 まずは足から着地、屈むように足を曲げて後ろに倒れ込む。次に腰から落ちないよう両手で叩いて横向きに体制を変える。
 ノネットはここまで反応出来て、事態を冷静に対処できる自分を褒めたかった。このまま転がれば助かる!
 しかし神様は無情だった。【ジェンシー】が後ろ向きに傾いたのだ。
 いきなり傾いたことで目測を誤り、背中を強打する。

「うげ!」

 とても女性が出す声ではないが、ノネットの体は再び宙に舞った。
 突然起きたハプニングに対応できなかった為、体制を今度は整える事が出来ずに落下する。
 幸いにして足から再び着地できたが今度は片足であり、そのまま捻ってしまった。

「はぐぅ!」

 そしてドベシャァ・・・と、倒れた。腰も強打したようだ。
 ナイト・オブ・ナインのノネット・エニアグラム・・・リタイア。

「「・・・」」

 目の前で、先程と同じように運ばれていくノネットを見て、二人はすっかり青くなった顔を見合わせる。

「二人で一緒に乗ろう」
「ええ、恨みっこなしで」

 足取り重く二人は残された二機に近づき恐る恐るウィンチで上がる(傾いた【ジェンシー】は直すのがめんどいので、解体されることになった)。
 問題なくたどりつけてホッとするが、今度は問題の起動だ。
 これまた慎重に、震える手を落ち着かせながら差し込む。
 いままでこんなに緊張感が伴う事があっただろうか?二人はないと断言できる自信を、変な所から持ってきつつ起動させた。

「「・・・ハァァァァァ・・・」」

 安全に起動できたことに安堵し、今度は機体を動かし始めた。
 その動きはまるで、初めてKMFに搭乗した新兵の様にぎこちなく、ちんたら動いていた。

「あのぉ・・・もうちょっと、激しく動いてみてください」
*2

 主任がつまらなそうにしているのが、どこか楽しそうな雰囲気に二人はすっごいムカついた。
 二人の気苦労なんて知りません、という感じに主任は色々と指示を出す。
 何回かおかしい故障も発生した。故障は以下の通り。

〇モニカの時同様スラッシュハーケンが戻ってこない。
〇右腕を上げるようにしたはずなのに左腕が上がる。
〇ファクトスフィアを起動させたら自分以外敵だった。というか画面真っ赤。
〇スタントンファを構えさせたら両方とも飛んで行った
〇時折ガタガタ揺れる。

 などなどあったが、機体は正常であった。

「くそ!」

631 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:57:16
 理不尽な出来事が沢山起きて、流石にイラついてきたドロテアの操縦はだんだん荒っぽいモノになっていった。

『エルンスト卿。落ち着け』
「これが落ち着いていられますか!!こんな、こんな事とても他の騎士や、皇族方に見せられない!」
『そ、それはそうだが・・・』
「テストメニューは終わりました。先に帰ります」
『ああ・・・』

 茶番にも劣る喜劇に、もう付き合いきれないドロテアは勢いよくペダルを踏んだ。

〔バキッ!〕
「え・・・」

 異音が足元からしたので覗いてみる。ペダルがある。足を離してみるとペダルが戻らない。
 機体は急加速を開始した。

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『え、エルンスト卿!ブレーキだ!!』
「りょ、了解!」

 パニックになりそうだったがそこはナイト・オブ・ラウンズ、体はしっかりと反応する。機体は反応してくれないが・・・

「ブレーキ不能ゥぅぅ!!」
『なんだとぉ!』

 もういやだ。帰って寝るんだ。その事だけを考えてドロテアは機体を動かした。
 急加速した機体から逃げるように整備員達が逃げ惑う。その人の合間を滑るように進み、飛んで避ける。
 何時も以上の切れを見せて機体を動かす彼女に、ビスマルクは「人って追いつめられると凄いんだなぁ」と感心した。
 人を避けきると、すかさず目的の場所に向かう。
 向かう場所は演習場にあるプールだ。流石にKMFと言えど、水の中では行動が不自由になる。その間に脱出するのだ。
 全速力で演習場を突っ切っていく【ジェンシー】に、整備員達と主任、ビスマルクは茫然と見送った。
 結果から言えば彼女は無事だった。プールが後1メートルという所で急ブレーキがかかり、頭から突っ込み、コクピットが外れて気絶することになったけれども。
 走り去るドロテア機を呆然と見送り、ユックリと元の場所に期待を収めたビスマルクは感無量の境地にたった。
 なんだろうかこの気持ちは・・・そう、晴れやかに空を見上げる青年のような・・・
 ああ、世界はこんなにもすばらしい!!

「ふふふ」
『なんですか?どうしましたか?』

 通信機から主任の声が聞こえるが無視だ。もうちょっと味わっていたい。

「やり遂げた時のこの昂揚感。達成感は何物にも代えられん」
『ええ、そうでしょうね』

 外野が煩いが、スルーする。うむ、うまいギャグだ。

「この熱い胸の内を『ええ、熱いでしょう。駆動機関が異常な熱量を持ち始めていますから』・・・なに?」

 慌てて起動スイッチを見ると外れている。にもかかわらず駆動音は止まらない。
 すかさず脱出装置を起動させるが反応しない。今度は開閉装置を起動させると、半分だけ開いたので躊躇なくそこから這い出た。
 ラウンズらしくない?そんなことはどうでもいい・・・今は逃げるのだ!

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」

 転がる様に地面に着地をして、全力疾走する。
 ガリアの剣という鉄塊を振るうくらい筋力があるビスマルクは、もちろん脚力もある。
 前後に振るう腕は美しい角度と軌跡を描き、大地を踏みしめる足は脈動感と瞬発力を見せていて、今この瞬間ビスマルクは風になった。
 もっとも・・・
 走り出した5秒後に【ジェンシー】は大爆発をし、衝撃波で顔面スライディングすることになるのだが・・・


―――――

632 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:57:46
 事の真相を聞いたモニカは呆れるやら、悲しめばいいのやら、同志が出来たことに喜べばいいのやら・・・わからなかった。

「この事件・・・騒動は国が発行している新聞の一面に載ってな。すでに国民全てが周知していると思っていい」
「あぅぅ・・・」

 あまりの羞恥心にサッサと日本に帰りたくなる。
 だが、それは真面目な彼女には無理だった。
 すっかり冷え切った紅茶を飲み干し、ベアトリスは立ち上がると執務席に座った。

「まぁそういう事だから気にするな」
「そうは言われましても・・・」
「一応罰は受けたのだろう。それでいいと思うぞ?」

 いちいち気にするな。そういわれてはモニカも引き下がらず負えない。しかし、良い人であるモニカは、まだどこか気に病んでいるようだった。
 その様子を見て、内心で溜息をつく。

(もっとも。無茶を言った陛下も、マリアンヌ様にお仕置きされたのだがな・・・)

 苦笑しつつも仕事を再開する。

「話はここまでだ。とりあえず、少し書類を手伝ってくれ」
「はい、わかりました」

 モニカは日本での生活を、ベアトリスはブリタニアであった珍事を話ながら仕事に励んだ。

633 :影響を受ける人:2013/02/19(火) 20:59:30
というわけで“モニカ・クルシェフスキーの帰郷 & ジェンシーに乗ろう!!”でした。
この話を思いついたのは“ラウンズメンバー全員をジェンシーに乗せて、ドタバタコメディをしてみたい”という妄想があったからです。
そして、以前スレで貴族の話がありましたが、彼女の不用意な発言で国の威信が傷ついたのでは?と思ったのが骨子となり、この話が出来上がったのです。
本当は前に作ったKGFの話くらいを想定していたのですが・・・長くなりました。
長すぎて、目が痛いやら、指が痛いやら・・・
途中更新されていた休日様や、他の方々のSSが無ければ心の潤いなく、挫折していたかもしれません。この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。
ベアトリス・ファランクスの存在は承知していましたが、口調等がわからなかったのでACFAのセレン・ヘイズ姐さんをモデルにしました。如何でしょうか?
モニカさんのラーメン大好きは、限られた人しか知らないと思うのです。国の顔の一つですしね・・・
予定・宇宙の奴が進んでいないよ・・・

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最終更新:2013年02月24日 21:48

*1 (笑顔が憎い・・・

*2 無理言うなぁ!!