307 :ルルブ:2013/03/01(金) 23:24:34
前書き。
銀河憂鬱伝説外伝の失敗を教訓にします。
今回はドイツ第三帝国海軍から見た対英攻略作戦に関するSSです。版権は使わず現実の人物のみが登場します。
ヤマトネタとかには走りませんのでよろしくお願いします。それではどうぞ。
提督たちの憂鬱支援SS 対英上陸作戦計画書『アシカ』
『対英上陸作戦を検討し、如何にして我が精強なるドイツ機甲師団を英本土に送るかを立案せよ』
総統府からの命令が届いたのが1週間前だ。
そして海軍の最高責任者は激務の合間を縫ってデーニッツ大将を招集した。
「それでだ、どう思うかね、デーニッツ大将。我らが総統のご要望にお応えできそうか?」
サンタモニカ会談に向けてドイツ本土をヒトラーが離れてから数日が経過した。
そのドイツ海軍省にてドイツ海軍総司令官であるレーダー元帥は聞く。
今次大戦中、唯一活躍した海軍部隊と言われているドイツ潜水艦艦隊司令長官であるデーニッツ大将へと。
「どうもこうもありませんね。お手上げです」
そう言って投げやりになるデーニッツ。手元の書類には英国本土に展開する海軍力の目録が書いてあった。
皮肉な事にシンガポール、ジブラルタルを初めとした重要拠点を失った事により英国王立海軍は質的に強化されたと言って良い。
英国海軍は確かに大打撃を受けた。
16世紀にスペインの無敵艦隊を打ち破り、英蘭戦争に勝利して以降、七つの海を支配してきた大英帝国王立海軍。全ての現代海軍の師と仰がれている存在。
それも度重なるドイツ第三帝国軍との交戦、いや、第一次世界大戦でのドイツ第二帝国大海艦隊との海戦、所謂ユトランド沖海戦以来損耗していった。
そして止めを刺したのは大西洋大津波と日本海軍の存在。
大西洋大津波で英本土の湾港と工廠をやられ、巡洋艦以下の艦艇が大打撃を受けた。そして日本海軍がカナリア沖海戦で戦艦を航空機単独で沈め、対米戦争、つまり太平洋戦争で航空機による新戦術で一方的な大勝利を次々ともぎ取った(
アジア艦隊、太平洋艦隊の殲滅)事から、日本の中型空母なみか小型空母並みの少数しか艦載機を搭載できない空母しか持たない英国海軍は一気に時代遅れの海軍となってしまう。
尤も、日本が異常なだけという人間も多いし、事実、日本の連合艦隊を除いて有力な正規空母主体の機動部隊を持つ国は無い。
が、軍事は結果が全て。過程は無視される。だから英国軍は時代遅れなのだ。依然として相対的に全欧州海軍を相手取れたとしても。
「大西洋大津波では、我がドイツ海軍は幸運にも健在でしたが向こう側は違います。戦艦、空母こそ何とか小破で済みました。
しかしイギリスの、敵の巡洋艦や駆逐艦は大破、下手をすれば陸地に乗り上げ廃艦するハメに陥っています。
事実、イギリスは日本へ巡洋艦以下の艦艇の輸入を第三国経由でもちかけていますので、補助艦艇不足は非常に深刻でしょう」
これは事実である。ハリファクス前政権に全ての責任を押し付ける事で何とか対日外交を再建したい現英国政府。
その第一段階がタイ王国や華南連邦、福建共和国を経由した日本海軍の余剰艦艇譲渡である。国防と言う最優先課題がある以上避けては通れない道筋だった。
方や日本もまた急激な勢力圏の膨張と戦後軍縮の影響で質的向上を迫られた。それは大鳳級大型空母の建造や大和級戦艦の建造、更には謎(原子力機関搭載)の新型潜水艦の設計開発を行って乗り切ろうとしている。
さてここで問題。一度作った艦を解体する時に費用は掛かるのか?
簡単。廃艦するにせよ、スクラップにするにせよ必ず予算はかかる。
しかも戦闘に耐えられると言う事はただの解体作業とは難易度が格段に違う。
だからこそ日本側は同盟国海軍力の強化という名目で英国に艦艇を輸出するつもりでいるのだ。それは辻大蔵大臣ら
夢幻会の予算を握る者達の総意でもあった。
「デーニッツ、旧式とはいえ世界最強国家の海軍艦艇があのドーバー海峡の向こう側に集結するのだ。全くもって頭痛しかしないな」
「全く持って同感です。まして第一次世界大戦以来の対潜部隊である日本のカイジョウゴエイタイが欧州に来るとなれば・・・・潜水艦乗りとしては最悪です。
それで・・・・・我らが総統閣下らは何と?」
ドイツ産の黒ビールを冷蔵庫から取り出しジョッキに注ぐ。更に摘みにソーセージとポテトを従卒に持って来させる。
美味い筈なのだが、美味しいとは思えない。小麦も高騰している。この大寒波のせいだ。何もかもが上手くいって無い。
308 :ルルブ:2013/03/01(金) 23:26:49
「ヒトラー総統は領土拡張に成功してある程度満足している様だが・・・・正直に言って海軍としての戦前の建艦計画、Z計画はとっくの昔に破綻している。
あのオーストリアの伍長閣下は北米大陸にまで数万の大軍を展開した。それも大西洋を渡って、だ。
一体何を考えていたのだ!? 北米だと!? 北海の制海権でさえ握れるかどうか怪しい上に大西洋大津波で大打撃を受けた湾港の修繕もあるのだぞ。
しかも戦闘艦艇以外の輸送艦艇の確保さえ欧州全土に敵である筈のイギリスに頭を下げてようやく、という有様だった。
兵站は何よりも重要な要素だ。それを無視するとは何事か・・・・あの総統の頭は陸軍の下士官時代で止まっているのではないか?」
デーニッツは流石に窘める。もっとも直ぐにその旨には同意したが。
「ヒトラー総統は選挙で選ばれた我らの国家元首です。それに一般親衛隊の件もありますからあまり大声で総統批判をするべきではありませんぞ、レーダー閣下。
まあ海軍に無知なのはビスマルクの件で十分に分かりました。あの方は海軍に関しては完全に素人です。呆れてものが言えない位に」
溜め息が出る。全くもって溜め息しか出ない。せっかくの黒ビールが美味くない。寧ろ苦味だけが残って不味い。
襟元を開けるデーニッツ。寛いでいるレーダー。というか彼ら二人は総司令官執務室のソファーで完全に現実逃避を起こしていた。
ぱらぱらとファイルをめくる。そしてデーニッツは情報部が手に入れた現在の英国海軍の本国艦隊の識別表を見る。
「1944年時点でKGV級戦艦4隻、レパルス級2隻、フッド1隻、正規空母が4隻、巡洋艦に駆逐艦多数、ですね。
旧式戦艦の老婆たちはこの際無視しましょう。あれまで数にいれたらとてもではないがこの作戦は成功しません」
黒の軍用ファイルにはこう書いてあった。『アシカ作戦』と。
それは対英本土上陸作戦、ドーバー海峡渡河作戦の暗号名。尤もイギリスのMI6はとっくの昔にこの暗号が自国、英本土上陸だと言う事を見抜いていたが。
ただエニグマの暗号が解読できなかった以上、ドイツ軍の詳細な作戦目標、作戦行動は分かって無い。
分かるのは世界初のコンピューター開発に成功しつつある日本か史実知識を持つ夢幻会くらいだろう(それがドイツ人に日本人=有色人種の突然変異という印象を強めているのだが)
「そうだな。まあ東南アジアから撤退し、BOBで消耗したイギリスが旧式戦艦を維持できる筈も無い。
我々が外洋海軍を維持できないのと同様な。だから対抗するのは君が言った7隻の戦艦と空母が4隻だ。
- 辛いな。最低でも改ビスマルク級戦艦とでも言うべき戦艦が8隻、空母も8隻は必要だ。
特に艦載機開発に出遅れているのが痛い。イギリス海軍は日本製のコード97をライセンス生産する様だ。更にコード0の輸入も打診している」
当然だが大日本帝国は極東、太平洋にあり、戦前の仮想敵国は崩壊したアメリカ合衆国だった。そして太平洋は地球最大の海洋である。
付け加えるならば太平洋は欧州地域とは違い、群島地帯である太平洋戦線では広大な航続距離と飛行可能時間が必要なのだ。
日本も
アメリカもそれは熟知していた。
史実日本軍の零式艦上戦闘機に至っては防弾装甲を削りまくってまで航続距離を伸ばしたのは有名だし、この世界の夢幻会も航続距離の重要性は理解していた。
故に日本製の艦載機を手に入れるという事は攻撃可能圏が一気に広がる事になる。
もしも日本軍や旧アメリカ海軍空母艦載機並みの飛行可能時間と航続距離があれば、先のBOBでロンドン上空にドイツ空軍の戦闘機が10分しかいれなかったという冗談が腹黒紳士どもの間で流行る事は無かった筈だ。
309 :ルルブ:2013/03/01(金) 23:27:52
「現実問題としては実際どうにもなりません。
アメリカの残照であるカルフォルニア共和国はイギリスと取引して、金食い虫のヨークタウン級空母を有償で貸し出すつもりです。
そうなると100機の艦載機を搭載できる空母が二隻新たに加わります。更に我が軍は・・・・海上での戦闘など経験していません」
まして、その後を引き継ぐレーダー。
「まして空母に離着艦させるなど自殺行為以外の何物でもない、か」
「ええ。それに空軍の国家元帥殿も・・・・・この点は閣下の方がお詳しいのでは?」
「ああ、あれだな。飛ぶ物体は全て空軍の直轄でありそれは海上にも当てはまる、だ。
私は国家元帥殿に対してふざけるなと言いたい。海軍には海軍の流儀がある。
そもそも船酔いするパイロットが敵地で空戦などできるとおもうか? 航法はどうする? だれがナビゲートするのだ?」
無言で首を振るデーニッツ。いつの間にか双方のビールも空だ。
更にビール瓶を開けて注ぐレーダー元帥。それを受け取るデーニッツ大将。
「そうだろう。そして富嶽迎撃の為の高高度高速迎撃機開発に弾道弾対策、停戦状態とはいえパルチザンが跋扈する独ソ国境線。これも重荷だな」
「その東部戦線に加えて復員兵への心理的カウンセリングや社会復帰にポーランドやウクライナなどの新領土の慰撫。開発。本国との連絡線の維持。国内の治安と経済回復問題。
ああ、止めに日本軍が保有する原子爆弾対策。忘れたいですが、総統直々の計画であるベルリン改造計画もありますな」
要約すると簡単だ。ドイツに必要な海上兵力。それは・・・・
「空母1隻あたりの護衛に巡洋艦4隻、駆逐艦8隻程、それが八倍。無論、戦艦部隊とその護衛も同様。
止めにその他の地域や大西洋海路護衛の為の海上艦隊の整備・・・・・そして」
「そして、英国海岸砲撃の為の部隊。対地攻撃の為の艦隊だ。
上陸部隊を守る航空隊も必要になる。それも英国海軍の空母機動に対応する為のこちらの空母機動部隊が、な。
君も見たと思うが、日本軍が中国で行った上陸作戦の影響から分かったが上陸作戦は制空権と制海権を完全に握っても損害がデカい。戦艦の艦砲射撃を受けても健在な陣地が構築できると書かれている。
更に沿岸トーチカと機関銃陣地一つで一個小隊、下手をすれば一個中隊が足止めされる。海からの艦砲射撃や航空機の援護があるにもかかわらず、な」
上海での戦いから分かった情報をレーダーは告げる。それが何を意味するかはもう誰もが知っている。
「つまりです、対英本土上陸作戦を成功させるにはハワイ沖海戦やツシマ沖海戦(日本海海戦の別称。欧州ではこちらが主流)の様なパーフェクトゲームをする必要がある。
そして、それから戦艦と空母を主体とした上陸支援を行う。
空軍と共同で。恐らくは格段に強化され、なりふり構わぬ増援をあの日本軍から受けるのであろう、死兵と変貌する英国軍相手に」
ネルソン提督がトラファルガー沖海戦でナポレオンの野望を打ち破ったように、イギリスは決して本国近海の、つまりドーバー海峡の制海権を渡すまいとするだろう。
その抵抗は壮絶を極める筈だ。文字通りの祖国防衛戦。後が無い戦い。故に海と空から猛攻撃を加えるのは目に見えている。
それを突破するのがドイツ陸軍であり、前衛として敵艦隊を殲滅し制海権を奪うと言う任務を与えられるのがドイツ海軍だ。
例えそれが無理難題であっても。その為には、後最低でも四半世紀は軍拡を行う覚悟する必要がある。これに英国が付いてこないと言う大前提があっての上で、だが。
「そうだ、デーニッツ。君の言う通りだ。我らは義務を果たさなければならない。
だが、その義務を果たす事が出来るかどうかは分からないのだ。そして先の様なZ計画の拡張版など夢のまた夢。総統が検討せよと命じた英本土上陸作戦、英国占領など不可能ごとだよ」
義務。海軍に入隊した時に誓った事。
だが、それは既に死を強いる言葉になりつつある。少なくとも現状のドイツ海軍では、だ。
「義務ですか・・・・私は部下に死ねと命令する為に軍人になったのではありませんが・・・・ね」
窓の外見る。その先に何かあるように。
「私もだよ、デーニッツ。いくら予算を奪い合っているとはいえ陸軍の兵にこんな命令は下したくない。
イギリスの砂浜に上陸する揚陸艇を鉄の棺桶にして船ごと水葬するような命令を、ね」
310 :ルルブ:2013/03/01(金) 23:28:33
レーダーもデーニッツにつられて窓の外を見る。警備兵が警備を交代する瞬間であり、彼らと視線があった。
敬礼する兵士達。優秀な、そして幸運な若者。陸軍と空軍とは大きく異なる兵士達。それが幸か不幸かは彼ら次第だが。
そう、今次大戦でドイツ海軍がさして活躍しなかったが故に、司令部警備と言う後方勤務のまま終戦を迎えられた幸福であろう兵士らだった。
答礼するレーダーとデーニッツ。そして窓のカーテンを閉める。彼らの邪魔をするのは気が引けるからだ。
「なるほど・・・・どこにも希望は無い。まさに憂鬱ですな」
窓のカーテンを閉め終えたデーニッツがビールを飲み切り言い放つ。
憂鬱だ、と。
同意する上官。海軍元帥。役立たずの汚名を被せられながらもその義務を果たしている男も同感だったのだろう。頷く。
「全くだ。そして未来の宿敵である日本海軍はさらに強力となる。
これが我らの未来予想図だ。しかもイタリア海軍とフランス海軍が盟友。ああ、スペイン海軍とオランダ海軍も参加できるかもしれんがな。
あてにはできない。そもそも海軍艦艇は言語の統一が大前提であるのに、総統閣下はどうやって意思統一をするつもりだ? まさか無理矢理統一言語をドイツ語にするきではないだろうな?」
そんな事をすれば各国海軍の反発を招き、下手をすれば欧州の新秩序が自壊する。それは政治から距離を取っているデーニッツにも簡単に想像がつく。
だが、その対処方法が思いつかない。日本語で統一された強力無比の無敵艦隊である大日本帝国海軍連合艦隊にどう対処すれば良いのか、を。
「さあ・・・・自分には理解しかねます」
ドイツ単独では無理だ。そもそもノウハウが全くない。
強力無比な航空機を洋上で運用するのに日本軍は1920年代から20年以上の月日をかけていた筈だ。
一方のドイツは碌な戦艦一隻も建造できてない。いくらアメリカから旧アメリカ海軍の造船士官を招いてもこのアドバンテージの差は大きすぎる。
四半世紀はこの差を埋めることは出来ないだろう。いや、下手をすると一生埋まる事は無いのかも知れない。何せアメリカ軍人は祖国を失ったのだ。所属していた海軍組織も津波で全て海の底。
書類も、人間も、現物も、経験も、何もかも、だ。それは第一次世界大戦で敗戦したドイツも同様。
「理解できないのではない、デーニッツ大将、君は理解したくないのではないかね?」
レーダーも目の前のビールを飲み干す。ヤケ酒の様に。いや、ヤケ酒だ。
「・・・・・そうかも・・・・・知れません」
デーニッツの悲痛な声が今のドイツ海軍を物語っていた。そして、そのドイツ海軍の受難は終わる気配を見せない。
最終更新:2013年03月03日 11:19