- 847. 名無しモドキ 2011/02/19(土) 11:55:08
- 忘れられた戦場 −太平洋の壁− その2
日米大戦で、太平洋の壁と世に知られているものは、二つある。一つは日本海軍が、フィリピンを封鎖
監視するためにつくった見えない壁である。そして、もう一つはアメリカ西海岸の見える防衛施設であ
る。そして、米国海軍潜水艦部隊の乗員が密かに呼びならわしていた第三の「太平洋の壁」があった。
「太平洋の壁」 −アメリカ海軍潜水艦部隊版−
−アリューシャン列島アッツ島南西海域− 英霊の声
ガトー級潜水艦ガードフィッシュ司令塔
「浮上。」潜望鏡で丹念に、周囲を確認したクラークリング艦長が静かに命令する。
潜望鏡深度から、ガトー級潜水艦ガードフィッシュは、時折、波飛沫が舞う時化気味の、北太平洋の海上
に姿を顕した。待機していた哨戒班員が、艦長に続いて司令塔上の見張り位置についた。
「明るい内に浮上するのは十日振りですかね。」後から、揚がってきた甲板長が双眼鏡を覗きながら、
クラークリングに声をかけた。明るいといっても、既に太陽は、今まさに西の水平線に姿を消して、急
激に暗闇が近づいている。
「これからは、何時、浮上できるかわからんぞ。今のうちに、十分呼吸しておけ。航海長、天測間に
合ったか。」クラークリングも双眼鏡を覗きながら答える。
「ダメです。丁度太陽が沈んだ所に雲があって正確な測定は出来ませんでした。数十マイルの誤差範囲
でしか分かりません。」航海長が、ため息をつきながら六分儀を操作している。低空と海面上は比較的
視界が良いが、全空は分厚い雲で覆われていた。
「8時に島影が見えます。」右舷の見張り員が報告する。
「レーダーには写ってなかったのか。」クラークリングは素早く、雲に見え隠れする島影の方を見る。
「30マイルはありますね。レーダーの探知範囲ギリギリですし、この海面状況ですから見逃したんでし
ょう。」甲板長が人ごとのように答えた。
「どこの島だ?」クラークリングが尋ねる。
「アッツ島です。上々ですよ。ほぼ予定通りのコースだ。おかげで、位置もわかりました。お客さんは
いつ下ろします。」航海長が答えた。
ガードフィッシュは、アッツ島へ上陸させる交代の沿岸監視員を同乗させていた。この監視員と越冬
用の補給物資を下ろしてから、カムチャッカ沿岸の航路を狙う予定である。
「機関長に充電具合を確認しろ。」ハッチからクラークリングの、命令が司令室に伝えられる。クラー
クリングの本能は潜航を欲していた。
「機関長が、まだ充電が不十分といってます。今、潜航すれば、巡航でも朝まで、バッテリーが持ちま
せん。」二分ほどして、司令室から、副長が怒鳴り返した。返ってきた答でクラークリングは、決断を
諮詢した。
このアリューシャン西部海域は、カムチャッカ半島の東に位置するコマンドル諸島に設けられた日本
海軍基地から飛来する哨戒機の活動圏内である。ガードフィッシュは三日前から哨戒機の影につきまと
われて、天測もままならいいままに、夜中に短時間浮上する以外は、推測したコースを潜航して西に向
かっていた。そして、それは急速なバッテリーの消耗につながっていた。
「連絡があってから今か今かと待っているだろうが、アッツには、もう暫く待って貰おう。波が荒すぎ
る。進路、90度。ともかく、一旦、北へ向かって島から離る。お客さんを下ろすのは、明日以降の薄暮
時にする。」クラークリングは、暫く考えてから決断した。
司令塔の上にいる人間が、一斉に、アッツ島の方を向いた。
- 848. 名無しモドキ 2011/02/19(土) 11:58:53
- 「聞こえたか。」クラークリングは全員に尋ねた。
「確かにバンザイと。三回です。大勢の人間の声です。」航海長の声は、明らかな恐怖が感じられる。
「アッツ島まで30マイルはあるんです。海の上に人が居るわけでもありません。きっと、トドの声だ。」甲板長は自分を納得させるように言い返した。
「潜航。」クラークリングは潜航命令を下した。
「右舷、魚雷。」見張員が大声を上げる。
「どこだ、見えんぞ。」クラークリングも大声を上げる。
「一瞬、波の上に姿を見せました。近いです。」
「潜航中止、取り舵一杯。全速。」クラークリングは叫ぶ。
その声と同時に、右舷後方に水柱が揚がり司令塔は、震えるように左右に揺れた。
「ジャップの魚雷は遅延信管だ。全員、甲板へ。」クラークリングがハッチに向かって叫ぶ。クラーク
リングが言い終わらないうちに、信管が作動した。今度は、大きな水柱が揚がり、船体に数メートル及
ぶ大穴が開けて後部の隔壁を破壊した。数秒もたたないうちに、ガードフィッシュは船首を10m以上も
海面から持ち上げては、船尾から意にそぐわない潜航を開始した。
司令塔の手摺りにしがみついたクラークリングは、右舷に潜水艦が浮上してくるのを見た。
「ちくしょう、待ち伏せしてやがったんだ。俺たちが来るの知ってたんだ。暗号が解読されてやがる。」
次の瞬間、20分以内に凍死が待っている海にクラークリングは落下した。
また、バンザイと声が聞こえた。
−ギルバード諸島南方海域− 閃きと蹉跌
ナーワル級潜水艦ナーワル司令室内
「更に15%減らせば、先に進めるかと思います。」副長が報告する。
「流石に、今、以上に食糧を減らせば反乱が起きるぞ。」ウィルキンズ艦長は声を潜めて答えた。
「そうですね。この頃、見る夢は食べ物の事ばかりです。食糧を減らして進んでも、いざというときに
回避行動のためディーゼルを数時間全力運転するだけで帰路の燃料が一杯一杯になります。それに、食
糧は我慢出来ても、水は我慢出来ません。」機関長はウィルキンズに顔を近づけて、より小声で言った。
「潮時か。・・帰投する。」ウィルキンズは司令室にいる乗員に聞こえるような大きな声を出した。
「どうしますか。真っ直ぐに、ホノルルに向かいますか。」副長が海図を広げた。
「敵には出会わしたくない。赤道に沿うように、南よりのコースを取ろう。西経150度のラインまで戻っ
たら北上してホノルルに向かう。」ウィルキンズは指を海図の上で動かしながら説明した。
「本土に近い伊豆は、対潜哨戒機と駆逐艇の哨戒ライン、小笠原から南は、手薄な筈なのに、南北の列
島を西に越えようとすると、100マイルも行かないうちに駆逐艇がやってくる。上空から見ても見えな
い深度に潜っていても頭上を飛ぶ哨戒機が爆雷を投下していくなんて、どうなってるんだ。」副長が
忌々しそうに言った。
フィリピンへ向かうため、日本の南方海上を通過しようとしたトライトンは、その防備を避けるため、
どんどん南下して遂に赤道に近いギルバート諸島まできてしまい食糧が不足しだした。また、日本軍に
よる包囲が厳重なフィリピンに辿り着けずに、反転するしかなかった場合には、流石に2万kmにおよ
ぶ航続距離をもったナーワル級をもってしても帰途の燃料がギリギリになってしまったのだ。
「広大な海域だ。何百隻もの駆逐艦や駆潜艇を動員しなければ、あんな芸当はできないはずです。余程、
奴らの音波探知機が優れているんでしょうか。まあ、この婆さんは、金切り声をあげながら進みますか
らね。」副長が自嘲気味に言った。確かに、艦齢14年目に入るナーワルは既に時代遅れの潜水艦だった。
もともと、第一次世界大戦でドイツ潜水艦の技術を、史実並に入手出来なかったアメリカ海軍は、予
算不足もあって1930年代以前の、アメリカ潜水艦は、列強の潜水艦の中では常に後塵を拝していた。
また、古い機器の更新が遅れ、騒音の大きさは常に居住性もが問題になるレベルだった。
そのために、古いナーワルは攻撃任務ではなく、物資搭載量の多さを利用して、高射機関砲弾や医薬
品が欠乏しだしたフィリピンへの輸送任務が回ってきたのだ。
「或いは。」ウィルキンズは、再び声を落として答えた。
「或いは・・。」副長が尋ねた。
「忘れてくれ、疑心暗鬼にさせるのも敵の手段だ。さあ、帰途は油断が出る。心して帰ろう。」ウィル
キンズは自分に言った。
- 849. 名無しモドキ 2011/02/19(土) 12:02:27
- 数時間後、ウィルキンズは潜望鏡に映る日本の飛行艇を発見した。
(こんな所で、着水して何をしている。故障か?横腹を開けて何をしてるんだ。浮上して機関砲を食ら
わすか。いや、一撃で仕留めないと敵を呼び寄せてしまう。おや、何かを引き上げてる。エンジンを始
動させた。離水するのか。)
「そうか、わかったぞ。あいつは、ソナーを下ろしてたんだ。」ウィルキンズは閃いた。そして叫んだ。
「急速潜航、全速のままで深度110まで突っ込め。」
(初手から奥の手で逃げる。そして、タフな試練を受けても、必ずこの情報を持って帰還するぞ。)
ウィルキンズは心して掛かるべきだった。補修改装が必要な艦齢にも拘わらず整備未了での出撃、大量
の物資を積んだままで、浮上、潜航を頻繁にくり返す長期の航海、その船体状態を考慮することなく、
いきなり安全深度を越えた急速潜航がどんな結果を引き起こすか。
−ウェーク島西方海上− 二人の聴音兵
T級潜水艦トライトン司令室内
「全門発射、潜望鏡下ろせ。潜航。微速、面舵30度。」カークパトリック艦長は早口で命じた。
後は、魚雷の命中を祈るだけだ。距離3500m、真横を向けた一番どでかい貨物船が目標である。ほぼ、
必中命中距離である。
「どうだ、まだ、爆雷の音は聞こえるか。」カークパトリックは聴音兵に小声で尋ねた。
「いいえ、静かになりました。」
船団の反対側から、爆雷の音が聞こえ始めたのは20分ほど前である。
「多分、スキップジャックだ。無事でいてくれよ。」トライトンが射点につけたのは、多分、味方潜水
艦が囮役になってくれたからである。カークパトリックは祈らずにはいられなかった。
「魚雷到達時間。」ストップウォッチをもった司令室要員が報告する。
「どうした、外したか。」カークパトリックがうめくように声を出す。
「いいえ、命中しました。二本です。・・・不発です。」聴音兵が報告する。聴音兵のヘイリー兵長は、
どの艦長も欲しがる、神に愛でられた耳を持つ聴音兵である。
「艦尾より、護衛艦急速に接近。距離3000m。」へイリーが、慌てた声で報告する。
「どうした、何故、お前がそんな近くまで聞き逃した。」副長が怒鳴る。
「すみません。多分、停止していたか、微速状態から急に増速しました。」ヘイリーは冷静に返した。
「面舵30度、半速前進。深度70m。副長、心配するな、敵艦が動き出したらヘイリーのものだ。」
カークパトリックは、ヘイリーが聴音しやすいように半速を命じた。司令室の誰もが、命の綱である
ヘイリーを注視した。
「あ、その方向から微速で、水上艦が接近します。反対方向からも、水上艦のエンジン音です。」
ヘイリーの声が始めてうわずった。
「くそ、囲まれたってことか。艦尾から近づいた敵艦が、ハンターの方に追い立てたんだ。何故、そこ
まで正確にこちらの位置がわかるんだ。」カークパトリックは素早く状況を把握した。
「小型爆雷の着水音多数、真上。」多くの者が物静かなヘイリーの興奮した声を始めて聞いた。
「全速、前進。敵の新型爆雷か。」カークパトリックが慌てて命令する。
「正面に降下音。当たります。」ヘイリーが怒鳴った。
「面舵一杯。電気残量一杯までダッシュだ。モーターフル回転。」カークパトリックが反応する。
しかし、スクリューの高速回転音がヘイリーの耳を混乱させていた。そして、致命的なタイミングで
ヘイリーの聴覚は、再び能力を発揮した。
「別の敵艦のものらしき小型爆雷が進路上に降下中。どの方向でもよけきれません。当たります。」
ヘイリーは慌ててイヤホーンを投げ捨てた。
「大丈夫だ。ただし、衝撃に備えろ。」カークパトリックのこの言葉は虚勢ではない。小型爆雷、爆発力
の減退する深深度、一二発の爆発では致命傷にならないと確信していた。
カークパトリックの予想通り命中爆発したのは、右舷の水平舵を破壊した一発だけだった。ただし、
その爆発で、トライトンを包み込むように降下していた、残り15発全ての爆雷が誘爆した。
- 850. 名無しモドキ 2011/02/19(土) 12:06:13
- 海防艦「大東」水測室
「敵潜水艦、圧壊します。」ソナー要員の森岡上水が静かに報告する。水測室に歓声が上がった。
「吉富二曹、森岡上水と交代してやれ。まだ、敵潜がいるかもしれんから油断するな。」測水長は、艦
橋へ報告すると命令した。
「森岡上水、ちょっとついてこい。」
二人は廊下に出た。
「どうした顔が青いぞ。」水測長が声を殺して聞いた。
「すみません。圧壊の音がしました。とても気色の悪い音です。そして、悲鳴が聞こえました。大勢の
悲鳴が・・。何百メートルの海の中で死んでいくんです。わたしが、殺しました。」森岡上水は、区切
るように答えた。
「一式曳航式ソナーも罪作りだな。なあ、アイツらを殺したのは鵜来と男鹿の兵員達だ。おれたち、
大東は、敵潜の居場所を教えて追い立てただけだ。それに、森岡、あいつらは、俺たちを殺しに来たん
だ。だから殺される前に殺した。何千人もが殺されないようにだ。俺たちは、神様や仏様じゃない。
全部の人間を殺さないで救うことはできないんだ。殺されないためには、お前の、神様に貰った特製の
耳がいるんだ。機械だけに頼るわけにはいかないんだ。」水測長は噛んで含めるように話した。
「はい。」弱々しく森岡上水は答えた。
「もう少しで、ウェークだ。だから、少し休んだら、探知に全力を挙げてくれ。今後は、戦闘になった
ら吉富二曹に引き継ぐから心配するな。」水測長は少し強く言った。
「ハイ」森岡上水は、水測長の心遣いに答えて力強く返した。
−アメリカ太平洋艦隊 サンディエゴ軍港内 潜水艦艦隊司令部− ロックウードの憂鬱
本来ならホノルル真珠湾にある太平洋艦隊潜水艦司令部は、ホノルルへの補給困難のため、サンディ
エゴに舞い戻ってきていた。ノーフォークとポーツマスが壊滅して、ホノルルが窮屈な状態のなかで、
本国で唯一アメリカ海軍の軍港として機能しているのはサンディエゴだけであった。
「ガードフィッシュからは、今日で二週間音信不通です。グルーパーとブラックフィッシュは三週間目
に入ります。それから、無線封鎖命令の出ているナーワルはフィリピンに到着した報告は無く、出航以
来50日目になります。帰港中でも、燃料切れの恐れがあります。」アメリカ海軍潜水艦隊司令官ロック
ウード中将は、太平洋艦隊潜水艦司令ブラウン少将からの報告を目を閉じて聞いた。
「8隻か。」
「え?」
「現在、1週間以上、通信が途絶えている潜水艦だ。1隻に50から100人の乗員が乗り込んでいるんだ。
500人以上の部下が行方不明だ。司令官として、なんとも思わんか。」
「まだ、喪失と決まったわけではありません。」少し感情が傷ついたのかブラウン少将が反論する。
「それを言えば、全ての帰還しない艦が喪失と決まったわけではない。現在の8隻を除いて32隻だ。」
「日本側の報道では、撃沈された我が軍の潜水艦は25隻です。」ブラウン少将が更に反論した。
「残りの7隻は、何ヶ月もかけて帰投中か。通常は、ある程度、戦果の水増しが起きるが、日本海軍の
戦果判定は病的なまでにストイックだな。ちなみに、我々の対潜部隊も25隻の日本潜水艦撃沈を報告し
ているが実際は、その半分も怪しいだろうな。」ロックウード中将は、ブラウン少将を無視して話題を
変えた。
「ブラウン少将、ところで、バーミットの帰投予定時刻はかわりないか?」
「変更ありません。」
「少しばかり一人にしてくれるか。それと、バーミットの帰港視察前に、港湾も視察したいから自動車
は早い目に頼む。」
「了解しました。」ブラウン少将は、礼儀は忘れることなく、丁重な敬礼をして部屋から出て行った。
- 851. 名無しモドキ 2011/02/19(土) 12:09:56
- (俺も、シカゴの海軍本部に詰めるようになって大分潮気が抜けたな。)窓から久しぶりの軍港風景
をロックウードは見た。
最近、潜水艦隊の中で「太平洋の壁」とい言葉が広がっている。幾つかの地点で、より、西に進ん
で日本に近づくと、壁に当たったように先に進めず、無理に進めば撃沈の憂き目に会う。そのような
地点やラインを、「太平洋の壁」と称しているのだ。ほぼ、伊豆諸島から小笠原、マリアナ諸島から
トラック諸島にいたる東経150度のラインである。しかし、その西に入り込まなければ日本船舶の撃沈
などできない。この太平洋の西部海域を、「天皇の風呂場」という乗員もいる。
ロックウードは、その原因と対策のため、来週開かれる会議資料を、再三眺めては、自分なりの質
問事項を考えていた。午後には、「太平洋の壁」を乗り越えて、フィリピン海で日本船を撃沈したと
いうバーミットの艦長からも有益な情報が得られるだろう。
1.−日本軍の探知の高度な潜水艦探知能力
日本軍に攻撃を受けて帰投した潜水艦は少ない。その数少ない報告から、アメリカ軍より高性能な
ソナーの存在以外に、音波以外を利用した探知装置の存在が疑われる事例がある。敵哨戒機が深く
潜航した潜水艦を探知する理由赤外線、磁力変化などを利用していると思われる。
2.−大規模な潜水艦探知設備の展開
北方の千島列島の間隙から、オホーツク、日本海への侵入を試みた艦艇は、ことごとく、探知され
ている。もしくは帰投しない。固定的な音響探知装置の設置が疑われる。
3.−日本軍の対潜水艦用兵器
一般的な爆雷以外が主力であると思われるが、爆発力がアメリカ軍のものより大きい。比較は難し
いが海中爆発に適した新型爆薬を使用している可能性がある。
4.−アメリカ潜水艦の静寂性の不足
これは、日本潜水艦との比較になる。津波の影響で潜水艦の整備補修が思うように任せないことも
原因と思われる。
5.−乗組員の士気の低下
これは、主観的な部分が多い。ただ、帰投した艦が、積極的な行動をしなかったと、非難する者が
いる。こういった手合いは、潜水艦畑以外から急に転属してきた者に多い。士気の低下より、組織内
の軋轢が問題かもしれない。
6.−暗号の漏洩、もしくは日本軍による解読の可能性
潜水艦部隊のみで軽々しく論じられない問題である。ただ、対日戦直前に、暗号の変更が行われて
いるため、その暗号強度から、日本軍が短時間で解読したというより、漏洩が疑われる。この問題に
関してロックウードは、「日本人にこの暗号が易々解読できるわけがない」といった、根拠のない
優越感が問題だと考えていた。
史実では、ロックウードは、太平洋艦隊潜水艦部隊司令として、潮気に近いポジションで、不発魚
雷の信管改良を進めるなど有能さを見せたが、現在は、津波の「心太押し出し人事」で、現場の艦長
などとも滅多に会うことのないシカゴで潜水艦艦隊司令としている。それでも、魚雷の信管問題に思
い当たっていない以外は、流石に、洞察力は「当を得ずとも遠からず」であった。
窓ガラスがかすかに振動した。(爆発か?)
バーミットの帰港セレモニーは中止になった。入港直前に爆沈したのだ。轟沈状態であったため生存
者は見つかっていない。敵潜水艦の侵入が疑われて、サンディエゴ帰投や補給物資搬送のためサンディ
エゴに近づいた艦船、船舶は一旦、沖合に退避させられた。
二日後、敵潜警戒のため港外を遊弋していた、掃海艇が、被雷大破して、漸くバーミットの爆沈理由が
明らかになった。敵潜の侵入防止のための、機雷原の固定索が取り付け不良で、10個ばかりの機雷が、
浮遊機雷になっていたのだ。遠因は、津波による熟練要員の不足である。残りの、浮遊機雷回収のため、
更に三日ほどサンディエゴの機能は著しく低下した。
お わ り
最終更新:2012年01月03日 21:51