681 :ハニワ一号:2013/03/15(金) 18:22:22
大正2年 ある一人の男が死去した。

男の名は、徳川慶喜。徳川幕府15代将軍にして最後の征夷大将軍だった男だ。

慶喜には、「権現様の再来」とまで称えられた有能な将軍か、それとも鳥羽・伏見の戦いの最中に見せた大阪から江戸へと退去するという「敵前逃亡」行為から惰弱な君主という毀誉褒貶にみちた評価に分かれた人物だった。

この世界での徳川慶喜の物語はここに終焉を迎えたが、この世界の人々は知らなかった。死去した慶喜の魂は、彼らが住まう列島の十倍の大きさの日本大陸が存在する世界に転生したことを。

日本大陸SS 征夷大将軍の憂鬱  その1

―――天保15年(西暦1844年)―――

徳川慶喜が目覚めたら枕の両側に剃刀の刃が立っていた。この狂ったとしか思えない状況にとっさに本能的に行動する慶喜。その機敏な行動で剃刀の刃が顔にふれて、あわや大惨事になってしまう事を防ぐことに成功した。

(危ない。顔に傷がつくところだった。それにしてもこれはどういう事だろう。幼少の頃の話を聞いた誰かがやったのだろうか。いくらなんでも死にかけの老人にこのような悪ふざけをするだろうか・・・。)

冷や汗をかきながらなぜこうなったのかを考える慶喜。ふと気がつく。自分には2つの記憶があり、七郎麿と呼ばれていた幼少の頃に戻っていることに気がついた。確かに死の床にいたはずなのに体が生気に満ちあふれていた。体が幼少の頃に若返っていたのだ。

「七郎麿様、突然起きられてどうなさったのですか?」

慶喜が眠ったと思いこっそりと剃刀を外しに部屋に戻ってきた侍女が突然に起きた慶喜に驚きながらも尋ねてきた。慶喜の幼名を口に出した侍女は慶喜が幼少の頃に見慣れていた侍女だった。驚きながらも動揺を顔に出さずに慶喜は侍女に異常はないと答えて再び眠ったふりをしてなぜこのような事になったのか考え事に没頭していった。

(神君家康公の導きか、理由はわからぬがどうやら過去に転生したらしい・・・。気になるのはもう一つの記憶に日本大陸とか変な知識が見受けられるがこれは一体どういう事だろうか。)

682 :ハニワ一号:2013/03/15(金) 18:22:54
慶喜の疑問は翌日に慶喜に転生者の知識や技術について講義しにやってきた教育係の転生者によって解消されることになる。

慶喜が自分と同じように転生者になっていることに気が付くとこの世界に詳しくない慶喜のためにこの世界についての詳しい説明をした。
転生者の言うところによれば、この世界は日本列島ではなく日本が大陸になった世界であり、概算で10倍ぐらいの大きさになっているという。
自分と同じような転生者がいて転生者のための秘密組織である夢幻会を結成しているというのだ。

(大陸化していることに驚いたが、水戸藩の状況も自分が知っている水戸藩と違っている。)

この世界での水戸藩は、反射炉、転炉をすでに完成させていたのだ。史実で水戸藩が完成させるのは1857年のはずだった。
だがこの世界の水戸藩は水戸にいる転生者の働きによって、アヘン戦争以前にすでに反射炉を完成させていたのだ。

それだけでなく軍事、医学、科学、産業など幅広い分野で転生者の持つ技術と智識を提供して水戸藩の藩政改革に協力して成果を出して活躍していた。
知識と技術だけでなく未来の事件を予言して的中させるなどして水戸の夢幻会は、徳川斉昭から信頼を得ることに成功していた。特にアヘン戦争を当てて見せたことで夢幻会に徳川斉昭は深い信用と信頼を持つことになった。
慶喜のように自分の息子たちにも夢幻会による知識と技術を学ぶための教育を受けさせていた。そして史実では攘夷論を唱えていたが夢幻会に説得されて開国もやむなしと斉昭は考えるようになっていた。

(話を聞く限り転生者は水戸藩にとどまらずに、幕府や他藩などに全国規模で広く存在していて水戸のように知識と技術を提供して改革を手助けして、来るべき開国に向けて欧米列強に対抗できるように支援しているか。それをまとめているのが夢幻会という組織か・・・。)

こうして夢幻会に興味を持った慶喜は、教育係としてやってきた転生者を通じて水戸の夢幻会に接触することになる。
最終更新:2013年03月15日 20:59