572 :二二三:2013/03/17(日) 12:52:08
続き~
休日氏の宿敵(とも)時空を越えて・68氏の総統閣下と愉快な仲間たちinEUが前提
半島転移7-3
大清連邦首都・哈爾浜
如何にも高級品ですよと言わんばかりの調度品や骨董価値のありそうな中華刀が飾られた執務室でこの国の実質的な最高指導者である大宦官の高亥は
突如遼東半島南岸に現れ黄海の約半分を埋め立ててしまった陸地の対応に頭を悩ませていた
「シベリア出兵を進めておるこの時になんと厄介な…」
大清連邦軍常備兵力の三分の二にも達する約百万の兵をEU領シベリアへ送り込んでいるこの時期に現れた第二の高麗半島
偵察部隊の報告ではどうやら国家が存在するらしく、万一に備えて遼東半島にも兵力を割かなければならなくなったのである
たかが高麗半島ごときとは思う物の相手が未知の国である以上、どんな装備を有しているかわからないし、侵略的意図を持ち合わせているかもしれない
そんな相手を無視して防衛体制を疎かにする訳にも行かず、二十個師団約三十万の兵を張り付かせる破目に陥っていた
幸い予備役を召集していたので兵力的には問題なかったのだが、思いもよらないというより予想通りのところから横槍が入ったのである
「高亥様、童倫様がお話があると」
秘書が告げた名前に唯でさえ悪い気分がより悪化するような感じがした
「童倫のチビにはあっても私にはない、私は不在だとでも言うておけ」
「は、」
心得たと部屋から出ていく秘書に深いため行きをついた
童倫の話など聞かずともわかっている
遼東半島南岸に現れた第二高麗を自国に取り込むべく、張り付かせてある三十万の兵を攻略のために進めろという催促だ
「あやつら揃いも揃って阿呆の集まりか?よもや忘れておるのではなかろうな、我が国が戦をしておるのは列強の一角であるというのを」
清が戦争をしているのはユーロピア共和国連合。経済的に衰退して弱っていても四大列強の一角だ
戦場がシベリアというEU本国から離れた遠隔地であるのと、KMFジェンシーを始めとした大戦力を投入しての戦争だから優位に進んでいるだけで、
国力的には三倍から五倍以上の開きがあるEUと戦いながら南にも戦線を抱える二正面作戦などいまの清に出来るものではない
「それを優位に進んでおるからと軽く考えおって…」
「高亥様」
いつの間にか戻ってきた秘書が考え込む高亥に話しかけた
「高亥様、我等大清連邦国防軍は高亥様のお声がかかればいつでも動く準備ができております」
「…」
高亥は真剣な眼差しを向ける秘書になんのことかとは聞き返さず黙って聞いていた
「我等清国民の大半は大恩ある高亥様が頂点にお立ちになられるのを待ち望んでいるのです」
高亥は清国民に私財さえはたいてばら蒔きをしてきた
彼にしてみれば道具に燃料を入れただけだが、清国民にとっては私財をはたいて生活を助けてくれた大恩人なのである
彼らが忠誠を誓っているのはあくまで高亥ただ一人にであって、その他の宦官たちにではない
「まあ待て、そち等が私になにを望んでいるのかは理解しておる」
忠実な道具たちは自分にクーデターを起こして清国の全権を掌握しろと言っているのだ
「じゃが、いま内紛を起こせばシベリアで戦こうておる兵にも動揺が拡がり戦に支障を来すやもしれぬ」
「しかし…!」
「なに、あの愚物どもの好きなようなはさせぬ。故にそち等は安心して任務に励めばよい」
「は…」
自分の仕事に戻る秘書に高亥は改めてため息をついた
「道具に期待されるのもこれで中々疲れるものじゃな…」
ただし道具とゴミは天秤に掛けるまでもない
「まったく、腐敗した生ゴミは早いところどうにかしたい物よの」
573 :二二三:2013/03/17(日) 12:54:26
高麗共和国首都近郊の基地
「出撃は中止か」
先ほど本部よりの伝令で義勇軍のシベリア出兵が正式に撤回された
理由は西方に現れた高麗半島と瓜二つの半島国家の偵察機とスクランブル発進した自軍のS10戦闘機が交戦し、被弾するという事案が発生した為だ
「陸地が現れたと聞いたときは耳がおかしくなったのかと思ったが、まさか本当のことだったとは…」
首都防衛隊にも待機命令が出ている。シベリアに行く筈だった少佐の部隊も現在待機中だ
「しかし相手の戦闘機が一昔前の日本の旧式戦闘機に似ている…か」
現在日本空海軍の主力機は全てが第五世代ステルス戦闘機
一部第六世代機だと噂されている未知の戦闘機も確認されていたし、第九世代KMFの噂も耳にしていたが、日本なら世界に先駆けて開発していてもおかしくはない
「技術」の二つ名は伊達じゃないからだ
日本の第四世代機は同じ世代でも高麗の持つ主力機S10より強い。それと同じような機体が西方の半島国家にあるならそれだけで脅威だ
そのうえ釜山港に入港してきて拿捕された揚陸艦もある。あれの乗組員の話が本当なら、異世界からやってきた未知の技術体系を持つ国かもしれないのだ
現にあの揚陸艦は石油燃料を元に動いていた。世界中どこを探しても石油を動力源とする船など存在しない
「政府はなんと?」
「いきなりやってきて領空侵領海侵犯しただけに止まらず、攻撃までしてきた蛮族を許すなと」
蛮族か、清の侵略戦争に荷担している我が国も人のことは言えんだろう。それに石油が主要エネルギーだとすれば補給が絶望的であることを意味する
(我が国も侵略戦争を始めるかもしれん)
どれだけ強力な兵器でも燃料がなくなればただの鉄屑だ。それなら勝てると踏んだ政府が生存権拡大を図ったとしてもおかしなことではない
そうなれば政府が言う蛮族は自分たちを指す言葉に早変わりだ
「いかんな」
やや自虐的になってしまった
「少佐?」
「いや、なんでもない。お前もいまの内に休んでおけ、もし西方の半島国家と揉めれば我々が最前線に立つことも十分あり得るからな」
上層部に睨まれているが故に最前線に送られる可能性が高い少佐は「EUや日本とやることを考えればまだましか」と呟き、日本製のPCでネットにある第二高麗半島の情報を読みふけっていた
大韓民国首都ソウル及び釜山
「領空侵犯した野蛮人を許すな!独島を強奪した泥棒に鉄槌を!」
「東に現れた陸地は元々韓国の領海だ!陸地は韓国領として併合すべきだ!」
ソウルの中心部では年配者・若者区別なく入り交じって声を張り上げながらデモ行進していた
先日東の陸地から飛来した戦闘機と韓国空軍F15Kの交戦は元より、揚陸艦独島拿捕の情報は無線を通じて韓国側も知るところとなり
原発暴走問題から目を逸らせる為に利用されていた
おかげで国民には古里原発が制御不能に陥っている事実を知られずに済み政府批判を避けることができた
だが国民感情の高まりで「神聖な韓国領に無断で侵入してきた蛮族を叩き潰し東の地を併合しろ」の声が時間と共に大きくなっている
574 :二二三:2013/03/17(日) 12:57:01
そんな安心の平常運転をしている韓国釜山沖合いの海中に一隻の大型潜水艦はいた
「さすがはステルス潜水艦鬼666だな、こんな近くの海中にいても韓国軍には毛ほども気付かれてない」
特殊任務部隊所属のステルス潜水艦オーメンの艦長はこれを開発した自国の技術力の高さに感嘆の声をあげていた
彼らが釜山沖合いにいるのは言わずと知れた暴走する古里原発の四基の原子炉を消し飛ばす為だ
既にフレイヤ弾頭を装備したKMF三騎がスタンバイしている
「しかし私がフレイヤ弾頭を他国に撃ち込むことになるとはな」
大日本帝国陸軍大佐・藤堂鏡志朗は乗り込んだ第八世代相当のKMFカラミティのコックピットで憂鬱な声をあげていた
オーメンの艦長とは偉い差だ、彼としてはフレイヤ弾という強力極まりない破壊力を持つ兵器の使用に若干抵抗があったのである
二段式のリミッターで影響範囲はかなり搾られていたが、それでも影響範囲の空間内全てを消滅させるのだから今までの兵器概念を覆してあまりある超兵器であった
これを保有し実践配備しているのは日本とブリタニアの二国のみ。世界を引き離す自国と同盟国の高度な科学技術力が生んだクリーン兵器
謳い文句は素晴らしいがブリタニアで行われた起爆実験を見たことがある藤堂としては、できることなら使いたくなかったのである
「だが日本を護る為だ、致し方ないか…」
僚機であるフォビドゥンとレイダーに騎乗する直属の部下、朝比奈昇吾と仙波崚河から無線が入る
〔そうですよ藤堂大佐!我々がやらなければ日本に毒性物質がばら蒔かれるんですから!〕
〔日本を護りましょう〕
「そうだな、これも日本を敷いては世界を護る為だ」
気を引き締める藤堂たちにオーメン艦長から浮上するぞと連絡が入った
「了解した!」
夜の闇に紛れて海上に浮上した巨大なステルス潜水艦オーメンの上部甲板ハッチが開く
「藤堂鏡志朗!カラミティ出るぞ!」
「朝比奈昇吾!フォビドゥン出ます!」
「仙波崚河!レイダー出る!」
ハッチから飛び出す三騎の第八世代KMF。藤堂機カラミティは両肩に巨大な砲塔と左手には機体の全高とほぼ同じ5mにも達するランチャーを装備していた
朝比奈機であるフォビドゥンは広い肩幅と死神を思わせる鎌状のMVSが特徴的で、こちらもランチャーを装備している
仙波機レイダーは飛翔すると同時に人形から戦闘機のような姿に変形してカラミティ・フォビドゥンの周りを飛び敵機来襲に備えた
彼ら三騎の全天モニターには数キロ先にある四つの建造物が映し出されていた
「あんな箱、発電施設が人体を破壊する物質をばら蒔くとは信じられんな」
専門家ではない藤堂にはどういった原理なのか皆目検討がつかなかった。だかやることは決まっている
「いくぞ朝比奈!」
「はい!」
カラミティとフォビドゥンが巨大なランチャーを四つの箱に向けて構えた
レイダーは上空で第二高麗軍のスクランブル発進に備えながら二機のKMFを見守っている
「キャノンギミック展開!」
そして今
「照準、前方原子力発電施設!」
藤堂と朝比奈は目標確認後、最近軍の一部で流行っている決め台詞を叫びながら全てを消し去る為のトリガーを引いた
「「蒼き清浄なる世界の為にっっ!!」」
カラミティ・フォビドゥンのランチャーから発射された二つの光弾は狙いたがわず古里原発へと突き進む
蒼き清浄なるこの世界を護るために
575 :二二三:2013/03/17(日) 13:00:18
古里原子力発電所
「なんだあれは!?」
逃げ出した原発職員に代わった原子炉冷却の任にあたっていた消防隊員は、海上から向かってくる二つの光を目撃した
「応援なのか!?」
作業の手を止めて上空を見上げる隊員
「手を止めるな!作業にもどれ!」
それを見ていた隊長からの叱責が飛ぶ。いまは他のことに気を取られている場合ではない。気を抜いたが最後、この地獄の釜は大爆発を起こして災厄を撒き散らすのだから
「絶対に停めてやる」
消防隊員たちの士気は高い。自分たちが逃げ出せば多くの同胞の命が奪われる。だから逃げ出すわけにはいかない
それぞれ考え方に違いはあれど、皆の思いはただ一つ「同胞を護る!」というもの
そんな彼らの思いは届いた
皮肉なことに彼らが忌み嫌う日本人の手によって彼らの願いは叶えられたのだ。その命と引き換えに……。
古里原子力発電所上空に到達した瞬間、光を失い不発に終わったかと見えたフレイヤ弾頭は、目が焼かれるかのような光輪を放ちながら、爆発的な勢いで光を膨張させていく
その光に包まれた弾道ミサイルの直撃にさえ耐えられる堅牢な作りの格納容器は一瞬にして分解され、足元で作業をする消防隊員は愚か、地表もろともこの世から消滅した
発生したフレイヤの光は一気に拡張。二段式リミッターの限界である半径ニキロの光球を生み出し、範囲に包まれた人、動物、建物、地面、あらゆる物質を飲み込んで原子の塵へと分解し、やがて唐突に消え失せる
そして全てが終わったあとには綺麗に切り取ったかのような直径三キロのクレーターだけが残され、
古里原発事故という本来なら歴史にその名を刻むであろう大事故は、存在と共に一瞬にして歴史から抹消されてしまったのであった
最終更新:2013年03月17日 16:06