143 :Monolith兵:2013/03/30(土) 05:51:55
ネタSS「俺の妹が○○○なわけがない!」その4

 ちょっとしたイベントが終わったある日の事。京介は桐乃から相談を受けていた。

「というわけで、あなたに着いてきて欲しいんですよ。」

 彼女の相談というものは、ネットで知り合った女友人とオフ会をするので着いてきて欲しいというものであった。確かに、ディスプレイの向こう側の相手は性別を偽っているかもしれないし、そうでなくても危険な人かもしれない。それを考えると、妹から依頼はもっともな事であった。しかし、

「…別に必要ないんじゃないんですか?」

 兄はそっけなかった。彼は自分の妹の中身が腹黒銭ゲバ爺辻正信であることを知ってるので、必要性があるとは思えなかったのだ。

「酷いですね。今の私はか弱い女子中学生ですよ。可愛い妹を一人で危険があるかもしれないところに送るのですか?」

「うっ……。」

 そういわれると痛い。中身はともかく肉体は確かに女子中学生なのだ。中の人も社会規範に沿って行動しようとしているのだ。14歳でエロゲしているが。

「はぁ、分かりました。ただし、私は面子の確認をしたらすぐに引っ込みますからね。」

 彼もさすがに折れた。それに、休日に秋葉原に行くのだ。オフ会の面子を確認したらその後は町で遊べばいいと思っていた。

「それではお願いしますね。」



 それから暫くして、オフ会の当日になった。

「何というか、…浮いてる気がする。」

 とあるメイドカフェで行われているオフ会を離れた席から確認しながら京介は呟いた。ちなみに彼は一人でカフェに入っている。前世ではこんな場所はなかったし、前々世ではオタ友と数回入った程度であった。約100年ぶりのメイドカフェ体験であった。ただし、精神年齢が爺のためにあまり楽しめてはいないが、
 それはともかく、彼は妹の桐乃が周りから浮いているのが気にかかっていた。傍目から見たらリア充が一人オタクを笑いに来たのではないか、という服装をしていたのが原因ではないかと思ってしまう。
 結局、彼女は周りと余り溶け込めずにオフ会は終わってしまうのだった。


「まあ、お疲れ様でした。」

 オフ会が終わっても一人席に座っていた妹のところに来た京介は、ねぎらいの言葉をかけた。

「一体どうしたんですか?念願のオタクっ娘のオフ会でしたのに。」

 疑問を投げかけたが反応は鈍かった。これが年齢どうりの少女なら溶け込めなかった事を慰めるのだが、中身が辻正信である目の前の少女にそんなことは必要ないように思えた。コミュ力は十分以上あるし、オタ娘と会うことをあれほど楽しみにしていた彼女がなぜこのような状況になってしまったのか彼には理解できなかった。

「……腐り方が酷かったんです。まさか8割がた腐ってるなんて。」

 そう呟いて顔を手で覆った。それを聞いた京介は顔を引きつらせて言葉をかけた。

「ええと、オタク娘の腐敗率って分かっていましたよね?」

「ええ。でも、チャットではそんな会話はありませんでしたから大丈夫だと思ってたんです。それなのに!ほとんど全員が腐女子だったなんて!!」

 確かに、中身が爺の彼女では腐女子の群れに萌える事はできなかった様だ。

144 :Monolith兵:2013/03/30(土) 05:53:44
「とりあえず、秋葉原で遊んで帰りませんか?」

「ええ…そうしましょう。」

 ようやく重い腰を上げて桐乃達は店から出て行った。そしてしばらく歩いていると、突然後ろから声をかけられた。振り向いてみると、オフ会の幹事をしていた女性であった。身長180cmほどの大柄な女性で、ビン底眼鏡とケミカルジーンズにポスターを入れたリュックといういかにもという姿をしたオタ娘である。
 立ち止まって話を聞いてみると、これから二次会を行うので参加しないか、というものであった。更に詳しく聞いてみると、彼女も腐女子があんなに来るとは思っていなかった口らしく、腐でない人を集めて二次会を行いたいというものであった。
 それを話し終えた後、彼女は京介に気づいたので桐乃の兄と自己紹介した。

「私がオフ会に参加するといったら、心配だからってついて来たのよ。ああシスコンってやだやだ。」

 人の目があるために、桐乃は京介の前で見せる姿ではなく余所行きのキャラをかぶっていた。兄のことを少しは気にしてる思春期の女の子を演じていると妹から聞いていたが、目の前でその切り替えを見てしまうと顔が引きつってしまうのを堪えられなかった。

「おお、それはよいお兄さんですね。」

 褒められても嬉しくはない。だって中身爺だもの。
 それはともかく、二次会会場となるとあるファストフード店に入った。席について面子を見てみると、幹事役をしていた女性と妹、そして何かのコスプレか猫耳をつけたゴスロリ姿の少女がいた。なるほど、腐女子でないということはあの場では残念な面子だったということなのだろうか。その方がうれしく思えてしまうが。

「では、改めてに次回をはじめたいと思います。」

 その言葉を境に始まった二次会であったが思うように進まなかった。桐乃は前世補正があるのでいいが、問題は黒猫と名乗った少女であった。彼女は腐女子ではなかった。そう腐女子では。

「私は黒猫。世界を覆う闇を振り払う勇者たちを探す富永の血を引くものよ。」

 などとのたまう邪気眼系中二病患者だったのだ。これではあのオフ会で孤立するのも理解できる。そして理解した。この二次会は腐女子ではない人のみで行うといっているが、実際は残念会だということを。

「あんたそんな事言ってて恥ずかしくないわけ?」

「ふっ、ただの人間には私の血族の高尚な目的は理解できないしょうね。」

 余りにも痛々しい言動に桐乃は突っ込むが、黒猫は馬鹿にしたようにひとつ息を吐いた後言葉を紡いだ。だが、ここにいる人間は中二的な言葉を額面どうりには受け取れなかった。なんせ、黒猫は顔を赤らめながら話していたのだから。明らかに無理をしているのがばればれであった。

「ええと、大丈夫かく、黒猫さん?」

 京介が声をかけたが、黒猫は大丈夫と赤い顔で答えていた。明らかに大丈夫でない。しかもよく見ると目元に何か光るものがあった。ここまで来ると、なぜオフ会に参加したのかさえ疑問に思うほどである。

「ちょ!なにをするの!!」

 京介はその姿に思わず身を乗り出して頭をなでていた。このメンバーの中で最も子育てスキルが高いのは実は京介であった。桐乃(辻ーん)は子供はいなかったし、他の二人はただの中学生であった。一方京介(嶋田)は前世で孫の面倒までを見ることがあったので、泣いた子をあやす事は多々あったのだ。

「大丈夫だ。少なくとも俺は君を笑ったりしないし、傷つけたりもしない。他の二人もそうだ。俺たちは君の味方だよ。」

 前世の経験から発した言葉は黒猫の心を溶かし、堰を切ったように泣き出した。沙織・バジーナといった少女はおろおろし、桐乃は口の端を曲げて興味深そうに二人の様子を見ていた。
 暫くして、黒猫は落ち着いたのか顔を上げて涙を指でぬぐい始めた。沙織が気を利かせてハンカチを差し出すと、礼を言ってそれを受け取り涙を拭き始めた。

「改めて、俺の紹介をしようか。おれは高坂京介。こいつの兄で、初めてオフ会に参加するから怖いと泣きついてきたのでここにいる。」

「はぁー?あんたが泣きながら『お前のことが心配だから連れて行ってくれ!』っていったんでしょう?」

 京介が少しふざけて自己紹介すると、桐乃が茶々を入れてきた。それは妹の中身が辻であると分かる前と同じ態度であり、もう二度と戻ることのないあの頃を懐かしく思ってしまった。

「仲のいい兄弟でござるな…」

 沙織が二人に茶々を入れるが、京介はそれを聞いて胃がきりきりと痛むのを感じた。桐乃のほうを見ると少しいやそうな顔をして「そんなわけない!」と反論していた。

145 :Monolith兵:2013/03/30(土) 05:54:19
「…本題からずれているな。黒猫さん、もう大丈夫?」

 とりあえず彼女の頭を撫でていた手をのけて尋ねた。彼女は赤い顔でこくんと頷いて小さな声で礼を言った。

「それで、一体どうしてあんなことになったのでござる?」

 沙織の質問に黒猫は少し沈黙した後話し始めた。

「私の家系は、…富永の家系はみんな邪気眼使いで。私が物心ついた頃には私も邪気眼にかかっていたの。小学生の高学年になる頃には私の家が異常だと気づいたけれど、長年染み付いた習慣は変えることはできなくて…。」

 それからかたり始めた彼女の話は想像を絶する話であった。幼少の頃から邪気眼使いとして教育され、小学校低学年はともかく高学年になるとその痛々しい言動に友達はどんどんと減っていき、中学に入る頃には誰もいなくなってしまったのだという。しかし、邪気眼を治そうにもどうすればいいか相談する相手もおらず、どうすることもできないまま時を過ごしていたというのだ。
 そして、このコミュニティをネットで知り、同世代のオタク娘なら相談相手になるのではないかと思いオフ会に参加したのだという。藁にもすがる思いだったのだろう。ただし、すがった藁は腐っていたが。

「せ、拙者たちが相談に乗るでござるよ。ね、二人とも。」

 沙織の言葉に京介と桐乃は頷いた。あまりな話に同情したこともあるが、黒猫の話に出てきた”富永”という言葉が気になったのが最大の要因であった。もし、あの富永であるのなら他人事にしたいが無視もできない。特に桐乃にとっては新生夢幻会に富永の一族を筆頭とする軍部の派閥”邪気眼派”の取り込みをしたいという事情もあった。

「確認したいことがるんだが、富永というのはあの富永大将か?カナリア軍司令だった。」

「そうよ。」

 確認すると本当に富永恭次の曾孫であるという。これで確定だ。そして、あまりの事態に二人は頭を抱えた。

*1

 彼女をどうにかしたいが、それは邪気眼派の中核である富永一族に喧嘩を売る行為に他ならない。それはあまりにも危険ではないかと桐乃は考えていたが、京介は反対の意見であった。
 先ほど黒猫は「世界を覆う闇を振り払う勇者たちを探す」と言っていた。それはもしかして夢幻会のメンバーのことではないかと考えたのだ。

「一度君の両親と話がしたい。案内を頼めるか?」

 京介が尋ねると黒猫はわずかに頷いた。



 それから千葉へと電車で戻り、黒猫の家へと一同で向かった。そこはごく普通の日本家屋のようであったが、そこが富永の巣窟であると思うと自然と足が震えてしまうのが分かった。

「今日はご両親はいるんだよね?」

 京介が確認すると、いるという返事が返ってきた。京介は顔を両手で叩き気合を入れた。

「よし!行こうか黒猫!」

 そう言って、黒猫の先導で玄関の扉をくぐった。

 そう、これから戦いが始まるのだ。黒猫の未来を書けた戦いが。
 我々はあまりにも劣勢だが、戦い未来を切り開くしか他に道はないのだ!
 戦え京介!負けるな京介!君たちの戦いは今始まったばかりだ!」

「お前もくるんだよ!!」

 後ろでへんなナレーションをしていた桐乃の手をつかみ、黒猫の家へと連れ込んだ。さあ、これで蜜連れはできた。これで少しは心に余裕ができるだろう。


「やめてー!(私が)死んでしまいます!」

「大丈夫だ!(富永一族は)こんなことで死ぬほどやわじゃない!」

 二人の絶叫は扉が閉まるとともにやんだ。

「あのー、拙者のこと忘れていませんか?」

 一人残された沙織がさびしそうに呟いた。暫く待つという選択肢もあったが、家の中から奇怪な声が聞こえてきたので冷や汗をかきながら彼女は黒猫の家を後にするのであった。


おわり
これまでご愛読ありがとうございました。
Monolith兵先生の次回作にご期待ください!

146 :Monolith兵:2013/03/30(土) 05:59:32
とりあえず黒猫さんは富永の呪縛から解放されたとさ。
富永一族VS高坂兄妹の描写は想像もできなかったので都合によりカットさせていただきます。
そして、たった黒猫フラグ。もっとも京介から見るとかわいそうな女の子程度にしか思ってないけれど。


ちなみに、今までの原作ヒロインでのルート一覧。

桐乃ー辻ーんと恋仲になれと?(ヾノ・∀・`)ムリムリ
あやせー前世の曾孫と恋仲に!京介の胃がねじ切れる。
黒猫ー富永一族との末永いお付き合いが始まります!


なんだろうこの悲しい気持ちは・・・。

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最終更新:2013年04月07日 11:39

*1 なんで富永の子孫が全員邪気眼になってるんだ!