588 :taka:2013/04/23(火) 07:51:06
嶋田は非常にあせっていた。自分は今、何でサバンナでリアルFPSやってるんだろうかと。
ヒトラーもあせっていた。一体、なんで自分は此処に居るのだろうと。
ハリフォックスもあせっていた。現役の二人は兎も角、隠棲した自分まで何でこんな事に巻き込まれたのかこれは罰なのか。
最後の一人、ムッソリーニは楽しんでいた。
こっそり間食でナポリタンを啜っていたらいきなりこの街に放り込まれた。
口の周りが真っ赤だったので、危うく撃ち殺されかけたのは良い思い出だ。
彼はラテン系のノリで四人の中で唯一楽しみを見出していた。
会談のメンバーと共にゾンビどもの脳天を吹っ飛ばす。最高の楽しみじゃないか。
三人が三人、いきなりこの町に放り込まれたという。
嶋田は徹夜明けの休憩中。
ヒトラーはフォルクス・ハレ(第48次改装案)の模型を組み立て中。
ハリフォックスは自宅まで抗議に来た失業者たちとの口論の最中。
ムッソリーニは言わずもがな。
全く、突発的に、彼らはこの脅威しか存在しない西海岸と思しき街のほぼ中心に居た。
ビルディングから見下ろした街は、化け物の巣窟と化していた。
四人は暫くの間無意味な口論で無駄な時間を浪費した後、取り合えずビルの下でうめき声をあげている連中をどうするかで討議した。
なにやら真っ青な顔つきで嶋田は自分の(あくまでも)憶測を述べたが、それはビルに出るまでの大騒動でおおまか事実であると実証された。
三人(特にヒトラー)は嶋田と日本人に対し更なる猜疑を深めたが、そんな余裕がない事を屋上に放置されていた武器を手にビルの中に降りた時に知るのである。
「な、なんだこいつらは!!」
嶋田の言葉は正しかった。肌が変色し正気と思えない形相の人々が猛然と自分たちに襲い掛かってきたのだ。
そいつらを打ち倒したり撲殺しながら、必死に階下を目指した。
だが、ビルから出ても彼らの悪夢は終わらなかった。
ビルの正面ドアが開いた向こう側には、ビルの内部で出てきた数を凌駕する『感染者』の群れだった。
「くそ、きりがない! こっちだ、早く行こう!!」
「ヘル・シマダ、いちいち指図をするのは……むっ、このっ! シャイセ、MG42があればこんな戦力蹴散らせるものを!」
日本刀を手に先頭を走る嶋田と、追い縋る感染者たちを手にしたチェーンソーで切り刻むヒトラー。
「くっ、いささか殴られすぎたようだ……」
「そうか、じゃ取り合えずアドレナリンを打ってみるか」
「ちょ、おま、話せば「割譲」」
アドレナリンでハイになったのか。
猛スピードでサブマシンガンを振り回し突進するハリフォックスを、フライパンを持ったムッソリーニが笑顔で見送る。
「おい、ハリフォックス卿! 正気か、そいつはブーマーだぞ!!」
「止めろトミー、銃で片付けるからそれ以上近づくな!!」
「フハハハハハ、ワタシハブーマーダッテ構ワズ近接デ殺ッチマウオトコナンダゼ!!」
ボンと弾ける音と共にハリフォックスは胆汁まみれになり、殺到してきた感染者の群れに囲まれる。
それを助けるべく嶋田とヒトラーが銃撃を浴びせるが、ヒトラーの射撃が唐突に止む。
ビルの窓から飛び出してきたフード姿の男、ハンターに飛び掛られたからだ。
「ぬぐ、この無礼者、離れんか!!」
組み伏せたヒトラーに爪を振り上げたハンターが、間の抜けた金属音と共にあっけなく倒れた。
僅かにへこんだフライパンを振りぬいたムッソリーニは、笑顔で空を見上げる。
彼の視線の先では、何故か屋上でひまわりがゾンビに囲まれながら歌を歌っていた。
彼らがサバンナの街から出られるか、果たして元の世界に戻れるか。
そして何故この世界に呼ばれたのかという理由。それはまだ誰にもわからない……。
やおい
最終更新:2013年05月12日 22:46