44 :929:2013/04/03(水) 16:18:24
最後の出撃
辛うじて、生還することに成功した少佐の部隊
しかし、ベテランパイロットを多く失い、部隊は壊滅状態に陥っていた。
首都に近い後方の基地で一つの部屋で少佐がタバコを吸いながら待っていた。
「・・・・・・・・」
軍事的に常識的に考えれば、壊滅した部隊は後方に下がり
合流するなり、何なりするのが常識的なのだが、ここは生憎常識的ではなかった。
「本部より入電しました!」
「・・・読んでくれ」
「はっ!後退は認めず!最後の一兵まで現在地を死守せよ!です」
「ようするに見捨てられたわけか・・・・分かった。最後の攻撃を仕掛ける。私のKMFを用意してくれ」
「了解」
敬礼しながら部屋から出ていく兵を見送りながら思う。
「私は、養父のように生きていけたのだろうか・・・・」
少佐は、幼い頃に捨てられた。古い家の慣習によってだ。孤児院に入れられた、少佐は両親に出会った。
仮初の両親であったが、愛情は本物だった。養父が警察官で真面目な人物だった。
少佐は、そんな養父になりたかった。警察官の道も両親の事故で断たれてしまったものの
軍隊でも、真面目に生きてきた。
そして、祖国高麗の腐敗ぶりを知って一時失望するものの、時間を掛けてでも
愛する祖国をより良い国へと作っていこうと決意する。
例え、一人ずつであってもいつかは大人数となれる。
そう考え努力をした。
そのお陰で、私の周りの人も考え方を変える事が出来、上層部も理解者が現れるようになった。
そのお陰で、危険思想を持った集団と見られながらも、投獄される事は無かった。
私達は国を変える事が出来るんだ
そう思った矢先だった。
EUとの戦争に勝利した、同盟国の清が大日本帝国に宣戦布告し樺太に上陸できたのを見て
高麗の上層部は、大日本帝国でも勝利できると錯覚し、宣戦布告してしまう。
その知らせを聞いた時は、思わず立ち上がり椅子を蹴って
「馬鹿な!!」
大声で叫んでしまった。
大日本帝国と高麗が比べるのは、間違っていると言われるほどの国力差があるのだ。
さらには、同盟国のブリタニアも付いてくるから、ますます勝てる筈がない。
少佐の部隊は、勝利のお零れを寄越したくなかったのか、上陸部隊には加わらなかったが
開戦からほんの数日で叩き落とされ、高麗や清に逆上陸される始末だった。
少佐の部隊は、少佐の的確な指揮と少佐自身の腕によって少ない損害で大戦果を挙げてきた。
しかし、他の部隊が潰走していくため、少佐の部隊も下がらざるをえなかった。
そして、大日本帝国軍方面の最高司令官が慰問中の情報が入り、その最高司令官を
殺害及び捕虜を目的とした作戦を起こしたが、あと少しと言う場面で援軍が入り
作戦は失敗してしまう。
その過程で、多くの戦友たちが亡くなってしまった。
「私は、養父のように真面目に生きてきた・・・しかし、私の真面目さが多くの人を殺してしまったのでは」
少佐がそう思っていると、部屋に先ほどの兵士が入って来た。
45 :929:2013/04/03(水) 16:19:03
「少佐!KMFの用意が出来ました!」
「よろしい。私はこれより出撃する!そして」
少佐は兵士を見ながら
「私が出撃した後は、基地守備隊は降伏しろ」
「なっ!それは・・・」
驚愕する兵士に肩を叩きながら
「この命令は私を疎ましく思っていた奴らからだ。このような命令に付き合う必要はない」
「でしたら、少佐も!」
そう声を上げる兵士に手を振りながら
「だが、例え理不尽の命令であろうと軍人は従わならぬものだ。この命令は私一人でいい」
「少佐・・・・」
兵士は少佐の決意が固い事を悟った。だから、涙をこぼしてしまった。
「泣くな。お前は、基地守備隊の代表をとして、大日本帝国に降伏する役目がある。後を頼む」
そう言って部屋から出ていこうとすると「少佐!」その言葉に振り返る。
兵士が見事な敬礼をしていた。
「少佐・・・・ご・・ご武運を・・・ご武運を祈ってます!」
「ありがとう」
そういって、ほほ笑みながら部屋から出て行った。
そして、兵士はしばらくの間、敬礼を解く事が出来なかった・・・・・・
格納庫に行くと、整備士たちが少佐のKMFジェンシーに群がっていた。
「あ!少佐!」
「御苦労。整備の状態はどうだ?」
「はい!最高の状態に仕上がりました」
整備士たちは誇らしげに言う
「いつもありがとう。お前たちが整備してくれるから、安心して乗れるよ」
そういった、少佐はふと、思い出したかのように胸からタバコ箱を取り出す。
「手持ちにあるのはこれだけしかないが、皆で分けてくれ。いつも整備してくれたお礼だ」
「ありがとうございます」
そういった、整備士は泣いていた。少佐が間もなく出撃するのを知っているからだ
絶望的な戦いへ・・・・
ジェンシーに乗ろうとした少佐に、複数呼び掛ける声がかかった。
後ろを振り返れば、パイロット達が集まっていた。
「少佐!私もお供させてください!」
「少佐だけ死地にいかせません!」
「最後までお供させてください!」
「少佐!」
その声に、少佐は声を上げて笑ってしまう。
最期まで、付いていきたいという馬鹿が多かったからだ。
「いいよ、いいよ。私一人でいいよ。このような馬鹿げた命令に付き合う必要ないよ」
「ですが!少佐!」
なおも声をあげる、部下に制止しながら言う。
「お前達に、命令を伝える。荒廃した祖国を立て直してくれ。例え、小さな事でもいつかは大きな事になれる
私が他国から信頼できるような祖国を見る事は叶わないが、お前達がやり遂げることを信じている。
だから、最後まで生きろ。死に急ぐな。お前達が忘れぬ限り、私はお前たちの心にいる。
私は、お前達の様な最高の部下を持って幸せだった。さらばだ!」
そういって、振り返ることなくジェンシーに乗っていく
「少佐・・・・」
パイロットや兵士たちは泣いていた。
やがて、低い駆動音を出しながら、ジェンシーは格納庫の外へと出撃していく。
「少佐にけいれーい!」
パイロットと兵士たちは敬礼し、整備士たちは帽子を振りながら送る
やがて、彼らの視界から少佐のKMFは消えていった・・・・・・・
高麗の首都は大日本帝国・ブリタニアの連合軍の攻撃にさらされていた。
高官どもはすでに脱出しており、残されたのは死守命令が出された部隊だけであった。
残された部隊はなけなしの武器で抵抗していたが、徐々に鎮圧されていく。
46 :929:2013/04/03(水) 16:19:56
そして、新たな部隊がVTOLから飛び降りた。
「よーし、全機相互援護しながら、進撃す・・・・」
隊長機がそう命じ掛けた途端にどこからともなく銃弾が来てウィンダムの頭部がはじけ、機体が爆散する。
慌てて、周囲を向けるウィンダムに1機のジェンシーが中国刀を持って突進するのが見え
1機がブレードを構える前に両断され、もう1機がブレードを持ち斬りかかるが
ジェンシーはその手首を斬ると返す刀で袈裟切りにして撃破する。
そして、爆発したウィンダムの爆煙にまぎれて姿をくらます。
「あそこか。味方機からマーカーが消失したのは」
空中で、3機のウィンダムが現場に直行していた。そこで、味方が急速に反応が消えたという。
「気を付けろ!なにかがあるかもしれないぞ!」
「ははっ、まさかな?」
そう笑ったウィンダムのパイロットは次の瞬間スラッシュハーケンに貫かれていた。
「なっ!」
驚くウィンダムのパイロットの尻目に建物の蔭から、ジェンシーがワイヤーを巻き上げながら飛んでくる。
ジェンシーの自重で沈む、ウィンダムに足踏みしながら、1機のウィンダムに接近し、両断する。
そして、もう1機のウィンダムがヴァリスを発砲するも、胴体を蹴って離れたジェンシーに当たることなく
ジェンシーは中国刀からアサルトライフルに持ちかえ、ウィンダムをハチの巣にする。
159 :929:2013/04/08(月) 12:25:35
ジェンシーは重力に任せて落ちていたが、そこに2機のダガーが
上空の様子に気づいたのかライフルで乱射してくる。
しかし、ダガーが攻撃する前にジェンシーは、左手のスラッシュハーケンでビルに打ち込んでおり
ワイヤーアクションの様に避け、伸びきったところでワイヤーを緩ませダガーに強襲する。
ダガーはナイフを持ち出し、1機は上段斬りするもジェンシーは回転するかのようにかわし、回転の勢いで袈裟切りにされ
もう1機が斬りかかるも、身を屈めてかわし、がら空きなった胴を横薙ぎされる。
2機のダガーの撃破を確認したジェンシーはその場を離れる。
「うう・・・・ホラーな展開だなあ・・・・」
一人のロング・ダガーのパイロットが呟く。
実際目の前に広がる光景は、廃墟になった建物ばかりで、ホラー映画のような光景だった。
彼は、この戦いが初陣で心臓がバクバクしていた。
「ビビるな!動く敵は全て敵だと思え!」
「味方もいるんですからその過激な発言はやめましょうよ」
小隊長が発破をかけるように言い、先輩が発言を諫めてくれる
3機のウィンダムが相互援護しながら進撃しており、慎重に行動していた。
実際、彼らが居るのは敵地であり、いつどこから攻撃されるのか分かったものではなかった。
そして、彼らがある道角に差し掛かった時に、目の前に何かが倒れた
「うわ!敵か!」
彼は思わずライフルを撃ってしまった。
彼は、撃った後で、しまった味方だったかもと後悔したが、倒れたのは半壊したジェンシーだった。
「何だ驚かせやがって」
彼らが安心した直後、建物の上からジェンシーが襲い掛かり、彼の後ろにいたウィンダムを上から中国刀で突き刺す
「えっ?」
彼は呆けてしまった。小隊長が呆気なく死んでしまったからだ。
「この野郎!」
先輩がブレードを取り出し斬りかかるも、そのジェンシーはあっさりかわして、逆に斬り飛ばされた。
2機のウィンダムが爆発する。
そして、オイルで汚れた中国刀を持ったジェンシーがこちらをギロッと見た
「ひっ!」
彼は情けない悲鳴を出しながら、後ずさりをしてしまう。
ジェンシーもそれが分かっているのか、中国刀を構えてじりじりと接近する
「来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな」
彼は壊れたかのように呟く
「来るな来るな・・・・来るなああああああああああ!!!!!!」
そして撃った直後に斬り飛ばされた。
「撃破・・・・これで何機目だ?」
少佐は建物を有効に使いながら、敵を次々と撃破していった。
しかし、ムリのある戦い方だったのか、各関節部分から警告音が届いていた。
「・・・!」
少佐は、急いでその場を離れる
次の瞬間、少佐が隠れていた建物は砲撃で吹き飛ばされていた。
もし、離れなかったら撃破されただろう。
少佐は大空を見る。
大空には、両手にライフルを広げ、翼を広げる“フリーダム”があった。
「・・・・・ブリタニアの戦女神・・・」
少佐は最近広がった、あの蒼き翼を持つKMFの異名を呟く
少佐も噂で聞いた事がある、第9世代機のKMFだ。ジェンシーでは叶わないほどの隔絶した性能もあるだろう。
「だが、最後まで諦めん!」
ジェンシーは中国刀を構える。フリーダムを呼応するかのようにライフルを構える。
「いざ!尋常に勝負!」
そして、突進して行った。
フリーダムは両手に構えた、スーパーヴァリスを発砲するも少佐はごととく避け、ライフルを乱射する。
フリーダムも光の楯を展開して、少佐の攻撃を無力化させ、ブレードを抜き放つ
少佐も中国刀をもって迎える。
2機は斬り合っていた。少佐はフリーダムの攻撃を受けるのは危険だと判断し、攻撃を避け続け
フリーダムもそれに合わせるかのように避ける。
47 :929:2013/04/03(水) 16:20:30
(・・・強い。これほどの強者は出会った事ない・・。恐らく死ぬだろうな)
そういった気持とは別の気持ちも湧いてきた。
(これほど・・・楽しい戦いは初めてだ。最初で最後の戦いを楽しませてくれ!)
やがて、永きの戦いも終わりを告げる時が来た。
きっかけは少佐の左脚部からだった。
「・・っ!左脚部が破損した!」
これまでのムリな戦いに少佐の操縦に機体が破損したのである。
この隙を見逃すフリーダムではなく、ブレードを斬りかかる。
だが、少佐は最後まで諦めなかった。
体を僅かにずらし、左腕だけを斬り飛ばさせると、スラッシュハーケンを撃ち、右腕をガチガチに固めさせる。
「うおおおおおお!!」
少佐は中国刀を持って突きを入れるも
フリーダムはいち早く反応しかわされる。
そして、逆袈裟切りに斬りとばされた・・・・・・
斬り飛ばされた、少佐は思う。
(結局・・・・故郷も守れなかった・・・・碌な思い出も無かったが、あそこは守りたかった・・・)
そう悔やむ少佐に
「それは違う」
朦朧とする中、目を開けてみれば、警官姿の養父がいた。
「そんなことは無いぞ。息子よ。お前は立派にやって来た。お前が警官を目指していた頃に抱いてた
その『意思』は、お前の心の中に再び戻っているのだよ」
(・・・とう・・・さん・・・)
「我が息子よ。お前は立派にやってくれたよ。たとえ、血の繋がらなかった子供であろと私が誇りに思う息子だ。
そしてお前の『真実に向かおうとする意志』は多くの人に受け継がれているじゃないか
大切なのは・・・そこなんだからな・・・・」
「そうか・・・・私は・・・・養父に・・・なれたんだな・・・」
少佐はコクピットから見える青空を見ながら、笑ったまま静かに息を引き取った・・・・・・。
その後、少佐が出撃した基地部隊は降伏し、まもなく首都陥落に伴い、日高戦争は終結した。
少佐の部下達は、荒廃した祖国をそれぞれが出来る事を行い、やがて、祖国を発展させる原動となった・・・・。
首都の離れた場所に共同墓地があった。
そこの隅には、多くの人が訪れ、花を飾られた墓標があるという・・・・・
48 :929:2013/04/03(水) 16:23:42
終わり
この作品は休日様・影響を受ける人様・827様など多くの名無し様のssやネタを
参考に書き上げる事が出来ました。
これによって、少佐もこれほどに成長することができました。
これもひとえに皆さんのおかげです。
皆さんありがとうございました。
最終更新:2013年05月14日 20:25