287 :楽隠居?と円卓の少女 第8話:2013/04/14(日) 22:21:35


楽隠居?と円卓の少女 第8話




怪しい男たち






「ただいま帰った僕は白河でございまーすッ!!」

あるホテルの一室にて軽い感じの男の声が響き渡る。眼鏡を掛けた七三分けの、如何にも私サラリーマンですという感じの四十代に見える男だ。
彼の眼鏡の向こうには備え付けのソファに身体を沈めて休む、赤いメッシュの入ったボサボサ頭の若い男が映っていた。
サラリーマンみたいな男、白河は純日本人という風体だが、赤メッシュの男は見るからにヨーロッパやブリタニア系の白人。
部屋の中だというのにサングラスを掛けたその男は、一見して細身に見えるが、無駄な肉のない引き締まった身体から察するに軍人や騎士、戦士といったところであろう。

「ずいぶん遅いお帰りだな。どこへいっていた?」

その赤メッシュの男はノックもせずに入って来た軽い男、白河を振り返らず、窓の外に広がる大都会の夜景を眺めながら興味なさげに聞いていた。
別に何処へいっていたとしても正直な話どうでもいいのだ。白河をよく知る彼としては彼の自由な行動はもう今更な話なので一々注意する気にもならないのである。

「いや~ッ、ちょっとゲーセンにね」

あっけらかんと答える白河。ゲームセンターに行っていたのは事実であるから嘘は言ってない。それにしても見掛け通りの軽い男だ。

「相変わらず暢気な奴だ」
「いつでも心に余裕をってね。そういえばそのゲーセンですごいのに会ったよ」
「すごいのだと?」
「一見平凡かつ人の良さそうなおじさんで大物オーラを感じさせなかったけど、確かにあれはこの国の元総理大臣、嶋田繁太郎閣下だったな」

どうだすごいだろ? 自慢気に語る白河。
確かに昼間彼が会ったのは嶋田繁太郎で間違いなかったが、聞かされた赤メッシュの男としては「わかってたなら接触するな」と言いたいところである。
そんな大物と接触して何かトラブルでも起これば後々面倒なことになるだけで何のメリットもないのだから。

「そうそう、その嶋田さん、誰か知らないけど金髪美女と一緒にいたなあ」
「金髪美女?」
「モニカさんとかいう名前だったよ。ひょっとして愛人だったりしてね」

あっはっはと笑う白河であったが赤メッシュの男にはその金髪美女とやらに心当たりがあったので、笑い事では済まされない。

「モニカ、だと?」

日本とブリタニアの関係、そして日本の事情をある程度知っている者なら、嶋田繁太郎元総理の近くにいる金髪美女で“モニカ”と言えば一人しか思い浮かばないのが常識。
にも拘わらず本気で知らない様子の白河に、赤メッシュの男は呆れて物も言えなかった。

「それは“嶋田の騎士”と呼ばれている女だ。有名だぞ」
「騎士? 日本には騎士の制度なんて無いはずだけど」
「通称に決まっているだろう。正確にはブリタニア皇帝シャルルの専任騎士ナイトオブラウンズ第12席の称号を持つ、駐在武官のモニカ・クルシェフスキーだ。本当に知らなかったのか?」

288 :楽隠居?と円卓の少女 第8話:2013/04/14(日) 22:22:13


もし知らなかったとすれば日本出身を疑うぞと念を押す彼に、白河は態とらしく手を打った。

「ああ~ナイトオブトゥエルブね、それなら知ってるよ。嶋田元総理最強のSPとか言われてる人だろう? ぼかぁ、てっきり筋肉ムキムキのアマゾネスみたいな女性だと思ってたよ。
 いやぁ、あ~んな可愛らしいお嬢さんだとは思わなかった、まいったまいった!」
「ふん、綺麗な外面に騙されるなよ。あれでも最強の一角だ」
「おや? 君はモニカさんのことずいぶんと嫌ってるみたいだね」

知らずに嫌悪するような口調になっていた彼に目敏く気付いた白河。

「ひょっとして彼女と知り合いだったり?」
「何を期待しているかは知らんが面識はない。あれの父親は知っているがな」
「へェ~、色々聞いてみたいとこだけどまあいいや。で、ファング、君の方はどうだった?」

ファングと呼ばれた赤メッシュの男は苦虫を噛み潰したような表情のまま、手にしたファイルを投げ渡す。

「見ての通りだ。先方と話はついたし、物もキ印博士自らが持って行った」
「あちゃあ、あのイカレポンチが直々にか~」

ファイルには“ガイスト”という名前と、ブリタニアの第五世代KMFサザーランドによく似たKMFの写真が記載されている。
見た感じ細部が違うサザーランドのコピーである清国製のジェンシーに見えなくもないが、確かに“ガイスト”と書かれていた。

「なんでも『ワシの頭脳がどれだけ素晴らしいか見せつけてやるんじゃ』だそうだ。大方実績作りでもして国内の足場固め、序でに空席のプリースト(神官)の座でも狙っているのだろう」
「それにしたってじいさん自ら行く必要はないだろ?」
「ガイストの実験とは別に、つい先日開発したばかりの新型機の性能テストも兼ねてるようだな。自分で操縦して確かめないと気が済まんらしい。あのジジイ、シベリアで起こるだろう戦争を実験場か何かと勘違いしているのではないか?」
「ああ、アレかあ。アレは正直趣味悪いと思うけど」
「そんなことを俺に言われても知らん。まったく“総裁”も何を考えてあんなキ印を抱え込んだんだ」
「政治的な力じゃないかな、それと腐っても天才だからねあのじいさんは。こっちのニーズには応えてくれる」

じいさんの話はしているだけでも反吐が出そうだとファングは嫌悪感を隠さず、端正な表情をゆがめていた。

「だが、なぜ高麗なんだ? もうすぐ戦争を起こしそうなのは高麗ではなく清だろう?」

ファングはガイストのファイルに書かれた『納入先高麗』の欄に理解できんと言い、キ印独自の判断ではないかと疑いを持っていた。

「一応聞いてるけど、なんでも高麗にはラウンズ級と見られる腕を持ったKMFのパイロットが居るらしいよ?」
「ラウンズ級のデヴァイサーだと?」

心当たりのない彼の頭にふと過ぎったのは、少し前にある雑誌を賑わしていた記事の内容。
ただその雑誌はデマ記事で有名な信用のない週刊誌なので、一顧だにする価値は無いと思われる。

「まさかそれは、減退とかいう週刊誌の記事に出てきた奴じゃないだろうな?」

289 :楽隠居?と円卓の少女 第8話:2013/04/14(日) 22:23:32


「ああ、あの嘘つき週刊誌か。いや、あれじゃないよ。あの週刊誌に紹介されてた男も対象者ではあるらしいけど、ラウンズ級なんてとても言えやしない」
「だろうな、あんな馬鹿がラウンズ級なら、世の中世界最強だらけになる」

では誰かとなる訳だが、ファイルには首都防衛隊少佐の名前しか記載されていない。
つまりこの一少佐とやらがガイストのデヴァイサーに相応しいらしいが。

「ほう、真面目一徹で部下の信頼も厚く、高麗思想改革を推し進めている中心人物……か。絵に描いたような好人物だな」

プロフィールには生い立ちや、彼の思想信条が簡潔に書かれていた。

「キ印ジジイが嫌いそうな奴じゃないか」
「ま、あのじいさんなら嫌いだろうけどね。僕は好きだよこういう人物は」
「俺もだ。しかし、会ってみなければ分からんがこのプロフィール通りの人物だとすれば、高麗人であるという事実の方を疑ってしまう」
「はは、違いない」

彼らがそう言うのも無理はない、なぜなら高麗民族というのは統計上世界一の嘘つき民族として認知されていたからだ。
息を吸うように嘘をつくと聞けばどれだけ酷いか大体察しは付くだろう。

「しかし、あのガイスト一騎で戦闘機10機分の金が使われているらしいが、量産は出来るのか?」

戦闘機10機分となればとんでもない高額品だ。そんな物はとても量産できないし、何より戦闘機を10機作った方がましである。
そんな彼の疑問に答えるのはやはり白河。

「ああ、聞いてなかったの? 高麗に売りつけた二騎は向こうが取り扱う部品と設備で整備が出来るようにした完全特注品だ。それで馬鹿みたいに値段が高騰してるんだよ」
「なるほど、ではあれは量産不可能な欠陥品という訳か」
「けど性能はいいよ性能は。なにせデータ上では日・ブが開発してる第七世代機の量産型と張り合えるからね。もっとも高麗に持ち込んだ二騎は特注品だからってのもあるけど」
「だが、あのキ印もよくそんな金を工面できた物だ。合衆国議会の主導権を握っているという噂は本当なのだな」
「まあね、じゃないと総裁が幹部待遇与えたりすると思う?」
「違いない」

そこで一旦話を切ると、白河の方は何やらゴソゴソと鞄をあさりだした。

「なにをしているんだ?」
「ん~? 今日の上がり」

彼が出したのは白い箱。
真っ白に見えた箱の中央にクリオネという生物に似た何かが描かれたその箱には、小銭からお札まで結構なお金が入っていた。

「マメだな……そっちのは精々知れてるだろ」
「いんや~、これが以外と馬鹿には出来ないのだよファングくん。塵も積もれば何とやらさ」
「ご苦労なことだ」



こうして怪しい二人の話は夜遅くまで続くのだった……。

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最終更新:2013年05月14日 20:52