616 :共通話6:2013/04/24(水) 23:23:25
提督たちの憂鬱キャラがギアス並行世界に転生
魔装機神微妙にクロス
主に202氏から始まった少佐大佐兄弟の超強化話
現時点での高麗設定

617 :共通話6:2013/04/24(水) 23:24:15


共通話6



少佐と大佐と幽霊と




大清連邦がE.U.領シベリアとの国境沿いに続々と兵を集結させていた頃、清国の同盟国で自称“第5の列強国”高麗共和国にも動きがあった。
同盟国、というより事実上の宗主国の清から派兵要請されてシベリアへ送り込む義勇軍の編成をしていた高麗は、国力に見合わない80万の総兵力のうち、実に10万人もの兵を送る準備を整えていたのだ。
しかし勢いのある清国の尻馬に乗ろうと考えているのは上層部だけであり、現場の兵達、特に一部の心ある人間はこの度の派兵を懐疑的な目で見ていた。

「政府はなにを考えてるんだッ!」

元々高麗という国は大国と渡り合えるような国力を持っていない。列強主要国との国力を比べようにも0コンマという数値になる程小さいのだ。
小国同士の戦争に介入するくらいならまだ如何様にもやれるだろうが、今回戦争しようとしている同盟国の清と、E.U.ユーロピア共和国連合は準列強と列強。両国共に高麗とは比べものにならない大国である。
その大国同士の戦争に介入しようとしているのだから、現場の兵から不満の声が上がるのも無理はなかった。
勝ち目があるとか無いとかの話ではないのだ。居ても居なくても同じ、その程度の存在でしかないのだから。
送り込む戦力も総兵力10万に旧式機でしかない第四世代戦闘機S-10が40機、ガン・ルゥ150騎に高麗製ジェンシーが40騎という、とても戦局を左右するようなものではなかった。というかこれ以上の戦力を捻出する余裕も力も無いのである。
それなのに大統領は「列強国として弟分を助けるのは当然だ!」などと声高に叫んでGOサインを出したのだ。
無論、清との間に何らかの密約があるのは想像に難くない。だからといって国内政策を疎かにしたあげく、他国の侵略戦争に加担する理由にはならないだろう。

618 :共通話6:2013/04/24(水) 23:24:59


「勝てる可能性があるのは知っている。しかしこれは大儀無き戦争だ」

本来なら侵略戦争は忌諱されて然るべきなのだが、何故か軍の大半、国民の大多数も支持していた。故に一部の良識ある人間の声など聞く耳を持たれないのだ。
例え戦争に勝ったところで国力は疲弊して、貧困が広がる可能性が高いというのに、皆が皆“列強国”というまやかしの言葉に踊らされていた。

「なにが列強国だ……。なぜ自分たちの現状をしっかりと受け止めて理解しようとしない……」

その良識ある人間の中心人物である高麗陸軍首都防衛隊の一少佐リム・ケィホは、テレビで国民を煽動する大統領の李・承朝を冷めた目で見つめていた。
あの馬鹿なアジテーターが大統領であり、自分たちの最高司令官であるという事実に目眩がする。
少佐の嘆きに同志とも呼べる部下達もテレビで得意気な顔をしている大統領を睨み付けていた。

「こんな馬鹿で愚かな考えを国民全員に擦り込まれていたら、いずれこの国は地獄を見ることになるぞ」

正に真理であった。高麗国民は自国を“列強国”と勘違いしている。もしもこの流れで煽り立てられるまま暴走を始めれば、いつの日か必ず大きなしっぺ返しを食らうことになるだろう。
特にこのシベリア侵攻で列強の一角であるE.U.に勝利すれば、『やはり列強高麗は最強だ』との間違った考えはより強いものになり、
中華にも勝てる、日本にもブリタニアにも勝てるなどと行動言動がエスカレートしていくのは目に見えていた。
確かに清がこの勢いのまま列強へと駆け上がれば、中華に勝てる可能性も出てくるかも知れない。だが、日本とブリタニアだけは別格だ。
あの二国は共に中華とE.U.を倍以上引き離す国力を持った怪物である。しかも立ちが悪いことに硬く結びついて離れないどころか、一部の文化が融合しているほど良好な関係にあった。
もし清が無謀にも彼の国々と戦端でも開けば、悪い意味で自信を持ってしまった高麗も“勝てる”と勘違いして宣戦布告することも充分有り得る。その時になって思い知らされるだろう。高麗は吹けば飛ぶような小国でしかないのだと。
そうなる前に何とかしなくてはならないのだ。例えそれが非国民と罵られる行為や言動であったとしても……。

だがそれは高麗という国に於いて極少数の考え方でしかない。
事実、彼と彼の理解者たちは一纏めにされて危険思想グループとしてマークされている。いつも理不尽な命令ばかりが回され、窓際に追いやられているのがそれを証明していた。
それでも少佐達は己を律し、人を敬い、他を尊重し、より良い社会を作っていこう。我々も日本人やブリタニア人のように物質的豊かさだけではなく、心の豊かさを持とうと声を上げ続けるのをやめるつもりはなかった。
高麗が信用できる国。信頼の置ける民族になるその日まで。


「少佐、リム・ケィホ少佐はいるか?」

少佐一人、いや、アジテーターのパフォーマンスを見ている部隊全員がそう決意していたとき、基地指令の大佐から声を掛けられた。

「はッ、なにか御用でしょうか大佐殿」
「用があるから呼んだんだ。わかり切っていることを一々聞くな」

明らかに棘のある大佐の言葉、少佐は彼が自分を嫌っているのは知っていた。その理由が彼との血縁関係にあることも。
だからといってリム少佐の方は大佐を嫌ってなどいなかったが。

「これから俺と一緒に来て貰おう」
「は? しかし、我が隊も派兵準備を――」
「反論を許可した覚えはないッ! 黙って付いてくればいいんだッ!!」
「は、申し訳ございません」

姿勢を正して敬礼する少佐に大佐は何も言う事なく踵を返した。

619 :共通話6:2013/04/24(水) 23:25:55







「ここは……」

少佐が連れてこられたのは首都ソウルから離れたケソン近郊の演習場。
ここは彼も何度か訪れた事があった、主に新型機の実戦テストなどで使用される演習場だ。
かつては戦車、現在ではKMFの実戦訓練によく使用されている。

「なにをボーッと突っ立ってるんだ早く来いっ!」
「はッ」

やたらと不機嫌な大佐に先導されて施設内に入った少佐は、演習場の最奥にある地下格納庫へと連れて行かれた。

「大佐殿、いったいここに何があるというのですか?」
「行けばわかる」

“くそ、なんでこいつまで”

質問の後に聞こえた小さな悪態は聞こえていたが少佐は何も言い返さなかった。いつものことであるし、何を言われたところで気にならないから。
別に大佐を軽く見ているからではない、彼が育った環境で養われた人間性なのである。人が自分をどう見ているかではなく、自分が人をどう見るかだ。
相手が自分を嫌っているからといって、自分も相手を嫌う必要など無い。人間誰しも良い部分はあるのだから、そこを見つけて好きになれば良いだけ。
変な話だが、少佐は大佐と同じ職場で働けていることを嬉しいとさえ思っていた。血を分けたたった一人の兄と同じ場所で働けるのだからこれほど嬉しいことはない、と。

(例え貴方が私を嫌っていても、やはり私にとって貴方はたった一人の兄だ)

家族への愛情というものだろう。どんなに嫌われたところで自分からは嫌いになれない。
育ての親、自分に取っては本当の両親である養父母以外で抱く家族の情。それは一方通行でしかないものだが、それでも彼には十分であった。



そして到着した地下格納庫。
巨大な地下空洞内には何もないガランとした空間が広がっている。
本来なら多数のジェンシー、ガン・ルゥが格納されているはずなのに、今は三騎のKMFが駐機しているだけ。
内二騎は見慣れたジェンシーであったが、残る一騎は見たこともないKMFであった。

「ジェンシー、でしょうか?」
「そのようだな、だが」

そしてそのジェンシーもどこか違うのだ。乗り慣れているからこそ違和感を覚えた。

(一回り大きい……)

普通の人が見た場合、並べてみなければ違いに気付かないものだが、このジェンシーは明らかに大きかった。5メートルとまでは行かないがそれに近い体高だ。
そして目に付いた最大の違和感は少し盛り上がった胸部前面。中に何かが収納されているとしか思えない形のその部位は、既存のジェンシーには存在しない物。
構造の違いからして、これは最早別種の機体でありジェンシーではなかった。といってジェンシーの元となったオリジナルのサザーランドでもない。
つまり態々外装をジェンシーに似せて作られた未知の新型機であった。

そして最後の一騎、これだけは完全に別物だ。

「なんだこのKMFは?」

KMFである以上、人型であるのは当然だが、頭部には鶏冠のようなものが付いていて、顔の部分が嘴のようになって前に突き出ているのだ。
肩から背中に掛けては翼のような物が付いていたが、それは鳥っぽい頭部とは違い昆虫の羽を連想させる物で、KMFのデザインとしては正直いいとは言えない趣味の悪さが伺える。
手にはインドやネパールなどで見られるくの字に曲がった、ククリ刀に似た刀を携えているところから、白兵戦主体のKMFなのだろうか?
もっとも、そうと見せかけて遠距離型なのかも知れないし、遠近両用型なのかも知れない。ジェンシーとは完全に違う未知の物であるからその辺りは見当も付かなかった。

「初めて見ます。日本の物ともブリタニアの物とも違いますね……」

現在純正のKMFを使用している国は日本・ブリタニアに加えて、ブリタニアから技術を盗んだ清と、その清から技術供与された高麗だけ。
中華やE.U.も開発中ではあるらしいが、それらどの国の物とも異なる設計思想なのは一目瞭然だった。では一体何処の国が開発したというのか?
少なくともジェンシーの型落ちを使用中の高麗にKMFを一から作り上げるような技術力はない。あれば態々清との間にライセンス契約をして生産する必要など無いからだ。
といって列強以外の国でKMFを開発できる程の技術力を持った国など――。

『ひょほほほほ、よぉ来たのぅ』

620 :共通話6:2013/04/24(水) 23:26:41


わき起こる疑問の答えを探す二人は、壁に設置されているスピーカーから聞こえた甲高い老人の声に顔を上げた。

「誰だッ!?」

何処にいるか分からない老人に話し掛ける二人。
だが謎の老人は「誰でもいいじゃろう」とだけ言うと、こちらの問いかけを無視して自分の目的だけを話し始めた。

『お前さんらを呼んだのは他でもない。高麗軍で1,2を争うエースじゃと聞いてなぁ、それでジェンシー……。
 いや、機体構造を調べて一から作り直したジェンシー改――解体され、一度死んだジェンシーの幽霊“ガイスト”のテストに付き合って貰おうと思うてな』
「ジェンシー改……ガイストだと?」

おそらくガイストというのは目前にあるあの二騎のジェンシーに似たKMFのことだろう。

『なぁ~に、心配せんでもお前さんらの国と、ついでに軍の許可も取ってあるわい』

老人の話を聞いた段階でそれはわかっていた。民間人や誰とも知らぬ老人が許可無く軍の施設に入れるはずがないのだから。
つまりこの老人はこの場に居る時点で軍に影響力を持った人物であり、同時に『お前さんらの国』という表現の仕方から高麗の人間ではないということになる。
一体何者で何処の国の人間なのか? 皆目見当が付かないのと、突然の話に、少佐はどうするべきかと悩んでしまう。

「おもしろい! 参謀総長が仰っていた私にしか出来ない事というのはこれだったのか!!」
「大佐?」

しかし、悩む少佐とは裏腹に、大佐は意気揚々と駐機しているガイストに向けて歩き始めた。
彼はここに来る前、高麗陸軍参謀総長から『君と、君の部下のリム少佐にしか出来ない事がある』と告げられ、ケソン近郊の演習場へ向かうよう命令を受けていたのである。
自身が嫌う少佐まで呼ばれたのには納得いかなかったが、自分にしか出来ないというのは、大いに彼の自尊心を刺激していた。

(こいつと、とは言われた物の、ここで何か実績を残せば自分が上であると証明できる!)

“血を分けた双子の弟”

本来なら嫌うような相手ではない。双子の兄弟というのは往々にして仲が良い物だ。だがそれは幼少期より共に育っていればという最低条件が付いてくる。
大佐の家は所謂上流階級に分類される由緒正しい家柄だ。それ故、古い家系にありがちな跡目問題を考慮して、双子の片割れは養子に出すという古い習慣が残っていた。
ではどちらを養子に出すか? 弟に決まっている。そうして兄である大佐は実家の跡目として育てられ、弟の少佐は施設に入り一般家庭に引き取られる事になったのである。
片や軍高官や政治家を輩出する優秀な家系。片や貧しくも温かい愛情溢れた一般家庭。正反対の環境で育った二人の性格が真逆となるのは必定といえた。
それでも弟は兄に会えて嬉しかったし、仲良くなれればと今でも思っている。血を分けたたった一人の兄、彼と仲良くなれればと、今でも諦めずにいたのだ。

だが、真面目で努力家、優秀な成績を収める弟に対し、高い潜在能力を持ちながらも親の威光の元、ぬるま湯に浸かっていた兄は、
自分より優秀で周りから信頼される弟に嫉妬を抱き、遠ざけ嫌悪するようになってしまったのだ。
もし、二人が同じ環境で育っていれば、互いに助け合い、足らない部分を補って努力する仲の良い兄妹になっていた事だろう。
だが現実はとても優秀で努力家の弟。優秀ながらも嫉妬深い兄。相反する関係でしかなかった。

(俺は優秀なんだッ! 俺にしか出来ない事があるんだッ! 兄が弟に負けるはずがないんだッ!!)

嫉妬から生まれる深い心の闇を持つ大佐は、目の前に現れた新たな力を手にするため、ガイストという名のKMFに乗り込んだ。

621 :共通話6:2013/04/24(水) 23:27:21






地下格納庫のエレベーターから地上へと上がった二人の乗るガイストは、用意されていた10騎のガン・ルゥと相対していた。
本来ならばKMF擬きのガン・ルゥではなく、ジェンシー10騎と対戦させるつもりであったらしいが、虎の子のジェンシーを詳細な性能も分からない新型機のテストに使うというのは流石に許可が下りなかったのである。

「なんて視界の広さだ……」

少佐はモニター画面から見渡せる前方の景色に目を奪われていた。
前方モニター、サイドモニターの区別がない、全天型スクリーン。
ガイストのコックピットに乗っているというよりも、機体の外に立って前を見ているかのような景色。
控えめに言うなら大きな一枚の窓から見える外の景色と言ったところか。
これだけ視界が広ければ行動のバリエーションも増え、戦闘時に於ける自機の優位性も増すというもの。

『は、はははっ、凄い凄いぞっ!』

無線からは愉悦に満ちた兄の声。大佐も同型機に乗っているのだから、これと同じ視界を見ている。
少佐が目を奪われたのと同じように、大佐も視界の広さに魅せられていたのだ。
そんな大佐にあの人らしいという思いを抱いた少佐ではあったが、彼には一つだけ違っていたところがあった。

『ふ、ふふ、これなら……このガイストならば私の力を証明できるッ!!』

驚きつつも冷静である少佐とは違い、ガイストに魅せられてしまった彼は狂気の笑みを浮かべながら対戦相手の群れへと無謀な突撃を開始したのである。

「た、大佐ッ!」

スクリーンにはランドスピナーを急回転させ、敵機であるガン・ルゥに突っ込んでいくガイストの姿。

「速いっ!」

ジェンシーとは比べものにならないスピードに、少佐の制止は間に合わなかった。
本来ならば、何の考えも無しに10騎ものKMFの集団に突っ込んでいくのは無謀極まりない行為である。
如何にKMF擬きのガン・ルゥと言えど、その集中砲火が繰り出す弾幕に捉えられれば、純正のKMFでも木っ端微塵に爆砕されてしまうのだから。
だが、明らかに数発食らいながらも平然と高速機動している様子から、このガイストというKMFの装甲は、現在自国の主力機となりつつあるジェンシーよりも厚い事が伺い知れた。
それでもアレを全弾食らえば撃墜されていたはずだが、大佐の操るガイストはその殆どを回避しているのである。
酷い言い方だが、大佐の実力ではあの弾幕を躱しきることはかなり難しい。それを数発食らいながらも躱しきれているのは優秀なソフトウェアと機体性能の高さ故。
無論、並のデヴァイサーではこの高性能な機体に振り回されるのがオチだが、少なくとも彼は、この新型機を操れる程度には力量を備えていたのだ。

『とろいっ! とろ過ぎるぞ貴様らァァァ――ッッ!』

そうこうしている間にも縦横無尽な高速機動を見せる大佐のガイストは、目に付けた1騎のガン・ルゥを勢いのまま蹴り上げていた。
まるでチンピラが街中で因縁を付けた相手に取るような、何の戦略性もない、ただ勢いに任せただけの攻撃であったが、ガン・ルゥはその動きに付いていけず一方的な攻撃を受けている。
無論、ガン・ルゥのパイロットも黙ってやられるつもりなど無く、反撃を試みていたが、銃も砲も全て躱されてまるで相手になっていない。
更に大佐は蹴り上げたガン・ルゥの巨体に向けてスラッシュハーケンを射出。一撃の元に貫いたガン・ルゥにワイヤーを絡みつかせたままハンマーに見立てて振り回し、攻撃態勢を取っていた他の機にぶつけ、撃破していく。

『そらそらそらそらァァァァ――ッッ!』

ハンマー代わりのガン・ルゥは1騎、2騎、3騎と味方機を巻き添えにして爆砕していた。

「やり過ぎです大佐ッッ!!」

少佐は慌てて大佐の前に踏み出ると彼の攻撃を制止した。何故ならガン・ルゥにはジェンシーを含め、純正のKMFにはほぼ必ずと言って良いほど備え付けられている脱出機構がない。
これはガン・ルゥが脱出装置などの複雑な機構を排除する事で、徹底した生産性の高さを実現させる目的の下開発されたKMFである為、仕方のない事であった。
それ故に、実戦形式で行われる新型機の性能テストの際は、寸止め、もしくはコックピットを避けて攻撃するよう義務付けられている。
にも拘わらず、大佐は機体その物をパイロットごと爆砕していた。あれでは中のパイロットが無事だとは思えない。
だが、そんな彼の行動は極度の興奮状態に陥っていた大佐には逆効果となり、大佐は生意気にも自分に意見する少佐に機体を向けて、攻撃態勢に入っていた。

622 :共通話6:2013/04/24(水) 23:28:09



『貴様ァ! この私に意見するつもりかァァ!』

頭に血が上った大佐は、コックピットの操縦桿に据え付けられているジェンシーには無かった武装の発射トリガーを、無意識のうちに引いていた。
直後、ガイストの盛り上がっていた胸部装甲のカバーが二つに分かれて開き、内部構造が剥き出しになる。

(なんだ、あれはッ)

剥き出しになった内部には丸い発射口のような物が収められており、その中心円に青白い光が集まっていくのが見えた。

(あれはッ……まずいッッ!)

おそらく何らかの攻撃用兵装であろうその胸部構造を見た少佐は直感的に思った。あれをまともに喰らえば死ぬと。
受け止めることは不可能であり、回避するしか手段はない。
初めて見る武装であるにも拘わらずその答えを導き出せたのは、やはり彼の資質の高さを物語っている。

「くッ!!」

操縦桿を倒し、大佐のガイストが砲撃しようとしている射線軸から逃れる少佐。
と同時にガイスト胸部に集束していた光がその輝きを増し、眩い閃光を放ちながら一直線に撃ち出された。



鳴り響く轟音と共に発射された青白い光は、直径1メートル程の光の帯を作り出しながら秒速数百メートルという、とてつもない速度で大気を切り裂いていく。
優に㎞単位の射程があるのではないだろうか? 射線上に居た2騎のガン・ルゥが胴体を抉られ爆散していた。
まるで紙で出来た人形を大砲で撃ち抜いているかのようだ。そのくらい装甲が役に立たない圧倒的な威力。
コックピットに居たパイロットはあの光線の直撃で消し飛んでいるだろう。

「なんという、威力だ……」

ガイストが発射した砲撃の威力に息を呑む少佐。
ほんの少し回避が遅れていれば、自分もあの光に飲み込まれていた。それを考えると背筋が寒くなる。

623 :共通話6:2013/04/24(水) 23:28:49



『ヒャッヒャッヒャァァッ! どうじゃね、ワシが開発した荷粒子砲ギガソートカノンの威力は?』

コックピットの通信機から聞こえる老人の声は悦びに満ちていた。

『すごいッ、素晴らしいぞご老人ッ!!』
『ヒヒヒヒッ、もっと褒めても構わんぞ? なにせその2騎のガイストは態々お前さんらの為に開発した特注品じゃからのォ。性能的には日本とブリタニアしか持っとらん第7世代の量産機とタメを張る。
 いいや、ギガソートカノンまで含めれば上回っとるから、ブリタニアのKMFなんぞ敵ではないわい。何せワシはブリタニア中央学会のアホ共なんぞ比較にならん程の天才じゃからのう』

やたらとブリタニア中央学会と自分を比較しては、自分の方が優れているのだと繰り返して笑う老人。
今行われた性能テストで人が死んだというのにまるで何事もなかったかのように笑う声には不気味な物を感じた。
もっとも、老人は元より、兄もガイストの力に魅せられているようで、同胞を殺してしまった事を気にも留めていない。
訓練中の事故、実験中の事故というにはあまりにも乱暴すぎる。

「ふざけるなッ! あなた方は今何をしたのか分かっているのかッ!」

少佐は二人のあまりなまでの態度に激昂する。これはテストなどではない、その範囲を逸脱した殺人行為だと。
しかし、そんな彼は老人より意外な事実を知らされた。

『あ~あ~うるさいのう、あやつらの事なら別に構わんよ。寧ろ処分してもらわんと困る』
「なッ!?」
『まあ種明かしをするとじゃなあ、あれらのガン・ルゥに乗せとるのはみ~んな、死刑囚なんじゃよ』




あのガン・ルゥに乗せられているのは死刑囚、つまり死ぬことが確定している凶悪犯罪者たちなのだという。
何でも、この謎の老人がガイストの実戦テスト用に欲しいと政府に掛け合って乗せたらしく、司法取引をして自分たちに打ち勝ち、生き残れば無罪放免になる予定なのだという。

『要するに、殺してもらわんと凶悪犯罪者が世に放たれることになるんじゃわなあ』
「そん、な」
『ほれ、次はお前さんの番じゃぞ? さっさと死刑執行してもらわんと奴等を罪に問えんようになるぞ?』

老人の指摘に少佐は怒りのあまり頭がおかしくなりそうであった。
法の裁きを受けさせるべき凶悪犯罪者を条件次第では釈放するというのだから。それも高麗政府のお墨付きで。

(こ、ここまで……ここまで腐っていたとは……!)

老人から聞かされた話に政府上層部がどれだけ腐っているのかを改めて思い知らされた。
大統領の振るまいと言動、軍、国民に蔓延る偽証主義、それは最早法をねじ曲げるところにまで来ていたのだ。

『どうしたんじゃ、早う死刑執行せんか!』

老人より飛ぶ無茶苦茶な命令。上層部の意向が働いている以上、現時点でこの老人は自身の上官という立場にある。
軍人である以上どのような命令にも逆らってはならない。規律に厳しい少佐が常日頃から自分に言い聞かせ、守っていた言葉。

「……了解、しました」

苦渋の思いで命令を受け入れた少佐は、自らが駆るガイストを操り、残る4騎のガン・ルゥを撃破した。
無論、凶悪犯罪者の死刑囚を見逃すわけにはいかず、コックピット諸共に……。

624 :共通話6:2013/04/24(水) 23:29:24






終ぞ謎の老人と顔を合わせることなく性能テストを終えたところで、二人は軍上層部の命により新型機R13XKガイストを受領することになった。
あの老人は誰か? その少佐の質問に上層部の人間は「遙か南よりの客人だ」とだけ答え、南にある高度な科学技術力を持った国の科学者であるらしい、という事くらいしか分からなかった。
南にある高度な科学技術を持つ国と言えばまず世界第二位の超大国、大日本帝国が思い浮かぶが、それはまず有り得ない。
日本は基本的にブリタニアとの間でのみKMF関連の技術協力をしている。例外として欧州唯一の王制国家シーランド王国にKMFを供与しているが、それだけだ。
といって東南アジア諸国にそんな技術力を持った国は無いし、中華連邦という線もない。
後は凡そ150年もの間鎖国体制を敷き、他国とはほんの僅かな繋がりしか持っていないオセアニアくらいだ。
だが、オセアニアに付いては四大列強の国々も殆どその実態を知らないという未知の国。
分かっているのは、精々東南アジア諸国と小競り合いを繰り返しているという事だけ

(考えたところで答えは出んか……)

どれだけ考えようが何の情報もなければ関わりのない国の事など分かる物ではない。
そもそもあの老人がオセアニアの人間であるという確たる証拠もないのだから。
ただ一つだけ分かったのは、あの老人と自分は決して相容れることのない人間であるということ。
何故ならあの老人は如何に死刑囚とはいえ、人間をパーツ、部品として見ていた。

そんな人間と少佐が相容れる事は100%不可能なことであった。






その帰りの車中。

「貴様は4騎で、私は6騎か」
「はい……」
「たかが死刑囚の乗るガン・ルゥ如きを片付けたところでスコアにはならんが、まあこんな物だろう」

テスト前は不機嫌だった大佐はやけに上機嫌となっていた。
理由など分かっている。ガイストという新しい力を手にした上、自分よりも多く撃墜できたからなのだろう。
だが少佐としてはそんな兄に構っていられる精神状態ではなかった。
大佐が自分に向けて荷粒子砲を放ったからか? 違う、周りが見えず、冷静な判断力を失うほど極度の興奮状態に陥っていた兄を責めるつもりはないし、それで落ち込んだりもしない。
現に今はこうして普通に会話できているのが何よりの証拠。
では人を殺したからか? それも違う、軍人である以上は敵と戦い命を奪うこともあるだろう。軍に入った時から殺す覚悟も、殺される覚悟もしているのだから今更だ。
それに、あそこで手加減をして死刑囚達を見逃しでもすれば、彼らの罪を問えなくなっていたのだから。
開示された情報は全て耳にしたことがある凶悪な事件の犯人の物であり、ギガソートカノンで消し飛んだ二人以外の原型を留めた遺体も確認したが、確かにそれらの犯罪を行った者と一致していた。
だからこそ自分の中で決着を付けることが出来ていたのだが、問題はそこではないのだ。

現高麗政府が法をねじ曲げるところまで腐敗しているという現実。その否定できない事実を知り、暗澹たる思いになっていたのである。

(一体いつからこうなってしまったのか?)

建国の歴史を振り返れば高麗は偽証主義に溢れている。
それは自らが作り上げた法にまで波及し、国家国民の鏡であるべき政治家たちが率先して破り始めるところにまで達しているのだ。

(遠い…な、)

己を律し、他者を敬い、他国から信頼される国家民族となる。
少佐は自分の夢が、未来永劫叶えられない理想主義でしかないような、そんな暗い気持ちになっていた……。

625 :共通話6:2013/04/24(水) 23:30:04


高麗共和国



ユーラシア大陸東端に存在する高麗共和国は、高麗半島全土及び周辺島嶼群約22㎞2の国土面積と7000万の人口、陸海空合わせて80万+予備役からなる国軍を持つ共和制国家。
古くは李王朝の時代より500年以上に渡って中華地域の支配下にあった為歴史は浅く、皇歴1948年8月15日に中華連邦より独立するまで、事実上の“地域”でしかなかった国である。
人口の99%は高麗民族で構成されており、生き残りを図る為か古くから偽証行為を繰り返し、周辺諸国との摩擦が絶える事なく続いていた。
中華連邦時代は時の天子(中華連邦元首)に『高麗半島の民を中華より切り離すことは出来ぬか?』と言わしめたほどだ。
この時の天子のひと言が後に高麗の独立に結びついたのだが、当時の独立運動指導者は

『天子は自らの過ちと、我ら民族の優秀さを認めた』
『高麗民族は自らの力で独立を勝ち取ったのだ』

などと、厄介払いという形で中華連邦より追い出されたという事実に気付くことなく国民を鼓舞する始末。いや、これも既に分かった上で行った偽証行為なのかも知れない。
以後、更に思い上がった思想に染まり始めた高麗は強勢大国を名乗り、日本・ブリタニアという、自らとは比較不可能なまでの圧倒的超大国にまで、侮辱するような発言を繰り返すようになるのであった。

最近では、中華連邦より独立を果たした大清連邦との間に同盟関係、清高(高清)安全保障条約を結び、自国の弟分と見たり。
清国成立の過程で開かれた、高麗共和国・中華連邦・E.U.ユーロピア共和国連合・大清連邦・神聖ブリタニア帝国・大日本帝国による六カ国協議で議長国を勤めた際(高麗以外の各国は勝手にやれという程度の考え)
ブリタニアの代表であった第二皇子シュナイゼルよりのひと言『これで貴国も列強クラブの仲間入り』を真に受け、列強国高麗を名乗り出したりと、その増上慢は留まるところを知らない。





R13XKガイスト

全高
4.92m

重量
8.98t

推進機関

ランドスピナー

武装

スタントンファ×2
内蔵式対人機銃×2
ケイオス爆雷
高周波ソード
スラッシュハーケン×4
アサルトライフル
大型キャノン

荷粒子砲 ギガソートカノン

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最終更新:2013年05月15日 20:54