410 :石人:2013/08/09(金) 00:24:56
 どのような物でも、続編・新作というのは前作・旧作と比較される運命にある。
前作の反響が大きいほど、凡作が駄作認定されることも少なくない。
憂鬱世界の日本初期アニメ史において、「のらくろ」ほど比較が難しいとされる続編は存在しなかった。


   提督たちの憂鬱 支援SS のらくろ雪中戦


 そもそもの切欠は冬戦争が終わり、英仏独三ヶ国のノルウェー侵攻が始まった1940年4月。
陸軍夢幻会派ではある議題が持ち上がっていた。冬戦争の映画化である。
既に近衛が編集した遣欧軍の活躍の映像は軍や政府の支持に貢献している。
その為本来陸軍がそんなものを作る必要はないのだが、外務省と大蔵省から製作の依頼が来ていた。

前者は冬戦争をあらゆる手段で発信することで連合国 ―特に米英― の反共を煽り、

「赤い侵略者に立ち向かう気高き小国に不利を承知で助太刀する侍」

を演出することで少しでも世論を親日に傾けるため、
後者は会合で決定したイギリスへ兵器売却する計画を発展、列強植民地や中小国へも販路をさらに広げるため
PVとしてそれぞれ利用しようとしていた。
彼らの要請に応えるべく日々頭を悩ませていたある日の会議のこと。

「ちょっと聞いてほしい。実は松竹と田河君からある報告をもらっていてな」

本庄の一言で場の空気が固まった。
前回製作された 「のらくろ小隊長」 はディズニーに興行収入・話題共に敗れたものの、軍の宣伝は十二分に果たしていた。

「ちなみに、どのような?」

陸軍をまとめる永田が質問する。

「冬戦争を題材に、のらくろの続編を作りたいらしい。前回の反響が予想以上に大きかったのもあるが、
 本音はディズニーへの屈辱を晴らしたいんだろう。もし可能なら、また一緒に協力してほしいと書いてあったよ」

事実、「白雪姫」と「のらくろ」の衝撃は大きく、日本映画業界で脇役扱いだったアニメ部門への評価は大幅に見直されている。
その先駆者かつ最も影響を受けた松竹はここ数年、「打倒ディズニー」をスローガンにありとあらゆる増強を進めていた。

「なるほど……。松竹のほうは理由がわかりました。しかし何故田河先生までそのような返事が?」

当初は再びのらくろを使ったアニメ映画にする案も挙がっていたが、
前作は戦意高揚を煽らないことが条件で映画化できたこともあり、強制は自由な創作を阻みかねないとして早々に却下されている。

411 :石人:2013/08/09(金) 00:25:50
「そのことなんだが……。ファンレターの中に少なからぬ大人の意見が混ざっていたからだそうだ」
「は?」

(比較的)良識派の東条がポカンとした。

「のらくろ小隊長」公開直後より、松竹は元より田河本人にも続編を望む投書が数多く寄せられていた。
その中には、子供と一緒に劇場版を見た保護者や連載当初から読み続け社会人となった者たち、極め付きには現役軍人の感想も存在する。
それらを読み進めた結果、某機動戦士のようにアニメにも更なるリアル志向を求める人間がいることを彼は知ったのだ。

史実と違い内地、それもほぼ地元で軍隊生活を送り、内務省や軍から文句どころか助力をもらえたことでどこかに余裕ができたからなのか、
子供向けのにも関わらず思わぬところから自分が描く

「犬の戦争ごっこ」

以上のことを求められていることに遅ればせながら気付いた田河は、今後「のらくろ」をどう描いていくか
指針を立てる意味も兼ねて松竹と軍に続編の製作(※1)を依頼したのだ(当然、監修に携わるつもりだった)。

「私も今東条君がした反応と同じだったよ。前回とは間逆で、今回は明らかにプロパガンダとして利用されるのにどうしてだと電話もしたが
 あんな手紙の内容と、真剣な話を聞かされたらな」
「その口調からすると本庄さん、何を知ったのです?教えていただきたいのですが」
「言ったな、後悔するなよ。
 ……誰だよ
 『大戦争を!一心不乱の大戦争を!』とか
 『のらくろがコッラ川で九七式狙撃銃を使って赤い熊を狙撃する挿絵下さい』とか書いた馬鹿は」

この場にいる全員にダメージを与えながらも本庄の報告は続く。

「もう一つ、重要な情報がある」
「何です?」

なんとか復活した東条が答える。

「義息経由だが、富士フイルムが国産テクニカラーを実用化したから今回の映画で試したいそうだ。
 喜べ、国産カラーアニメの誕生だ」

普段なら喜ぶべきことだが、今回に限っては追い打ちにしかならなかった。
ただ、全員がほぼ一致した見解を持っていた。

 ―次回の会合は、荒れる― と。

そんなこんなで会議は進み、再びツテ(※2)がある本庄を代表として陸軍は映画製作に協力することを会合で提案することで一致、終結した。

そして案の定、それが提案された時の会合は荒れた。
白黒テレビすらまだ高級品、カラーテレビなど夢のまた夢の時代。アニメを作る唯一の手段である映画はあまりに魅力的であり、
日本初の国産カラーアニメとなれば誰でも自分の嫁(二次元)が見たい。
折りしもノルウェー侵攻が終盤に入り、続いてフランスの死亡がほぼ確定してどこも忙しい時期である。誰だって癒しは欲しいのだ。
今回は複数の方面からの賛成多数で可決はされたが、後にアニメ製作の話題が出る度、暗闘が繰り広げられることになる。

412 :石人:2013/08/09(金) 00:26:50
ゴタゴタはあったが1940年6月、1942年初めの完成を目標に企画が立案される。

軍の快諾に喜んだ松竹の上層部と田河だが、後世でも一部謎と考えられている条件に首をかしげる。

 ・ 政岡憲三・山本善次郎両名が音頭をとること
 ・ 原作者・田河水泡も監修に参加し、積極的に意見すること
 ・ 輸出を前提とした作品を意識すること
 ・ 明らかに事実と反する創作はできるだけ控えること
 ・ 現実で不可能な演出は極力排すること
 ・ 登場配役は軍と意見交換し、特にフィンランド役は可能な限りその結果を反映させること
 ・ もし完成の遅延や資料提供など、不備や要求があるなら速やかに報告すること

協力の代わりに以上のことに同意してくれというものである。
欧州戦で色々と物入りの筈なのに破格ともいえる協力体制に彼らは疑問を持つが、
潤沢な支援とほぼ全ての裁量が認められるのは滅多にない機会であり(※3)、最終的には同意した。

前作以上に準備は万全。順調に製作が展開―しなかった。
同年11月、

「ピノキオ」 日本公開(※4)。

一度ならず二度までもディズニーは壁として立ちはだかったのである。

これを見た中心メンバーたちは直ちに計画を修正。従来のままでは勝てぬと考えた彼らは
軍・松竹上層部・田河にある提案を持ちかけ採用されるとすぐに、方針転換を行った。

そのような経緯もあり当初の完成期限には間に合わなかったが誰もが納得する作品が完成したと確信できた。

1942年6月。

「のらくろ雪中戦」 上映開始。

前作のスタッフが再集結し、予告で前作を遥かに上回る出来と宣伝していた他、初の国産カラーアニメ映画として
公開前に既に話題になっていたが、その本領は冒頭から発揮される。

413 :石人:2013/08/09(金) 00:27:59
舞台は前作、大陸からの帰還直後から始まる。
今回が初見の人達のために、新規書き下ろしでのらくろの概要と前作「のらくろ小隊長」の
ダイジェストをナレーター(森繁久彌)が解説。解説終了後、本編に移行する。

大陸帰還後、正式に少尉に任官したのらくろ。
猛犬連隊はその時得た教訓を基に日々訓練と研究を重ねていた。
のらくろも新任少尉、そしてモール中隊隷下の小隊長として日々を送る。
軍曹に昇進したデカを補佐につけ、「破片」を筆頭に入営してきた新たな部下の教育も行っていた。

部下たちの面倒を見ているうちに、彼はある疑問を持つ。

「一体自分は何故軍にいるのか」 と。

ブル連隊長やモール中隊長のような尊敬すべき犬達がいる。信頼できる友もいる。
だが、孤児である故に家族はいない。
今までは考えたこともなかったが、家族を持つ部下と話す機会が増えたことでそれを意識するようになっていた。
非番の日でも帰る家もない。金なら一応あるがほとんど食費に消える。
そんな悩みを抱えながらも新兵の教育がほぼ終わったある日のこと。猛犬連隊の元に、新たな辞令が届く。

『ハスキー部隊や他北方の部隊と共に冬季訓練へ向かえ』

シベリアン・ハスキー部隊(※5)
 ―犬の国における有数の精鋭部隊で、かつての強敵だが、今は心強い戦友。雪と寒さに強い―
や他の部隊と共に、犬の国北方の島々で長期間、のらくろは厳しい訓練に励む。
毎日が泥と寒さの中、ほかほかの料理と沸いた風呂を生きがいに、部下や同僚、上司たちとの絆を深めていった。

月日が流れ、はるか遠くの大陸では赤い熊が虎と手を組み次々と小国を平らげていく。
そして遂にカバ(※6)の国にもその手が迫ろうとしていた。
近所であり有力な国家である狐・鶏・狼・鷲は虎を恐れるか関心が無く小言を漏らすだけで、
カバの隣国ライオン・ヘラジカ・白鳥は直接虎に脅されカバの救援に動けなかった。
孤立した状況にも関わらず弱気な姿を見せぬカバの国に心打たれた犬の国の偉い人たちは、ハスキー部隊と
当部隊と現在合同訓練をしている部隊の中で選抜した者を熊との戦争に備え秘密裏にカバの国へ送る。
その中には新生のらくろ小隊も含まれていた。はるか遠くの、文化も何もかもが違う国に到着し驚嘆するのらくろたち。

だが、時勢は彼らを待ってはくれない。
突如熊の国は国境沿いの地峡の割譲と防衛線の撤去を要求。何とか戦争を回避したいカバの国は譲歩案を出すもこれを拒否。
それどころか国境で起きた砲撃事件で熊の兵士に死傷者が発生。カバの兵士が挑発したと非難した熊の国はもはや相手にならぬと最後通牒を提示。
前回の内容に加えカバ国領内に基地を設置する許可がつき、受け入れられないなら戦争だと通告した。
当然カバの国の上層部は拒否。

「かかってこい!相手になってやる!」

ついに戦争が始まる。

414 :石人:2013/08/09(金) 00:29:03
戦争が始まることを知ったのらくろ。当然義勇兵としてカバに加勢する。
その翌日から、宣戦布告をした熊が大量に国境を越え雪崩れ込んでくる。
のらくろは小隊をまとめ上げた後、雲の上の上司がこの国に大量に兵器を売却してくれたことに感謝しつつ、戦場に向かう。
そして戦地にて、他国の義勇兵やカバの国の兵士と共に

「Ураааааааааааааа!!」

と叫び突撃する熊を次々と血祭りに上げていく。
数少ない休息時間は、腹いっぱい飯を食べ、独特の入浴法 ―サウナ― で汗を流し、
厚手の毛布にくるまって寝る。
それにストーブの温風と少し酸味の残るコーヒーが加われば、何かまた気力がわいてくるのだった。
戦うときは、少しでも毛の赤い熊(基本的に階級が上なほど、毛が赤い)と通信兵を
優先的に狙撃(可能なら奪って情報妨害をする)。
何度も訪れる砲弾の雨霰に恐怖しながらも隊長としてそれを表に出さず敢えて余裕な表情を見せつけ、
弾幕を抜け塹壕に到着した熊にはべ式短機関銃で鉛玉をプレゼント。生き残りは銃剣、もしくはスコップを使いこの世から退場してもらった。
敵戦闘機編隊に見つかったときには無線で早く助けるように怒鳴り、援軍のサーブJ9戦闘機がドッグファイトするさまを見て大興奮。
残りも、対空砲が落とした。
油断しきっている熊たちを見れば、奇襲で挑発してからスノーモービルやスキーを駆り森の中へ誘い込んで補給路を断ち、
飢えと寒さで弱ったところを包囲殲滅する。
時折出現する戦車も味方の砲撃と対戦車砲の射撃で沈黙させていき、一人、また一人と名も知らぬ
心通わせた仲間が消えていくも時間を稼いでいたある日のこと。

防御の要である対戦車砲の多くが寿命を迎えてしまう。そして砲弾不足によりこれからは支援の量が少なくなると報告が入る。

不幸続きの熊に偶にはハンデを与えてやるかと爆笑するハスキー。彼と一緒に笑うヘラジカ。
こういうのも悪くないと微笑するライオン。皮肉を言いながらも同調する狐。雪玉を作って遊ぶ白鳥。
寡黙で冷静だが穏やかな雰囲気を持つカバ。
彼らを筆頭に圧倒的戦力差でこちらが一層不利になるのに戦意が高い戦友たちに好感を持つのらくろ。
特にカバ ―話してみたところ、従軍前は猟師をやっていたらしい― 
に対して、誰よりも奮戦する様を見て

「なぜそこまで戦えるのか」 

と疑問を持つ。
それを今聞いてみようとしたが、地平線の向こうから響く轟音にかき消される。

熊の本気である。

これまでとは違い撃っても撃っても数は減らず撤退の兆しも見られない。
味方の砲撃も止み、対戦車砲も減少したところにそれが効きにくい重戦車まで来たことを見抜いたのらくろは至急援軍を要請。
とにかく戦車を壊せるモノを持って来いと伝え、デカや破片、残る部下達とそれらが届くまで塹壕と陣地の死守を続ける。
火炎瓶や対戦車地雷で何両か火だるまにできたが、その間に対戦車砲が破壊されてしまい、残る弾薬も底をつき始め皆疲れと大小の傷を負っているのを見て、
のらくろは撤退を指示。
なおも向かってくる熊の突撃に備え各自着剣かスコップを持たせ格闘戦に備えさせる。
最期の攻撃になるかもしれないことを覚悟しながら

『もっと豚まんが食べたかった』

等と場違いなことを考え、敵戦車の動きを確認した時。
後方から多数の砲撃音と無限軌道の音が聞こえ、直後大破炎上する敵戦車と爆発四散する熊の兵士達。

415 :石人:2013/08/09(金) 00:29:48
恐る恐る後ろを見てみると、対戦車噴進弾を抱えた爆弾とハンブルを先頭に、
九二式軽戦車隊を率いるカメ戦車長、そしてモール中隊長が駆けつけてきた。
犬国の義勇軍が間に合ったのである。
「フィンランド騎兵隊行進曲」 をBGMに、連携しながら熊たちに襲いかかる歩兵と戦車部隊。
あわてて航空部隊を出撃させた熊軍だが、それを犬の航空部隊が迎え撃つ。
途中からカバの空軍も加わり、次々と墜落させていく。
空陸両方で敗れ、士気が落ちた熊たちはようやく後退していった。
無我夢中で反撃し、気が付いたら勝利していたことにようやくわかったのらくろは雄たけびをあげる。
デカや破片達と生き残れたことに喜び、モール中隊長たちに援護に来てくれたことを感謝する。

その後休息・治療を兼ねて後方へ戻されたのらくろ小隊。
援軍の者が持ってきてくれたらしい熱々のお茶を一杯飲み、大福をほおばるのらくろ。
焦って飲み始めた所為で舌を火傷する破片を見て笑うデカ。その周りで笑う数少なくなった部下。

『自分はまだ生きている』

と改めて実感したのらくろはある見知った顔を見つける。

彼が疑問を持っていたカバであった。
あの危機的状況でも射撃を淡々とこなしていたのを知っている。
のらくろの視線に気付いたのか近づいてきて、互いの無事を確認。安堵する。
ここでのらくろは依然疑問に思っていたことを質問する。

「何故そこまで戦えるのか」 と。

これに対し

「元々これは我々の戦争だから当然のことだ。共に戦ってくれることに感謝はするが、甘えるわけにはいかない」

と返事が来る。

「だけど、今も虎が隣国を更に脅していると聞くのに、君達はそれを恐れず助けに来てくれた。
 本当に嬉しかった。ありがとう、戦友。君と会えてよかった」

のらくろはその言葉に、なんとなくだが 「自分が軍隊にいる理由」を悟る。
お互いの国のことを話した二人は、固い握手を交わすのだった。

一度そこでアニメーションは終わり、続いて再編集(※7)された遣欧軍の映像が流される。
スンマの戦いとレニングラード空襲。二つの戦いがほぼ全て映され、
他に当時の冬戦争に関する他国の動き、ストックホルム講和条約の映像、
そして講和内容とソ連に譲渡されたカレリア地峡南部の写真、現況を記すメッセージが出る。

416 :石人:2013/08/09(金) 00:30:44
ここでまたアニメーションに戻る。
やや時が流れ、戦争が終結したカバの国。とうとうのらくろ達が撤退する日がやってくる。
たがいに別れを惜しむ兵士達。のらくろも、あのカバと言葉を交わす。

最後の手向けとして国歌の交換を行う両軍。
 「我らの地」 を聞き、 「君が代」 で返すのらくろの胸中ではこの国の美しい自然、雄大な景色が走馬灯のように蘇る。
いつかの再会と友情を願い、のらくろは列車に乗り込むのだった。

実写とアニメーションを混ぜた作品というのは既に米国で作られている。
だが、近衛を筆頭に転生者の未来技術と史実以上の国力は時代を超越する。

一度暗転し、真っ白な画面となったところで一人の人間が現れる。原作者の田河水泡である。
そしてのらくろも遅れて現れる。続いて彼らは会話し合うのである。
史実で言うブル―バック合成に似たものである。
ここでお馴染みの建物が背景に出て、のらくろが兵舎に帰っていく。
転生者ならすぐに合成だと気付くであろう、だが初めてみる人には田河がアニメの世界に入り込んだようにしか見えなかった(※8)。
それを見送った田河は、

「この通りのらくろも悩みながら生きている。どうか皆さんも精一杯悩みながら人生を楽しんでほしい。
 こんなのらくろだけど、これからも応援よろしくお願いします」

と締めくくる。

エンディングは 「フィンランド賛歌」 をBGMに列車内でのらくろ・ハスキーがはしゃぐ姿と
母国に帰る他国の義勇兵達、自宅に戻り家族と抱き合うカバが映され終幕する。

上映直後から、この映画は様々な反響を呼んだ。
 「地中海の守り人」 を意識したのか絵空事が許されるのがアニメの常識なのだが、今作はリアリティに富んでいたのだ。

流石に欠損描写はないものの出血の場面は多く、痛みで何も言えなくなったり衛生兵を盛んに呼ぶ。
つい先ほどまで話していた仲間が砲弾の破片で死に、流れ弾に当たってあっさりと倒れる。
真正面から戦車に向かったところで無駄死にになるし、対空兵器があっても戦闘機を追い払うのは難しく、
狙撃が上手くとも歩兵銃で撃墜は無謀の話。
のらくろが致命傷を負わないなど、一定のご都合主義はあるがこの先どうなるか予想がつきにくい展開は、容赦なく死ぬ戦場の緊迫感を表していた(※9)。

史実を知る人間がいれば

「スーパーロボットとリアルロボットかよ」

とツッコミを入れるだろうが、大体あっている。
ホウレン草を食べると怪力が出せる水兵やクリプトン星出身の超人などどこにもいないのだ。

417 :石人:2013/08/09(金) 00:31:34
また、プロパガンダ映画なのに、それを忘れさせるほどの自然描写。
カムチャッカの混合林や樺太の流氷。
ラップランドの永久凍土に、カレリア地峡の針葉樹林帯。
いくつもの湖と、それらを圧倒する雪。
カラー映画の利点を生かし、日芬双方の極寒の大地を余すところなく再現していた(※10)。

次に、軍歌を筆頭に歌の多様である。
前作もそうだが、軍はクレームをつけるどころか協力的なこともあり、かなり自由な作風となっている。
史実では戦時中にもかかわらず 「くもとちゅうりっぷ」 を作った政岡である。
 「白雪姫」 に対抗するため、この数年でそのすべてを学んだ彼は一部オペレッタ方式を取り入れて作ると提案。山本もそれに賛同する。
劇中歌に入れる曲としてフィンランドの歌にも注目。
一応軍の映画なので

 「猟兵行進曲」 や 「フィンランド騎兵隊行進曲」 
 「雪の進軍」     「冬季戦技教育団歌(転生者が作った)」

と軍歌が多いものの、今まで馴染みのなかった音楽たちが流れることになる。

最も特徴的なのは、軍隊の生活をこと細かく描いていたことである。
兵器含む装備品の再現(※10)は健在だが、今回は他のシーン(特に食事)も進化していた。

例として、ある日の北方で訓練した日の夕食。厳寒の中かじかんだ手をさすりながら食堂へ入ったときのむわっとした熱気と湯気。
匂いに釣られ飯はまだかと騒ぐ兵士たちに料理が運ばれる。

ほかほかで軽く光り立つ白米に、油揚げと豆腐、ネギが入った味噌汁。大きな紅鮭の塩焼きに鰹節がかかった小松菜のおひたし、切干大根、漬物。
画面からでもわかるような美味さを映した。

また、戦争中の夜間哨戒時、吹雪の中部下が持ってきた熱々のコーヒーとプッラ(甘いパン)に舌鼓を打つ。
サウナで汗をかいた後の冷えた水を飲んだ爽快感と直後に食べるインスタントラーメンなど、戦闘にかかわりが薄い部分が多いのだ。

このように歌あり・飯あり・戦闘ありの映画だが当然称賛と共に批判も大きかった。
勝利したのは事実だが、自軍の大勢の死体や味方の戦闘機が墜落する場面が少なからず入っているからだ。

他にのらくろは本来お調子者の性格がいいのに今作のシリアスぶりに

「のらくろの皮をかぶった何か」

とも評された。

色々言われたのらくろだが、間違いなく日本のアニメ技術が世界に匹敵することを証明する作品となったのである。

418 :石人:2013/08/09(金) 00:32:39
一方、夢幻会の目論見は半分成功し、半分失敗した。
冬戦争・対枢軸戦で日本製兵器のアピールは成功し、この映画を日本国内でみた人物 ―在日大使等―
はすぐ本国へ可能ならば購入するよう連絡した。
特にソ連の脅威に怯える国、寒冷地に位置する国々の反応は顕著だった。

だが、改めて言う。この映画が公開されたのは1942年6月。第二次満州事変直後である。
日本が国際的孤立を深める時期、更にはイギリスまでアメリカ側に立って行くようになる。
反中・反米・反英気運が高まっていたところに最悪のタイミングで火に油をぶち込んだのだ。

「小国の筈のフィンランドがあれだけ誠実なのに大国で、同盟まで結んでいたのにイギリスときたら裏切りやがって……」
「義勇兵はいい。だが義勇軍出す余裕無かった割に、ノルウェー攻める余裕はあったんだな」
「今じゃソ連と戦争してるのに何であの時ドイツは北欧の妨害してたんだ?条約破りはあいつらの常套手段だろ?」
と反独感情まで悪化し、会合の面々が頭を抱えることになる。

これに反し、共闘した北欧諸国、特に日米開戦後も義理堅く友好を維持したフィンランドに対する好感は急上昇、彼の国に興味と親しみを持つようになる。

当然、 「のらくろ雪中戦」はフィンランドに真っ先に輸出。
某谷に暮らす妖精誕生の小さなきっかけとなるのであった。


  二度あることは三度ある
  腐っても鯛
これらのことわざを知っているだろうか。

対米戦の最中、占領された上海やハワイであるアニメーション映画が見つかった。

  「ファンタジア」 

アメリカが滅んだとしても、キャラクターの王者は、まだ死んでいない。

419 :石人:2013/08/09(金) 00:34:33
 【余談】

   (※1)  冬戦争が早期に終わったことで、深く内容を掲載できなかった穴埋めでもある。

   (※2)  倉崎と三菱の関係のように、利権はどこにでも存在する。現時点で、東宝に匹敵する映画会社は松竹のみ。

   (※3)  松竹はともかく、田河ものらくろの元ネタであるフェリックス(フィリックス・ザ・キャット)を追い抜きたいと考えていたと後に語る。

   (※4)  夢幻会が世界経済を荒らしたことで史実より早く、より大規模なストライキが発生しかける。ここに政府が介入。
        資金援助の代わりに宣伝映画作成を指示。更に一部映画を日本の対独参戦の餌にすることも追加。ディズニーはこれに屈した。

   (※5)  ソ連と亡命ロシア人を区別するための予防線。かつての強敵が味方となる原型とも言われている。

   (※6)  国獣でもないし、アフリカに住むカバが選ばれた理由は、今でも不明。

   (※7)  既に新型が配備されているし、販売するための新型サービスである。

   (※8)  調べた限り史実1946年11月12日公開 「南部の唄」 が初めて?

   (※9)  デカは左腕を負傷。ハンブルは右足を負傷。
        カメも重砲の破片で眼をやられて視力が落ち、眼鏡をかけて後に戦車隊の教官、教師となる。

   (※10)  完璧主義者かつ芸術主義者の政岡は、 「極寒」 を表現するため北方の師団や冬戦教に協力を依頼。
         実質1年近く樺太・カムチャッカで撮影生活を送った。

   (※11) 技術解析のため多くの鹵獲ソ連製兵器を日本に持ち帰っていた。
        超レアものとして、放棄されたSMK試作多砲塔戦車とニコイチで奇跡の復活を果たしたT-100重戦車がある。
        (映画で出現したのは、T-26,T-28,T-35)

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最終更新:2013年09月09日 11:30