770 :Monolith兵:2013/06/04(火) 04:11:09
※この作品にはTS表現が含まれています。ご注意ください。

ネタSS「俺の妹が○○○なわけがない」 その12


「何で俺を避けるんだよ!瀬菜ちゃーん!」

 とある月曜日の放課後、高校の教室で何度目になるのかも解らない友人の愚痴を京介は聞いていた。もはや返事もするのも億劫になっていたが、それでも席を立たなかったのは、友人である赤城浩平の余りの落ち込みに同情していたからである。

「お前何度目だと思ってるんだ?そんなに気になるんなら、本人に直接聞けよ。」

「そんなこと出来るわけがない!」

 そして、これまでと同じように「瀬菜ちゃんに嫌われていたらと思うと・・・。」と続いた。何回も続いた話を京介はあほらしいと考えていた。この友人は重度のシスコンで、妹を恋愛対象に入れているかと思ってしまうほどの末期であった。浩平の妹、赤城瀬菜は確かに整った容姿と豊かな胸を持っているので、兄として可愛がるのはわかる。だが、彼は重度のシスコンだった。そして、妹もそれほどではないが結構なブラコンだった。
 それが、数日前からよそよそしくなり、いや正確に言うならば浩平を避けだしたと言うのである。部屋にも入らせてもらえなくなり、一緒に遊ぶこともなくなったのである。もちろん一緒の登校もなくなった。

「だから!お前は瀬菜ちゃんと同じ部活だろ?どうして俺を避けているのか聞き出してほしいんだよ!」

「はいはい。それとなく聞くよ。でも、本人が嫌がったらやらないぞ。」

「おお!持つべきは親友だな!!」

 そう言って、浩平は京介に抱きついてこようとした。それを見事なパンチでいなした後席を立ち上がった。かすかに残っているクラスメイトから、特に女子からの視線を感じていたが、気のせいだと自分に言い聞かせていた。

「じゃあな。俺は部活に行くからな。」

「バイバイ京ちゃん。」

「頼んだぞ!!」

 別れを言う京介に真奈美と浩平が返事を返した。

771 :Monolith兵:2013/06/04(火) 04:11:41
 廊下を歩いていると、前から黒猫こと五更瑠璃が歩いているのが見えた。片手を挙げて挨拶すると、彼女も京介に挨拶を返した。平静を保っているつもりであろうが、動作が少し硬いのを見て取った。
 高坂京介と五更瑠璃は現在恋人として付き合っていた。京介は前世の記憶があるために、黒猫の事を子供としてしか見れなかったが、黒猫のほうは彼に惚れこんでいた。落ち着いた雰囲気と友好的で頼りがいのある性格、イケメンとは言えないが身だしなみにも気を使っている2つ年上の京介は10以上年上にも瑠璃には見えた。まさか、前世と前々世の記憶があるなどとは邪気眼を拗らせている彼女でも思わなかったであろう。

「なぁ、お前は赤城と仲良かったよな?」

「あの女が一方的に纏わりついてくるのよ。馬鹿なことを言わないで頂戴。」

 瀬菜と黒猫は相性がいいのか悪いのか傍目には解りづらい。瀬菜は重度の腐女子であり、実の兄と京介とをくっ付けがっている変態であった。それに対し、黒猫は重度の邪気眼系中二病患者で、”あの富永”の血を引く由緒正しい邪気眼の家系である。その二人は最初こそいがみ合ったが、現在はかなり仲が改善されていると恭介は思っていた。

「でも、今は一緒になってゲーム作ってるじゃないか。」

「あれは部活動としてよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。」

「まあ、それはそれでいい。最近瀬菜に変わったことなかったか?赤城の奴が最近瀬菜が冷たいと嘆いてるんだが。」

「・・・そういえば、BLについて語らなくなったわね。後、目に下に隈が出来ていたわね。化粧でごまかしていたけれど。」

 確かに、テンションは同じでもBLについて熱く語ることが最近はなかった気がした。だが、そんな日もあるだろうと思っていたが、よく思い出してみればここ数日は利いていない気がした。

「もしかして、BLに興味がなくなった・・・?」

「腐った脳みそがまともになっただけでしょう?むしろ喜ぶべきだと思うけど。」

 黒猫の言葉は辛辣だったが、度々脳内で浩平とホモカップルにされていた京介とすれば歓迎すべき事である。隈があるのは大方BLゲーをやりすぎて寝る時間がなかっただけだろうと思っていた。

「言われてみりゃそうだよな。」

「ええ、そうよ。」

 黒猫との会話を楽しんだ京介は自然と彼女の頭に手を載せた。それに気づいた黒猫は京介のほうを睨んだが、 身長差のために見上げる形となり彼女の可愛らしさを強調するだけになった。思わず彼女の頭を撫でてしまっていた。

「いい加減にして!私は子供じゃないのよ。」

「ははは。ごめんな。」

 赤くなった顔で黒猫が抗議の声を上げるが、背伸びしたい年頃と受け取った京介は笑いながら謝った。京介にとって黒猫は恋人であったが、感覚としてまだまだ子供だった。こういった行動をすると黒猫は顔を赤くして講義してくるが、それが可愛くてしかたがなかった。
 ふと二人して顔を前に向けると、前から件の赤城瀬菜が歩いてくるのが見えた。部活に顔を出したのが先週の水曜日だった京介にとっては会うのは久しぶりであった。

772 :Monolith兵:2013/06/04(火) 04:12:12
「よう久しぶり。」

 右手を軽く上げ瀬菜に挨拶すると、顔を上げた。その顔は軽く隈が見えた。確かに少し疲れているようだが、オタクの徹夜は珍しいことでもない。

「・・・・・・。」

 一方瀬菜は無言で近寄ってくると、京介の左腕を掴んだ。

「五更さん、ちょっと高坂先輩を借りますね。」

 そう言って、黒猫の返事も京介の腕を引っ張りつかつかと歩き出した。

「ちょっと!人のか、か、彼氏に何をする気よ!」

「ちょっと相談があるんです。五更さんには聞かれたくないので、遠慮してくれるとうれしいです。」

 そういった瀬菜の顔は酷く真面目で、そこに黒猫の危惧した色恋の影は見えなかった。不満はあったが仕方なく頷いた。そして京介の了承も得ず瀬菜は再び歩き出した。



「で?説明はしてくれるんだよな?」

 京介が連れられてきたのは、今は物置となっている教室のひとつであった。グラウンドの声は遠くに聞こえるので、誰かに聞かれることはまず無いだろうと思われた。

「その!人生相談!・・・があるんです。」

 ”人生相談”という言葉を聞いて、京介はドキッとしたがすぐに平静を取り戻した。あんなこと何度もあってたまるかと胸の中で毒づいた京介は瀬菜に向き合った。

「あの、高坂先輩は前世とか・・・信じますか?」

「・・・二次元と三次元の混同は駄目だぞ?」

 京介はごく常識的な返事をした。もっとも、彼女の目の前に二次元の存在がいたが。

「ふざけないで下さい!私は真面目にいているんです!貴方も私の仲間のはずでしょ!!」

 それには京介は驚いた。だが、よく思い出してみると、前世では前世もちの人間を見破れる者もいたのだ。目の前の少女もそれと同じと考えれば納得が出来た。

「そうだ。私には前世の記憶がる。」

 京介の言葉に瀬菜は体の力が抜けたのか、軽くよろめいた。

「貴方の前世の名前を聞いても?」

「嶋田繁太郎だ。」

773 :Monolith兵:2013/06/04(火) 04:12:52
 その言葉に瀬菜は驚いた顔をしたかと思うと、いきなり笑い出した。いきなりの事だったので、気でも狂ったかと思い京介は一歩踏み出したが、すぐに真顔に戻った瀬菜は大丈夫だといい、自身の前世の名前を紹介した。

「私は東条英機でしたよ、嶋田さん。」

 今度は京介が驚く番であった。また仲間が、しかもこんな近くに現れたのである。だが、何度も何度も悪夢を見てきた京介にすれば、この告白は怖くもなんとも無かった。その点は桐乃こと辻政信に感謝せねばならないだろう。いや、感謝などしたら更なる恐怖を作り出しそうで怖い。

「ここ数日様子がおかしいと赤城が言っていたのはこのせいでしたか・・・。」

「ええ。4日前に突然憑依しまして。ビックリしましたよ。前々世と前世は男でしたけど、今世は女ですからね。この子のお兄さんには悪いことをしました。」

「不可抗力です。気にしないようにしましょう。それはともかく、生活のほうは大丈夫ですか?」

「ええ。彼女の記憶があるので何とか。でも、まだお風呂とかは恥ずかしいですね。あと、さすがにこの年になってお兄ちゃんなどと呼ぶのは・・・。しかも相手が重度のシスコンとか・・・。」

 そう言って俯いて座り込んでしまう瀬菜だった。京介はその隣に腰を下ろし、肩に手を添えた。

「どうしたのですか?シスコンとはいっても・・・。」

「彼女はブラコンでしたけど、私にはこんな関係は耐えられません。何度も貞操の危機を憶えましたよ。お風呂上りとか、着替えた時とか、「くぅー!瀬菜ちゃんは可愛いなぁ!」なんて言って抱きついてこようとするんですよ!浩平君は余りにも危険です!」

「・・・そこまでだったんかあいつ。」

 友人のあまりな行動に呆れる他無い京介だったが、同時に以前感じていたことが現実であったことに驚きを感じていた。”赤城幸平は妹に恋愛感情を持っているのではないか?”というのは、当の本人に否定されていたが、聞く限りではどう見ても妹に対する態度ではない。そして、瀬菜もとい東条英機にも哀れみを感じた。

「部屋の中はやおい本とBLゲーやポスターばかりでもう私のSAN値はもうゼロですよ!!」

 やはり、腐女子だけあって彼女の部屋はあれ名グッズでいっぱいであったらしい。
 気がついたら女の子になっていて、部屋はBLグッズで溢れる腐女子になっていて、兄は妹の貞操を狙わんとする変態で。(←思い込み)自分とどっちが不幸かと考えると、自然と涙がでてきた。

「BLグッズは今処分しています。趣味が変わったら不思議に思われるかもしれませんが、中身が別人になったなどと思われはしないでしょう。それは何とかなります。問題はあの兄です!そのうち私は男に貞操を・・・ううっ・・・。」

 今世は女なので、いつかは男に散らされるかもしれないが、女であることに慣れない内に兄に犯されそうになるなどトラウマものであろう。中身が爺でも怖いものはあるのだ。

「協力できることは私も手伝います。とりあえず、赤城とは俺が取り持ちます。お兄ちゃんというのが恥ずかしくなった、私はもう子供じゃない、とでも言っておけば大丈夫です。それでも渋るようなら殴り飛ばしてやりますよ。」

「ありがとうございます。でも、それだけじゃ駄目なんです。あの変態兄貴は・・・。」

 瀬菜の兄への不信は相当根深いようであった。だが、そこは折り合いをつけていかなければならない。まだ高校1年なので、実家から出るということも出来ないのだ。

「・・・背に腹は帰られません。しま、いえ高坂先輩私と付き合ってください!」

 そう言い京介の方へ上半身を突き出した。それに押され京介は尻餅をついた。いきなりな展開に頭がついてこない。ようやく頭が今の言葉を「兄との距離を広げる為に付き合う振りをしてほしい。」と言いたかったのだと理解したのは暫くしてだった。

「あっ、間違えた・・・。言い直しますね。」

「いえ、言いたいことはわかりました。」

 言葉とともに笑みを浮かべた京介の様子に、ほっとしたの力を抜いた瀬菜は「宜しくお願いします。」と言った。だが、協力したいのは山々な京介だったが、今は黒猫と言う彼女がいるのである。まだ付き合い始めて日も浅いし、瀬菜と偽りとはいえ付き合うと言うのは不味い。そう考え、断ろうとした時だった。

774 :Monolith兵:2013/06/04(火) 04:13:33
「・・・何が宜しくするのかしら?」

 突然第三者の声が教室に響き、二人はパッと入り口に顔を向けた。そこには黒猫が立っていた。心なしか全身が小さく震えている。

「心配になって後をつけてみれば・・・。この腐れ女・・・。」

 顔を俯かせ呪詛の言葉をつむぐ黒猫の全身からは黒い波動が二人には見えた。余りにも恐ろしい光景に二人は思わず互いに抱きしめあってしまった。

「信じていたのに・・・。信じていたのに!・・・さようなら、幸せにねお二人さん。」

 捨て台詞を言って走り去る黒猫に自室呆然とした二人は言葉を書けることができなかった。
 だが、正気を取り戻した京介は立ち上がり黒猫を追いかけた。何分も追いかけっこが続いたが、途中で見失ってしまった京介は携帯で連絡を取ろうとしたが着信拒否にされてしまっていた。

「くそっ!」

 もう家に帰ったのかと思ったが、一途の願いを託して約束の地、つまり彼女が京介に告白した校舎裏へと向かった。



 果たして、そこに彼女はいた。地面に蹲って泣いている彼女にいつもの面影は無かった。

「黒猫・・・。」

「近づかないで!」

 声を掛けたが強い声で拒絶された。もはや絶叫とも言っていいその声に、黒猫の深い悲しみを感じ取った京介はかける言葉が見つからなかった。

「・・・あなたが私の事を女として見てくれていないのは知ってたわ。でも、仮初とはいえ貴方の彼女になれてうれしかった。でも!こんなのってあんまりよ・・・。」

 そういって再び泣き出した黒猫に伸ばしかけた腕がむなしくしたに落ちた。

「そうだな。俺はお前を女の子として見れていなかった。俺にとってお前は子供にしか見えなかったんだ。だが!俺と赤城の間には色恋事は全く無いんだ!」

「もういい!もういいのよ・・・。私が馬鹿だったの。だからもう一人にして・・・。」

「馬鹿。泣いている女の子を放っておけるわけが無いだろう?それに・・・」

 京介の話をしている途中にすっと立ち上がった黒猫は、彼の方へとすたすたと歩いていき強烈なビンタを食らわせた。

「思ってもいないことを言わないで!・・・さようなら、今度こそ本当に。」

 そう言って黒猫は走り去ろうとした。だが、京介も負けじと黒猫を追いかけその腕を掴んだ。

「聞け!あいつに彼氏の振りをしてくれと言われたんだ!俺は断ろうとしたんだ!そこにタイミング悪くお前が入ってきただけだ。」

「それを信じろって言うの?私に?」

 黒猫はきつい視線を京介にぶつけたが、しかし京介も負けじと話を続けた。

「赤城鼻、兄にいつ犯されやしないかと怯えていたんだよ。」

「うそっ。あんなビッチといい勝負のブラコン娘が?」

 そこで桐乃の名前が出てくるのにとてつもなく疑問が出てくるが、ここは堪えておいた。

「そうだ。あいつはBLも駄目になったんだ。趣味嗜好が完全に変わったんだよ。・・・信じてくれなくてもかまわない。だが、俺は・・・」

「ねえ、私の事好き?」

 京介の言葉を遮って黒猫は突然尋ねてきた。一瞬京介は返答に迷ったが自分の本心を答えた。

「ああ好きだ。桐乃なんかよりもずっと好きだ。赤城よりも好きだ。正直お前に女の子として愛しているとはいえないけど、お前を守りたいと思う心は本物だ。」

 それが京介の精一杯であった。これで別れる事になっても京介には未練は無い。だが、黒猫が傷つかないかだけは気がかりだった。

775 :Monolith兵:2013/06/04(火) 04:14:04
「そう。なら、私たち・・・わ「待ってください!」

 黒猫の言葉の途中で割り込んだのは瀬菜であった。

「赤城。」

「貴方何しに来たの?」

 そう言いながら二人が振り向くと瀬菜と彼女に手を惹かれた浩平がいた。

「お、おい瀬菜ちゃん?何か修羅場っぽいんだけどさ。」

「五更さん、まずは私の話を聞いてください。それからでも判断は遅くありません。」

「・・・解ったわ。」

 黒猫はそう言い体を完全に赤城兄弟のほうへと向けた。一方の赤城兄弟は向かい合っていた。

「お兄ちゃん、私の質問にいくつか答えてください。」

「おお!もちろんいくらでも答えるよ!」

 引きつった顔から一転して笑顔になった浩平は安請け合いをした。

「では、まず初めに。風呂上りや着替えの後に私に抱きつこうとしましたけど、何でですか?」

「そりゃあ、可愛い瀬菜ちゃんを見たらこう押さえ切れなくなって。」

「では二つ目です。私を見る目つきがかなりだらしないんですけど、どうしてですか?」

「そりゃあ、可愛い瀬菜ちゃんを見ていると顔も緩むよ。」

「では最後に。私を見る目つきが最近いやらしいんですけど、どうしてですか?」

「えっ?・・・気のせいじゃないの?」

 最後の質問でいきなり目が泳ぎだした浩平は、答えもしどろもどろになった。それを見た瀬菜は京介に声を掛けた。

「高坂先輩、頼みます。」

「解った。」

 正直ここまでの変態とは思わなかった友人の腕を取り、極めた。いくらサッカーで鍛えているからと言って、不意打ちでしかも前世の杵柄で武道の心得がある京介には敵わなかった。

「いててててっ!言う、言うから!」

「じゃあ、さっさと言え!」

「イテッ!瀬菜ちゃんが魅力的過ぎるから駄目なんだー!もう俺が瀬菜ちゃんの全部を・・・」

 いきなりド変態発言をした浩平に、京介と瀬菜のパンチが極まった。相乗効果か、そのまま地に崩れ落ちた浩平を見下ろしつつ、瀬菜は黒猫に声を掛けた。

「五更さん、この変態と一緒に住んでいる私の気持ちわかりましたか?し、高坂先輩に彼氏の振りをして欲しいと頼んだんです。五更さんと付き合っているのを忘れてしまったのは謝りますけど、私の気持ちも理解してください。」

「わ、解ったわ。」

 黒猫は暫くバツの悪そうな顔で立っていたが、京介の方を向くと深く腰を曲げた。

「ごめんなさい。貴方を誤解してしまっていて・・・。貴方は私の事を愛してないかもしれないけれど、私は貴方を愛しているわ。だから、」

「黒猫、いや瑠璃。俺のほうこそすまん。中途半端な気持ちでお前の心を傷つけてしまった。許して欲しい。そして、俺の彼女のままでいて欲しい。俺はお前が可愛いんだ。このとおりだ。頼む。」

 そういって腰を深く折り曲げた。京介には今は黒猫と別れるつもりは無かった。この邪気眼の彼女の心はまだ幼く、誰かの助けを欲しがっているのだ。そんな彼女を放っておくことは京介にはできなかった。決して同情心からではない。前世の同僚の子孫だからと言うわけでもない。彼女を可愛いと思う心に従っての言葉であった。
 京介の真摯な言葉を本当のことだと解ったのか、目を大きく開いた。その瞳からは涙がとめどなく流れている。

776 :Monolith兵:2013/06/04(火) 04:15:13
「私も、私も貴方とは別れたくない。」

 黒猫は京介に駆け寄って抱きついた。それを優しく抱き返す京介の顔は優しく、父性を感じさせた。
 こうして、黒猫と京介の破局の危機は防がれたのであった。

「もう一度言うけれど、私は貴方を好きよ。愛していると言ってもいいわ。貴方の妹よりもずっとずっと。」

 そこで桐乃を引き合いに出されて、京介の背筋に悪寒が走った。さっきも言われたので気になって尋ねてみると、

「貴方の妹はきっと貴方のことが好きなのよ。妹じゃなく、女として。」

 それは余りにも酷い現実だった。確かに、桐乃はブラコン気味の振りをしている。京介はアレの中身が爺で、その性格も熟知している。まかり間違っても、恋愛感情を男相手になぞ抱かないことは間違いが無い。しかも、当の桐乃があやせと京介とをくっつけようと色々と策謀を練っているのだ。前世の妻である日向も桐乃に面倒くさいと感じても、自分のライバルとは思ってもいないだろう。

(ならば、何故黒猫は桐乃をライバルと見ているんだ。)

 京介には知る由もなかったが、これは桐乃があやせVS黒猫の修羅場を見たいと思っているが為であった。いや、桐乃だけではない。MMJのメンバーにも多数いるのだ。彼ら彼女らは影に日当に桐乃を支援し、各ヒロインを煽っているのであった。黒猫はその結果、原作よりも告白するタイミングが早まり、沙織も京介を意識しつつある。あやせは京介に惚れているし、日向と言うダークホースも現れた。桐乃派は中身が爺だったので諦めたが、真奈美派や加奈子派、少数派ではブリジット派やフェイト派さえいるのだ。

(後で問い詰めないと。・・・でも嫌だなぁ。変なのが出てきそう。)

 黒猫を抱きしめながらそんなことを考える京介たちを見つつ、瀬菜は蹲ったままの浩平に説教をしていた。

「私はもう子供じゃありませんし、ブラコンも卒業しました。これからは高校生ライフをエンジョイするので学校では話しかけないで下さいね。」

「そんなー、瀬菜ちゃーん。」

「私の言うことが聞けませんか?そうですか。」

 そう言って腕を極める瀬菜。前世が陸軍大将だけあって色々と武道を修めていた為に、心得のない男を痛めつけることなど造作も無かった。

「後家でも変な目で見ない事と抱きついてこないようにする事。解りましたか?お兄さん。」

「さっきみたいにお兄ちゃんと・・・、ぎゃぁぁぁぁ!」

 赤城兄弟は京介と黒猫たちカップルとは反対に、階段を下りていっているようであった。最も、妹の中身が爺なので仕方は無かった。何はともあれ、赤城瀬菜の人生相談は完了したのであった。

おわり

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最終更新:2013年09月01日 23:41