82 :954:2013/08/28(水) 23:17:26


~半島転移~


6.第二次日本海海戦



『倭奴に膺懲を!』
『独島を守護せよ!』

 釜山港に無数の絶叫が木霊する中、韓国海軍の誇りたる『世宗大王』と『独島』を中心とした『独島守護艦隊』が出航していく。
 その雄姿に胸を熱くしながら、再び行われる日帝への懲罰が多大な戦果を齎す事を信じて疑わぬ韓国民は、熱狂の渦に頭までどっぷりと浸かっていた。

83 :954:2013/08/28(水) 23:18:12


 事の起こりは、韓国が情報収集の一環として傍受していた日本の国内放送。
 邪悪なる日帝への正当な懲罰を非難する日帝政府の公式発表において公表された正義の韓国軍への対抗策の一節が、彼等の逆鱗を逆撫でしたのだ。

『日本海の防衛力強化の為、竹島に駐留部隊を置く』

 この一言が、全ての原因だった。

 当初は、緘口令が敷かれたものの何れかから漏れたのか、即日、韓国内にこの一報が広まるや、世論は一気に沸騰。
 最早留め様も無い激情の濁流は、『独島守護』の合言葉と共に青瓦台を取り囲ませ、軍部の選択肢を奪った。
 黄海上に転移した都合上、どうやっても作戦行動半径から外れる『独島』へのエアカバーは不可能であり、戦術上、非常に不利を強いられるとの抗弁にも、政治家や民衆は耳を貸さなかった。
 先日行われた『日帝懲罰』の一方的な戦果と、それに因って確信するに至った半世紀近いアドバンテージの威力が、彼等の眼を眩ませ、冷静な選択肢を奪っていたのである。

 『倭奴膺懲』と『独島守護』、この四文字が韓国内を駆け巡り、全てを出征へと傾けるまでに僅か半日余り。
 こうして、一部のまともな軍人が声を嗄らして反対するのを踏み潰し、政治主導の名の下、急ピッチで編成を終えた『独島守護艦隊』は、熱狂する国民の歓呼の声に送られて釜山の港を後にしたのだった。

84 :954:2013/08/28(水) 23:19:55

「大本営より入電。
 『竹は東風になびく』です」
「……そうか」

 作戦に変更無しを伝える電文に、ゆっくりと頷いた艦隊司令の高須大将は、わずかに眼を細めると『大和』の艦橋からCICへと向かうべく席を立つ。

「異なる歴史を辿った朝鮮軍か……さて、どれほどの物やら?」

 行き慣れた通路をゆっくりとした歩調で歩きながら高須は胸中で独りごちる。
 眉唾ものと言いたいところだが、確かに朝鮮半島の沖合に、新たな島が出来ている事は彼も確認していた。
 そして宣戦布告も無しに、九州へと襲いかかった無法者たちが、その島からやってきた事もだ。

 正直、並行世界などと言われても、いまいちピンと来ないと言うのが偽らざる本音だが、それは一先ず遠くの棚の上に追いやって、今後の事へと思考を切り替える。

「まあいい。
 九州の仇は討たせてもらうぞ」

 先だって行われた宣戦無き奇襲は、民間人まで無差別に虐殺した事も相俟って、帝国軍将兵の深い憤怒を買っていたのだ。
 その復讐の先鞭を自分が付けると思えば、武人として高揚する物を覚えるのも確かだった。

 情報部及び軍令部の判断では、敵艦隊の攻撃精度は恐ろしい程に高いそうだが、戦艦クラスに致命打を浴びせるには完全に力不足との予測が立てられている。
 それを判断基準として、戦艦か防御力の高い重巡のみという異形の艦隊編成をした事が、果たして吉と出るか、凶となるか?

 そんな事を胸中で考えながら、高須がその時を待つ中、続く第二報が届く。
 対馬海峡を越えた敵艦隊が日本海に侵入、そのまま真っ直ぐに竹島へと向かいつつあるとのその報告に、高須の率いる水上打撃部隊もまた決戦の地へと赴くのだった。

85 :954:2013/08/28(水) 23:22:50

 接敵後、まず先制を取ったのは韓国側だった。

 白い噴射煙と共に次々と放たれたハープーンは、百キロ以上の距離を物ともせず、全て誤る事無く指定された目標を打ち据える。
 だが被弾した艦上構造物の各所が赤い焔を吹きあげる中、それでも粛々と鋼鉄の巨体は敵との距離を詰めていった。

「確かに射程が長い上に、恐ろしい程に正確だな」

 分厚い装甲に囲まれたCICの中で、戦況を俯瞰していた高須は、呆れたように呟いた。
 と同時に確信もする。
 自身の選択が間違ってはいなかった事を。
 確かに敵艦隊の誘導噴進弾は、恐ろしい程の正確さで、こちらの艦隊を捉えているが、未だ脱落艦もなければ、沈没する艦も無い。
 一見、一方的に叩かれている様に見えるモノのその実致命傷には程遠い浅い傷しか受けていないからだ。
 ましてや核戦争にすら耐え得る事を目指して建造されたこの最後の戦艦『大和』からしてみれば、痛痒すら感じぬ程度の打撃でしかない。

「せいぜい今の内に勝ち誇れ。
 最後に泣くのは貴様等なのだからな」

 冷徹な声でそう呟くと、高須は指揮下の艦隊の速度を更に上げさせる。
 こちらに致命打を与える術が、敵に無いと見切った以上、様子見の時間は終わりだ。

 最早、今の時点で反撃は無用にして無益。
 一刻も早く距離を詰め、艦砲の有効射程内に敵艦隊を捕えるべく鋼鉄の鯱達は、降り注ぐ猛火の中を疾走し続ける。

 そうやって急速に距離を詰めてくる日本艦隊に対して、時が経つほどに困惑の度合いを強めていくのは韓国艦隊側だった。
 連続する命中の報に、当初は楽勝ムードに染まっていたCIC内の空気が徐々に濁り始めていく。

 何故沈まない?
 何故躊躇いも無く突っ込んで来る?

 焔を吹き上げ黒煙を撒き散らしながら、それでも尚、怯む事無く突っ込んで来る敵艦隊に、怖気をふるう者があちこちで出始める中、『独島守護艦隊』司令部は、深刻な決断を強いられつつあった。
 冷静な視点を持つ軍人達が事前に指摘し、そして狂奔と熱狂に流された政治主導が無視させた事実。
 イージス艦と前時代の戦艦とは、とことん相性が悪いというソレを、今更ながらに自覚させられた司令部の面々は、撤退か抗戦かの二者択一を迫られていた。

86 :954:2013/08/28(水) 23:23:58

 撤退派の主張は、こうだ。

『ここは退くべきだ。
 少なからぬ損害を敵に与えた以上、後日の再戦で止めを刺せばいい』

 少なくとも、多くの艦に命中打を与え、焔を吹きあげさせているのだ。
 この映像を公開すれば、国民も溜飲を下げ、冷静さを取り戻すだろう。
 そうやって時間を稼いだ後、今度は戦艦にも致命傷を与え得る新兵器を開発し、後日の再戦を期せば良いと。

 理屈で言うなら、こちらが正論。
 だが、正しい理屈よりも、自己の感情の充足をこそ優先する自国民の性情を熟知していた抗戦派は、それに対して反論する。

『そもそも我が艦隊の目的は、独島の守護にある。
 ここで我が艦隊が退けば、独島は日帝の魔手に落ちるだろう。
 そうなったなら、どの面下げて国に帰るつもりなのか!』

 そう言われてしまえば、撤退派の主張も鈍る。
 ここで撤退し、独島が日帝の魔手に侵されれば、無事に国に戻ったとしても、国民にリンチされ吊るされる未来が、容易に予測出来たからだ。
 その場合、累は家族親族にも及ぶ事は確実で、そう悟ってしまえば、強硬に撤退を主張し、帰国後、犠牲の羊にされる事を恐れる心が先に立つ。

 ここに来てようやく、『独島守護』の旗印が、とんでもないババであった事を一同は気付いた。
 動かない、動けない『独島』を守らねばならないという条件付けは、戦略的な選択肢を著しく狭めてしまい、彼等は否応なく、この場で日本軍を打ち破る以外に道が無い事をようやく理解し、そして戦慄する。

 未だハープーンの猛射を受けながら、粛々と突き進んで来る巨大な鋼鉄の奔流。
 決して致命傷を与えられぬ相手を、倒さねばならぬという矛盾。

 自身が袋小路に追い込まれた事を理解し、互いに顔を蒼褪めさせた一同。
 そんな彼等へと追い打ちの一撃が放たれる。

『後方より接近する艦影あり!
 戦艦三、重巡六、日本軍の別働隊と思われます』

 CIC内を無音の雷鳴が駆け抜け、そしてそれが恐慌へと繋がろうとした瞬間、巨人の手で張り倒された様な衝撃が、旗艦である『世宗大王』を揺さぶった。

 初弾夾叉――日本海軍・鉄砲屋達の執念の成果が、巨大な水柱を『世宗大王』の両舷に突き立て、そして膨大な海水が、その艦体を呑みこんでいった。

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最終更新:2013年09月03日 20:42