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それでは投下します。
~朝鮮半島転移~
10.朝鮮無双【パート2】?:屍山血河
深夜の日本軍・龍山駐屯地に銃声と怒号がひっきりなしに飛び交っていた。
「くっそぉ!!
どこからやって来たんだコイツら!?」
なけなしの軽機関銃を撃ち放ちながら叫ぶ日本兵。
何の前触れも無しにやってきた災厄の使者に必死に抗うが、いかんせん状況が悪過ぎた。
夜も更け、大概の者が眠りに就いたところを見計らった様に、連中はやって来た。
初撃で通信施設と武器庫を潰され、部隊の連携すら取る事も出来ずに蹂躙された駐屯地。
切れ者と評判も高い高木少佐が、右往左往する兵達を取りまとめ、残されたなけなしの武器を掻き集めて、急増の陣地に立て籠り抗戦していたが、戦況は一方的な方向へと傾きつつあった。
「少佐殿、このままでは!」
「踏ん張るんだ。
先程出した伝令が、他の駐屯地に着けば、直ぐに応援が駆け付ける!
それまで何としても陣地を死守するんだ」
引き攣った表情で悲鳴を上げる部下を、高木は必死に鼓舞する。
ご丁寧な事に電話線も切断されたのか、他の駐屯地への連絡手段が断たれた事を確認した直後、残されたバイクや軍用車を使い伝令を走らせたのも彼だ。
だがしかし……
『……伝令が敵の包囲を突破出来た可能性は低いな』
完全に後手に回ってしまった今、彼らが敵の包囲を抜けられたとは思えなかった。
いや、もし万が一、突破に成功したとしても、即時に援軍が来る事は恐らくないだろう。
元々、本国の関心は北の資源地帯とそれを積み出す釜山の港、そして両者を結ぶ鉄道にしかない。
それとは反対側の黄海側には、ほんの申し訳程度の戦力しか置かれておらず、この龍山駐屯地ですら、韓王国に対する政治的な意味合いでしかなかったのだ。
つまり、この状況下で戦力を出せる駐屯地は近郊には無く、例え伝令が辿り着けたとしても援軍の来る可能性は限りなく零に近い。
そうと承知の上で、それでも彼は指揮官として部下を励ましつつ、冷静に現状を分析し最善手を探す。
『……投降は……無理だな』
愛用の軍用ライフルで迫り来る敵兵の脳天を次々に撃ち抜きながら、一つの選択肢を葬り去る。
緒戦で殺された日本兵の亡骸を徹底的に辱しめていた敵兵の姿を思い浮かべれば、投降=嬲り殺しとしか思えなかった。
既に息絶えた遺体の四肢をもぎ、嬉々として鼻や耳を削ぎ落とす様は、残虐などという表現すら生温い。
戦場における最低限のモラルすら持たない輩に、無抵抗を示す気になる程、彼は酔狂では無かったし、部下に対しても無責任では無かった。
『……とはいえ、このままではジリ貧だ。
まだ戦える余力のある内に、運を天に任せて突破を図るべきか?』
それもまた迷う。
なにしろ相手の戦力が全く分からないのだ。
いま現在、陣地を包囲している敵を一点突破で切り抜けたとしても、後詰の部隊が居れば、そこで力尽きた彼等は嬲り殺しにされるだけだろう。
袋小路に入りかけた思考をなんとかほぐそうとする高木。
だが、それが解答へと至る時間が彼に与えられる事は無かった。
星一つ見えぬ曇天の夜空に、暗く重々しい重低音が響き渡る。
初撃でこちらの通信手段と反撃の為の武器を吹き飛ばしてくれた忌々しい悪魔が舞い戻って来たのだ。
突風を巻き起こしながら舞い降りてくるソレを見た瞬間、高木の喉から絶叫が迸る。
「伏せろっ!!」
そう叫びながら、自身も手近な遮蔽物の影へと飛び込もうとするが、相手の方が一瞬早い。
攻撃ヘリに搭載された三砲身ガトリング砲の放つ20ミリ弾が、急造の陣地の全てへと降り注ぐ。
『……くそったれが……』
巨大なハンマーに殴り飛ばされた様な衝撃と共に、数回地面を転げ回った高木は、泥だらけになりながら仰向けに倒れている自分に気付いた。
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利き腕が痺れる様な感覚と共にピクリとも動かない。
いや……すでに肩口から先が無くなっていた。
血止めすら出来ぬまま急速に暗くなっていく視界の中、周囲を見回せば、先程まで必死に戦っていた部下達が、物言わぬ肉片と化して転がっていた。
『……すまない……』
暗くなっていく視界の中、本土に残してきた妻と娘の姿が浮かぶ。
一緒に来るといった彼女達を、数年で帰るからと説得し、本土に残してきた事だけが、今となっては救いだった。
名誉の戦死となれば二階級特進で大佐、恩給もそれ相応の物が貰えるだろう。
少なくとも、己の死後、残される妻と娘が慎ましく生きていく分には何の問題もあるまい。
それに軍には自分を可愛がってくれた上官や親しい同僚も多い。
彼らがきっと妻や娘にも、相応の便宜を図ってくれる筈。
『……そう思えば、充分過ぎる程に幸せな人生だったな』
朝鮮に産まれながら、幸運に恵まれて日本国籍を得た。
その幸運に溺れる事無く努力を重ね、陸軍士官学校を経て佐官にまで上り詰めた。
新米士官として富士の御山での演習に参加した際には、あの救国の大宰相・嶋田繁太郎と並び称される軍神・東条元帥に直接言葉を掛けて貰い、その後も何かと目を掛けて貰えたのは、彼にとって生涯の自慢の種でもあった。
良き上司を得、親しい友を持ち、部下にも恵まれた。
極貧に喘いでいた少年時代には、夢にも見た事が無い様な恵まれた人生だった。
『……そして最後は帝国軍人として朝鮮の地で死す……ある意味、運命と言うべきか』
と胸中で呟きながら男――帝国陸軍少佐・高木正雄は微かに笑いながら息絶える。
そして数秒後、その亡骸に向けて、ハゲタカが死肉に群がる様に、無数の韓国兵が殺到していったのだった。
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「殺せ! 犯せ! 奪え! 日帝と日帝に尻尾を振る裏切り者に天誅をっ!!」
阿鼻叫喚の地獄と化す韓王国首都・漢城
そこかしこで銃火が閃き、同時に肉を穿つ音が、断末魔の絶叫が、街路に満ちる。
男は問答無用で殺され、女と見れば兵士達が次々に群がっていく。
ハイエナの様に密集した襲撃者の群れの中から、悲痛な叫びが暫し零れ、そしてやがて消えていった。
「女子供は幾らか生かして連れて行け!
男は皆殺せ、使い道なんぞないからな!」
とどまる事を知らぬ悲鳴と銃声をBGMに、首都とは思えぬ悪路を進む侵攻軍主力は、韓王国近衛軍のささやかな抵抗を踏み躙り、王宮へと至るやハンドランチャーで門を吹き飛ばし、そのまま雪崩れ込んでいく。
王宮内に踏み込んだ暴兵の群れは、そこでも市街で繰り返されているのと同じ、否、それ以上の暴虐の限りを尽くす。
逃げ遅れた女官には、一人当たり十数人の韓国兵が群がり、物陰に隠れていた役人は、引きずり出されて面白半分に射撃の的にされた。
屍が山となり、血の河と化した王宮内の廊下を突き進む数隊は、やがて内通者である反日派からの情報通り目的の場所に着く。
そのまま宝物庫の扉は荒々しく破られ、わずかに蓄えられていた財貨は砂金一つ残さず奪われ、倉庫に積み上げられていた米や麦、その他雑穀もが一粒残さず運び出される。
そして最後は仕上げとばかりに火が掛けられ、宮殿は猛火に包まれた。
「壊せ! 燃やせ!
この様な貧相な街にソウルを名乗らせるな!!」
その叫びに扇動され、自らの汚点を消し去り、否定するかの様に、市街全体にも火が放たれた。
轟々と燃え上がる炎の明かりは遥か彼方からも望める程に燃え上がり、生き残った人も町も残らず全て呑みこみ、そして焼きつくしていく。
後に、近衛軍の死戦により僅かに稼がれた時を使い、漢城を脱出した韓国王が、日本軍と共に帰って来た時、絶望の余り、大地に膝をつく事になる程、徹底した破壊と略奪と殺戮が、たった一夜に於いて行われたのだった。
267 :954:2013/09/02(月) 22:54:25
「……無茶苦茶だな……」
焼き討ちにあった漢城……いや、かつて漢城と呼ばれていた焼け野原の写真を見ながら、苦虫を百匹ばかり噛み殺した口調で吐き捨てた嶋田に、東条が同意するように頷いた。
「こちらの想像の斜め上を行く連中と承知はしていたのですが……」
「……まさか漢城を襲うとはね。
流石に想像しませんでしたよ」
呟く辻の声も苦く重い。
同胞、同胞と、喧しい程に叫びまくっていた連中が、この世界で唯一同胞と呼べる筈の韓王国を急襲するとは、流石に
夢幻会にとっても予想の斜め上過ぎる展開であった。
「対して、あちらの女酋長は鼻高々……いい気な物だな全く」
別の写真――『日帝征伐』の戦利品と称し、大量の穀物袋とその前に並べられた財貨を前に、得意満面といった様子で立つ某女性大統領――を睨みながら近衛が吐き捨てる。
彼等の論理でいくと、日帝の保護国も日帝の一部であり、それを征伐する事は正義であり、なんら恥じる事は無いらしい。
冷静に考えれば、彼等自身がかつての世界でしていた主張と完全に矛盾しているのだが、今はそれを指摘しても虚しいだけだ。
漢城は廃墟というか焼け野原と化し、住民は虐殺された。
元々国力の乏しかった韓王国は、自力での再建など到底不可能だろう。
となればまた、日本の懐が痛む事となり、財布の紐を握る人物の機嫌もすこぶる悪い。
「軍隊としては二流ですが、夜盗としては超一流の様ですね。 彼等は」
なんとも傍迷惑な――そう呟きながら、辻が連中への侮蔑を口にすると。
「しかし、何故連中を無傷で帰したのかね?」
会合のメンバーの一人が、疑問を口にした。
陽動に引っ掛かり、奇襲が防げなかったのは確かに失態だ。
だが、漢城襲撃が判明した時点で、陽動部隊の大半を撃破していた帝国海軍は、すぐさま反転して仁川に急行したのである。
そして最も早く反転した艦隊が、仁川についた時点で、まだ連中は略奪した物資の積載に手間取り出航していなかったのだ。
その時点で叩いていれば、日本の面子は充分に保たれただろう。
上手くすれば略奪された物資や財貨の一部なりとも奪還できたかもしれない。
しかし何故か、艦隊は連中が出航し、意気揚々と帰途につくのを指を咥えてみていただけだったという。
その点について問い質して来るメンバーを前に、嶋田と東条は嫌悪と怒りの入り混じった視線を交わす。
東条が黙って頷き、嶋田が溜息を吐いた。
なにかとんでもない地雷を踏んでしまった事を悟り、顔を蒼くするメンバーの前に、無言のまま一枚の写真が差し出された。
それを見た瞬間、そのメンバーも含めて周囲の者の顔色が、蒼から紫へと変色する。
「……こ……これは……」
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侵攻軍の乗って来た船の全ての船べりから吊るされているモノを見て絶句する彼らを他所に、辻がひどく平坦な声で呟いた。
「文永の役では、対馬領主軍を殲滅した高麗軍は、女を一か所に集め、手に穴をあけて連結し、船に結わえつけて奴隷として連れ去ったそうですが……さて、彼等は一体、いつの時代からやって来たのでしょうね?」
そうやって、ひどく平べったい声で皮肉を呟く辻を他所に、嶋田は極力感情を抑制した声で海軍としての立場を会合メンバーに周知する。
「正直、撃てと命ずれば、彼等はきっと撃っただろう。
だがそれは、彼等の中に拭い難い傷を残す。
今後の事を考えれば、それは大きな禍根となる可能性があった」
軍人であるなら、殺し殺されるのは覚悟の上というのは当たり前の事。
だが強引に人間の盾とされている者を撃てと言われれば、躊躇うのが人の性というものだろう。
それでも軍人ならば、命ぜられれば撃てる筈。
だが戦場を離れ、人間に戻った時、それは大きな傷となる。
そして、一瞬の判断が生死を分ける瞬間、その傷が開けば取り返しのつかない事態になる可能性もあった。
それ故、艦隊司令は苦渋を呑んで連中を見逃し、後に報告を受けた嶋田も、それを是とした。
帝国軍の名誉の為、或いは、保護国民の生命を守る為という理由を付け足して。
「だから見逃したと?」
「そうだ。
無論、二度とこんな真似は許さん。
連中は、もう『朝鮮島』から一歩も外には出させんよ!」
問い質す近衛に、嶋田は堂々と首肯し、そして宣言した。
もう二度と、この様な暴挙は許さないと。
そしてその為には、どうすべきかも主張する。
「港も船も飛行機も、悉く粉砕し、連中をあの忌々しい島に永久に封印する」
この日、この時の嶋田の発言が、朝鮮島仕置きの結論となった。
半世紀先の技術知識を得る事よりも尚、この危険過ぎる連中を外界に出さない事を優先する。
それが夢幻会・会合の決定として、関係各所にも伝達され、大日本帝国の国是として動き出す事となるのだった。
最終更新:2013年09月03日 21:31