451 :そる:2013/09/02(月) 01:59:04
参議・江藤新平の朝は早い。
本人はゆっくりと起きて、しっかりと朝食を取ってから一日の執務に励みたいのだが、
いつもいつも彼の家には朝早くから人が押し寄せる。

その日、最初に来た男は転生者であり、開口一番に「戦車作りたいと思ってるんだが、どっかに予算ない?」と言った。
もちろん、無言で叩き出した。
(まだ自動車産業すらないのに、あの戦車オタクが……)

次に来た男も転生者である。彼は「新撰組を取材して「真実の新撰組」を本にしたい。タイトルは燃えよけ……」
蹴り倒した。
(それはパクリだろJK)

要は転生者の中で唯一人、参議という要職についている彼に「どっかから予算を取ってきてくれ」というお願いが多いのだ。

遅くなった朝飯を食べていると、また一人の男が訪ねてきた。
土佐に転生した者で、坂本龍馬や板垣退助などとも親交の深い男である。
彼は出された茶を飲みながら、江藤に言った。

「板垣は、ダメだな。征韓論に傾倒している。西郷ほどの考えはないにしても、土佐は板垣に引きずられるぞ」
「……ちっ、やっぱり板垣を参議にするのを止めるべきだったか」
「それは仕方ない。土佐には他に人材がおらん。武市を助けられていたらな……今更だが」
武市半平太。土佐の勤王党の首魁だったが、史実通りというべきか、山内容堂によって処断されていた。

「武市は仕方ない。彼が処刑されたのはまだ藩制だった時代。藩の法に触れる行いが多すぎた。助けらなかった事を悔やんでも
仕方あるまい」
「やはり、龍馬を入れるか?」
「……難しいな。彼は既に海援隊がある。それに参議に入れたところで西郷に対する切り札にはならん」
「では?」

江藤はじっと眼を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。
「時間を稼ぐしかない。大久保さんが戻るまで、廟議の場では私が反対する。……警護の人数を増やすしかないな」
「警視庁からは元新撰組が警備につくそうじゃないか。鬼の副長に、牙突の斉藤か」
「前者はいいとして、後者はそんな技使わないからな? ついでに言うと東京に神谷道場とかないからな?」
「冗談だ。で、大久保さんが戻ってからは? このままだと史実通りにあの二人は決裂するぞ?」
「問題はそこだ……。西郷をどうするか、という問題に結局は戻ってしまう。一番いいのは西郷が征韓論を捨てる事なのだが。
 大久保さんは帰ってきたら内務省をつくるだろう。その時、今は俺が管轄している警視庁は内務省に移管する。そうすれば、
また色々と騒がれる可能性がある」

日本に出来た警視庁は史実通り川路利良を長官として存在している。
史実では江藤と大久保の間に警視庁の管轄を内務省にするのか、法務省にするのかで一揉めあったのだが、この江藤は大久保の
政治的な才幹を知っているので、警視庁は内務省が出来たと同時に移管される事が二人の間で決まっていた。

が、これは他の見方をすれば大久保が警察という『実働戦力』を手にする事にもなる。
(あるいは大久保は警察を背景に西郷を除く気では?)
薩摩の過激な西郷崇拝者から見れば、そう取れるだろう。

「舵取りは難しい。が、ここで投げ出す事も出来ん。土佐の、板垣の元を探ってくれ」
「わかっとる。情報は逐一届けるわい。お主も気をつけろよ、廟議の場で刺し合いなどになったらこの国は消し飛ぶぞ」
そういって男は茶を置き、裏口から出て行った。

(大久保さんが戻るまでは、西郷と膝詰めて話すしかないな。薩摩者から身を守る人数は警察から出してくれているから問題ない。
 後は……大久保さん頼みになる、か。警視庁には元会津が多い。激発することにならなければいいが……)

参議・法務卿である江藤新平の憂鬱はまだ晴れなかった。

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最終更新:2013年09月03日 21:56