18 :Monolith兵:2013/06/12(水) 15:57:32
ネタSS「あたしの兄貴が○○○なわけがない!」

 あたしの名前は高坂桐乃。容姿端麗、文武両道、面倒見がよくてクラスの皆からは自分で言うのもなんだけど結構慕われていると思う。学力では県内トップクラス、陸上では全国レベル、とまさしくパーフェクトレディーなのだ。
 家族構成は警察官の父と専業主婦の母、高校生の兄が一人いる。この兄は2年ほど前に心が折れてしまった。詳しくは兄とその幼馴染の二人が黙っていたから解らないけど、それまで頑張っていた勉強や遊びを全て諦め、魚の死んだような目をして力なく笑うようになってしまった。
 あたしはそんな兄を見るのが忍びなく、色々と面倒を見てあげた結果以前ほどではないけど、活力が戻ってきたと思っている。でも、ひとつだけ誤算があった。それを今から話そうと思う。


「もうさっさと起きなよ兄貴!朝ごはんさめちゃうよ。」

 私は朝錬に出る前に兄を起こしにきていた。この兄は以前ほどは自堕落では無くなったが、それでもまだまだ面倒を掛けさせてくれる。

「うー。もう少し寝かせて・・・。」

 そんなことを言う兄にあたしは布団を全力で引っ張って対応した。兄はそれに引っ張られてベッドから転げ落ちた。

「いてて。何すんだよ桐乃!そこはもっと優しく起こすところだろ!」

「いつまでも寝てる兄貴が悪いんでしょ!はい、さっさと着替える。」

 兄は優しくしてと言いながら両手を広げて抱きついてこようとしたが、あたしはその顔に制服を押し付けて部屋を出ていった。


 1階のリビングに入ると父はいつもどうりに新聞を広げながら朝食を取り、母は台所で弁当の用意をしていた。

「おはようございます。」

 二人に挨拶をして席につき、朝食をとる。今日は朝錬があるから急がなくてはならない。自然と食べる速度は速くなった。

「もう、そんなに急いで食べないの。あんたが京介の面倒を見なくてもいいんだからね?」

「うむ。あいつの怠け癖はあいつの責任だ。お前が負担するようなものではない。」

 両親はあたしのことを心配してくれているのだろう。しかし、何でもあたしと比べて蔑ろにされている兄のことを気遣ってやれるのはあたししかいないのだ。実際、兄は事あるごとに幼馴染の田村麻奈実の家へと出かけている。居心地が悪いのだろう。だからこそ、あたしが面倒を見なければあの兄はぐれてしまうかも知れない。それを防ぐのがあたしの役目なのだ。

「大丈夫だよ、好きでやってるんだし。」

 そうこうしている内に家を出なければならない時間になった。玄関で靴を履いていると2階から制服姿の兄が降りてくるところだった。

「お、もう出るのか早いな。」

「兄貴が遅いだけ。じゃあ、あたしは朝錬があるからいってきます。」

「おう、いってらっしゃい。」

 そして、かばんを引っ掴み家を出た。学校まではそれほど離れているわけではない。着いたら更衣室で着替え、朝錬を始める。うちの中学校は私立らしく勉学に重点を置いているが、部活動も手を抜いているわけではない。実際去年の大会ではあたしを含め陸上部から何人もが全国に行っているのだ。他の部活からも20人は行っているだろうか。
 一時間ほどの朝錬を終え制服に着替え、教室に入ると見知った顔が真っ先に挨拶をしてきた。

「おはよう桐乃。」

「おはようあやせ。」

 この女の子は新垣あやせ。あたしの親友だ。彼女は何でも話せる仲だと思っているが、それは彼女がまだ子供だからだろう。いや、あたしが異常なのだ。

「ひぇー、今日も朝錬頑張ってたんかよー。疲れるだけじゃんかよ。」

 あたしに憎まれ口を叩いて来たのは来栖加奈子。この子もあたしの親友だ。いや、もしかしたらあやせよりも深い仲かも知れない。それはともかく、学校はつつがなく始まり、何事もなく終わった。休み時間ごとにクラスメイトから色々と相談事を持ち掛けられたり、授業で解らなかったところを教えてあげたりもした。あたしはクラスでは面倒見のよい姉的なポジションにいるのだ。
 以前では考えられなかった充実した青春についつい笑みがこぼれる。もし、あたしが普通の女子中学生だったらこれに恋愛も頑張ろうと思うだろう。でも、あたしはそうは思えなかった。

「じゃあ、私はこれから仕事だから。2人ともまた明日。」

「「さようならー。」」

 廊下であやせと別れ、あたしと加奈子は廊下を歩き始めた。あやせは読者モデルをしており、今日は撮影があるのだという。あたしも誘われたが丁重にお断りした。

19 :Monolith兵:2013/06/12(水) 15:58:04
「さて、桐乃さん。今日こそいい返事を聞かせてもらえますか?」

 この小さな同級生は皆といる時は少し口の悪いクラスメイトだ。しかし、2人きりになるとあたしにとって天敵へと豹変する。

「嫌です。お断りします。」

「何故ですか?あんなに兄の世話を甲斐甲斐しくしているというのに。」

「あれは家族だからです。それに私には原作のような妹物のエロゲーをする趣味はありません!少しオタは入ってるかもしれませんが、重量級ではありません!」

「そんな。前世では殿下のあれな同人誌のペン入れを手伝ったり、コミケを作り上げたり、エロ同人誌を靖国神社に奉納しようとしたあなたが!?」

「それは全部あんたらのせいじゃないですか!しかも最後のは私じゃないです!!」

 そう、この友人は可愛らしい外見とは裏腹に、中身は最悪の存在だったのだ。銭ゲバで陰謀を好み他人の不幸を自らの成功へと変え、世界中から資金と人材技術を吸い上げ、世界中を恐怖のどん底に貶めた大蔵省の魔王辻正信がその正体なのだ。
 そしてあたしは前世で辻政信の相方に強制的にされた悲劇の宰相、嶋田繁太郎だったのだ。

「黒猫派の私としては貴方と黒猫、そして京介と黒猫の絡みが見たいのです!」

「そんな欲望に私を巻き込むなー!後私はあやせ派だ!!」

「・・・もしかして、貴方あやせを狙っているとか?」

 そんな下らないやり取りをしているうちに部活の時間になっていた。いつもどおりのふざけ合いを終え、加奈子と別れあたしは部活へと向かった。

 そう、あたしはこれがいつもどおりの日常だと思っていた。そしてこれからも続くものだと。しかし、その考えが間違いだと気づくのは、休みの日に押入れの掃除をしようと襖を開けたときに、押入れの中に大量に積み重なれている妹物と学園物のエロゲーの山を見てしまった時であった。そして、あたしは強制的に原作へと参加せざる得なくなってしまったのであった。


おわり

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最終更新:2013年09月04日 19:09