855 :Monolith兵:2013/08/26(月) 06:19:00
ネタSS「俺の妹が○○○なわけがない!」 没ネタ5

「あたしの家族が・・・」


 ある日曜日の朝、高坂桐乃は少々遅い目覚めを迎えていた。

「うそ・・・。」

 桐乃が目を覚ましたのは確かに自分の部屋のはずだった。しかし、微妙に違うところがあった。カーテンの色がピンクではなく淡い水色になっていた。ウサギのぬいぐるみがなく、代わりにハムスターみたいなぬいぐるみがあった。そして極めつけは、部屋の隠した押入れにあったはずのメルルグッズの数々が無かったのだ。

「な、なんでよ・・・。」

 苦労して集めたメルルグッズがなくなってしまったことにショックを受けて、涙目になる桐乃であった。しかし、そこでハッと脳裏に閃く事があった。

「そうだ。京介の部屋に全部持って行ったんじゃあ。」

 暫く前に、押入れの容量を超えたグッズの一部を京介に押し付けたことがあるのだ。正確には京介の部屋に置いたのだが。もしかすると、そのときにメルルグッズを全部京介の部屋に置いたのかもしれない。いや、京介が嫌がらせでメルルグッズを自分の部屋に・・・。もはや大事な宝物が無くなった事にパニックになった桐乃は、それを事実と受け止めてしまった。
 そして、桐乃はすぐさま自室を出て京介の部屋へと突撃した。

「くぉらー、京介!あたしのメルルグッズ・・・を・・・。」

 京介の部屋を勢いよく開けた桐乃だったが、京介の部屋は見覚えの無いものであった。いや、京介の部屋もであろうか。
 無個性な部屋を個性的にすると言う建前の元、桐乃に押し付けられたメルルグッズやエロゲーによってキモオタの部屋に変えられた筈の京介の部屋はそこには無かった。代わりに、幾つもの本棚とそこに並べられている数々の分厚い本、航空機や船の模型、壁に貼られたバンドや戦闘機のポスター、机の上に置いてある大型のタワーPCと、桐乃の知っている兄の部屋とは似ても似つかないものだった。
 そして何よりも、椅子に座ってこちらを見ている京介は桐乃の知る兄とは微かに違っていた。

「どうしたんだ桐乃?」

 京介はあえて桐乃と読んだ。京介と桐乃との約束事で、どちらかが前世の名前で呼ばない限り兄妹として振舞うというものがある。恭介はその約束に従い、桐乃に妹として接したのだった。
 だが、桐乃にしてみたら、京介は彼女が知っている兄ではなかった。顔は確かに兄のものだが精悍な顔つきで、体つきは服の上からでも解るほど筋肉質だった。桐乃と同じかそれよりも白かった肌は黒く焼けていて、何よりも桐乃が知る兄よりも背が高かった。

「あ・・・に・・・き?」

 余りにも衝撃的な事態に桐乃は呆然としてしまった。だが、すぐにわれを取り戻すと、京介の部屋を出て一階へと下りていった。

「何しに来たんだ、あいつ?それとも辻さんのいつもの悪ふざけか?」

 京介はそう勝手に納得し、そういえばそろそろ朝食の時間だなと部屋を出るべく椅子から立ち上がった。

856 :Monolith兵:2013/08/26(月) 06:19:32
「お母さん!お父さん!きょ、京介が変なの!何か別人になってた!!」

 桐乃はリビングに入るなり、兄が変だと訴えた。幸い母佳乃は、桐乃の記憶にある母のままだった。

「どうしたの藪から棒に?」

「変な夢でも見たんだろう。」

 父大介はテーブルに座って広げていた新聞をたたみ机に置いた。そして現れた父の顔は桐乃の知る父親の顔ではなかった。いや、確かに父親の顔とほぼ同じだった。しかし、桐乃の知る父は右の米神と頬に傷跡はなかったはずだ。それに、桐乃の知る父よりも目つきは鋭く、体も一回り大きいような気がした。

「お、お父さん?」

 僅かだが、確かに違う兄と父の姿に桐乃は呆然とした。記憶にある姿と変わらない母は、そんな父に何も疑問に思わずいつものように接していた。

「おはよう。お袋、朝飯できてる?」

「すぐできるわよ。」

「休日だといえ、寝坊するとは足るんどるぞ。」

 桐乃の後ろから京介の声がした。振り返ると、見覚えの無い兄の声を出す誰かがいた。そして、それに疑問を抱かず接する母と違う父。

 その時、机の上で折りたたまれた新聞の記事が桐乃の目に入った。そこには、「帝国海軍、ソマリアで海賊を掃討!」と書かれていた。慌てて新聞を開いて見てみると、大英帝国とか、ロシア王国とか、カルフォルニア共和国とか、日本の核軍備の削減とか、聞いた事の無いことばかりが書いてあった。

「嘘よ・・・。嘘よー!」

 桐乃はここが自分のいた世界ではなく、異世界だと理解した。以前やったことのあるエロゲーでこのような展開があり、桐乃はそれを思い出してしまった。違和感のある自室に無くなったメルルグッズ。微妙に違う父と兄。見知らぬ国名に核兵器を持っている日本。全てがここが自分のいた世界ではないと示していた。

「イヤァァァー!」

 桐乃は新聞を放り投げ、頭を抱え蹲りながら、魂の底からの絶叫を上げた。


おわり

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最終更新:2013年09月04日 20:17