728 :二二三:2013/05/30(木) 03:06:37
これは捏造話です
こんな奴いたんじゃないかと思いました



二番目の男


皇歴2016年

神聖ブリタニア帝国帝都ペンドラゴン


皇帝シャルル出席の下行われていた宮中御前試合はナイトオブラウンズの空席である12の称号を賭けての物であった

剣を交える騎士は二人。ひとりは士官学校の主席である無表情な氷の仮面を持つ少女モニカ・クルシェフスキー
此処ブリタニアは西海岸にその名を馳せるクルシェフスキー侯爵家の令嬢であり、類い希なる才能を持つ、正に騎士になるために生まれてきたような少女

対するはモニカには劣るが士官学校次席の成績優秀な秀才である少年
一般庶子、所謂平民の出である彼は、この御前試合に全てを賭けて挑んでいた

毎日夜遅くまで血反吐を吐くような無茶な特訓を続け、あらゆる兵法書を何度も読み返して頭に叩き込み、休む間を惜しんで行った努力の数々
悲鳴を上げる身体は脳に激痛を伝え休息を促していたが気合いで耐え修練を重ねる彼は、貧しい生活から抜け出し、社会的な地位を得るためにも負けるわけにはいかないのだ

幼い頃から飲んだくれて働かない父より毎日のように暴力を受けていた。収入といえば亡くなった母の遺族年金のみであり父は貧しさからくる行き場のない不満を息子を殴ることで解消しているクズの見本のような男であった
彼はそんな父を蔑んでいたが、何の能力も金も持っていない子供が家を出てひとりで生きていけるほど世の中甘くはない
といって現状に甘んじるつもりなど毛頭なかったのも事実であり、ある年齢まで成長した彼は今を抜け出すために騎士の道を目指し始めた

そして人一倍の努力と執念が実り士官学校へと進むことが出来たのである
しかし彼はそこでひとりの少女の存在を知ることになる。彼がどれだけ必死に勉強しても、どれだけの修練を積んでも、決して届かない一番に座する少女の存在を……

729 :二二三:2013/05/30(木) 03:07:43

「そこまで!」


試合終了の言が伝えられた
突きつけられた競技用の剣はモニカという少女の物。それを自機のグロースター胴体部分にあてがわれている
これが戦場なら命を落としていたであろう完全なる敗北


試合を行った両者は決着が付いたところでコックピットのハッチを開き外に出ると試合を見物していたシャルル皇帝の御前で跪いた

「共に修練を積み重ね努力しているのが窺える素晴らしい試合であった」

皇帝は一呼吸置くと言葉を続ける

「勝者モニカ・クルシェフスキー。貴様には空席となっているラウンズ12席の称号を与える。これより我が騎士としてナイトオブトゥエルブを名乗るがいい」

「イエス・ユア・マジェスティ!」

「そして惜しくも敗れてしまったが、ここまで戦い抜いた貴様にも褒美を取らせる。以後も己の技を磨き修練に励むがいい」

「ありがたき幸せにございます」


皇帝は跪く二人を立ち上がらせると、彼らの手を掴み握手をさせた
勝者と敗者ではある物の戦い終わった以上恩讐を流し互いの健闘を讃えるのが古来よりの習わし

皇帝の手ずから重ね合わされた手をがっちり握った二人

「試合は私が勝利しましたが、負けていてもおかしくない戦いでした」

「いえ、私の方こそクルシェフスキー卿の実力には感服させられました。アナタと戦う事が出来たのは私に取って光栄の至りです」

彼は優しく穏やかな微笑を浮かべる。人当たりがよく周囲の評価も高い彼のことはモニカも嫌いではなかった
士官学校のライバルとして認めるほどの実力も持っていたし、一度全力で戦いたいと思っていたのである


互いの健闘を讃え合う二人を一瞥した皇帝は御前試合の終了を宣言。こうしてラウンズの席を賭けた戦いは幕を閉じた

730 :二二三:2013/05/30(木) 03:08:41

試合終了後、敗者である彼は宮殿を後にすると、ペンドラゴン都内の公園にある公衆トイレで手を洗っていた
それもただ洗うだけではなく、何度も何度も繰り返して。その手は、先ほどモニカと握手した手
まるで汚物に触れてしまったかのように必死になって手を洗い続ける彼の姿には、ある種の狂気を感じさせる物があった……




いつも二番だった
勉強でも、模擬戦でも、実戦形式の訓練でも、二番、二番、二番だ!
いつもアイツが邪魔をする。勉強でも!スポーツでも!アイツが一番で俺は二番!何故邪魔をするんだ?!
生まれも育ちも大貴族様で貧乏のびの字も知らないような箱入りのお嬢様が!なぜ貧乏人の俺の邪魔をする!

あの試合はおかしい!俺は負けてない負けてないんだ!

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーッッ!!!」

そうだ、きっと陛下もアイツを贔屓しているんだ。俺が平民でアイツが侯爵家の跡取りだからって、みんな、みんなつるんで贔屓してやがるんだ!
そうだ!そうに違いない!
でなければずっとアイツが一番であり続けられる訳がない!
あんな蝶よ花よと育てられた金持ちのお嬢様に泥水啜って生きてきた俺が負ける筈ないんだ!



人当たりが良く誰もが「いい人」と褒める彼の内面
嫉妬に狂い、憎悪する本当の姿は、唯々醜いものであった

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最終更新:2013年09月06日 21:40