89 :パトラッシュ:2013/07/27(土) 09:16:30
ラウラ・ボーデヴィッヒSIDE
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
そう言い捨てると私はまっすぐ、あの男の前に立った。右目だけで正面から見据えると、相手もまっすぐ見返してくる。教師や生徒があわあわしているが、今ここにいるのは私とこいつだけだ。
「貴様が織斑一夏か?」
「そうだ、ボーデヴィッヒ少佐」
う、こいつは私の階級まで先刻承知か。軽く指を組んでゆったりと座っているが、まるでスキがない。先日、学園のアリーナで行われた試合でのISの操縦は私やクラリッサ並みだったし、そこに殴り込んできた謎のISへの対処や指揮ぶりも的確だった。ふん、今さらIS学園に来ても得るものはないと思っていたが、少なくとも同じ軍人として充分尊敬できる相手がいたか。
「……失礼した、織斑大尉。貴官については何も知らないので、初の男性IS操縦者という興味が先立ってしまった」
「軍人としては理解するが、ここが一般人もいる学校であることを忘れないでほしい」
「わかった。本日から同級生としてよろしく頼む」
「了解した。シュヴァルツェ・ハーゼ隊長殿」
立ち上がった織斑一夏と私は、それぞれの軍のやり方で敬礼したが、身長差が三十センチ以上あると見下ろされているようで不愉快だった。
「正直、ここは教官にふさわしい場所ではないと思っていました。教官ほどの方がISをファッションか何かと勘違いしている訓練生を相手にして意味があるのかと。失礼ながら弟の織斑大尉も、たまたまIS操縦ができただけの素人と侮っていましたが」
「違ったか」
「はい、あの中国代表候補生との試合でも、その後の乱入ISへの対処も見事でした。シュヴァルツェ・ハーゼの面々が束になってかかっても、勝つのは難しいでしょう」
「ふ、大人になったなラウラ。お前のことだから、一夏や周囲の連中に感情のまま突っかかって無用の騒ぎを起こすだろうと思っていたが」
「教官のモンド・グロッソ連覇を失敗させた汚点の元凶に会えば絶対に殴ってやると誓っていましたが、おそらく吹き飛ばされるのは私だったでしょう。どう分析しても、勝てる要素が見当たりません」
「それに織斑――いや、弟と一緒に訓練しているイギリスとフランスの候補生の戦いぶりはどうだ?」
「はい、二人とも国家代表に迫るレベルと評価しましたが、織斑大尉に学んでいたとは」
「弟は宇宙での実戦経験が豊富だからな。もともと宇宙活動を想定して開発されたISとは相性がよいのかもしれんぞ」
放課後、一緒に寮へ歩きながら話す教官に相槌を打っていたが、その変わりように驚かされた。かつてIS教官としてドイツ軍にいた頃は仕事以外の一切に興味を持たない人で、クラリッサが日本のマンガやアニメについて聞いても「知らん」の一言だった。私も似た性格といわれてきたが、あれほどではないと思う。いつだったか白人優越主義の軍関係者が東洋人を小馬鹿にしたジョークを口にするや、そいつの歯が全部折れるまで容赦なく叩きのめし、血まみれで泣いて慈悲を乞う相手を「弱い犬が吠えるな!」とねじ伏せた姿は、居合わせた全員を圧倒的な恐怖で支配した。当時を知る身には、これほど饒舌で機嫌のいい教官は想像外だ。
「とりあえずラウラ、近く学年別トーナメントが開かれる。お前の腕なら間違いなく弟と戦うことになるだろう」
「私は絶対に負けません。教官に鍛えていただいた恩に報いるためにも」
この世界には宇宙戦争の経験者など皆無だ。エースパイロットという経歴も誇張されたものではなかろう。だがドイツ代表候補生、ドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長の誇りにかけて負けられない。第三世代の最新型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』のロールアウトも間に合った。織斑一夏、これからが本当の勝負だからな!
※ここでの一夏は身長178センチ前後の設定です。こんなラウラはラウラじゃないと思う方はスルーしてください。次回は予想外に意外なあの人です。
最終更新:2013年09月07日 21:36