209 :パトラッシュ:2013/08/03(土) 07:41:26
メルダ・ディッツSIDE
「ガーレ・フュゼロン! メルダ・ディッツ少佐、出頭いたしました」
敬礼する私にアベルト・デスラー総統は軽く頷く。父と共に何度かお目にかかっているが、その鋭い眼光には相変わらず圧倒される。ガルマン・ガミラスの地球駐在武官に任じられた私は出発前、父ガル・ディッツ中央軍総監から総統府に呼び出された。父に会うつもりで出かけたのが総統執務室へ連れて行かれ、父のほかヴェルテ・タラン副総統とガデル・タラン参謀総長が同席してデスラー総統の謁見を賜ったのだ。
「ディッツ君の娘が地球勤務を希望したと聞いてね、赴任にあたり特別任務を命じる」
「総統閣下の命令とあれば、命に代えても果たす所存であります」
「うむ、実は地球から妙な情報が流れてきてね。次元回廊を発見したというのだ」
「次元回廊とはもしや、かつてわが国に大きな被害をもたらした異次元断層と同じものでしょうか?」
赤色銀河との交差によりガルマン・ガミラスの核恒星部は、ほとんど壊滅する事態に陥った。あの惨禍は二度と体験したくない。
「あれとは違うらしい。参謀総長、説明を」
「は、総統……ディッツ少佐、例の異次元断層は想像を絶するほど巨大で、赤色銀河やアクエリアスを引っ張ってくるほど大きな力を持っていた。しかし今回、地球が見つけた次元回廊はごく小さく、安定した存在らしい。加えてこれが一番信じがたいのだが、その回廊を通じて向こう側の世界の地球と接触したとか」
「……閣下、今何と申されましたか?」
「その反応はわかるよ。私も最初は理解できなかったからな。科学者によれば、並行世界への入口ではないかというのだが」
「並行世界、でありますか」
「この宇宙とは別の歴史をたどった世界、たとえばガミラスが地球に勝っていたり、ボラー連邦が存在しない世界などが、このわれわれの世界と並行して交わらず存在しているのだと」
「……その次元回廊とは要するに、決して交わらない並行世界を結ぶ出入り口のようなものだと?」
「私としても正直、夢物語としか思えないのだが、現に次元回廊の先で発見されたもうひとつの地球は、われわれの知る地球とは異なった歴史をたどっているらしいとの情報なのだ」
参謀総長が困惑するのも無理もない。超自然の魔法と取られかねない話だが、現実に異なる歴史を歩んだ地球が存在するのは事実のようだ。
「つまり小官の任務は問題の次元回廊の存在を確認し、かつガルマン・ガミラスも利用できる方途を探ることでしょうか?」
「その通りだ」とヴェルテ・タラン副総統が応えた。父の古い友人で、この席では私と最も親しい人でもある。「次元回廊を自由に行き来できるなら、われわれの領土や植民地を並行世界に広げて資源や市場を確保し、さらなる国力強化と発展に資するのは間違いない。そのためにも確たる情報が必要なのだ」
「了解しました。何としても次元回廊に関する地球側の情報を調べてまいります」
「うむ」デスラー総統は身を乗り出した。「少佐、国交を結んだとはいえ、かつての戦争で同胞の八割以上をわがガミラスに殺された地球側の視線は厳しいだろう。困難が予想される任務だが、君の力量に期待している」
「ザー・ベルク!」
帰りの車中で父は、再建中の帝都を眺めながら話しかけた。
「メルダ、総統も言われた通り難しい任務だが、事実なら大事件だ。お前が地球駐在武官になりたいと言ってきたときは正直驚いたが頑張れよ」
「はい、父上」
父と笑いながら、私はまだ見ぬ地球に思いを馳せた。いったん、大ガミラス帝星に破滅をもたらした恐るべき戦闘民族といえる地球人。その強さはガトランティスやデザリアムとの戦いでも証明されてきた。対ガミラスの頃から一貫して戦争を指導し、恐るべき政治的先見性をボラー連邦にも高く評価されているという地球の現大統領はどう出てくるか。そしてわが友アキラ・ヤマモトは今、何をしているのか……。
※かの名作『ゲート』や『帝国の龍神様』もそうですが、次元回廊でつながった文明的に遅れた異世界とは各国の帝国主義的領土拡張欲を強烈に刺戟するものらしいです(ちなみに私は『龍神様』で二次創作を数編投稿しています)。当然、ガミラスもと思って書きました。にしても一度デスラーと千冬さんを会わせてみたい……。
最終更新:2013年09月07日 21:00